竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-21 帰蝶

胡蝶シノハユは姉を傷つけ自分を囚え只管毎晩嬲ったにっくき羅刹を

静かに眺めている

 

徐に口を開いた

 

ねえ、お前

この事態は一体なんなのです…?

 

さあね、俺もよく知らない

ただこれだけ俺は満身創痍なのだから君が斬れば死ぬだろうね

それだけは事実だよ

俺が憎いんでしょ?

殺せば終わりだよ

 

ふざけるなっ

わけのわからない状況に追いやられて多分悪気はない後輩にいきなり刀を

構えさせられてお前を殺せば終わる?

 

何も終わるわけがない

こんな殺しは無意味だ

 

じゃあ俺を助けるの?

 

そうではない、でも今はおかしな状況過ぎる

まずは後輩にしっかり尋問して…

 

無理じゃないかなあ

 

お前は言葉を遮った

 

あの子ご覧の通り強いもの

君よりは強い俺よりも遥かにね

 

ならなぜお前を生かす?

これはどういうことです、説明なさい

 

俺もよく知らないけど殺せないんだってさ

とにかくそういう事らしいよ

殺せるなら俺とっくに殺されてるよ

 

さっき頸が飛んだように見えましたが?

 

飛んだよ

でもなんていうんだろうそういうよくできた幻みたいなものだから

さっきの戦いはね

でも今は現実だから君は俺を殺せるところだけど

 

お前は私を舐めているのか?

こんな妙なお膳立てされて勝利も何もあるものか!

 

流石に舐めるかな

君は弱いから

まあそういうところも含めて好きだけど

 

ふざけるな

 

思わず目を貫く

 

そうそうそれそれ

ほら次は目じゃなくて頸をちゃんと狙いなよ

 

羅刹はそんな調子だった

 

シノハユからすれば誘導されているような気分でもあったが流石にこれまで

何もできなかった自分を責めてもいたため、多少は胸が透いた

 

ただ流されてもいけないという矜持は保ったが

 

うーん

やっぱりシノハユちゃんは俺の事嫌いだよねえ

 

当たり前です!

大量殺人鬼の羅刹を好きになる動機がない

抹殺対象でしか無い

 

そうやってずっと頑なに俺を拒否するのは君のいいところだと思うけど

少しは心を開いても欲しいなぁ

 

あ、でも今はちょっとだけ進歩かな

君から話しかけてくれる事なんてこの三ヶ月まるでなかったものねえ?

 

こんなにお話できるならもっと早く刀返してあげてれば良かったのかなあ

そっかそっかあ

君との対話は武器ありきのほうが上手くいくものだったのかもねぇ

そんな事にも…

気付けなかったな…

 

お前は切なそうな顔をした

その瞬間私の怒りも有頂天に達した

 

ふざけるな!

私をふん縛っておいて碌に自由もなくて何が対話だ!夫婦だ!!

 

バカにするにも程がある

お前は私以前に人類全ての敵であることをまずその軽い頭で死ぬほど考えて

反省しろ!!

 

そうしてそのまま後悔に苛まれて地獄の果てまで落ちて行け!

二度と人の面をして登ってくるな!!!

 

私の様子を見るお前は恍惚とした表情を浮かべていた

 

嗚呼ああ、シノハユちゃんはやっぱりそれだよ

そうでなきゃ君じゃない!

ああ本当に俺は今までバカだった

 

一体三ヶ月、いや百五十年間も何をしていたのだろう

そうだ君は天を自由に舞う蝶!

檻で死を待つ鱗粉を落とした穴だらけの翅で飛べた筈がなかったんだ!!

 

一体何の気づきを得たのか知りませんが私はこんな下らない茶番には付き合いません

帰って戦力を整えて仲間と共にお前を正面から迎え撃ちます

そこに裏切り者なのか判断保留の鳥土里竹刀が加わるかはわかりませんが

 

そうだね、きっとそうなんだ、それが正しい君の姿なんだね…

うん、だからさ俺も最期に言わせて

 

ありがとう

俺は君を知って恋をして愛して幸せだった

君は全く俺の事好きになってはくれなかったけど

でも君にイイ人がいるらしいのは知ってる

せめてその子と添い遂げておくれ…

 

私はまたブチ切れた

言うに事欠いてそれか!

