竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-19 決闘

胡蝶シノハユは状況がまるで飲み込めなかった

現れたのは突然ではあったが自身を救出しに来たのだろう後輩の存在は分かる

 

しかしまるで無傷な様子で事もあろうにあの、組織の中では実力者とされる自身を

軽くいなした二十四節巍大寒の弐番の羅刹、琉堂狩衣と共に現れ

何だか軽口でも叩き合う勢いで始まったこの闘いの意味がわからない

 

しかも私には攻撃が届かないように配慮しているのかかなり至近距離で闘いが

繰り広げられているようなのに氷の礫一つすらも飛んでこない

まるで目に見えない壁で守られているかのような感覚だ

言葉で説明不可の事象が起きているのかもしれない

鳥土里後輩とは時々そのような非科学的な物を思わせるところのある人物だった

 

ひと言で言えば奇妙なのだ

後輩は口数は少なく今は前髪を斬られたと言っているから初めてその素顔も目にしたが正体不明、そんな印象なのはまるで変わらなかった

 

何度か対話をしたが酷く世間とはズレた子だった

決して悪人だとは思ってなかったが、とにかくお館様から得体がしれないから気を配っておくようにと言いつけられ手元でたった一ヶ月ほどにはなるが直弟子扱いとして面倒を見たことはある

 

呼吸法の適性がまるでなく、他にも教えたことをあまり守らず、しかし試しで

与えた任務はあっという間にこなすとにかく得体のしれない変な娘だった

 

今もそう

鳥土里後輩はきっと私の為に戦っているのだろうがそれ以外の何もかもがわからなかった

本来はこんな馬鹿げた勝負は止めるべきだ

 

あの大寒の弐番にシノハユから見て決して強そうには思えなかったド新人の後輩が

命を賭して戦っている様子なのだから

 

しかし、とも思う

 

その後輩は今あの弐番とまがりなりにも渡り合っていないか?

それに遠目だったが先ほど一瞬で大寒の弐番を全身斬り刻んだようにも見えた

 

その後すぐに羅刹の方が回復したため定かではないが…

何よりもだ

 

自分が預かっていたときはこの後輩はこんなにも強そうに見えていただろうか?

つい先ほど、後輩が左手を前に形作り何事か唱えた途端に急に強さが一気に増したように見えた

今もその強さははっきり見えている

果たして一体いつの間にこれほど実力を上げたというのだろうか?

 

ーーーー

 

キンキンキンキン

刀と扇が打ち合う

 

竹刀は狩衣を相手にしながら内心慣れない身体の感覚に戸惑っていた

 

遅い遅い遅い遅い!

身体が全く付いてこない、重い!

鉛でも身体に括り付けているような感覚でございますですね

一撃もとても鈍く軽い!

 

此れでは決定打に欠ける

本当に弱くなったのですね、私

 

だが仕方ない

今はできる精一杯で眼前の今の自身にとっては超強敵相手に立ち回るしか無いのだ

 

焦りは禁物

冷静に機を伺わなくては…!

 

狩衣は何度か氷の技を放っては翻り考える

なるほど俺と実力を揃えてくれるってのはこういう事か

確かにこのくらいなら当然俺にも視認できるしそれでも速いから躱すのは大変だけど勘で避けられるか否かくらいではあるね

 

彼はチラと実際にそちらを見るわけではないが気配だけでシノハユの様子をとらえた

多分シノハユちゃんはびっくりしてるんだろうね

いきなり自分の手塩に掛けて育てたっぽい後輩が自分よりもめちゃくちゃ強く見えるようになったんだもの

 

実際には真逆なのにね

 

そう、逆だ

竹刀が使った術は竹刀を元の実力より遥かに下げるもの

つまり

竹刀の強さは今までシノハユも目の前の相手である大寒の弐番狩衣もおいそれと感じ取れるものではなかった

文字通り次元が違っていたのだ

それが実感できる程度に降りてきた

 

今なら確かに

届く

君の至高の強さへ

 

狩衣も気だけを逸らせぬように持ち前の観察眼で細心の注意を払いながら竹刀との対峙を続ける

 

仕掛けたのは竹刀からだった

 

神祷剣術 我流二刀 双連舞

 

狩衣の弾幕のような氷を躱すと懐に飛び込んで連撃を見舞う

流石に剣筋は全て見切られている

元々竹刀は馬鹿正直に真っ直ぐにしか斬りにいけない性格であった

それを常に圧倒的な速さで補っていただけ

それでも速い剣であるのは間違いないが大寒の弐番は伊達ではない

竹刀はそれでも構わず斬りに行くしかなかった

元々他の戦術なんて無いのだ

そう彼女は速さ以外これと言って特筆すべき戦闘の才が無かった

 

あれえ?

