ねえ
これは君が解けなかった四つ目の絵の話だよ
竹刀ちゃん
蝶々は俺の好きなシノハユちゃんの象徴
君もそれはもう理解してるだろう
でもまだわからないはずだ
君が意味は考えただろうに解を得られなかった理由
きっと最も引っかかったはずの点
軽く百年以上は経つ壁画に描かれた「蝶々」
どうしてこの世にシノハユちゃんが誕生するよりも前の古い絵に彼女の象徴があるのか?
単に俺が昔から虫の蝶々を好きだったから?
それとも宗教的な意味での輪廻の象徴を重んじているから?
どちらも不正解
あのね、俺はね、
今のこの俺が世に生れ落ちる前から彼女に恋していたからさ
俺は一度死んで、また新たに生まれ直した身だ
いや、その説明も少し違うか
羅刹だった俺は死んだ
羅刹狩りのシノハユちゃんに殺されてね
でもその後に不思議なことが起きた
死んだはずなのに蘇ったみたいなんだ…
ふと気づけば俺が祇園様に羅刹に変えてもらったその日に戻っていた
まるで時間が巻き戻ったみたいにね?
なんでかは分からないけど、周囲には過去に俺が食べたか死を看取った人間たちがいて、彼らは死の記憶なんて持ってないみたいだったから知ってるのは俺だけだ
とにかく俺にだけ人生、いや羅刹生っていうのかな?
それのやり直しが始まったみたいだった
俺は前の生でシノハユちゃんに殺された時さほど未練はなかったんだ
ただ、彼女にまた会いたいなって思った
それが今世叶った
彼女を手に入れてね
でも…
それ以上はうまくいかなかったな
だって彼女には好きな男が他にいた
いや、別に前回もそれは変わらなかったのかもしれない
死んだから、それに復讐心に殉じたから
諦めただけなんだろう
それ自体は別に驚くことでもなかった
まあやろうと思えば君が生まれる時期から君を攫って養育して俺一筋にさせる事だってできたのかもしれないけどそこまではしなかったんだ
あの俺に対する激情を抱えてやってくる君が魅力的だったから
昔話の光君みたいな事はしなかったんだ
それでも念願叶って君と再会
首尾よくまぐわいまで漕ぎ着けたけど
うんあの拒絶は堪えたよ
好きな女の子を抱いてるのに満たされない気持ち
あまりにも悲しかった虚しかった辛かった
地獄かと思った
これが自ら人喰いに堕ちた俺の罰かと思ったけどそれもよくわからないや
わかるのはその時俺が柄にもなく願ったって事
自分のした事を棚に上げて、竹刀ちゃんが言う通りシノハユちゃんをこれでもかと
心身共に傷つけてそれでも願ってしまった
救いを―――――と
そう、そんな時なんだよ君が来てくれたのは
ねえ、竹刀ちゃん
シノハユちゃんに嫌われたままならこのまま終わってもいいと俺は思ったんだ
辛いから
でももし君が、君と違う未来がもし少しでも期待できるならそれなら…
俺は生きたいと願っていいのかな?
君と生きる未来を
なんて…
流石に虫が良すぎだよね
ああ、だから俺が選ぶ答えはきっと決まってるんだ