腹立たしいなんてものじゃあない!!

お前に私の何がわかる

言いたいことはそれだけか!!!

 

言いたいこと?

そうだなあ

じゃあ最期にもう一度

 

愛してたよ、シノハユちゃん、ありがとう

君に殺されても俺は本望さ

 

そうして目を閉じた

一撃が来ても来なくてもどちらでも構わない心境だった

 

-------------------------

 

沙汰は降ったようだ

 

術が知らせてきた合図

 

私は左手の親指と人差し指を合わせパッチンと弾くと

先ほどの部屋にいた

 

着いてすぐ術でシノハユ先輩の意識を止める

 

賭けは私の勝ちみたいですね、大寒の弐番さん

 

あなたは自身が死ぬ方に賭け私はその逆死なない方に賭けた、ことになるですね…

 

でも、あなただって本当はお分かりだったのでは?

先輩の性格をお考えになればお膳立てされた殺しなど望まぬこと

なのになにゆえ

 

違うよ

 

否定された

 

君は当然知らなかったろうけど俺の好きになった強いシノハユちゃんは

もうずっとご無沙汰だったんだ

 

そりゃ中に隠れていたのかもしれないけど俺が壊しちゃったんだと思って

そういう意味で死んであの世に落ちてでも責任取るつもりだった

 

ただ、それだけだよ…

 

あなたは力なく言った

 

そう、俺はあの賭けの解を決断する時、竹刀ちゃん君を選び取りたかった

いや、気持ちの上では選んだ

 

でも、君はさ、

自分を受け入れてくれるからと楽な方へ流され責任からは逃げる

そんな俺を好きになるわけがないんだ

 

俺の好きになる娘はいつも優しくて強い矜持を持った子なんだから

 

(…なんだ思ったよりも誠実な殿方だったのでございますですね)

てっきり私という都合のいい受け皿を利用しようとしたのかもしれないと

思いましたですが、と言葉には出さなかったが下衆な勘繰りだった事を少し詫びた

 

なるほど二人で死ぬ、でございますですか

 

確かに先輩はあなたを殺しても気分が晴れずにそのまま地獄まであなたを追いかけて行ってしまいそうな激しい気性はお持ちかもしれませんです

お熱いことで…全く羨ましい限りでございますです!

ああ、妬ましい…

 

それ皮肉?

勘弁してよ

その場合は生き残った君とあとカナヰちゃんとかでなんとか支えてよ

ああ、あとなんかシノハユちゃんの想い人もいるんだろう?その子とか

 

えっ…?

 

ん?

どうしたの…

え、いやっちょっ

なんで泣くの!?

 

え?胡蝶先輩って、え…?

想い人いらっしゃるのでございますです!?

あなたの他にも!?

 

俺なんか眼中にないんだって何度も説明したでしょ…

最初から本命は別みたいだよ

誰だかは知らないけど大方羅刹狩り組織の同僚とかじゃない?

 

えーーーーー!!!!!

嘘ーーーーーーー!!!!!!

 

そ、其んなあ、えーん、苦節二年、

うわあああああん!!

あんな、あんな、素敵な出会いは他に無かったと言いますですのにーーーーー!!!!

 

もう涙で綺麗な黄緑の瞳が潤んでそれは扇情的だったけどそうじゃなくて

なんでそこで泣くかなぁ…

さっき血みどろで血の海に力なく倒れてた時ですらもそうはならなかったのに

 

賭けが終わったからだろう俺は敗れたが死にもしなかったので気づけば君の術の拘束も解けていた

取り敢えずシノハユちゃんを閉じ込めていた座敷牢の床にぺたりと座り込んで嗚咽する君をしゃがんで観察する

 

あ、あんな素敵な御仁は初めてでいらっしゃいましたですのにっ!

其れをただでさえ…

人殺しで変態で私のような年端もいかぬ少女を抱くような性欲魔人に

搔っ攫われたというのにっ

あまつさえいずこの馬の骨に既に大事な尊い先輩が骨抜きだっただなんてーーーー

 

斯様な現実は信じませんです!

