竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-53 血の味、越後にて

講話が終われば至福の時間、君との昼食作りとその後の食事だ

越後で獲れた海の幸がふんだんの料理だった

ただ昨日も魚だったので俺はちょっと肉も欲しくなった

 

だからという訳でもないが、勿論、料理の合間にたくさん君という甘いお肉を啄んだ

 

昼はなんか君と氷結の継子作とかいう雪像の前で食べた

 

(よく出来てるけど、なんでこれ作ったんだろう?)

 

たまに君は年相応の少女の顔も見せる事があるから人並みに雪遊びがしたかったのかな…

 

取り敢えず俺も折角なので、氷結の継子をそのまま象った雪像の隣に、同じ大きさの竹刀ちゃんに似せた雪像を魏術で拵えて並べた

 

その四体が居並ぶとまるで四人家族みたいに見えて、ちょっと嬉しかった

君に子どもが生まれたら俺達はこんな感じだろうか、なんて思ったりもした

 

君はちょっとだけ曇った表情をしてたような気がしたけど、すぐにいつもの無表情となった

 

食事しながら俺は竹刀ちゃんに今日の見聞の成果を尋ねたが、収穫は思わしくなかったらしい

残念だったね、と俺は言った

 

  まあ、いつものことでございますですゆえ

  

君は気にもしていないようだった

 

会話も途切れて、君は所在なく横を向き、君が作ったというこの空間の外を眺めていたかと思うと、ふと何かを発見したらしく、そのまま、すいと手を伸ばして外へ出ていってしまった

 

  竹刀ちゃん!?

  

慌てて君を追いかけようとしたけど、君は空間術が本当に得意みたいで、この場は単なる空間というよりは実質、君が張った「結界」だったので俺は抜けられなかった

 

でも数瞬の後、君はちゃんと帰ってきた

俺はほっと息をついたが、よく見ると腕に何かを抱えていた

 

それは傷を負った鳥だった

多分、発見した場所の高さからして渡り鳥が群れから逸れて襲われたか何かしたのだろう

 

君は胸元から適当に短刀を取り出しざっくりと腕を斬りつけた

 

  え?何やってるの?

  

俺は驚いたが

次の瞬間、思わず鼻と口元を覆う事になった

 

(食人衝動!!)

 

だめだ!

 

稀血の君を食べたい欲が突然湧き上がってくる

 

止まらない!

 

俺は奥歯を強く噛み締めて、口端から血を流して耐えた

 

君は不死身だから本当は食べてもいいのかもしれないけど、君への愛が羅刹の食欲で塗り潰されていくのは嫌だったんだ

 

俺は目も固く結んでその場に蹲ったが、耳が鳥への労りの声を拾った

 

  ヨシヨシ

  大丈夫でございますですよ

  斯様な怪我なんてちょちょいのちょいでございますです

 

その声を聞いているだけで本能が洗い流される気分になる

鳥に掛けられた筈の声は俺の肉欲までも同時に癒してくれているようだった

 

まだ食欲は残っているが少し落ち着いた俺は薄目を開けて君を見る

丁度その滴る血を鳥に与えるのを目にした

 

そのまま鳥の口へと君の血が数滴落ちた瞬間、鳥は全身が光輝き、あっという間に所々に負った傷が治癒されていき、元気に羽ばたき出した

 

そして感謝するように竹刀ちゃんの周囲を一周飛んだ後その手の甲に止まった

 

竹刀ちゃんは一つ頷くとまた剣印を結んで何か術を放った

 

  元のお仲間さんのところに戻れなかったら事でございましょうですし

 

そう独りごちたかと思うと、そのまま結界の一部を解き外へと導いてやっていた

 

  さようなら

  ちゃんと群れに戻るですよー

 

それが終わると君は蹲る俺の元へ屈んで声を掛けた

 

  私、血に治癒の力があるのでございますです

  いかなる怪我でも病気でも基本は即回復でございますです

 

  あなたも昨夜、他の羅刹さん達と同様でしたでしょうが、私を食べたいと思う欲を我慢する必要はございませんのです

  

  勿論、基本は襲ってきたら即狩りますですが、契約しているあなたは特別です

  さあ食べて

  

君はまだ血が滴っているその腕を俺に差し出してきた

反射的に俺は噛み付き、その肉を骨を噛み砕いた

 

(ああ、この味は知っていたはずだ)

 

君の体液と同じ甘い甘い味

同じなのにいつ食べても蕩けるように美味しくて飽きない

 

(今朝と同じ、俺の愛する…)

 

俺は君を思い切り突き飛ばしていた

 

  あなた、一体どうして?

