悪魔に利用されてますが、その悪魔を人に戻すことにしました   作:白井ライ

27 / 28
喪失

 ――どうする?

 

 目の前にいるのは、魔物と化したテオの両親。

 

 そして――テオの瞳から、完全に闘志が消えていた。

 

「ミストさんっ……!」

 

 ケビンが一歩踏み出す。

 

「倒しましょう。それしか方法は――」

 

「駄目だっ!!」

 

 叫びが、それを遮った。

 

「おいらの家族なんだ……!」

 

 震える声。否定。拒絶。

 

 当然だ。

 

 ――そんなこと、分かっている。

 

「大丈夫……」

 

 あたしは静かに構え直した。

 

「救うわよ。必ず」

 

「……姐さん?」

 

 戸惑うテオに、あたしは短く告げる。

 

「聞いて。あんたは――お母さんの方を」

 

「え……?」

 

「覆ってる“魔物の肉”だけ削ぐの。中身は傷つかないよう――」

 

 テオの目を真っ直ぐに見据える。

 

「再生しなくなるまで、やり続ける」

 

 あたしは言い切った。

 

 ――それしか、ない。

 

 一瞬の沈黙。

 

 そして――

 

「……分かった」

 

 テオは、小さく頷いた。

 

「やる……やってみる」

 

「いい子ね」

 

 あたしはわずかに笑う。

 

「いくわよ」

 

「うん……!」

 

 次の瞬間――

 

「【吸魔(アブソーブ)】!」

 

 残る魔力の核は2個。

 

 小さい方から魔力を吸い尽くす。

 

「【猫足】!」

 

 テオが地を蹴る。

 

「――【瞬身】!」

 

 同じく加速した。

 

 一気に間合いを詰める。

 

 刹那。

 

 2人の短剣が閃く。

 

 魔物の肉を――切り裂く。

 

「次っ! 【魔風・連脚】!」

 

「【乱風双牙】!」

 

 蹴りと刃。

 

 魔力を帯びた風が巻き起こり、外殻を削り取っていく。

 

 肉が裂ける。

 

 剥がれる。

 

 ――中が見えてくる。

 

「グッ――オオッ!」

 

 鎌が振り下ろされる。

 

「【硬化の身】……!」

 

 腕で受ける。

 

 金属音。

 

 衝撃。

 

 だが――止めた。

 

 テオもまた、石化光線を紙一重でかわしている。

 

「あと一息……!」

 

 最後の試験管を掴む。

 

「【試薬投与(ケミカル・ウェポン)】――」

 

 錬金グローブで叩き割る。

 

「【放熱】!!」

 

 炎が腕に宿る。

 

 そのまま――

 

「はああぁぁっ!!」

 

 叩き込む。

 

 燃え上がる外殻。

 

 魔物の肉が焼け落ちていく。

 

「姐さん! おいらも……!」

 

 テオが叫ぶ。

 

 両手の短剣を握りしめ――

 

「【裂痕華】――ッ!」

 

 斬撃。

 

 切断。

 

 その瞬間。

 

 亀裂が――全身へ広がった。

 

 一斉に華が咲くように。

 

 外殻が、崩れ落ちる。

 

 そして――

 

 中から現れたのは。

 

「お父さん……お母さん……!」

 

 テオが駆け寄る。

 

「テオ……」

 

 母が、弱々しく抱きしめた。

 

「見えていた……全部……」

 

 父も這い寄る。

 

 だが――

 

「テオ……聞け」

 

 その声は、静かで――逃げ場を与えない重さを持っていた。

 

「俺達は……もう、助からない」

 

「っ……!? 何言ってんだよ!」

 

 テオが叫ぶ。

 

「ほら! 肉も全部剥がれて――」

 

「駄目だ……」

 

 その瞬間。

 

 両親の身体が、激しく痙攣した。

 

「再生が始まっています!」

 

 ケビンの声が震える。

 

 剥がしたはずの外殻が――再び、覆っていく。

 

「やめろ……やめてくれ……!」

 

「テオ……」

 

 父が、最後の力で言う。

 

「お前を……手にかけたくない……」

 

「テ……オ……」

 

 母の意識も、崩れていく。

 

 そして――

 

「頼……む――」

 

 完全に、魔物へと戻った。

 

「――テオ」

 

 あたしは呼ぶ。

 

 だが。

 

「……姐さん。おいら、諦めない」

 

 短剣を構える。

 

「もう一回……剥がせば――」

 

 次の瞬間。

 

 魔物が咆哮した。

 

 そして――

 

