竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-4 恋愛相談

 

まあゼロ距離で違う女の子とくっついてるのは何も変わらないけど

別に手は出してないからね、俺

大丈夫でしょ、このくらいなら

 

狩衣はそう考えた

 

竹刀は一旦視線を落としている

狩衣に何かを尋ねたい素振りに見えたので待つことにした

 

あの、宗祖様

私はひとつ知りたいことがありお伺いしてもよろしいでしょうか、です

 

うん?なんだい?

 

狩衣は快く返事をした

 

流石に、其の、込み入った内容でございますですゆえ、難しければ、其の

流していただいても、なのですが、

 

うん

 

あの、宗祖様は、恋、其の、恋愛って、していらっしゃいますでしょうか、です

 

え…?

 

唐突なその問いに狩衣は面食らった

竹刀を奇妙なものを観る目で見つめる

 

あ、あ、あ、いや、其の、あの、

違う、違うんです、あの、えっと、其の

宗祖様、あなたは造作が格好良い殿方ですゆえ、色々と経験豊富なのかな、と

 

ゆ、ゆえに純粋な興味関心と言いますか、あの、不勉強な私めにひとつ、

恋愛とは何たるか教えていただきたく、ですね

斯様な機会はほとんどないですゆえ、

 

竹刀は早口で捲くし立てる

また本を一冊取り出した

何度も読んでいるのか随分よれている

 

ズバリ!斯く愛読書 恋愛白楽御殿のような純愛って世にあるんでしょうか?

と言うことをあの、知識として知ってみたく…

 

狩衣は初対面の相手から一体何を尋ねられているんだろうかと思いつつ話は一応聞いていたが理解するのに時間がかかった

 

えーと、世に純愛があるか知りたいってこと?

 

それだけやっと絞り出したところ

 

はい!

 

溌溂とした肯定が眼前の少女から返ってきた

 

(話してて時々ズレたいわゆる天然ボケ?な感性持ってる子だなあとは思ってたけど

これほどまでとは…)

 

馬鹿馬鹿しいとは思いつつも彼は律儀に愛する手元の『蝶々』を思い浮かべた

彼女は狩衣がこの屋敷に捕らえ閉じ込めている少女だ

 

最初は彼という羅刹いや正確には、二十四節巍大寒の弐番の羅刹 琉堂狩衣を狩りに来た羅刹狩り組織の実力者だった

名は胡蝶シノハユ

 

彼女の自身を見る瞳の色は毎夜きわめて冷たい

 

一度閉じた目を開き、純愛か…と彼は改めて今日見知ったばかりの少女に向き直る

 

(純愛どころかどうでもいいの以外はシノハユちゃんとの苦いのしか経験ないよ…)

 

狩衣はなかなか考え込んでいたが竹刀は質問した手前大人しく待っていたようだ

 

純愛は…あるんじゃない?多分…

 

ご、ごめんなさいです、其処まで思い悩ませるおつもりはなくて

あの、純粋な興味でございましたです

申し訳ございませんです、やはり込み入った事は聞くべきでも無かったのでございますですね…

 

ごめんなさいです、と彼女はもう一度力なく謝罪した

 

狩衣は微笑みながら応える

 

大丈夫だよ、俺も大人気なかったね

あんまり経験ないんだ

恋愛初心者一年生ってところ

 

彼はおどけて言ってみせたがそれは本心でもあった

 

ややあって細い息を吐きながら狩衣は口を開いた

 

良ければだけどさ、

女の子の視点から聞いてくれるかい?

俺の今ある悩みを

 

竹刀が幼いながらも聡明でとても好みの話しやすい女の子なせいか

狩衣はつい真剣に人生相談を持ち掛けていた

 

わ、私などの未熟者でよろしければ…

竹刀は快く引き受けた

 

俺好きな子がいるんだ…

 

狩衣はシノハユとの生活についてを相談してみた

 

竹刀は時々頷きながら熱心に彼の話を聞いている

 

それでね、俺はその子を婚約者だと思ってるんだけど相手は全然そんな風には思ってくれてないみたいでね

一緒に暮らしてるんだけどうまく行かなくて

どうしたら良いのかなあ?

 

うーん

私は恋愛なんて未経験で本当にわからないのでございますですが、でも、えーと

 

まず一般的に言われるのはとにかく誠意を伝える事

なんとか其の想い?が伝わるようにえーと優しく?温かく、うーん難しい…ですね

 

でも不思議な事でございますですね

斯様に話していてもあなたはとても誠実且つお優しく、また非常に知識にも優れ深い見識をお持ちであり、そして立ち居振る舞いも堂に入っており、お顔立ちも他に類を見ないほど整った麗しい殿方でいらっしゃいますですのに

 

一息だった

 

え…?

