花陽の兄が絢瀬絵里に恋をしてしまいました。   作:あらを

2 / 3
2.好きな人へのプレゼントを考えよう。

 

 十月に入り、二度目の週末。

 とある土曜日の昼過ぎ。

 

「んがあぁ、どうしよ〜〜〜〜」

 

 学校もバイトも入ってもいなかったこの日、薄暗い自室で机に向かって唸る俺の姿があった。

 机の上にはノートパソコン─────大学の入学祝いで父親から買ってもらった物だ─────があって、そんで画面に映し出されているのは、大手ショッピングサイトの贈り物特集。まだ十月だというのに、早くもクリスマスプレゼントの広告もちらほら目に入る。

 少し気が早くねえかと思うが、しかし今はそんなことを気にしてる場合ではなくてだな。

 

「・・・あと、十日」

 

 俺は卓上カレンダーに赤丸で囲まれた日付を見て呟く。

 今日から数えて十日後、十月二十一日は、絢瀬の誕生日なのだ。

 察しの良い奴ならお気づきだろう。

 俺は、絢瀬への誕生日プレゼントに頭を抱えているのだった。

 

「うーむ」

 

 見ての通り、候補すら浮かんでいない。十月に入った段階から考えてはいたんだけどな・・・。

 身近な異性、まして好意のある女性に渡すものなんて、そう簡単に決められるはずもなく。

 ずるずると、今日まで来てしまったってわけだ。

 

 どうだ、この優柔不断っぷり。ぐはは、ダサいだろう? 俺もそう思う。

 まだ誕生日まで多少の猶予はあるものの、もし通販で買うなら、届くまでの時間も考慮しなければなるまい。

 なので、なるべく早く・・・というか今日にでも決めちまいたいところなんだが、如何せんこれというものが見つからない。

 さあて、どうしたもんかね。

 

 ──────────コンコン

 

 頭を悩ませていると、ノックの音。

 おかんかな? そう思いつつ立ち上がるが、すぐに違うと気づく。

 なんせウチのおかんはノックなんてしないからな。

 何回おかんの闖入に頭を抱えたことか。

 健全な男子諸君なら、必ずや理解してくれると期待している。

 

 しかし、だとすると、 

 

「お兄ちゃん、いる?」

 

 予想通り、扉の向こうから世界一可愛い妹の声がした。

 俺は返事をして、ガチャリと扉を開けてやる。

 

「花陽? どした?」

「お母さんが、お昼ご飯いるか聞いてきてって。・・・もしかして、寝てた?」

「ま、まあ、さっきまで・・・」

 

 花陽は俺の寝癖を見かねて言う。

 

「もうお昼だよ? 休みの日でも少しは早起きしないと、ダメ人間になっちゃうよ」

「まあ、既になり始めている自覚は・・・あったりする」

 

 ちゃんとしねえとダメなのは、分かってんだけどなぁ。

 

「あはは・・・お兄ちゃん、高校の頃の方がしっかりしてたような・・・?」

「全くもってその通りだ」

 

 ダメダメな兄貴に呆れているのか、花陽は苦笑を浮かべていた。

 呆れた表情で「もう、ダメだよ?」と零す様子は、大変可愛らしい。

 身内の贔屓目抜きにしても、天使そのものである。

 つってもなぁ、九月末まで夏休みだったせいで、まだ昼夜逆転気味なんだよ。

 大学生あるあるじゃない? 絢瀬はしっかりしてそうだけど。

 

 てか、花陽にダメ人間って言われるの、ちょっとゾクッとするな。

 

「ん? プレゼント・・・?」

 

 開きっぱなしだったノートパソコンの画面が見えたらしく、花陽が疑問を口にする。

 俺の部屋は扉の正面にデスクがあるので、視界に入ったのだろう。

 

「お兄ちゃん、誰かにプレゼントあげるの?」

「ま、まあな。つっても、まだ何にするか決まってすらいないんだけど・・・」

 

 後頭部を掻きながら小さく笑いを漏らすと、ふと花陽が練習着姿であることに気づく。

 いつも使っている上下ピンク色のジャージだ。

 高一の頃とは大きく変わってロングになった髪の毛も、邪魔にならないよう纏めている。

 

「もしかしてこれから練習か?」

「え? うんん、今帰ってきたところだよ」

 

