竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-18 開戦

シノハユちゃんはここだよ

 

屋敷の階段を五階分上がって最奥に位置するその部屋

 

屋敷の最上階に設けた特別な座敷牢

周囲に蝶々の意匠を凝らして金も相当に掛けて調度も一級品だけを厳選した一見して豪華な一室

俺の最愛の蝶を閉じ込めておくために転生したばかりの時の俺が未来のために真っ先に設えさせた檻

 

入り口の蝶をあしらった美しいけれど重厚な扉を開く

ここに誰かを招いた事はない

他人の汚れはシノハユちゃんに持ち込ませない

食事も俺自らか氷結の継子が運んでいた

まあ生命維持できる最低しか食べてはくれないけど

 

そう言えば、とふと思う

先ほど特別な者しか入れない空間を竹刀ちゃんは聖域と呼んだ

ここもある意味俺が巨額の資材を投じて作り上げた俺手製の聖域かもしれなかった

まあ逃さない事が第一目的だから本物の聖域と比べたら全く開放感なんてないんだけど

 

やっぱりもう少し日に触れさせてあげる造りにすべきだったかな

俺は檻を作りたくて光も届かない事を寧ろ最良として考えたけど

そういうところも君の、というか人間の気持ちを考えられていなかった事に通じるかもしれない

 

つまり俺はなるべくしてシノハユちゃんに嫌われていたのかもね

心を開いてくれなかったのは当然

仲間や家族や想い人と離れ離れにさせて君を人間ではなく蝶として飼おうとしていた

 

全てはその報いだ

はあ、悔しいな…

薄々それはわかっていたけれど竹刀ちゃんに会ってようやく自分の醜さを直視できるようになるだなんて

さっきお礼を言ったばかりなのにまた君にありがとうと伝えたい思いが込み上げ俺はそれを飲み込んだ

 

けじめはつけよう

 

竹刀ちゃん

君は俺を暗闇の底から救ってくれた恩人だ

それは確かだ

でももうお礼は言わない

 

戦おう

どちらかが倒れるまで

 

果たして開いた扉の奥に疲れて眠る胡蝶シノハユちゃんがいた

 

無理もない

行為が満足に行えなくても毎日俺は朝まで君を離さないし

君は食事をほとんど摂らないからどんどん衰弱してずっと一日ぐったりしている

監視役の氷結の継子が送ってくる情報で生命の維持に関わる部分が機能しているのはわかっているがそのままにしておくのはどちらにせよ危険とも思ってはいた

 

いい機会だ解放しよう

醜い執着から離れ自然にそう思えたのはその事自体が光明のようにも思えた

 

竹刀ちゃんは扉が開け放たれても奥の様子をその場で伺い動こうとはしなかった

行かないの?と俺が聞くと

 

家主の許可もなく勝手はできませんです、

其れに先輩が今、大丈夫なのかもわかりませんですし

 

ああ、なるほど

大丈夫だよ、と俺は竹刀ちゃんを中へと促す

でもシノハユちゃんが眠っているのを君は気にしているようだ

優しい事だね

 

改めた方が?、と視線だけ俺に送ってくる竹刀ちゃん

俺は頭を振った

俺が先に部屋に入るとここ数ヶ月碌に戦えてないシノハユちゃんも敵が来たと気配でわかるのだろう

跳ね起きて身構える、とは言っても羅刹狩り用の刀はとっくに俺が折ったので丸腰だったけど

そう、これが俺とシノハユちゃんの毎日だった

 

この部屋には時計すらも置いてなければ日差しも届かないのでシノハユちゃんはきっと俺がやってくるかで夜かどうかの判断をしているのだろう

 

俺としては本当は昼にもううん、四六時中だって一緒にいて楽しくお喋りくらい

してみたいものだったが君は俺の事を徹底的に嫌っているため会話にならないのだ

 

それでもそれなりに努力はしてみたが勝手に囚えてる立場で更に一方的に会話を求めるのも流石に酷かなという気がしてできなかった

 

おはよう、シノハユちゃん

気分はどう?