 

其うだ、ええ

滅ぼそう

 

君はゆらりと立ち上がるので俺は呆れて制止する

 

こらこら折角俺に賭けで勝ったのに色々台無しだから

勝者らしく大人しくしてなって

 

だって…

えぐえぐ

 

まだ泣いてる君

美少女の泣き顔やばいねクラクラしそう

 

私の初恋の先輩がー!!

いずこの馬の骨にーーー!!!!

 

え!?

初恋!!??

 

ぐすぐすっ左様でございますですが何か?くすん

 

顔を真っ赤に泣き腫らしながら君は俺に告げる

 

君、恋は知らないって…

 

私が恋をしてないなんてひと言も言ってませんです!!

あなたに好きな人がいるのかと昼間尋ねられたときは別にはぐらかしたって

いいじゃないです

 

どうせ一期一会な出会いとしか捉えておりませんでしたのですし!

ついでに、恋愛未経験って言ったのはお付き合いとか其処らのお話しで女の子の私が

同じく女性の先輩と一般的にお付き合いできるわけないじゃないですかーーーーー

うわあん

 

ゆえに!あなたのような、まあ、骨?はありそうな殿方相手ならばまあ慎ましやかに

身を引こうとしたですが!

 

其れがいずこかの馬の骨ならば話が違うじゃないですかー!!!

うわあん

 

泣きじゃくる君、その気持ちはちょっと、いや大分わかったので胸も痛んだ

でも別の胸の痛みもあった

これは君の頭を今いっぱいにさせているシノハユちゃんへの妬きもちかな

 

取り敢えず抱きしめて背中をさすってみた

泣いてる駄々っ子はしっかりあやさないとねえ

 

まあまあ

俺も君も同じシノハユちゃんに振られた同士で仲良くやろ?

 

別に私は告白してもないゆえに振られてないです!

あなたのような負け犬さんとは違うです!!ぐす

あとひっつくなです

 

君は俺をグイグイと押し返す

 

強がったところで今君が泣いてる理由が全てだろう

君は頑固どころか天邪鬼なところがあるみたいだね

 

もう駄目だって諦めなよ

その気持ち俺なら汲んであげられる

良ければシノハユちゃんがどれだけ魅力的か語り合う会でも開催する?

 

君は涙交じりで顔を上げて

良いのでございますです?と聞いてきた

 

えーマジでこれで釣れるんだ

俺の苦悩は一体…

 

うん、まあ君の今後次第?

 

ぐす先輩語りなら任せてくださいです

夜も寝かせませんです

 

俺羅刹だから元々寝ないけどね?内心そんな事を思ったが黙っておいた

 

ところでその渦中のシノハユちゃんはどうするの?

 

そろそろ本題に戻ろうね…

さっきまでの戦闘時ならともかく平時の天然な君に引っ張られると絶対会話が

終わらない気がする

 

君は涙を引っ込め思案する

良かった、真面目になるとちゃんと灰色の脳細胞が活性化する子みたいだ

 

んー

此方から先は特段何も考えていなかったですが

えーと

まあ先輩を返していただきましょうです

 

それは構わないよ敗れた訳だしね

で、君は俺をどうするの?

 

別にどうもしませんです

私にあなたは殺せない

いつか遠からず誰かがあなたを殺すでしょう

其れこそ回復して英気を養った先輩かも

 

シノハユちゃんじゃねえ

どう転んでも俺を倒せないでしょ

 

女子一ヶ月くらいで刮目して見よ

 

そんな格言無いから…

後一ヶ月とか絶対無理だから…

 

はあ、俺はため息をついた

第一彼女は毒使いだよ、そんな子が取れる戦法ってもう限定されないかい

 

流石に複数で挑んでくるのでは?

 

そこに君は交じるの?

 

まさか

左様なことができるなら斯様な独断先行いたしませんです

 

じゃあ俺は安泰だ

もっと言うと羅刹側陣営として安泰だ

はっきり言うけどどの実力者も君に比べたら脅威じゃない

 

左様な事は言わないのが身の為かと

私以上の実力者もいるかもしれませんですゆえ

 

いたらたまらないね、だからこそいないと断言できる

それにいくら強者複数に囲んで挑まれようと最悪逃げるだけ

君も気づいてるだろうけど、俺が遠くから霧状の氷放ってるだけで

呼吸使いの羅刹狩り達はひとたまりもないのわかるよね?