 ああ、朝から行ってたのね。

 

「そっか。お疲れ様」

「えへへ、ラブライブ最終予選に向けて頑張ってるんだ!」

 

 心から楽しそうな口調で言う花陽。

 高校生の妹はスクールアイドル界のトップで、大学生の兄は昼までぐーたらってか・・・。

 なんやねんこの格差! いやまあ、俺が悪いんだけどさぁ。

 まったく、どっちが歳上なんだろうな。

 情けなさが込み上げてくるぜ。

 

「来月だっけ? 最終予選」

「うん、新曲だから楽しみにしててね」

「おう、もちろんだ」

 

 ポンポンと優しく頭を撫でると、花が咲くような笑顔を浮かべる妹(天使)。

 

 万感の思いが、湧き上がってくる。

 弱気で泣き虫だった妹も、今となってはスクールアイドルの全国トップ。二年連続の優勝実績にも胡座をかかず、目指す目標に向けて朝早くから一生懸命アイドル活動に精を出し、今日もひとつ前進。なんとよく出来た妹だろうか。お兄ちゃん嬉しい。

 

 ─────────あ、そうだ!

 

「なあ花陽、この後忙しい?」

 

 俺は天啓を得て、咄嗟に花陽の予定を聞き出す。

 女の子に贈るプレゼントなんだから、女の子に聞くのが一番いいに決まってんじゃん!

 

 なんだか自分で決めなきゃ意味が無いくらいには思ってたけど、花陽なら俺や絢瀬と歳も離れていないし、アドバイスをもらうには適任だろう。

 なーんで思いつかなかったんだろうな。

 

「この後? んー、来週公開するPVのチェックくらいかな。どうして?」

「そっか。いやさあ、ちょっと相談乗ってほしいんだけど」

「お兄ちゃんが私に相談!? 珍しいねえ」

「まあ、たまにはな。昼ご飯の後で、少し時間貰ってもいいか?」

「うんっ。じゃあ部屋で待ってるね」

 

 そんな約束をして、昼食後。

 俺は軽くシャワーを浴び、外出用の服に着替える。

 あ、勘違いするなよ。花陽の部屋に行くからカッコつけてるわけじゃないからな。

 普通に出かける用事があるから、先に準備を済ませているだけだ。

 

 シャワーを終え、髪を整えて二階へ戻る。

 花陽の部屋の扉をノックして返事を待った。

 

「はーい」

「ん。入るぞー」

 

 部屋に入ると、部屋着姿の花陽が俺を出迎えた。

 胸にワンポイントの花柄があしらわれた、黄緑色のシンプルなスウェットだ。

 特にこの後用事もないって言ってたし、楽な格好でいた方がいいだろう。

 

 一応、花陽の部屋について少し説明しておくか。

 間取りは七畳ほどの広さで、シンプルな洋室だ。

 部屋右奥に勉強机があり、左奥にはベッド。そんでベッドの隣にはタンスがあり、中央には以前和室で使っていたちゃぶ台。フローリングには緑色のカーペットが敷かれていて、机とタンスの上には写真立てがいくつか。μ'sの九人で撮った物や、現在のメンバー(七人)で撮った物に、去年の家族旅行の時に撮った俺とのツーショットなんかも飾ってある。

 

 自分で言うと小っ恥ずかしいが・・・仲良すぎだろ。

 

 年頃の女の子っつうのは、皆兄貴なんかキライなんだろうけど、ウチはその例に漏れるらしいな。

 俺との写真も大切そうに飾ってるあたりが、もう大変愛おしい。

 可愛いだろ? ウチの妹。

 今すぐ抱きしめて頭撫で撫でしてあげたい。

 

 俺は遠慮なく座布団に腰を下ろし、花陽も向かいに座る。

 さて、どこから切り出したものか・・・。

 

「えっと、それで相談なんだが・・・」

「それなんだけど、ひょっとして、絵里ちゃんのこと?」

「そうそう。絢瀬のこ・・・って、え? え!?」

 

 俺は驚きと共に顔を上げた。

 な、なんで知ってんの!?