今日はね、お友達、いやお仲間かな、その子を呼んでみたよ

 

ねえ、竹刀ちゃんご挨拶してあげたら?

俺は俺の後ろに控えていた竹刀ちゃんに声を掛け中へと促す

 

え…?

 

流石にシノハユちゃんは驚いたようだった

 

鳥土里後輩!?

そんな、どうして

よりによってあなたが…

 

相変わらずの無表情で竹刀ちゃんは静かに話し出す

 

驚くのも無理はございませんですが、本件はまあ、私が志願した任務みたいなものでございますですゆえ悪しからず

 

間違っても羅刹狩り組織さんが私のような入隊してまだ四ヶ月のド新人を

捨て石のように無茶な任務に送り込んだ、というわけではございませんです

まあ、此れ此の通り、大寒の弐番さんのありがたい御慈悲にて私のようなペーペーがなんとか死なずに済んでおりますですゆえにね?

 

シノハユちゃんを安心させるための方便だろうけど、君はいけしゃあしゃあと俺を

持ち上げ、即興の作り話を語るのだった

俺としては何度か本気で殺そうとしたのに普通に君が強過ぎるから生き残ってるだけなんだけどね

 

後輩、あなた…前髪が…

 

ええ、其れも此方の殿方に斬られましたですが、まあもういいです、

たまには雰囲気替えするのもはいから乙女の嗜みでございますですしね

 

ただ、誰あろう私の瞳の色を見た殿方を黙って見過ごす訳にもいきませんですが、ね

 

君はまた一瞬で二刀を取り出し取り敢えずとばかり俺を斬り刻んだ

 

あのさあ

挨拶代わりに俺を刻まないと気でも済まない子なの、竹刀ちゃんは?

俺黙ってなされるがままにされてるんじゃなくてただ激痛で言葉も悲鳴も出ないだけだからね?

 

何だか此方の羅刹さんと来ましたらばやたらめったらお豆腐のように柔らかく

試し斬りにはなんとも最適!

というわけで隊に所属し四ヶ月の新米狩人鳥土里竹刀は斯様に張り切って参りますです!

拝啓 先輩は危ないですゆえ少々遠く離れて暫しご観劇あれ〜♪

 

君は左手の親指人差し指中指で剣印を結んだようだ

 

神祷術 第二の編 御乗場 試しの数冠白峯

 

場に張り詰めた空気が一気に広がった

 

----

 

私の力が小さく小さく収縮していくのを感じる

 

ああ、なるほど

此れが最初は弱っちかった私を鍛えてくれた神様が私によく修行時にしてくれていた事なんだな

と他人事のように私は思った

 

気づけばあなたも準備万端

術を使うと決闘者とみなされて回復も自動で行われるらしい

我が術ながら便利なことだ

 

私は改めて二刀を構え直しあなたに向き直る

あなたは案外律儀に待ってくれていた

 

君の準備は整ったの?

 

あなたは聞いてくるが

 

うーん、ごめんなさい

まだみたいでございますです

どうやらもうちょっと調整が必要みたいですゆえに

 

ふーんじゃあわかった

まだ待つよ

どうせ、どう足掻いても俺が挑戦者側なのは動かしようのない事実だしね

 

私は、えーと、此れじゃだめ、いや、此れも、などと数舜やってしまったがようやく整った

 

はい、お待たせ致しましたです、此れにて大丈夫でございますです

 

私は手を握ったり開いたりした

 

別に大して待ってもないよ

じゃあ今は何もかも忘れて取り敢えず二人で互いに殺し合いに興じようか?

 

あなたは私に問い掛ける

私は応える

 

なかなか素敵なおでえとの申し出でございますですね

昨今流行りの女性へのえすこおとはお任せ致しますです

 

あなたは笑う

 

君が俺を引っ張り回すの間違いだろう?

 

私は無表情で応える

其れは殿方の甲斐性次第でございましょうか、です?

 

言うねえ

 

言いますとも

 

じゃあ

 

ええ

 

ここからが

 

はい、勝負でございますですね!

 

互いに駆け出す

ここに開戦の火蓋は切って落とされた

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