 

暗に私に参戦しろと言ってるです?

あなたの足止めのためだけに

 

君がいても尚更逃げるだけかなあ

 

私の脚から逃げられるとお思いで?

 

思わないね

でも君はなんだか狩人として碌に活動してるようには、シノハユちゃんの言動からは読み取れなかったし

俺一人っていう成果を上げるためだけにわざわざ君の機動力の下手すりゃ邪魔になる群れに加わるとは思えないね

何せ君がいたら周囲全部ただのお荷物だろう?

 

あなたは何が言いたいのでございますです?

 

いつか俺を倒せる保証のない人間たちを差し向けて、勝算の低い賭けをするとどれだけ犠牲が出る話か計算できない君とは思えないけどねえ

逆にだからこそ今日一人でシノハユちゃんの救出にやってきた

違うかい?

 

当たってる、思考はほぼ完璧に読まれてる

流石にお喋りし過ぎた、手の内も見せ過ぎた

最悪は記憶を消去して去るか、其処まで考えたところで私は一つ引っかかりを覚えた

 

私からも一つ問いを

 

うん?なんだい

 

なにゆえ私を助けたです?

あのまま放っておけば私の不死性は一時的に消失していたゆえに死んでいたので

ございますです

 

そりゃあ可愛い女の子がいつまでも冷たい氷の上にいちゃ可哀想だろう?

俺こう見えても紳士なんだよね

 

…つまりは純粋な親切心というのか

其れをする事でいくら自陣営が困る結果になるか其れこそ計算できないあなたではないでございましょうですのに

 

言葉に詰まった私は一つだけ案を思い付いた

いや、違う、

決心した

己の滅ぶ場所を見定めた

 

よくわかりましたのでございますです

あなたは自身の死に瀕しても其処まで自身を追いやった私を助けるおバカさんで

本当に救えぬどうしょうもなき殿方だと言うことが

 

ならば先輩の処遇はあなたに決めていただきましょうです

 

私からできる残酷な提案は一つ

先輩の本日までのあなたとの出会いの記憶を消すか消さないか?

消すなら身体に染み付いた記憶ごと全て無かったことに致しますです

あなたのことを綺麗さっぱり忘れるあなたにとってはなかなか辛辣な提案と

なりますです

 

記憶があればいずれあなたに挑み、まあ其うですね、返り討ちに遭うでしょうです

あなたかあなたのお仲間か、いずれにせよ羅刹さんに狩られる可能性が高い

 

あなたが無抵抗で殺られる道でも選んだら話も違うですが

けれど今回同じく無抵抗のあなたを先輩の眼前に引きずり出したのにも関わらず斬らなかった先輩のお気持ちを酌むなら態と手を抜いたりなどは決してできないとあなたもお思いのはず

真剣勝負でぶつかったらいくら周囲の助けがあってもやはり先輩では敵いませんです

 

其れを避けたければ

 

皆まで言わなくてもいいよ

ついでに俺からも一つ聞いておく

毒使いのシノハユちゃんが最後にとりそうな戦術ってなんだと思う?

 

君は力なく応えた

……自爆特攻

 

そうだよね、やっぱり

俺は少なくともシノハユちゃんに俺のせいで死んでほしいわけじゃない

 

ただ彼女は羅刹狩りだ

死なないだけの道を選び取れるのかはわからない

そこは運になるけどでも流石に俺が解放したシノハユちゃんの行く末を俺が案じてあげる必要はない

 

それはもう俺の預かり知らぬ彼女の人生だから

まあシノハユちゃんの俺への復讐心を捻じ曲げるのだけは申し訳ないけどさ

 

だから

答えは決まっている

 

選ぶよ竹刀ちゃん

俺はシノハユちゃんと出会わなかった未来を選ぶ

 

君は目を閉じてコクリと頷きまた左手で剣印を結ぶ

 

でも微かにその瞼は震えていた

その端からキラリと光る雫が一筋溢れた

 

神祷術 第三の編 事象転換 帰蝶返理

 

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