竹刀ちゃんは俺を麗しいって言ったの?

 

はい

何か私の感性は間違っておりましたのでございましょうかです?

 

(うんさっきまで俺が近付くと前髪越しでも明らかに挙動不審だったのにどうして今俺を絶対真顔で褒めちぎったんだろうなあ)

 

言いたい言葉はすべてしまった

 

うーん

自分の美醜なんてよくわからないっていうか

確かに多くの女の子は今まで褒めてくれたけど、でもそういう話でもないみたいなんだよねえ

 

難しいですねえ、斯様なるときは!

 

竹刀はまたガバッと胸元を開けて谷間に手を突っ込みゴソゴソとやりだした

 

狩衣は眼前の胸がでかすぎる少女が天然で発してくる色香を考えないように努めた

 

なんか、

あれー?おかしいですねえ、んー此処でもないー

 

あったー!

じゃじゃ~ん♪

出でませ、私の恋愛指南書!恋愛白楽御殿既刊全十三巻をご覧あれ〜

 

ふっふっふ

私の全恋愛観は此方にあり!

取り敢えず一巻から順に彼女さんに実践していきましょうです!

 

(ねえ、竹刀ちゃん…そもそも俺は君に恋愛相談なんてして良かったのかな…)

妙な趣味に巻き込まれたと思ったがもう遅い

 

一巻 手を繋ぐ、三巻 初でえと、五巻 二回目のでえと 七巻 喧嘩

九巻 仲直り 十一巻 口づけ 十三巻 将来を誓う

 

とかそんな内容らしい

 

竹刀はもう一度胸を張って張り切り

まずは手を繋ぐところから!と言い出している

 

竹刀ちゃんはさあ

どこまで進んでるの?

意中の男の子とかいるのかい

例えば十三巻の口づけとかもう経験してたりして

 

さ、左様はわけはないのでございますです!

私は神聖な巫女ですゆえ、あの其れは其れとして乙女のキスはとても大変貴重な

ものゆえおいそれとどなたかに下げ渡してよいものに非ずと書いてもありまして!

 

と、特に初めてのキスとは格別なものだとか!!

 

そ、其りゃ私だって?

素敵なキスとやら、あ、憧れくらいはございますですが!

けれども神様の伴侶ゆえに!あの私には決して訪れる機会などあるはずもなく、でしてね

 

動揺して絵に描いたポンコツな反応を返してくれる

けれど狩衣は竹刀が誰かにお手付きされていないことにどこか安心した

 

ねえ、竹刀ちゃん

俺もう彼女と住んでいるんだよ?

今更手を繋ぐところから始めてもね…

 

狩衣は最大限彼女をがっかりさせないように配慮したつもりだった

 

しかし、彼女は露骨に衝撃を受けたようで固まってしまった

 

いちいち狩衣の言葉一つに強く反応する様はまるで幼気な小動物、先ほどからのやり取りで自然と感じていたことだが、彼女の苗字と相まって親鳥のやることなすことピーチクパーチク鳴いて学び受け止める雛を思わせる

 

あ、えーと

そ、其うですよね?

も、申し訳ございませんでしたです

 

狩衣は肩をぽんと叩く

 

大丈夫、俺の事考えてくれたんだよね、ありがとう

 

少し前髪を掻き分けて衝動的に頬に口づけしてしまっていた

 

竹刀はサッと後退り

 

わ、わーーーーーー

 

小さく悲鳴を上げる

 

(初めてだったんだろうね、俺としてはなんてことないお礼の気持ちだけど反応が新鮮で可愛いなあ)

 

彼女はその姿勢のまま暫く何事か考えていたようだったが突然

あ!と声を上げた

 

きっと其れです!と何度も首肯し何かに合点がいったようだ

 

そのまま彼女なりの言説を狩衣に並べ立てた、こういうことらしい

 

シノハユは狩衣に対して腹を立てている

彼がなりふり構わず周囲と距離を近づけ過ぎるためだ

きっと数多の女性に悪気なく手を出しており嫉妬心で満たされているに違いない

 

狩衣はその意見を秒で切り捨てた

 

(だって君は当然知らないだろうけどそもそも俺は誰彼構わずここまで近い距離で接するわけじゃない)

 

これは初めてのことだ

単にしゃべり目的だけで誰かに近づき離れがたく思ったのは…

 

狩衣は最愛のシノハユにですらも警戒心むき出しにされるので情事の時以外は基本距離を取っていた

そのため、彼女は彼の交友関係一つまるで知らない

 

説に該当するのは羅刹の彼が餌として食らう女性と接するときだろうが死の淵で見せてやる極楽は幻惑術だ

彼は彼女への貞節を貫いている

 

それに竹刀についても近い将来食べ頃になったら食べるつもりなのでこれも特別な感傷とは言い難い

 

思考を終えたところで改めて竹刀へと向き直る

 

うーんとね

それは違うかなぁ

 

あの子は俺が誰とどんな風に接してるかなんてね

興味持ってくれないんだよ?

