システム・ユニオは議事録を取りたい   作:ギアっちょ

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第七ピリオド ――人は救うべきか、使うべきか

第六ピリオド終了後、私は記録端末を閉じたまま、しばらく何も言わなかった。

 

戦争と悪意についてあれだけ淀みなく語れる者たちに対し、今さら驚きはしない。

しないが、慣れもしない。

 

ディオは、果実と鉄の余韻をまだ面白がっている顔をしていた。

シックスは、次の議題が待ちきれない顔をしている。

ラウは静かにこちらを見ている。

ボスヤスフォートは、たぶん少し疲れていた。

 

疲れているのは、私も同じだった。

 

「第七ピリオドに入ります」

 

端末を再起動し、議題を表示する。

 

第七ピリオド 人は救うべきか、使うべきか

 

沈黙は、今回は短かった。

 

「ずいぶん露骨だな」

と、ディオ。

 

「今さら柔らかく包んでも無意味ですので」

私は答える。

 

「潔いね」

ラウが微笑む。

 

「やっと本音の話になる」

シックスは嬉しそうだった。

 

「そうでもない」

ボスヤスフォートが低く言う。

「“救う”も“使う”も、どちらも軽い」

 

「そのあたりも含めてお願いします」

私は言った。

「まずは一人ずつ、基本的立場を。

人は救済の対象なのか、利用の対象なのか。

あるいは、その二項対立自体が誤りなのか」

 

「では、今回は――シックス様から」

 

「当然そうなるか」

シックスは笑った。

「君、最近遠慮がないね」

 

「議題との相性を優先しました」

 

「褒めているよ」

 

褒められたくはない。

 

シックスは穏やかな声で言った。

 

「僕にとって、人類はまず使うものだ。

救う、という発想はあまり好きじゃない。

上から手を差し伸べてやる、みたいで傲慢だろう?」

 

「貴方がそれを言いますか」

私は反射的に言った。

 

ラウが笑う。

ディオも、少しだけ口元を歪めた。

 

シックスは楽しそうに続ける。

 

「人は脆い。愚かだ。よく壊れる。

でもだからこそ面白い。

何を見せれば怯むのか。

どこまで圧力をかければ変わるのか。

裏をかかれた時、誰がどういう顔をするのか。

そうした反応は、使ってみなければ分からない」

 

「随分と率直ですね」

私は記録する。

「要するに、玩具であり実験材料であると」

 

「消費財と言ってもいい」

シックスはあっさり言った。

「浪費していい、とは言わない。

ただ、保存して眺める価値より、動かして壊して反応を見る価値のほうが高い」

 

「最悪ですね」

 

「ありがとう」

 

「褒めていません」

 

シックスは肩をすくめた。

 

「もちろん、全部が全部すぐ壊れていいとは思わないよ。

中には面白い形で残るものもある。

そういう個体は使い捨てるには惜しい。

でも、それは“救う”とは違う。

価値があるから残す。役に立つから育てる。

ただそれだけだ」

 

「救済ではなく選別と運用、ですか」

私はまとめる。

 

「そう。

人を救う? そんな大げさなことは言わない。

人は、使いながら見極めればいい」

 

私は記録する。

 

シックス:人類は救済対象ではなく、まず利用・観察・選別の対象である。価値ある個体は残し、育て、使うが、それは救済ではなく運用にすぎない。

 

「次に――ディオ様」

 

ディオは脚を組み直した。

 

「くだらん問いだな」

 

「そう思われるなら、その理由ごとお願いします」

 

「人を救うべきか、使うべきか、だと?」

ディオは笑った。

「答えは簡単だ。

使える者は使う。

使えぬ者は糧にする。」

 

「思っていたより露骨でした」

私は言った。

 

「何を期待していた」

 

「せめてもう少し言い換えるかと」

 

「無意味だ」

ディオは切った。

「人間とは、上に立つ者のために働くか、恐れるか、消費されるかだ。

“救う”という言葉が入り込む余地など、最初から大してない」

 

ボスヤスフォートが眉をひそめる。

 

「貴様には、庇護という概念がないのか」

 

「ある」

ディオは即答した。

「ぼくの支配下に入ること、それ自体が救いだ。

無秩序に怯え、下らん自由に苦しむより、

優れた支配者の下で己の位置を知るほうが、よほど安定している」

 

