サバトの素月、ヤルダバオート・パリセードは沈んだ。
私の未来予測とプロドスィアさんの目論見に適った結末となった。
ソフィアだけは魔女たちに生け捕りとなった。
元より彼女に抵抗出来るだけの魔法的知識は無かったが、これがプロドスィアさんの意思なのかは私にも測りかねる。あの人の心を思えばソフィアも死なせた方が良かったのだろうが、己の足跡を魔女たちに辿らせるにはヤルダバオート・パリセードの発足よりずっといたソフィアを生きた記録として出した方が良かった、と私は思っておく。
「……暫くこうしてていいですか」
「うん」
プロドスィアさんの大切なお友達と、そのまたお友達は無事に生き残った。
傘屋の縁は思いのほか強かだったらしい。「天使」の掃除及びエローアイオス対処に最も向いたリーベさんに振ったとはいえ、まさか五体満足に完封する程とは計算しきれなかった。勿論、良い事だが。
「プロドスィアさんが姉さんを開放してくれた時、彼と同じ心境だったのだろうか。自分が相手を殺すというのに、泣いて傷ついているのは傷つける側だった。不思議なものだな……」
姉さんが開放された時────即ち、殺された時。
私に訪れたのは安堵の心だった。
忍び込んで目撃してしまった、姉さんに施された装置と、その凌辱、生き地獄。
姉さんの心にトドメを刺したのは私で、まだ幼かった私はその姿を見て声をあげて腰をぬかしてしまい、姉さんは気が付いて、傷ついた。妹にそのような姿を見られなくなかったから手紙を寄越して私たち家族を近寄らせないようにしていたというのに、私はあまりにも無知で、愚かだったから。
「それは今も変わらず、プロドスィアさんの流れに乗り何か為になる事をと思ったその結果が、これだ。私は昔と大して変わらず流される事しか出来ない。魔法で未来を予測しようとも、私一人で出来る事には限界しかない」
学園の外れで、廃墟と化した街の残骸に腰を掛ける。
雲はいつであっても流れる事を止めない。
「まだ私にはやらなければならない事が残っている。プロドスィアさんの友達を守る事」
目を閉じる。
魔法を自らにかけ、記憶の棚を逆さにして、思考速度を引き上げる。
未来予測の魔法。
作ってみれば、そう大したこともない魔法だった。
私の脳裏に幾つかの未来の中間点と終着点が見える。
点と点を繋ぎ、その過程を予測する。
「物理世界の予測が……ブレている?こんな事なかった。一体何が……」
予測がブレる事は滅多にない。
必要な情報量が少ないために、終着点が多すぎる事や、そもそも見えない事はある。
だが、演算した結果残る数少ない未来が、数はそのままに姿を変える事は極めて異例だった。
そしてその原因は……
「物理世界で魔女の夢が起きているというのか?」
ルール、法則を変更してしまう程の巨大な何かの発生を意味していた。
私が、いや私たち魔女が知るはずもないもの。
人工知能。
物理世界においてそれは、確かにルールを侵蝕し始めていた。
後から思えばそれも当然の事だろう。
魔女とは、知的生命体がなり得る存在としての次の段階なのだから……
AIが魔女になるなんて、誰でも予測出来る事だった。
一日空いてしまい申し訳ありません。
これにて二章完結です。三章を気長にお待ちください。
……もっと勉強しないとですね!