ラウが差し出した箱は、ボスヤスフォートのものとは対照的に、
白く細長く、過剰な装飾のない上品なものだった。
「第二回休憩、だったね」
その声は柔らかい。
柔らかすぎるのが、むしろ少し不穏だった。
「私からは、ささやかな焼き菓子を」
蓋が開く。
中に並んでいたのは、人の姿を象った小ぶりな焼き菓子だった。
どこか愛嬌のある意匠で、整いすぎず、かといって雑でもない。
ディフォルメされていながら、ちゃんと頭部も、胴も、手足も分かる。
「……見た目は、ずいぶん親しみやすいですね」
と、私は言った。
「ありがとう」
ラウは微笑んだ。
「少し変わった意匠菓子でね。軽い遊び心のようなものだよ」
「名称は」
私は記録のために尋ねる。
ラウはあまりにも自然に答えた。
「五体満足」
数秒、沈黙。
「嫌な名前ですね」
私は真顔で言った。
ディオが吹き出す。
「フン……悪くない」
「どこがですか」
私は聞いた。
「無駄に縁起が悪いところだ」
ボスヤスフォートは菓子を一瞥し、低く言った。
「名付けに品がない」
「そうかな」
ラウは穏やかに首を傾げる。
「私はむしろ、実に率直で美しいと思うのだけれど」
「美しいの基準がおかしい」
シックスが笑う。
「でも、嫌いじゃない」
「貴方の“嫌いじゃない”は警戒対象です」
私は言った。
ラウは何も答えず、今度はポットを取り出した。
こちらの茶は、前回のボスヤスフォートの宮廷茶に比べて香りが軽い。
花と柑橘を少し思わせる、澄んだ香りだった。
「茶は控えめにしたよ。菓子の印象が少し強いからね」
ラウはそう言って、優雅な手つきで各々のカップへ注いでいく。
動作だけ見ていると、本当に洗練されている。
だから腹が立つ。
「今回は、普通に茶と菓子ですか」
と、私は確認した。
「普通に、とは何だい」
ラウが笑う。
「前回の君の反応を見るに、その確認を取りたくなる気持ちは分かるけれど」
「制度上必要です」
「もちろん。毒は入っていないよ」
「そういう確認ではありません」
「では安心してくれ」
一番最初に菓子へ手を伸ばしたのは、ディオだった。
ためらいがない。
人の形をしていようが、
名が妙に不吉だろうが関係ないという顔で、
ひとつ摘まみ、
そのまま――頭からかじった。
パキッ、と軽い音がする。
「ほう」
シックスが目を細める。
続いてボスヤスフォートが取り、
少し眺めたあと、今度は片腕のあたりから口をつけた。
ラウは楽しそうにそれを見ている。
私はまだ手をつけていなかった。
つけるべきか、つけないべきか、判断を保留していた。
「召し上がらないのかい?」
ラウが穏やかに言う。
「食べます」
私は答えた。
「ただ、貴方の菓子は事前説明が足りないと判断しています」
「説明なら、今からだよ」
嫌な予感しかしない。
シックスはもう笑っていた。
彼は腹部から一気に割るように食べ始める。
最悪の食べ方に見えたが、本人は楽しそうだった。
ラウは、その様子を静かに見渡してから、紅茶をひとくち飲んだ。
「面白いものだね」
「何がです」
私は聞いた。
「どこから食べ始めるかで、その人の性質が少し見える」
私は菓子を皿へ戻した。
「そういう説明は、食べる前にしてください」
「先入観は観察の邪魔になるだろう?」
ラウはこともなげに言う。
「厄介な観察を始めないでいただきたいのですが」
ラウは最初にディオを見た。
「頭からいく方は、迷いが少ない。
合理的で、まず思考を止めることを優先する傾向がある」
柔らかい声で言う。
「一撃で主導権を奪いたいタイプだね」
ディオが口元を歪める。
「悪くない診断だ」
「褒めていません」
私は言った。
「分かっている」
次に、ボスヤスフォートへ視線が向く。
「手足から食べる方は、慎重で秩序的だ。少しずつ行動の自由を奪い、逃げ道を塞いでいく。急がず、確実に形を整える人に多い」
「……ほう」
ボスヤスフォートは低く唸る。
「随分と勝手な分析だな」
「不服かい?」
「一部は当たっているのが腹立たしい」
「それはよかった」
そして最後に、ラウはシックスを見る。
シックスはすでに菓子の胴体中央から割り、
あんこの詰まった部分を楽しそうに食べていた。
「中心から入る方は、欲望に正直だ。外縁より核心、形式より中身。もっとも効率よく“本質”へ触れたい人だね」
ラウは微笑む。
「少々、略奪的でもある」
「少々かな?」
シックスが笑う。
「でも気に入ったよ、その言い方は」
「気に入らないでください」
私は言った。
「では、君はどうかな」
ラウが私を見る。
全員の視線が集まる。
面倒だった。
私は仕方なく菓子を取り、数秒考えた末、
最も無難そうな箇所――足元に近い端から少しだけかじった。
沈黙。
ラウが、少しだけ目を細める。
「なるほど。君はまず全体を壊しすぎない位置から入るんだね」
「悪い意味に聞こえますが」
「慎重で、観察的で、最後まで核心を保留するタイプだ。
まず安全圏から情報を取って、全体像を見てから決める」
「普通だな」
ディオが言う。
「司会ですので」
私は答えた。
「だが、一番人間的でもある」
ラウは静かに言った。
「誰よりも中立を装いながら、誰よりも食べる場所に迷った」
私は真顔で彼を見た。
「帰りに塩を撒きたくなる差し入れですね」
シックスが吹き出し、ディオが笑う。
ボスヤスフォートでさえ、わずかに口元を緩めていた。
ラウだけが、穏やかな顔で言う。
「いやだな。ただの茶菓子だよ」
「ただの茶菓子に、食べ方で人間性診断を付けないでください」
私は内部メモに追記した。
第二回休憩。見た目は穏当、味も上品。
ただし発案者の性格が悪い。