「それを救済と呼ぶのですか」

私は聞いた。

 

「他に何と呼ぶ」

ディオは言う。

「だが、勘違いするな。

それは相手のためにしてやる慈善ではない。

ぼくに従う価値があるからだ。

役に立つから置く。

不要なら捨てる。

それだけの話だ」

 

「食糧でもありますしね」

私は淡々と補足した。

 

ディオは満足そうに笑った。

 

「そうだ。

上に立つ者が下を食うのは自然だろう?」

 

「自然の定義がだいぶ偏っています」

 

「真実と言え」

 

私は記録する。

 

ディオ・ブランドー:人類は基本的に利用または消費の対象である。支配下に置くことは結果として“救い”にもなりうるが、それは慈悲ではなく支配者側の都合に基づく選別である。

 

「次に――ボスヤスフォート様」

 

ボスヤスフォートは少しだけ間を置いた。

その沈黙には、苛立ちと整理が半分ずつ混ざっていた。

 

「“救う”という言葉は軽い」

彼は低く言った。

「人を丸ごと救えるなどと考えるのは、思い上がりだ。

だが“使う”という言葉だけで片づけるのも浅い」

 

「では、どう見ますか」

 

「人は、導き、統べ、必要なら矯正すべき民だ」

 

シックスが笑う。

「救う、ではないんだね」

 

「救済者ごっこをする気はない」

ボスヤスフォートは切った。

「人は愚かだ。

放っておけば短慮に流れ、利に走り、争い、足を引く。

だから秩序が要る。

役割が要る。

時には厳しさも要る。

それを“使う”とだけ言うなら、少し違う。

自分は、人類をただの道具とは見ぬ。

だが、対等な主としても見ていない」

 

「率直ですね」

私は言った。

 

「今さら飾る意味がない」

ボスヤスフォートは言う。

「民とは、統べる対象だ。

守るべき時は守る。

使うべき時は使う。

育てるべき時は育てる。

だが、その全ては共同体を維持するためにある」

 

ラウが静かに言う。

 

「ずいぶん責任感のある支配だ」

 

「支配ではなく統治だ」

ボスヤスフォートは返す。

「少なくとも、貴様らのように、玩具や食糧としては見ておらん」

 

「そうかな」

ラウは微笑した。

「少し上品な言い換えに聞こえるが」

 

「違う」

と、ボスヤスフォート。

「人を使うのではない。

役割を持たせるのだ。

そこに責任が伴うなら、それは消費とは別物だ」

 

私は記録する。

 

ディス・ヒフツェン・ボスヤスフォート:人類は単純な救済対象でも消費対象でもなく、導き、統べ、必要に応じて矯正すべき民である。使役は共同体維持と役割付与の一部であり、責任を伴う統治行為と位置づける。

 

そして最後に視線を向ける。

 

「ラウ様」

 

ラウ・ル・クルーゼは、少しだけ目を伏せてから言った。

 

「私はね、人類を“救うべきもの”だとはあまり思わない」

 

「でしょうね」

私は言った。

 

「即答だね」

 

「ここまでの流れ上、かなり自然です」

 

ラウは穏やかに続ける。

 

「人は、もう十分に自分たちで自分たちを使っている。

国家が民を使う。

組織が個人を使う。

家族が期待を背負わせる。

正義が誰かを犠牲にする。

愛ですら、時に相手を縛る。

“使う”というのは、何も悪党だけの専売ではない」

 

「救済は?」

私は聞く。

 

「あるのかもしれない」

ラウは言った。

「だが、少なくとも私は、人類全体がどこかへ救い上げられるとは思っていない。

人は愚かで、欲深く、壊れやすい。

それでも生きて、誰かを求め、何かを失い、また同じことを繰り返す。

その営み全体を、外から綺麗に“救う”ことはできないだろう」

 

「諦観ですね」

私はまとめる。

 

「そうとも言う」

ラウは頷いた。

「ただ、救われないから価値がないとも思わない。

むしろ、人が救われきらぬまま足掻く姿にこそ、人間らしさは出るのではないかな」

 

「使うことについては」

私は続ける。

 

「人は互いに使い合うよ」

ラウは穏やかに言った。

「問題は、それを善意で包むか、悪意で剥き出しにするかの違いだけだ。

だから私は、

ディオの露骨さも、

シックスの実験趣味も、

ボスヤスフォートの統治論も、

形が違うだけで完全には遠いと思わない」

 

