え…いや俺聖職者だよ、宗祖だよ、なんでそんな風に思ったの?
君は頷き
確かに左様でしょうが、
と語り始めた
控えめではあるがはっきりした声音だ
例えばこのお部屋に通される前に廊下で見た曼荼羅絵
一見お釈迦様の人々に与えられる試練を模した有名なものでございますですが
よく見ると試練の内容はどの文献とも異なる簡単に達成できそうな緩いもの
与えている先も人ではなく虫や動物などの動植物
人々は其の周囲に模様としてあるだけ
絵の中で人々の存在は無視されておりますです
お釈迦様が人々に試練を与える存在とは見ていないという意味合いの絵
次に、
切支丹の主上を崇める人々の絵
此れも一見人の上に立つ神様の存在を描いているようでよく見ると神様として描かれた存在はからくり仕掛けの太陽
其れを崇める空虚な人々という意味の絵に見えましたです
次に…
君は琉堂院を訪れてからいくつか目についたらしい仏画などについて解釈を話した
俺は黙って聞く
…つまりは敢えて有名な絵によく準えてしかし其の絵とは配置を逆にすること
場合によっては敢えて宗教的に反意を持つ意匠に変更することで意味を完全に変えた絵なども見られましたです
以上より私は、と君は考察を締めくくる
宗祖様は無神論者さんなのではないか、と
胸ぐらを掴まれた気分だったが俺は動揺は見せなかった
ふーん
君は本当に頭が良いねえ
もう言うまでもないけど博識だしおまけに目もいい
その通り
何を隠そう俺は無神論者だよ
俺長いことここの主務めてるけどたった一日で見抜かれたのは初めてだ
いや今いる信者のほとんどはそんな事気づきもしてないけどね
よくわかったねえ
褒めて上げる
俺は君の頭を上からぽんぽん撫で髪をしわくちゃにした
ただのちっちゃな巫女さんにしておくだけなのはすごく勿体ないなあ…
…私はちっちゃくもおもちゃでもないです…
小声で竹刀ちゃんが何か言って一瞬空気が張り詰めた
抗議の視線を向けられている気もしたが長い前髪で目も口元も見えないし俺は無視した
……でも
ひとつどうしてもわからない事がございますです
君は長い息を吐いた後でまた話し出す
俺も君を撫でる手を止めた
この質問は本当はするつもりが無かったのですが、もう先輩の捜索は明日に改める事にいたしましたですゆえにお尋ねいたしますです
本題は飾っている絵の『蝶々』の意匠のことだった
随所に散りばめられていたが宗教的な意味が汲み取れないことから俺の趣味なのだろうと考えたそうだ
俺は遠くを見遣って目を瞑る
うん、趣味だよ
俺はね、
ずっとずっと蝶々に焦がれてるんだ…
君は黙る
遠くで鳥が鳴いていた
目を開いて俺は口を開く
しんみりしちゃったね、
ごめんね
竹刀ちゃんは勢いよく頭を振った
いえ!
あの、蝶々がいかなる感慨深いものかも露知らず尋ねてしまい、あの、
大変申し訳ございませんでしたです!
私の方こそ謝るべきでございますです!!
ふふふ
何だか俺達はさ
互いに謝ってばかりだね
似た者同士だ
俺は軽く微笑んだが君は固まって微動だにしない
けどその表情は手に取るようにわかってしまう
どうして顔が見えないのに沸騰しそうな君の顔が俺には浮かぶのか不思議だけどまあ人間観察は得意だしね
ねえ、竹刀ちゃんはさ、
落ち着いてきたらしい機を見計らって俺は尋ねた
さっきうちの絵とか見たような事言ってたけどせっかくだから君にだけ特別に
他の絵も見せてあげる
このまま大講堂に行こう
裏に普通の信者たちにはまず見られないとっておきのがあるんだ
え?
でも此れ以上はあなたのお仕事にも差し障りがございませんので?
ううん大丈夫!
と言うか君ならいつでも歓迎
何せ君ほど俺と話せる子なんて俺生まれて初めて出会ったもの!
とっても楽しい♪
正直な感想だった
でも竹刀ちゃんにはお世辞と取られたのだろうか
はあ、ありがとうございますです…
返ってきたのは生返事だった