 テオへと、襲いかかる。

 

「テオっ!?」

 

 動かない。

 

 避けない。

 

 そのまま――喰われる。

 

「くっ――【天空飛翔(フェザー・ボンド)】!」

 

 羽を触媒に錬成。

 

 白い翼で飛翔。

 

 ギリギリで、引き上げた。

 

「姐さん……!」

 

「馬鹿やってんじゃないわよ!!」

 

 地面に降ろす。

 

「言ってたでしょ。あんたの両親――あんたを殺させないでって」

 

「でも……!」

 

「方法はある」

 

 あたしは、静かに言った。

 

「……苦しませないこと」

 

 ケビンを見る。

 

「お願い」

 

「……はい」

 

 理解した。

 

 覚悟した。

 

 テオが押さえ込まれる。

 

「やめろっ……! やめろぉぉっ!!」

 

 憎まれたっていい。

 ただ、この子を想う両親の気持ちに、答えたい。

 

「……許してください」

 

 ケビンの頬に、涙が伝う。

 

「一瞬で終わらせる」

 

 あたしは左の人差し指を折り曲げた。

 

 最後の触媒が溶けていく。

 放てるのは一度きり。

 

「【硬化拳(ソリッド・フィスト)】……!」

 

 最後の力で錬成させた鋼の拳。

 

「待って……!」

 

 テオの叫びを、振り切る。

 

 飛行時間はあと少し――。

 速度を上げ、放たれる石化光線をかわす。

 

「ケビン! 位置は!?」

 

「【事跡(チェイサー)】! 胸の中心……!」

 

 光の軌跡が急所を探り当てる。

 

「うおおおおぉぉっ!!」

 

「やめてええぇぇ!!」

 

 テオの制止を振り切り、涙ながらに拳を振るった。

 

 肉で覆われた父の胸を貫いた。

 

 その“核”に手をかけた。

 

 一瞬の躊躇い。

 

 それでも――

 

 力づくで握り潰した。

 

「……ごめんなさい」

 

 腕を引き抜く。

 

 そのまま飛翔――母へ。拳を振り下ろす。

 

「ア――」

 

 声にならない声。

 

 肉を押し潰し、核を砕いた。

 

 崩れ落ちる、二つの影。

 

 再生は――しない。

 

 着地とともに翼は消え、腕も元に戻った。

 

 そして両親は――

 

「テオ……」

 

 崩れ落ちる両親と、目が合った。

 

  ――あの日々が、よぎる。

 

 3人で過ごした日常――

 

 並んで歩いた帰り道。

 笑い合った食卓。

 狭い寝床で、肩を寄せ合った夜――

 

 両親は――

 

 最後に――微笑んだ。

 

「幸せに……」

 

 それだけを残して。

 

 消えた。

 

「……ぁ」

 

 テオの膝が落ちる。

 

 そして――

 

「うわあああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 絶叫が響く。

 

 愕然とするテオの元に、あたしはゆっくりと歩み寄る。

 

 その頬には、涙の筋。

 

「なんでだよぉぉぉ!!」

 

 拳が、あたしを叩く。

 

 何度も。

 

 何度も。

 

 受け止める。

 

「テオくん……」

 

 ケビンは呆然と、頬に涙を伝わせて眺めていた。

 

「……ああするしかなかった」

 

 まだ、手が震えている。

 

 (これで……よかったの……?)

 

 12歳の男の子に、過酷な運命を背負わせてしまった。

 

「叶えたかったのよ」

 

 それでも、彼を抱きしめる。

 

「……あんたを想う、あの人達の願いを」

 

 ただ、泣き止むまで――

 

 

「……テオ――」

 

 ようやくあたし達は立ち上がる。

 

「許さない。あいつらを――」

 

 声も身体も震えている。

 

 ――あたしが奪ったのに。

 

「これじゃ……あの時と変わらない」

 

 ――また、同じことを。

 

 先走った正義感――。

 それがもたらした“結果”に――。

 

「行きましょう」

 

 先に立ち直ったのはケビンだった。

 

「元凶を倒す。少しでもテオくんの両親が浮かばれるためにも――」

 

 その言葉を聞いて、あたしも気持ちを切り替えようとする。

 

「まだ戦いは、終わっていない」

 

 鉄の拳も、魔術の試験管も使い果たした。

 

 それでも――止まれない。

 

 あの人達の「最後」を、

 無駄になんて、させない。

 

「行こう……」

 

「はい。すぐそこに強大な魔力を感じます」

 

 広大な地下空間――その中枢はもうすぐ目の前だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。