事が済み、俺は君に声を掛ける
大丈夫?竹刀ちゃん
んー斯くは割とだめでございますですねえ
すっかり逆上せましたです
今にも倒れそうな様子だった
案外湯が弱点のようだ
そういえば良く最中に俺が冷気の魏術使いだからか、君は冷たくて気持ちいいと言っていた
あんまり温度高いのは得意じゃないのかもしれない
でも一見、弱っている君はいつもより言葉にキレがないし、大人しくて可愛く見えてこれはこれで良かったが、いや、普通に具合悪いのだしそう思うのも悪いか、と思い直した
(よしよし、ちょっと涼もうね)
俺は取り敢えず君を抱えて湯殿を出て、服を着替えさせてっと思ったが
あれ、服が無い?
さっき脱いだ服置いてなかったっけ君
そう尋ねたら
君は力なく
あー服はですねえ、普段は術で作ったの着てるです〜
羅刹さんと一緒〜
それだけ俺に告げて君は俺の腕の中で力尽きたように寝落ちてしまった
ちょ、じゃあ服は?
結構深い眠りに就いてしまったようで返事はない
眠る君は年相応の少女に見えて、やっぱりめちゃくちゃ可愛いかったが、困った
「一緒」と君が言った通り、羅刹である俺は擬態化して作った服を着ているので代わりの服など持ち合わせがない
仕方なく全裸の君をまず他の人間には視認できない速さ(君からしたら「鈍足」だろうけど)で大至急部屋へ運び、適当な俺の服を着せて床に横たえた
このままだと共寝はできないかと多少がっかりしつつ、「おやすみ」と声を掛けたのだが…
突然君は瞼を開いた
そのまま気怠げにのそりと起き上がって四つん這いになり、こちらを見遣る
まだ正体が定まらないからか、俺を虚ろな黄緑の瞳で暫く見つめていたが、やがて徐に口を開いた
………………なおいくん?
あれ、あなたって赤い服持ってましたっけ…
もっと青い服の感じが多かった、ような…
其れもなにゆえ和服に?
いつものお洋服はいかがなされましたです?
…一体、誰と勘違いされているのだろう、俺は「なおい」ではない
でもよく考えたら、君は俺の事を普段は大体「あなた」呼びで後は羅刹か、大寒の弐番か、宗祖とかしか呼んでくれて無い
確か、一度啖呵切った時だけちゃんと「るどうかりぎぬ」って呼んでくれたんだったかな
俺の名前が正確に認識されていないだけ?とも思ったけど、様子がおかしい
君は今度は自分の手足を見て
なにゆえ小さいです?
次に髪の毛を見て
なにゆえ黒いです?
そして俺に向き直り
あなたなにゆえ髪が白く?瞳も虹色…
と、ひと通りよくわからない外見の感想を述べ顎に手を添え考えていたようだが、突然小さく手を打ち
ああ、なるほど…
そう、呟いた
其うですか
きっとなおいくんも私も、今は違うのでございますですね
ただ、
私はまたあなたに出会えた
其れはとっても良かったです
願わくは、また、あなたと…
最後にとびきりの
いや、なんとなくだけど、竹刀ちゃんとは思えない「誰か」の華やいだような笑顔を見た気がしたが、俺は夢でも見たのだろうか…
気付けば俺は、またあの竹刀ちゃんと思しき女の子が、目が開かない俺の手を取り、大粒の涙を零して謝る夢を見ていた
ごめんなさいです…
ごめんなさいです…た
ごめんなさいです、なた
ごめんなさいです、あなた
ごめんなさいです、な…いくん…
最後に「誰か」の名前を呟き、その夢も掻き消えた――――
夢の底へと沈んでいた意識が浮上してくるや否や、俺は跳ね起きて周囲を見回す
(また君がいなかったら大変だ!)
人間よりは優れた夜目の利く視界の端に黒い巫女服を捉え、ほっと息をつく
と言うか、うん?
腕組みして仁王立ち?
やっと起きましたですか
やはりグーグー寝てるじゃないですか、眠らない羅刹さんのくせに!
うん、完全にいつもの君だった、逆上せたのは直ってるみたいだね、良かった
取り敢えず俺も言い返してみる
さっきまで俺の腕の中ですやすや寝てた人外の君には敵わないけどね?
君はそれは流して
すみません、介抱していただき助かりましたです
用件は其れだけでございますです
では改めておやすみなさい
俺の上に両ひざで伸し掛かりさっさと寝床に沈めようとしてくる
うん?
もしかして、それ言うためだけに俺が目覚めるの待ってたの?
わ、悪いでございますです?
私だってお世話になったらお礼くらい言うのでございますですよ
左様に神様にも躾けられておりますです!
また真っ赤になる君がいた
なあんだ!
俺の方こそ、もう君が元気になったみたいで良かったよ
其れは、本当にご迷惑をば…
いやそうじゃなくて、お帰り!
竹刀ちゃん
た、ただいま戻りましたです?
君は戸惑いながら少し赤くなりつつそう言った
その姿がやっぱりめちゃくちゃ可愛くて俺はまた君に飛び込んだ
まあ、寝所でお預け食らってたしね?
ヤる事が終わると君はいつもの黒い巫女服を着て、身支度を始めた
もう寝る気は無いようだ
俺はちょっと心配になって尋ねた
大丈夫?
ちょっとしか寝てないけど
あなた私を誰と心得ておりますです?
私は寝なくても平気な化け物でございますですよ
いやー
十一歳の女の子はもっと寝ないとダメだよ
ちゃんと寝る子じゃないと育たないよ?
おっぱい以外
朝から下ネタ禁止でございますです!
あと私は好きで胸がでかすぎるんじゃないです
(でかすぎる自覚はあったんだ)
そうなんだ!俺は大好き!!
いっぺん死んだらいいんじゃないです?
ていうか、禁止はないでしょ
ほんの数瞬前までヤる事ヤッてたじゃない
私にとっては其処までが「夜」
其して、今し方、「朝」になったのでございますです
もはや屁理屈だった
今は夜明け前どころか、丑の刻だ
少なくとも朝ではないでしょ
特に昨日は遅く帰ったのに…
呆れ果てて、それだけ言うのが精一杯だった
神聖な神様に仕える巫女さんの朝は早い!のでございますです
はいはい、そうだね
まあ君が元気ならいいかと俺は考えを放棄した
君はこんな時間から出掛けるようだ
行き先は、と一応尋ねたが
聖域でございますです
やっぱりね、予想の範疇だった、ということは日課の神楽舞をするのだろう
今日は最初から見学できそうだ、昨日途中からしか見れてなかったのが地味に悔やまれたから
それってうちの裏山の事?
念のため尋ねたのだが
はい、左様でございますです
別に聖域であれば本当はいずこでも構いませんですが、まあご近所に手頃な其れがございますゆえ、利用させていただく次第
君の視点で俺の屋敷の裏山を「近所」という表現で使ってくれたのが嬉しかった
(よしよし、竹刀ちゃんは俺の家をちゃんと自分の家として定めてくれてる♪)
なんだかんだと天邪鬼言いつつ少しずつ馴染んでいく君を見るのが堪らなく愉しみだった
奇しくも本文と大差ない時間の投稿ですみません。