それしか芸無いといくら俺が慎重派と言っても今度はこっちから攻めに行っちゃうよお

 

いくらでもどうぞ

言ったでしょう

私とあなたの勝負でございますですと

 

嬉しいなあ

熱烈な抱擁期待しちゃうね!

 

ひゃあ!?

気っ色の悪い事を!

仰らないでくださいませです!

 

魏術 氷輪閃

 

無数の氷が光線のように放たれる

縦横無尽に軌道を描き竹刀を壁際へ追い詰める

 

その手は、食いません、です!

 

竹刀は翻ると

地面を蹴り上空へ大きく飛び上がりそのまま天井まで到達

今度は天井を蹴り落下の衝撃に合わせ二刀を構え直す

 

神祷剣術 我流二刀 双連斬

 

氷の道を切り開きながら着地する所だった

が、そこを狙って真下で待ち構えた狩衣が扇にて竹刀を両断

したかに見えたが…

 

それは氷による光の乱反射を利用した虚像

 

本物の竹刀は無数の氷の壁で身を隠し

静かに狙いすまし

正確無比に狩衣の膝裏を斬り崩した

 

竹刀は未だ以て無傷

であったはずだが

羅刹に一撃を入れる際に無数の巻き上げられた氷のごく一部を吸った

 

羅刹の魏術によって作られた氷の破片は体内に入っても霧散する事なく

あっという間に肺に到達し竹刀を蝕んだ

 

あっ

ピキーン

 

身体が

くっ

言うことを聞かない!

 

喀血

かなり血が出てきた

 

後輩!

シノハユは思わず声を出したが見えない壁に阻まれその声が竹刀に届くことはない

 

ふー

ようやく一撃かすったか

でもそれだけでも結構辛そうだねぇ

 

君は俺を甘く見てたようだけど俺もなかなかでしょ?

氷や冷気はとにかく霧のように粒が細かい武器だって事を念頭に置かなきゃそうなるんだよ

まあ、戦闘慣れしてるようだし釈迦に説法かもだけどね

 

反対に君の脅威はあのとにかく化け物みたいな速さだけ

自らそれ封じちゃったんだもの元々かなり不利だよねえ

それでも俺の攻撃が直接当たってくれないのは悔しいけど

やっぱり見切るのも動きも速くて正確だね

 

間違いなく俺が今まで出会った子の中で最強だ

それがあくまで今俺と同等に合わせてくれただけってのが驚愕だよ

 

でも互角ならつけ入る隙はあるんだよ

そら体内凍らされるのと内臓破裂させられるのどっち選ぶ?

 

どちらも!

お断りでございますです!

 

竹刀は一瞬神祷術で体内操作すれば氷を溶かせる、そう考えそうになったがそれは

捨てた

それでは対等勝負にならない

この程度の修羅場など今までいくらでもくぐってきた

それに比べれば大したことはない

ちょっと肺が灼けるように痛いだけなのだから

 

勝負にあたり彼女は自身の持つ回復能力も無しとし人間並みにした

つまり本来不死身の彼女がこの空間内では人並みに死ぬ可能性を抱えている

単に強さを揃えるだけならそこまでする必要はないが竹刀は生真面目だった

 

其れに、と彼女は考えた

大寒の弐番と打ち合うのは奇しくも此れが初ではない

先ほど、彼女の正体が露見した時に一度刃は交えている

その時は彼女が圧倒的な強さを発揮したわけだが狩衣が少なくとも氷や冷気使いと

いう事実だけは目撃した

凡そやってきそうな事は想像もできた

 

それすらも本来は初見で知るべき事実である為、彼女はその事を知っている分自身が有利と考えた結果、実力を更に削った形で挑んでいるのだ

 

闘いが始まる前に狩衣は自身が挑戦者と宣ったが実際は逆

今の竹刀は対等どころか明確に下だった

 

では、そんな彼女が今油断や慢心なぞするだろうか?