 そんな俺の心情を正確に読み取ったらしく、花陽は苦笑しながら続ける。

 

「まあ、お兄ちゃんが悩みそうなことで、私に相談するようなことって言ったら、絵里ちゃんのことだろうなぁって」

「そ、そか。確かに、予想つくよな」

 

 流石は我が妹。兄の事をよく分かってらっしゃる。

 でも確かに、花陽の立場になって考えたら、選択肢は少ないかもしれない。

 俺、基本そんなに人に相談する方じゃないし。

 

「もしかして、誕生日プレゼントで悩んでるの?」

「ご名答だ」

「絵里ちゃんの誕生日、もうすぐだもんね」

 

 まるで点と点を結ぶような名推理。

 花陽はにっこりと笑みを浮かべながら言う。

 おいおい、全部見透かされてんじゃねえか・・・。

 なんだか恥ずかしくなってきたぞ!

 まあ、話が早くて助かるといえば助かるけどね。説明の手間が省けたし。

 

「二週間くらい悩んでるんだけど、中々決まらなくてな」

「去年は、何かあげたの?」

「んや、ご飯奢ったくらいで、誕生日プレゼント渡すのは今年が初めてだ」

「そっかぁ」

「だから何か、女の子が欲しがるような物を教えてほしいってのが、今回の相談の趣旨だな」

 

 花陽は人差し指を顎に当て、目線を上に向けて、んー、と言いながら考えてくれている。

 

 ん? 待てよ?

 俺、相談してから気づいたんだけどさ。

 これ、当然どっかのタイミングで『なんで絢瀬にプレゼントを?』って話になるよな。

 そうなると、自然に俺が絢瀬に惚れていることを話さなくちゃいけないわけで。

 まあ誤魔化しようはいくらでもあるが、それじゃあ本質的に相談の意味がないし。

 

 となると。

 

 は、花陽に絢瀬の事が好きなんですって言うの!?

 嘘だろ。ダレカタスケテェ・・・。

 

「その、前提としてなんだけど・・・」

 

 ええい、こうなったら聞かれる前に言ってしまえばいい!

 聞かれて答えるよりも、オープンにした方が恥ずかしさは少しマシになるだろ。・・・知らんけど。

 ま、まあ、長い目で見たらいつかは知られることだし、な。

 

「俺・・・その・・・」

「?」

 

 きょとん、と可愛らしく小首を傾げる妹。

 その仕草は小動物っぽくて大変可愛いが、気にしている場合ではない。

 

 やっべ、めっちゃ緊張する!

 本人に告白するって訳じゃないのに。

 妹に自分の好きな人を公開するのって、こんな恥ずかしいんだな! 知らんかったわ!

 しかも、花陽が全然知らない相手とかならまだしも、絢瀬だからなぁ。

 

 たっぷりと一分ほど葛藤の末、俺は言葉を絞り出す。

 

「俺、絢瀬のこと、好きなんだよね・・・」

「ふぇ? ・・・う、うん。知ってるよ」

 

 返ってきたのは、それはそれはもうシンプルな、肯定の言葉だった。

 

「え?」

「え?」

 

 今、なんて・・・。

 お互いに、何言ってんのみたいな空気になる。

 

「知ってるよ? お兄ちゃんが絵里ちゃんのこと好きなの」

 

 当たり前かのように、優しく微笑みながら告げる花陽。

 い、いやいや・・・。

 

「マジ?」

「うん」

「いつから?」

「んー、ハッキリとは覚えてないけど、μ'sの活動が終わる頃くらいかな?」

「嘘だろ・・・俺、言ったことあったっけ?」

「あ、お兄ちゃんから直接言われたわけじゃないよ?」

「そ、そか」

 

 まあ、言った覚えないしな。

 あれ? でもその頃って、俺が絢瀬を好きだって自覚するよりも前だと思うけど。・・・まあいっか。

 花陽は苦笑を浮かべながら続ける。

 

「ふふ。お兄ちゃん、分かりやすいから」

「ま、マジ? そんなに?」

「うん」

「えと、具体的にどう分かりやすいんでしょうか・・・?」

 

 一応、表には出さないようにしてたつもりなんだけどなぁ。

 分かりやすいって言われると、ちょい気になる。

 

「う〜ん、どうって言われると難しいけど・・・。あ、ほら、μ'sでファッションショーに出ることが決まって、凛ちゃんが代理でリーダーになった時のこと、覚えてる?」

「あ、ああ」

 

