俺はぼーっとした頭で前を見る
抱きしめあう男女が目に入る
男とは言っても大きさ以外は俺にそっくりに作った分身人形だ
俺の視線はそれにも増してとても低い…
「斬られた」
たったそれだけを理解するのに時間を要した
(上には上がいる、ねえ)
確かにその通りだった
速すぎる
まずそれが抱いた最初の感想
まるで視認を、いや知覚を、いいや違う
攻撃の気配すらも読めなかった…
ただわかった
力はそれほどでもないし
されたことも何か凄い芸当や術を放たれたのではなく純粋に斬り刻まれただけ
単純明快な戦法
いや戦法と呼ぶような代物でもあるまい
速い剣
これに尽きる
(けど単純だからこそ破るのも容易じゃない、か
参ったなあ…)
まあ一旦置いといて、と
なんか超油断してるし気になることを聞いておくことにする
また斬られる可能性も充分あるが君はこれ以上俺に手出ししてこないだろうという確信があった
俺を殺さなかったし、なんならいつの間にか刀も仕舞っているみたいだし
俺の方だって少しずつ再生も始まるだろうしね…
ねえ、竹刀ちゃん…
弾かれたように君は俺の人形を胸元へ突っ込みこちらへ向き直る
取り敢えず君が大寒の弐番である俺が視認できないほど速くて強いのは分かったけどさ
なんで俺を殺さないの?
は?
ごほっ
もう話せるところまで戻ったですか??
先ほどの汚言がまだ耳について離れませんですゆえ其の声にて
金輪際私に話しかけないでくださいませです?
ごほっ
君はそっぽを向いた
でも一瞬痛いところを突かれたように怯んだのを俺は見逃さなかった
(なるほどねえ?
殺せない事情がある感じかな、これは)
ふーん
まあいいや
俺の負けだね
いやあ強いね君
驚いたよ
不快
えー酷いなあ
酷くないです、あなた先程私に
な、何を仰ったか覚えておいでで!!
ごほっ
覚えてるよお
俺はちょっと本気で再生を早回ししてみた
そのまま君を後ろから羽交い締めにし、明らかに第三者が手を突っ込むに十分な隙間から胸元の先端に触れてみた
な!?
予想外のことをされ反応が遅れる君
ね?覚えてるでしょ?
こうするって言ったものねえ
いや、ちょっと本気で待って…
だあめ
嫌です!
ごほっごほっ
じゃあさっきの問い再び!
四番目と五番目の意味は?
答えられたら止めて上げる
え、う、五番目のはあなたが羅刹さんならわかりましたです
ごほごほ
あれはそのまま羅刹さんと人間さんの関係
あなたが食べるという意味
うーん半分正解
竜は俺じゃないよ
じゃあ、
ごほ
来羅木祇園?
正解、呼び捨ては畏れ多いけどねえ
で、四番目は?
え、蝶々を囚える絵…
えー、う、分からない、
ごほっ
です
君はがっくりと項垂れる
うん、じゃあ続きするね
流石に今度は君も条件達成できなかったからと抵抗しないようだった
殊勝なことだ
(そんな理不尽な条件どんどん踏み倒さないとうちの信者みたいに不幸になっちゃうよ…)
だがありがたく君の矜持に乗っからせて貰う
因みに理不尽な問いだったのは間違いない
だってあれは今の俺の最大の秘密を見破らなければ決して解けない難問だから
俺は暫くなされるがままにされていた君の胸の先端を弄ぶ
あっ…うっ、とか
来ちゃう…とか
君は子供にしては随分扇情的な喘ぎ声を出してくれる
へー竹刀ちゃんここ弱いんだあ
ねえもしかして自分で弄ってたりする?
なんか反応が初心じゃないんだけどさあ
ほ、ほっといてくださいませです!
ていうかっ!
ごほごほっ
いくらなんでも此れは無理です!!
「成っちゃう」じゃないですかですーーー!!!
思い出したように君は力を込めて俺の拘束を抜け距離を取った
(あれ、ってことはいつでも抜けられた?
なのに気持ちよくなってされるがままにされてたって…
もしかしてこの子淫乱…?)
ねえ、竹刀ちゃ…あ…!?
急に俺に近寄ってきた君を一瞬視界に収めたと思った次の瞬間
みぞおちに叩き込まれた拳で俺は天井まで高く打ち上げられていた…
息ができないのに耳に響く甲高い声
良いですか!覚えておきなさいませです!
乙女の操は非売品なんですよ!!
明滅する視界にかすめる一目散に逃げ去っていく君…
待って…!!
その声は俺が突き刺さる天井へと反響するのみだ