玉乃衣は姿勢を崩さなかった
要らない
本当はすぐにでも戦いになるのかと思ってたけど、当てが外れたみたいだ
けど、それならそれで全て話して
知ってること全部
少女は一笑に付す
汝がわらわに戦いとな、何万年経っても早いわ
竹刀程度にあっさり倒される若造には一生無理じゃよ
その名前を聞いただけで心臓が鷲掴みにされたような、焦がれた感情が溢れ出そうになる
しかし彼は努めて冷静に言葉を繰った
今、「竹刀」ちゃんって言ったよね
しかもさっきは「夏休み」とも、そもそも「待っていた」とまで
つまり君は、俺の事も竹刀ちゃんの事も知ってる、もっと言うと、これから未来の俺に会っている存在って事で間違いはないんだね?
「未来」などと、そんな汝自身がピンと来ておらぬ言い回しをせずともよい
感覚的にはついさっきぶりじゃろうに…
じゃあ、やっぱり…
うむ、正真正銘、汝にとっては先ほど会ったばかりのわらわよ
じゃから一応言うてはやったろう?
「愛しき家族と共に過ごす時間は非常に短い」のじゃとな
眼前の少女は少しだけ悲しそうな顔をした
俺は不意に右手で指輪を握った
どうして…?
無意識のうちに呟いていた
だめだ、目の前の神と戦う決意をしたばかりだというのに、どうしても込み上げてくる
あまりにも理不尽な死、剥奪
堪えていたはずなのにいつの間にか涙が瞳から溢れてしまっていた
どうしてなんだよ!
なんで!俺は!
竹刀ちゃんにも、比翼と連理にもちゃんと会えたのに!
これからが家族の「始まり」だったのに!!
癇癪だった、わかっているがもはや止まらない
俺は眼前の女神の胸ぐらを掴み、腹に溜まっていた物全てを吐き出すように訴えていた
俺は!
わかっておるよ、汝が竹刀を、「家族」を大事に思うておることくらい
…ずっと見てはきたからの
え?
先の汝と竹刀との交流は実に短いひと月にも満たぬ期間ではあったが、わらわは竹刀の中からずっと見てはおった
まあ出歯亀趣味があるでなし、竹刀の内側で弱ったわらわの力の回復のために眠っておった時に、少し「感知」していた、程度の話ではあるがの
相手が羅刹というのはそりゃもう超気に入らんが、竹刀はあれでなんとまあ、悲しき面食い、趣味が悪いにも程があるが…それでも選んだ相手ではあるからの
わらわも別に「排除」してやろうとまでは、せなんだ
「排除」ってどういうこと?
わらわは、この鳥土里神社の神にして竹刀の育ての親、そしてあの子の師にあたる
あの子に戦う力の全てを授けたのはわらわよ
世から全ての羅刹どもを「根絶」するためにな
なんだって?
驚く玉乃衣とは対称的に、女神は平然とした顔で話を続ける
鳥土里神社が何のためにあるか、という話じゃな
ここは羅刹狩りの神を祀っておるのよ
勿論、わらわという女神様のことじゃ
女神は眼前の少年を一瞥する
竹刀はわらわという神の巫女
あの子の使命は羅刹狩り、別にそのことは汝もよく知っておるし異存はないじゃろう?
わらわこそ羅刹狩りの神なのよ
彼女は鎖骨の辺りをバンと叩き、そのまま玉乃衣へ流し目を送った
のう、未来で羅刹となり
人の子を数多食らい、結果、二十四節巍が大寒の弐番として名を馳せた小僧よ
羅刹狩りの女神は玉乃衣を鋭く指差し告げる
さっきは空気を読んで黙っておったが、わらわは汝が大嫌いじゃ!
玉乃衣は呼吸ができなくなったような錯覚を覚えた