 これは、μ'sがまだ活動してた頃、つまりは二年前の話だ。

 確か、本物のモデルさんが出るようなファッションイベントにμ'sの出演が決まった時だったっけ。

 そん時、二年生の三人組(穂乃果、ことり、海未)が修学旅行で不在になってて、俺と花陽の幼馴染、凛が代打でリーダーを務めることになったんだ。

 

 そんで色々あって、件のファッションショーでは凛がセンターで踊ることになってさ。

 でも凛は『ある理由から』センターの衣装を嫌がって・・・。

 

 そん時に、花陽に相談されたんだ。

 凛のことについて。

 

──────凛ちゃんのこと考えたら、どちらも正解な気がして・・・。

 

──────お兄ちゃんは、どう思う?

 

 

 まあ、細かいことを話すと長くなるので割愛させてもらうが・・・この花陽の相談をきっかけに、何度か凛の様子を見ようとμ'sの練習に参加したんだよ。

 

 絢瀬と出会ったのも、これがきっかけってわけ。

 つっても、期間としてはそれほど長くはないし、練習を見せてもらったのも数回ほど。

 この時に何か特別なことをした覚えは特にないし、なんで花陽が知ってるのかは謎である。

 俺も絢瀬も、当時は知り合ったばかりで壁もあったしな。

 

「あの時のお兄ちゃん、絵里ちゃんと話しててすごく楽しそうだったから。もしかしたらそうなのかなって」

 

 前言撤回。俺の方壁無ぇじゃねえか!?

 

「あとお兄ちゃん、その頃から絵里ちゃんの話することが増えたよ」

「ま、まじ?」

「うん。それに、練習の時も時々絵里ちゃんの方見てたから・・・」

「そ、そうかな・・・」

 

 全くの無自覚である。

 ま、まあ、当時から可愛いとは思ってたし、無意識に見ちゃってたのかもしれん。

 で、でも、ここまで状況証拠があるとは、正直思わんかった。

 

「うん。それから・・・」

「お願いもうやめてぇ・・・死んじゃう」

 

 はっ、恥ずぅ!!! 

 俺自身、μ'sの面々には知られないように立ち振る舞っていたつもりだったが・・・。

 

 少なくても花陽にはバレバレだったらしい。

 二年越しに知ろうことになるとは。

 ああ、死にてえ。羞恥でどうにかなっちまいそうだ。

 

「多分、ことりちゃんと希ちゃんは気づいてたと思うよ?」

「うぅ・・・」

 

 花陽以外にも気づいてた娘おるんかい。

 やっぱり死にてぇ・・・・・・。つーか、なんで女の子ってのはそういう色恋沙汰をいとも簡単に見抜いてくんだろうな。ホント不思議。

 

「えっと、それで、絵里ちゃんに渡すプレゼントだよね」

「あ、ああ」

 

 話が少し脱線してしまったな。

 花陽が軌道修正をしてくれて、本題に戻る。

 

「花陽だったら、異性からもらって嬉しいものって何かあるか?」

「もらって嬉しいものかあ。お兄ちゃんとお父さん以外の男の人から何か貰ったことないから・・・しいていえば、ファンレターくらいかなぁ」

「ファンレターかぁ」

 

 すまん、さすがに参考にならん。

 てか、分かっちゃいたけど、ファンレター届くってすげえな。ウチの妹スターすぎるだろ。

 

「なら、俺があげたものだったらどうだ?」

「お兄ちゃんから貰ったもの?」

「うん。今まであげたプレゼントで、一番良かった物ってあるか?」

「一番良かったものかぁ・・・ちょっと待ってね?」

 

 花陽は呟いて椅子から立ち上がると、部屋のクローゼットを開け、「よいしょ」等と言いながら買い物カゴくらいの大きさの箱を取り出す。

 ちゃぶ台の上にそれを置くと、花陽は蓋を取り外した。

 中には、マフラー、手袋、ニット帽、フォトアルバム、CD等々。

 

 これって・・・。

 

「ぜ、全部とってあるんだな」

 

 全て、俺がこれまでにあげてきた誕生日プレゼントの数々だった。

 

 その数、約十個。お小遣い貰うようになってからは、毎年何かプレゼントしていたような気がする。

 

「うん。だって、宝物だもん」

「そ、そか」

 

 可愛いこと言いやがってぇぇぇ!!!

