竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-43 解放

彼女は目を閉じて胸に手を当て、息を大きく吸い込み叫んだ

 

  真核解放――――

 

その瞬間、竹刀の周囲から白い羽根が無数に飛び出し、繭のように包み込む

 

繭が解けると彼女は「成って」いた

 

胴体の中心部から発せられる黄緑のほのかな光

それが乱反射して周囲を優しく薄明るく照らし出す

 

既に死者だからか、光の中心部には大きな亀裂が何本も走っている

 

銀の髪、白い両翼、透き通りそうなほど透明度の高い肌、宙に浮く冠、年の頃は十六、七歳に見える肢体、布地の少ない西洋式の夜会服、

そして身体の中心部にある光と同じ色のいつもの黄緑の瞳

 

これこそが彼女の「化け物」としての本当の姿、誰もが一目でそれとわかる異形だった

 

因みに銀髪は奇しくも狩衣の髪色と似通っており、ただでさえ白を好まない竹刀にはお揃いかのように思われて不快だった

 

実は人間の状態でも、本当は竹刀の髪色は銀色だ

目立つのが嫌いなため術を使い、黒に染めている

 

だが今は些事を気にしてはいられない

彼女が態々、自分が嫌いな異形の姿に「成った」理由は明白だ

力が圧倒的に増すためだ

 

どんどん重くなり沈んでいく狩衣を童女姿よりは長く伸びた両腕で抱えて、気付けと保護術を施した後、翼を広げて水底目指して一気に飛んだ

 

水底を突き破り、勢い余って聖泉の遥か上空まで飛び出してしまったが、まあ問題はない

 

なにせここは聖域だ

異形の化け物が宙を飛んでいようと、見咎める者は誰もいない静謐な空間

 

竹刀は手頃な地面に狩衣を横たえ、元の人間の姿に戻り様子を伺う

 

息はしているが呼吸が安定していない

つくづくバカバカしい事態だという認識は変わっていないが、元は己の撒いた種、成長して厄介事になる前に危険な芽は積むべきだと判断した

 

竹刀は適当な刃物を取り出し腕をざっくりと傷つけ、かつて胡蝶カナヰや氷人形にそうしたように、滴る血を横たわる狩衣に飲ませたところ、少ししてようやく呼吸が安定してきた

 

それを見届けた彼女はやっと一息ついて、狩衣のことは一旦忘れ、今朝の神楽舞の奉納へと意識を移すことにした

 

 

----

 

俺はまた夢を見てるみたいだ

 

君そっくりの顔で、でも髪色も服も君が嫌いそうなほど白くて背ももっと高くて、白い羽根が背中から生えてて、青いへんてこな洋装してる黒髪の俺に笑い掛けてる

 

(君は誰?竹刀ちゃんじゃないよね?)

 

夢の中の君に俺の声は届かない

 

(もしかして他人の空似の天女様か何かなのかな)

 

そうこうしてるうちに、また俺の意識は遠ざかった

 

 

はっ

 

覚醒した

 

(ここは?って、ああなんだ聖域か)

 

ってことは俺は理由は知らないけど聖域で寝ちゃってたのか

一体何やってたんだっけ…

 

ふと、身体の中に君の不器用だけど優しい温もりを感じた気がした

 

  そうだ、竹刀ちゃんは?

 

辺りを見渡すとまた神楽舞台が目についた

その中で綺麗な謡と共に美しく可憐に踊る君が見えた

 

(ああああ…!!)

 

また、今日も、

君の神楽を最初から観られなかった…

 

いや、こうなったら明日こそ!

俺は強く心に決めた

 

その後、君はまた美しい舞の余韻もなく、

 

  今朝のお務めしゅーりょー!

 

と言い放ってさっさと舞台を降りて消し、胸元から取り出した氷結の継子と共に、神への奉納用の供物兼、俺と君、それと一応継子用の朝食調理の準備に入るところだった

 

(あ、そうだ!思いついた)

 

  待って!

 

俺は慌てて駆け出した

 

君は振り向き、訝しげにどうしたのか、具合はもう良いのかと尋ねてくれた

 

  あ、そっかごめん

  俺、溺れちゃったんだよね

  よく覚えてないけど俺を助けられるのはきっと君しかいないし、介抱までしてくれたんだよね

  ありがとう竹刀ちゃん

  ちょっと格好悪いとこ見せちゃったね…

 

  別に、介抱ならお互い様でございますですし

 

昨夜、湯殿で君が逆上せた時のことを言っているようだ

 

  そんなの気にしなくて良いのに

 

  でもお互い様では?

 

(それもそうか)

 

  うん、確かにね

 

君の手を取り、安心させるように笑みを見せる

 

  なら、これからも俺達は持ちつ持たれつで行こうね

 

君は少し驚いた顔をしてそのまま俯き、またちょっと顔を赤くして小さな声で頷いた

 

  ええ、まあ…

 

相変わらず普段は無表情な君がちょっとでも照れると、ただでさえ美少女なのに破壊力が増したが、俺は別の事が気になっていた

 

  ねえ、竹刀ちゃん腕怪我してる?

 

手を取った時に違和感があった

まるで片手を庇ってるみたいな…

俺は多分、君と同じで観察力や洞察力には自信があった

 

君は少し迷っていたようだったが、俺の追及を躱すのを面倒とでも思ったのか、袖をまくって見せてくれた

 

  ちょっと野暮用で腕を深く斬りすぎまして、です

 

俺は目を丸くした、

 

  え、これ自分で斬ったの?

  天然ボケにも程があるよ、何やってるの…

 

どう見ても常人なら出血多量で死んでる斬り方だった

 

  竹刀ちゃんはおっちょこちょいだなあ

 

俺は苦笑いしつつ羅刹の治癒術を使って直した

君は驚いたようだったが

 

  あ、ありがとうございますです…

 

と、また赤くなりながら素直にお礼を言ってくれた

 

今日で君に出会って三日目、天邪鬼で意地っ張りな部分は多々見たが、俺に素直な部分はとても少ない

こんな風に、たまに感謝してもらえるだけありがたいと思うことにした

 

後で知った事だが、これは俺を治療した時の傷だったそうだ

そういえば、よく考えたら「天然ボケ」って言った俺を君が流したのは妙だと気づくべきだった

 

もっと奥に隠したい君の不器用な優しさがあっただなんて俺は知らなかったんだ

本当にごめんね、改めてありがとう

 

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