まさか!

彼女こそ悟られぬよう酷く冷静に慎重に動いていた

それでも一撃かすってしまっていたのだった

 

喀血は定期的に襲ってくるがそちらは一旦放っておく

とにかく決定打を加えなければ相手は瞬時に回復する強者だ

狙いは頸の一点其処しか無い

 

彼女は先程から態と頸以外も狙っているように見せる動きをしていたがここに来てそれは止めにした

 

無駄な事をしている余裕ももう持てなかった

しかしあくまで無表情で彼女は相手に切り込む

止められるのも氷を吸うのも計算のうちだった

とは言っても致命傷を食らうと途端に機動力が落ちるので攻撃を避けるのは必須だ

 

自身が削られきるのが先か

相手が隙を見せ頸を晒すのが先か

 

竹刀は速攻を仕掛けていると見せ掛けて始めから持久戦勝負に持ち込むつもりだったのだ

 

神祷剣術 我流二刀 双乱舞

 

 

曲線的な動き、軌道も剣筋も読み辛い

技名も連舞ってのとは違う…

 

それに

な、何だこれはあまりにも美しい…

目が離せない

 

攪乱術の類かとは思ったけれど気づいた時には遅かった

絡め取られる!

 

ただでさえ血を流しながらこの乱反射する氷だらけの戦場を縦横無尽に翔ける君は美しいのにそんな二刀で妖艶に舞い踊られたら俺今すぐ君を抱きしめたくなっちゃうよ!!

 

俺は扇を構え直し取り敢えず来ると思われる頸への攻撃だけ身を庇うことにした

 

まるで鳥の求愛行動だ

頸への一撃だけは避けながら狩衣は考える

 

君は美しく一刀一刀囀りながら俺を地獄に引きずり込もうとしてくる

二人で逝く地獄ならそれはそれで楽しい物見遊山になるかもしれないなと思考の端でだけ考えたがそんな優しい君じゃないかと俺の中の俺が否定する

哀しい

 

さて打ち合い続けてこの技の読みにくい剣筋にも慣れてきた

だったら次は

こっちが絡め取る番だよね

 

俺は静かに君に語り掛ける

 

おいで…竹刀ちゃん

魏術 雪鶴女の訪い

 

さながら冬の日襖に隠れて機を織る娘の如く

まず霧状にした氷を竹刀の周囲に這わせる

 

竹刀の攻撃に僅かにできた隙すなわち開いた脇腹に

瞬時に形成した鋭い氷柱状の氷の弾丸を、霧に隠して

横様から何本も串刺しにした

 

ぐっ!!

 

さすがに君も怯む

 

俺はすかさず周囲に水分多めの氷を形成

君の両足を凍りつかせて

動きを封じる

 

勝負あり、かな?

 

ご冗談をば!

一時的に足が埋まったからなんだというです?

私は神様に其の程度で何も出来なくなるような柔な鍛え方はしてもらっておりませんです!!

 

君は二刀を足元に向け君の足ごと

思う様斬り裂いた

 

確かに氷は砕け足は解放されたが血だらけだ

距離を取った君の現状を俺は観察する

 

両足は出血

横腹は複数穴開き多量出血

当然内臓、胃と腸に横隔膜あたりかな、そこらが破裂

肺は多分凍ってる

 

それでよく生きて動けてるね

多分今はあの超人的な回復力もなんでか知らないけどほぼ封じちゃってるんだろう?

お優しいことだね

流石に美しいお顔と綺麗な黄緑の瞳が辛さで相当歪んでるようだけど

 

対して俺は何度もあちこち深く斬られはしてるけど頸だけ守ってれば全部回復する身体だ

実質無傷

流石にもう無理じゃない?

 

色々能力落としすぎだよ

謎の神通力、確か神祷術とか言ったっけ、それも使わないし

 

今の君は何の変哲もないちょっと強さ、特に速さが常人はおろか

他の羅刹狩りと比較しても桁違いの人間の女の子ってだけ

人間相手にして負ける二十四節巍の弐番なわけないでしょ

 

いい加減痩せ我慢やめたら?

これで同等とか俺だって思えないよ?