 

え…

竹刀は絶句していた

 

相手に愛があれば友人知人関係に興味を持ち恋人の簒奪者が紛れ込んでいないか警戒するものだ

 

狩衣の恋人は彼を愛していないのではないか?と察したらしい竹刀はしばらく黙ったまま小さい手をそっと伸ばし狩衣の右手を取った

 

あまり、大したことは言えませんですが、です

どうぞお気を確かに、お元気を落とされないでくださいませです

 

本日たった一日の出会いとはいえ私は宗祖様が、とても素晴らしく思慮深い方とお見受け致しましたです

どうぞどうぞ大事なお方と今後も末永くお幸せに

 

彼女は両手で包んだ手を祈るように顔の前に掲げた

 

きっと私の心にある大切なお方、大事な先輩も宗祖様のお話をお伺いなされましたら

同じように仰ると思いますですゆえ…

 

おや

君も恋をしているの?

 

狩衣は思わず尋ねた

あんな三文恋愛小説を熱く語るくらいなのだから本物の恋など未経験だろうと考えていた

 

いかがでございましょうかです、

でも行方不明ではあるもののきっといずこかでお元気、とは言い難い状態かもしれませんのですがご無事でいらっしゃる事と思っておりますですゆえ…

 

はぐらかされた気がしたが追求しなかった

そもそも謎に話のズレが生じるのは今に限った話でもない

 

竹刀ちゃん、君は強いね、ありがとう、

その先輩っていう人見つかるといいね

 

代わりに狩衣は社交辞令を述べ、竹刀の額を撫でるに留めた

 

はい、必ず見つけると心に誓っておりますです!

其のため元より此方の建物の主様に此の辺りに他にめぼしい建造物や集落などは無いかお尋ねしたかったのでございますです!

いかがでございましょうかです?

 

竹刀はその反応を待っていたとばかりに質問を被せてきた

 

ああ、なるほどそれで…

 

はい、恥ずかしながらではございますですがちょっと道に迷ってしまっており…

 

でも、無いよ

 

狩衣は自分でも思うくらいにべもない返答をした

 

え?

 

建物や集落

この辺りにはここしか無いんだよね

 

そ、其んな…!

 

まあまあこのままだと夜にもなっちゃうし明日は雨みたいだし一晩泊めてあげるから明日また探しに出な〜

 

で、でも…

どうしましょうです…

 

竹刀は露骨に困っているようだった

 

な、何か!

 

ん?

 

あばら家とか左様な誰もいない建物などがある可能性は?

 

狩衣は少し考えたがやはり心当たりはなく首を振った

 

俺ここ住んで長いけど

その子本当にこの辺りにいるって確かな情報あるの?

 

いえ、無いんですけど…

 

(そういうところだよ…)

 

だったら一旦情報精査からやり直したほうがいいんじゃない?

俺もせっかく一生懸命お悩み相談付き合ってくれた小さな可愛い巫女さんの手前、付近な可能性あるなら明日以降にはなるけどうちの人脈使って協力くらいしてあげるよ

 

はい、本当に申し訳ございませんでしたです、

私ったらつい早とちりして飛び出してきて

存じ上げない方に斯様なご厚意賜り大変申し訳なく…

 

また、竹刀は頭が沈み込んでいきそうになっている

それを狩衣は慌てて制止した

 

いいって、初対面はお互い様

それに俺は嬉しいぜ?

君みたいな話も、それからきっと気も合うとびきり可愛い子が道に迷ってくれたおかげで出会えたんだもの

今日という日を神様に感謝しなきゃね☆

 

狩衣は出会った最初と同じように竹刀を安心させるように片目を瞑ってみせた

 

だが

 

え??

 

竹刀はとても驚いていたようだった

 

ん?

なんか俺変なこと言ったかい?

 

狩衣はさっきの話のどこに疑問を持たれたのか思い当たる節がないので尋ね返した

 

竹刀はまたおずおずとしながら口を開いた

 

いえ、あの、まこと失礼ではございますですが…

宗祖様はいわゆる無神論者さんでございますですよね?

 

その聖職者としてあるまじき指摘に狩衣は固まるしかなかった

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