女神は徐に口を開く
もう良い…
わらわもほとほと疲れたわ、羅刹どもの相手はな…
じゃが汝はまだ羅刹ではないのも事実
この先羅刹の首魁たるヤツ、そう、来羅木祇園(くるらぎ ぎおん)に出会い、人の子から羅刹へと成りさがり、二十四節巍の第弐位となる運命を此度も選ぶのであれば、そもそも話などここで終いじゃが…
もし、それだけの地位も名誉も力も全ての可能性を捨てるというのであれば、一つ他愛もない賭けをしようではないか?
その端正な顔に疲れを滲ませる女神は玉乃衣を真っ直ぐ見据えた
思えば汝と竹刀の出会いも賭けからじゃったな
その後、汝は賭けに負けたにもかかわらず、竹刀を脅す形で手に入れよったが
今回も同じく、人の子らの流儀に従ってやるというのもまた、乙かもしれんの
小僧、いや…そう言えば聞いておらなんだな、汝、今なんて名前じゃ?
琉堂玉乃衣だよ、それが俺の幼名
相分かった、では、玉乃衣よ
今から、わらわの問いに正直に応えよ
女神は居住まいを正した
敢えて問おう
汝の望みを言うがよい
(そんなの最初から決まってる)
竹刀ちゃんとこれからもずっと一緒にいることだよ
…それがどんなに困難な事だとしてもか
さっきも言ったことだけど当然だよ、あんな終わりは二度とごめんだ
俺はシノハユちゃんには本気の恋をした
でも彼女は他の男の子が好きみたいで結局上手くいかなくて苦しくて、人々を救う宗祖の俺が、二十四節巍第弐位の俺が、心なんて元々なくて空っぽだったはずの俺が、本当は神なんて信じてもいなかった俺が、誰でもいいから救ってくれなんて…
まるでうちの信者みたいに柄にもなく祈って、そんな時に出会えた竹刀ちゃんだ
さっきは言わなかったけど、本当は「運命」かと思ってしまった
でも、同時に運命なんて信じたくなかった、だって彼女といる時間は本当に楽しくて、なのに楽しそうにしてるようでもほとんど笑ってくれない竹刀ちゃんに少しでも笑って欲しくて…ただ満面の笑顔が見たくて…
引っ込み思案で緊張しいで、だけどどこか天然気味で、でもそれもまたすごく可愛くてすごくすごく好きなんだ
シノハユちゃんは結局俺には全然振り向いてくれなかったし、俺もどんどん辛くなっていったから別れても仕方ない、そう思えたけど
竹刀ちゃんは違うんだよ、嫌なんだ、離れたくない、前の時みたいなあんな悲しい別れはしたくない!
ずっとずっとそばにいたいんだ――
女神はややあって、凛と声を張る
ならばわらわも覚悟を決める
汝、今一度、名乗れ
俺は流堂玉乃衣だよ!
良かろう、暫し目を瞑れ
ヴゥン
女神は手を石畳の地面に向けて翳すと、二人が立つ足場を中心に、紫色の丸い光が現れた
円の中には幾何学模様や人間には読めない文字が躍る
それは彼女の身体の周囲から微量に放たれる紫色の光を吸い上げ、少しずつ拡大していっているように見えた
それを見届けると、何事かを唱え始めた――――