 

君はあまりにも荒い息をしていたが俺の言葉にだけは耐えられなかったらしい

喀血しながら反論してきた

 

ぜー、あなたに、はー、何がわかるって言うです?

私のこと知りもしないでえっらそうに、はー

ぜーぜー、

私は修行始めた、ばかりの頃から、はーはー、

根性だけは神様が認めてくださるくらいあったのでございますです!!

 

バカにするな、と

そんな心意気だけは伝わったが根性論でどうにかなるとかお花畑すぎる

まあそんなところがこの子に強く惹かれるところかもしれないなとは思ったけど

 

思えば今日俺に会った最初からこの子はぽやーってしてても芯は案外強いというか

頑固だった

 

やれやれシノハユちゃんといい君といい俺は思い通りにならない女の子ほど好きに

なる傾向にあるようだ

これからも苦労するなこれは、と思いつつもでも惚れてしまったのだから仕方ない

だから勝つ

勝てば目の前の美しくも健気でとびきり可愛い少女は俺のものだ

 

ねえ、竹刀ちゃん

今宣言するよ

俺は勝つ

お情けで恵んでもらった勝利だろうと拾えるものは拾う

そしたらさ、わかってるよね?

今更約束反故とか無しだよ

 

ぜー、わかってるですよ

第一、勝つ気もない、相手とやり合っていたのかと、はー

思うと、はー私がバカみたいで、ぜー、ございますです、はー

あなたが無駄に

ケホッ

お喋りガハッ

してくれた、おか、げで、

はあはあはあ、息も整って、ぜー

来たですし?、ぜー

そろそろ再開致しましょう、です!はー

 

君は全然整わない息で喀血しながらそう言う

ていうかまだ吐く血あったんだ

ああ、そうか常人よりも元々血量が多めなのかもしれない

稀血だし

 

でもやれやれ、

そろそろいい加減諦めが悪くて物わかりの悪いこの子にもわからせて上げないとね?

 

魏術 秘技 閻凍 滅壊流氷

 

決闘空間全体に四方八方から放射状に流れ込む氷の濁流

先ほど見た五枚目の仏画のようにちっぽけな竹刀を追う氷の竜

全てを飲み込まんとする冷たい雪崩が立つこともやっとな機動力を既に削がれた竹刀に迫る

 

今度は足だけじゃない

君の全てを凍らせて永遠に俺のおもちゃとして閉じ込めてあげる!

 

あなたに、はー

一つだけ、ぜー

恋の助言、ぜー

して差し上げますです、はー

女の子は、はー

閉じ込める、べきもので、ぜー

なく、ぜー

殻を破って、はー

殿方と、ぜー

対等に、ぜー

添い遂げたい、はー

生き物です!、ぜー

 

神祷剣術 我流二刀 奥義 比翼連理

 

竹刀は傷ついた足で只管上空へと飛び上がる

当然流氷は追ってくる

先ほどもこんな攻防はあったが流石に天井にまではたどり着けないしそもそも仮に達したところで切り返すほどの余力もない

万事休すだった

 

構わなかった

 

竹刀は二刀を飛びながらそしてさながら舞い踊りながら振るう

その顔は変わらずの無表情なのにもかかわらずその姿は艶やかで優美で且つ

とても愉しそうに見えた

 

二刀がまるで夫婦のように絡まりあい打ち合い響き合い

けれど決して断ち切れぬ絆のように二刀の周囲に竜巻が発生し始める

 

飛び上がったのは氷の触れていない空間を確保するためで

氷が迫ってくることなど始めから気にしていない

 

竜巻の起こす遠心力に引っ張られて氷の竜も一瞬怯んだように見えた

 

その中心で今度は竹刀は明確に反撃に転じる

(目指すはあなたの元、この氷の中心、私は結局貴方が言った通り真っ直ぐ突進するしか能がないですゆえにね

でもあなたなら私をこの夫婦さんごと受け止めてくださるくらいの甲斐性は

ございましょう?です

ねえ、性格は変態で顔だけは格好良い殿方さん)

 

狩衣は

 

なっ!?

 

自分に向かって流石に少し速度が緩んだがそれでも以前勢力は維持した竜巻と共に

猛速度で真っ直ぐ突っ込んでくる意中の女の子に目を丸くするしか無かった

 

ぜー、お命

はー、頂戴!

双連斬

 

羅刹の頸が落ちた

 

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