 俺は恥ずかしくなって、思わず花陽から目を逸らしちまった。

 やっぱりウチの妹は天使だ。間違いない。

 逸らした視線の先で箱の中を覗き込むと、花陽の宝物達と目が合う。

 

 一番最初にあげたのは、当時花陽が好きだったアイドルのCD。歌詞カードの隅は所々破れ、何度も開け閉めしたのか、透明のケースには数多の小傷が付いてしまっている。

 手作りマフラーは劣化して糸がほつれ、流石にもう使えなさそうだ。

 

 別に、ダメになったもんは捨てたって怒ったりしないのに。

 こうして大切に保管してくれていると思うと、素直に嬉しいものだな。

 

「この中で一番良かったのって、何だ?」

「一番かぁ、どれも嬉しかったから決められないけど、よく使うのは手袋とかニット帽かな。やっぱり日常で使うものだから」

「そ、そか・・・」

 

 わざわざ手袋とニット帽を取り出してうっとりとする花陽。いちいち仕草が可愛いというか、子犬のような雰囲気がある。

 

「でも、お兄ちゃんがくれたらなんでも嬉しいから、全部一番だよ」

「まあ、花陽ってそういうとこ優しいもんな」

「えへへ。大好きだからね、お兄ちゃんのこと」

「可愛すぎか。俺が死ぬぞ」

 

 ウチの妹、やっぱり天使かもしれない。

 てかもう高校三年生だよね!? そろそろ羞恥を覚えなさい!

 ファンの男が見たら卒倒しかねんぞ、こんな光景。

 

「だからまあ、私よりも、絵里ちゃんの趣味に詳しそうな人に聞いてみた方がいいと思うなあ。希ちゃんとか、亜里沙ちゃんとか」

「ああ、あの二人なら確かに知ってそうだな」

「ごめんね? あんまり参考にならなくて」

「いやいや、全然いいんだ」

 

 話を聞いてくれただけでも、見えてくるものってあるしな。

 なんとなく、方針は決まりそうだ。

 

 ちなみに希ってのは東條希といって、絢瀬の親友だ。こちらも絢瀬や花陽と同じく元μ'sのメンバーで、俺も仲が良い。

 んで、亜里沙ってのは、絢瀬亜里沙。苗字で分かると思うが絢瀬絵里の妹である。

 

 希も亜里沙ちゃんも、一応連絡先は知っている。

 亜里沙ちゃんに関しては何故か割と懐かれていて、たまにライブ直前にメンバーとの自撮りなんかを送ってきたりする。

 なんで懐かれてんのかは分からんが・・・まあ、人懐っこいからな、あの娘。

 

「おっしゃ。なら、ちょっくら亜里沙ちゃん辺りに聞いてみようかな」

「うんっ、いいと思う。私も、次の練習の時、それとなくリサーチしておいてあげるね」

「お、いいのか? ありがとな」

「うんん・・・お兄ちゃんの想い、絵里ちゃんに伝わるといいね」

「告白するのなんか、随分先だろうけどなあ」

 

 そんな弱気なことをボヤくと、花陽は子供に言い聞かせるように言う。

 

「あんまりゆっくりしてると、他の男の子に取られちゃうかもだよ? 絵里ちゃん、モテるだろうし」

「うっ・・・それは、否めないな」

 

 それは、俺が以前から薄ら感じていた懸念だった。

 バイト先の塾にも、同じ大学にも、魅力的な男なんかいくらでもいるわけで。

 実際、絢瀬に好意を持ってる奴がいるってのも、何度か聞いたことがある。

 

「どんなに好きでもね───────」

 

 

 

 

 

「好きな人って、案外あっさり取られちゃったりするんだよ」

 

 

 

 

 

 その言葉を放った花陽の表情は、妙に大人びて見えた。

 俺がもし、絢瀬に夢中になっていなければ、花陽の言葉にもう少し違和感を覚えていたのかもしれない。

 しかし次の一瞬にはもう、花陽はいつもの表情を浮かべていて。

 なんだったんだろう。俺の勘違いだろうか。

 

 ただ、一つ確かなことは、

 

「そうだよな。ありがとう、肝に銘じとくわ」

「うん────応援してるよ、お兄ちゃんのこと」

 

 ウチの妹は、やっぱり天使だということだ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。