どれほど其うしていただろうか
日はすっかり沈んでいる
あなたの機嫌も直った
付け焼き刃だが私から折れるという方法が一応、功を奏した
(世渡りって斯様なものでございますですかね…)
取り敢えずあなたのことは私が表面上怒っていないように見せ、身体を明け渡せば其れなりに操り易いのかもしれないなと思ったが
(まあ、あまり斯く方法を乱用するのは止めるといたしましょうです)
失礼な上、殿方の精神を弄ぶのが好きな訳では全くない
其れが簡単にできる女性を世に悪女と言うのだろうと私は学んだが、私もやってること自体は悪い女に違いない
さて、と
うん?
竹刀ちゃんどうしたの
一応お尋ねするですが、あなたまだ続きしたいのでございますです?
そりゃあ、いつだってしてたいよ
なるほど
では大変申し訳ございませんですが、其れはまた後ほどにご延期くださいませです
上体を起こしさっさと脱がされた服を着直した
どうでもいいが服を着る速度が無駄に上がった気がする
私はお預けを食らい目を丸くするあなたを見て、大きな白い犬さんみたいだな、とちょっとだけ内心で笑ってしまった
竹刀ちゃん…?
また不安そうな顔のあなたを見ていたら、私も自然と手が伸びていた
珍しく私の方からあなたの頭を撫でて私の方が背は低いゆえに立ち上がって、しゃがんだままのあなたを小さな両腕で包み目を閉じる
大丈夫でございますですよ、左様なお顔をなさる必要ございませんです
あなたと私は一蓮托生
私はあなたを殺すまでいずこへもいきませんです
ただ、単純に夜はお仕事がございましてですね
少々お待ちくださいませ
即済ませて参りますですゆえ
私は駆け出そうとしたが
待って!
あなたは私の腕を強い力で引き止める
もちろん振り払うことはできたが力を込めないと素の膂力では流石に大柄な殿方のあなたに敵わない私だった
羅刹狩りだよね?
俺も行く!
連れてって
今度は私が目を丸くする番だった
いや、あなたのお仲間さん殺すのでございますですけど、あなたは其れを見たいのでございますです?
其れとも
私は声に静かに殺気と闘気を込めて言い放つ
あなたごときが、私の巫女としての本当のお仕事の邪魔をなさるおつもりで?
違うよ
あなたは私に気圧されることなく否定した
羅刹狩りであるシノハユちゃんを祇園様に黙って三ヶ月も匿っていた俺だよ?
今更、羅刹の同族を庇う気なんてこれっぽっちもない
そもそも、そうしたいなら始めから君とこんな関係望んでない
祇園様には悪いけどそっちは心底どうでもいい
そうじゃなくて、君が心配、いやこれもちょっと違うか
君が一人で戦うくらいなら俺もそれを背負いたい
そういう気持ちだよ
私を背中から刺すお考えなら改めた方がおよろしいかと
いくら私がボケていても其処まで気を抜く筈がございませんですゆえ
全っ然違うから!
協力したいって言えば話は早いけど、土台強過ぎる君に俺が何か手助けする余地もきっとないから、せめて君の戦いを見届けさせてって言ってるの
もちろん俺だって羅刹の頂点の一角には違いないから、まるで役たたずとまでは正直、思っちゃいないけどさ
なるほど、私の手の内を知りたいと…
来たる対決の準備としては賢明な判断かもしれませんですね
なかなか伝わらないもんだね…
流石は竹刀ちゃん…
まあ熱意だけは汲み取った
けれど其処まで仰るならば良いでしょう
連れて行って差し上げますです
しかし決して邪魔すること能わず
まあ、ご自身の身が何か脅かされる事があれば其れくらいは勝手にご対処くださいませ
流石に有象無象の羅刹さんに遅れを取るあなたではございませんでしょうが、念のための警告ではございますです
私はあなたを庇ったりはいたしませんですし、お荷物になりそうならばさっさと捨てさせていただきますです
それはいいけどちょっと淋しいな
はて?
だって君は昨日、羅刹狩りの仲間を守るためには俺の存在を知らせないのが一番だとする選択を取ったけど
ええ
俺には積極的に捨て石になってほしいような事言うじゃない
其処までは申しておりませんですが、万が一あなたが不調だとかで他の羅刹さんに本気を出せず、命を落とすことなどがあったとして、あなたに態々私が手を下すことなく双方共倒れの結果になるなら、一石二鳥でしかございませんですゆえ
やっぱり酷いなあ
当然でございましょうです
あなたと私は
「「敵同士」」だからね
声が重なった
なんだ
ちゃんとわかってるじゃないです
それはわかるけど淋しいの!!
ねえ、竹刀ちゃん俺の事好き?
あなたなんて大嫌いでございますですが、何か
えー
酷ーい
其れもまた当然でございましょうです
本当にどうしょうもなき殿方でございますです
私はあなたに手を差し出す
あなたの足じゃどうせ遅いですゆえ、離れたら置いていきますです
ゆめ其のことをばお忘れなきよう
うん!
あなたはしっかりと私の手を握る
ただ、その後に私の並外れた脚力で少し方々へ引きずり回し過ぎたかもしれなかった…