沈黙。

 

その一言は、卓上の全員に少しずつ刺さったらしい。

 

ディオが鼻で笑う。

「貴様まで一緒にするな」

 

「だが、少し図星だろう?」

ラウは微笑む。

 

シックスは楽しそうだ。

ボスヤスフォートは嫌そうだ。

正しい反応である。

 

私は記録する。

 

ラウ・ル・クルーゼ:人類全体はもはや外部から綺麗に救済できる対象ではない。他方で、人は常に互いを使い合って生きており、その現実を善意か悪意かの包装で見分けているにすぎない。救われきらぬまま足掻くこと自体に人間らしさを見る。

 

全員分の記録を一覧化する。

 

ひどかった。

実に、ひどく、よく噛み合っていた。

 

「総括します」

 

私は言った。

 

「シックス様は、人類を利用・観察・選別の対象と見ています。

ディオ様は、人類を利用または消費の対象とし、支配を結果的な救済とみなしています。

ボスヤスフォート様は、人類を導き統べるべき民とし、使用も保護も役割付与も統治の一部と位置づけています。

ラウ様は、人類全体の救済には懐疑的であり、人が互いを使い合うこと自体を人間社会の常態として見ています」

 

「見事に救いがないな」

ラウが言った。

 

「ええ」

私は頷いた。

「ただし、一点だけ共通しています」

 

「またそれか」

ディオが言う。

 

「便利なので」

 

私は読み上げる。

 

「皆様とも、人類を対等な主体としては見ていない点では、かなり一致しています」

 

沈黙。

 

今回は、ほんの少し長かった。

 

シックスが最初に笑った。

「ひどい言い方だ」

 

「事実です」

 

ディオも笑う。

「否定はせん」

 

「自分は少し違う」

ボスヤスフォートが言った。

 

「“少し”ですね」

私は確認する。

 

「……少しは」

 

「では記録上、その程度の差異として扱います」

 

「雑だな」

 

「議事録ですので」

 

ラウが静かに言う。

「でも、正確だよ。

誰も“人類は自由で尊い対等な存在なので、まず本人の意思に委ねるべきだ”とは言っていない」

 

「この場でそれを言い出す者がいたら、むしろ心配します」

私は言った。

 

「たしかに」

ラウは笑った。

 

私は最後の結論欄に打ち込む。

 

第七ピリオド結論:一致なし。

ただし、全員が人類を対等な主体ではなく、導き・利用・観察・消費・統治のいずれかの対象として見ている点では概ね一致。

相違点は、その扱いを救済、運用、支配、諦観のどれで正当化するかにある。

 

さらに内部メモを開く。

 

補記:四名とも、人類を“自分が何かをしてやる側”から見ている。

非常に悪役らしく、非常に分かりやすい。

 

少し迷って、もう一行足す。

 

補記:ラウ様だけは“救われないまま足掻く姿”に価値を見る分、少しだけ優しい。

少しだけ、だが。

 

端末を閉じると、ラウが目を細めた。

 

「最後の一行、少し甘くないかい?」

 

「不本意です」

 

「でも否定はしないんだね」

シックスが笑う。

 

「比較級です」

私は答えた。

「他三名があまりにも――」

 

「やめろ」

ディオが言う。

 

「主観が混ざる」

ボスヤスフォートも言う。

 

「今さらです」

 

私は一覧へ戻る。

 

「残る議題は、いよいよ最終です」

 

表示を切り替える。

 

第八ピリオド 結論――人類に未来はあるのか

 

卓上が、今度は少しだけ静かになった。

 

ディオは笑っていない。

シックスも、珍しくすぐには口を開かなかった。

ラウは穏やかだが、その穏やかさが少しだけ違う。

ボスヤスフォートは、最初から最後まで変わらぬ重さでそこにいた。

 

私は端末を閉じる。

 

「その前に、休憩を挟みます」

 

「来たか」

と、シックスが言う。

 

その声音が、嫌な予感で満ちていた。

 

私は顔を上げる。

 

「……そうですね。

来てしまいました」

 

第四回休憩。

最後のもてなし。

そして、おそらく最も信用してはならない休憩。

 

私は内部メモに短く記した。

 

補記:次回、シックスのもてなし。

もはや休憩と呼ぶこと自体に違和感がある。

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