竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

52 / 52
20回目-52 初授業

  はい、じゃあ経典の百三十五頁を開いてね

  あ、竹刀ちゃんは取り敢えず俺の補佐として横に座ってて

 

俺はなるべく信者たちから竹刀ちゃんを引き離して俺の近くに置いた

はいはい、とでも言いたそうな顔で君は静かに正座する

 

  というわけでここの解釈はね…

 

話しながら時々俺は君に腕を回したり、髪をいじって遊んだりもしていた

 

ただ遊んでいるだけだと流石に信者に変な反応されるだろうと思って、時々竹刀ちゃんに今朝の打ち合わせ通りに、「この言葉を解説してくれる?」とか振ったりして補佐役としてしっかりしているところを示していた

 

余裕のある仕事だった

俺はそれなりに宗祖として百五十年、いや前の生と合わせると三百年近くも務め上げてきている

 

が、そこで

 

  あの、宗祖様、少々よろしいでございましょうかです?

 

遠慮がちに挙手して声がかかる

 

  どうしたの?竹刀ちゃん

  

俺は尋ねるが

 

  間違っておりますです

 

  何が?

 

  今の解釈がでございますです

 

  はい?

 

  あなたは今のお話を、人々に与えた試練と仰っておりました

  ですが、其の解釈であった時代は平安の世まで遡り、其の後に其の経典を著した高僧さん、正確には寺宝上人というのでございますですが、其のお弟子さん方にあたる、光塩峰寺を治める高僧さんの佐美北上人さん方が後年、世に回った其の解釈を否定しておられるのでございますです

 

  師は決して世はただ、苦難と試練ばかりを与え、人々の成長を促すようには考えてはおられなんだと

  人と共にあり、即ち試練に見えることも実際には身近な教訓に留まり、もっと人に寄り添うものと考えておられただとか

 

  証拠といたしましては此処に

  

君はまた物探しで胸元を広げてゴソゴソやりだしたので、俺は慌てて君を信者達から隠す

 

  私が光塩峰寺を訪れた時に見た周囲の碑文の写真にございますです

 

  ゆえにこのお話はもっと人と近しき存在と見て単なる試練ではなく、周囲の方々と打ち解けるための教訓と解釈すべき、と結論づけますです

 

その後も、

 

  其れは晩年否定され〜

  其れはもっと深い文化的な意味合いを表し〜

  先は確かに左様にも言われておりましたですが、而して近年新たに解釈され直されている事には〜

  其れを仰ったのは別の〇〇で当人は決して〜

 

という始末だった

 

(竹刀ちゃん、君の頭には知識の泉が湧いてるのは十分思い知ってるから、それならそれで今朝打ち合わせした時に指摘しといてよ…)

 

ただ、もう信者達には大人気だった

ただでさえ可愛いのに博識で俺とも対等に渡り合い、挙句の果て

 

  もう、あなた!

  なにゆえ其のお話する前にそもそも、前提知識として必要な黄表紙解釈、拝帯法定のお話飛ばしているのでございますです!

  

とか

 

  天竺などの大陸にて、今も研究されている斯く分野はおいそれと紹介していいわけではなく、お話するなら其の前に二元真理論について触れておく必要が…

 

とかもうそんな感じだったので俺はちょっとやる気なくした

 

  仕方ないでございますですねえ

  私が後を少しだけ補足しておきましょうです

  確かに前提知識の明階反現論は説明は難しいゆえにお話してないのはわかるですが、では斯様なやり方ならばいかがでございましょうかです

 

  神祷術 第一の編 即興人形劇

 

  昔々、蘇の国のとある地域にて、ある青年がおりましたのでございますです…

 

という風に華麗に俺の講話の枠を乗っ取り、君の授業が始まったのだった

 

(どうでもいいけど、吃りどこ置いてきたの?)

 

人形劇が終わるとやはり拍手喝采だった

それはそうだろう、視覚的にも聴覚的にも非常に分かりやすい

おまけに短時間で纏まっており、俺をしてこれほど分かりやすい教え方もないと思わせるものがあった

勿論やっていること自体は基本他の誰も真似できないズルでしかなかったが

 

因みに竹刀ちゃんの指摘のほとんどは実は俺が知っていることばかりだった

そりゃそうだ、俺が選んで教えている経典なのだから俺だって前提知識はちゃんとあるし、解釈が分かれる部分も含めて勉強している

ただ、講話では俺はあくまで信者達への方便で教鞭を取るようにしていた

信者達が受け入れ難い教義や理解の妨げになりそうな部分は伏せ、信者達が恙無く極楽浄土に行ってもらえるようにと、ともすれば勘違いを多分に含ませ利用していた

そして竹刀ちゃんも指摘していた通り、教えるのが難しい物は大体誤魔化していた

 

(君や俺は頭が良いからすんなり読んだだけで入るんだよ、普通皆そこで躓くんだよ…)

 

だからまあ、俺は思った

こりゃ俺もちょっと方針転換して腹括るしかないね

 

その前に次からはきちんと打ち合わせしよう、そう決めた

 

授業が終わると信者達は一斉に鳥土里先生を囲んでいた

君は見ず知らずの人間から次々質問されて大層困っていたようなので俺が引き離す

 

  あっ…

  

信者達は残念そうだったが

 

  はいはーい

  実は竹刀ちゃんはあくまでお試し講師さんなんだよね

  だからあんまり質問攻めにしちゃだめだよ

 

君は、

 

  あの、宗祖様、私、多分えっと、少しは、大丈夫かも?しれませんです

  で、でも、あの、やっぱり少しでっ!

  

頑張って答えていた

 

だったらということで

 

  じゃあ、頑張ってみてね竹刀ちゃん、

  まあ俺が付いてるから大丈夫だよ☆

  

信者たちの前で思いっきり君を抱きしめて頬に顔をくっつけて質問への返答を続けてもらった

 

流石に途中、キレた君に何回か背負投げ食らったりしたけど俺は全く懲りないのだった

 

 

  うん、竹刀ちゃん

  取り敢えず、壁と床と天井の穴また修繕しといてね

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。