 

反射的に涙が流れた

 

それは別に君の肉がとても美味しかったからってだけじゃない

 

  ねえ、竹刀ちゃん

  「どうして」は俺の台詞なんだけど

  君は今朝、なんか様子がおかしいと思ったら、やっぱり俺のせいで腕怪我してたんだね?起きた時に舌に残ってた味と今、全く同じだったよ

  大方溺れた俺を回復させるために君が血を流して俺を手当てしたんだろう

 

  ねえ、なんでそんな事したの?

  放っておけば自然回復できたはずなのにどうしてそんな事したんだよ

  俺は君が怪我する方が嫌なのに!

 

つい責める言い方になった

 

  単に私もあなたが具合悪そうなのがあまりよろしくないかと思ったまででございますですが

  あなたは好きな時に私を食べる権利があるのでございますです

  

  私は極端な話、心臓貫かれても脳漿ぶちまけられても首と胴切断されても五肢バラバラにされても死なないどころか回復してしまう身の上

  丈夫さで言えば頸という明確な弱点持つ羅刹さんよりも上

  食べられてもへっちゃらなのですゆえ、其りゃ血を与えるも吝かでなく

 

(わかってない)

 

  そういう事じゃなくて!

  君が傷つく必要なんてないんだよ

  俺のせいでなんて嫌だよ

 

  一時的なものなのに?

 

  それでもだよ

  無茶しないでよ

 

  別に無茶でもなくて

 

  痛いことは痛いんでしょ

  君はなぜか瞬間回復を縛ってるようだし

 

  自然治癒で十分ですし

 

  じゃあやっぱりダメ

  即回復しないなら君の痛みが長引くことになる

  俺は看過しない

 

  えー

  面倒くさ…

 

(聞く耳持たずか…)

 

  あのね、君は自分を捨て過ぎなんだよ

  昨日の羅刹との戦い方とかまさにだけど全く自分の身を案じてなくて、下手すりゃいくら致命傷負ってもいいと考えてるような防御全捨て振りはちょっと異常だよ

  確かに速くて正確だけど、君の戦い方は本来人間がしちゃいけないやつだ

 

  人じゃないですし

  其れに戦い方というなら羅刹さんも似たようなものでは?

 

  羅刹でも頸は基本庇うよ

  何より俺には普通の可愛い女の子だからダメ

  第一、どうしてそこまで自分を傷つけようとするんだい

  何かあったの?

 

  …別に何も

 

  はいはい嘘だね

  なんとなく君の嘘はわかるようになってきたよ

 

(今、舌打ちしたのかな?)

 

  じゃあ言いますですが、あなたに当たっても仕方ないとはいえ、羅刹さんゆえに言ってやりますです

  私の八つ当たりを聞きなさいです

  私は羅刹さんを決して赦しはしない

  必ず滅ぼしてやりますです、私の手で!

  神様になぞなれなくとも其れこそが変わらぬ私の誓い!

  近々必ずまとめて冥府へ送り届けて差し上げますです

  此れだけは私が化け物とか全く関係ございませんのです!!

 

(なるほどね…)

 

真相はぼかされてるけど、思っていたよりもずっと、羅刹の俺は君と隔たりがある事がわかった

 

ぽん、と

俺は君の頭に掌を置く

 

  きっと羅刹が君に何かしたんだね

  それもいつかは話してね

  今すぐでなくていいからさ

 

君は俯き小さく零す

 

  …まあ、羅刹さんだけがってわけでもないのですがね

 

それきり君は黙ってしまった

きっと俺に八つ当たりして気は済んだのだろう

 

だから好機と思って俺は君の目を真っ直ぐ見てお礼を言った

 

  ちょっと怒っちゃってごめんね

  改めて今朝は介抱してくれてありがとう

  君の血が、優しさが俺はとっても嬉しいよ

  

自然と抱きしめた

 

君は、「別に親切とかじゃ…」とか言ってるから天邪鬼な口は塞いでおいた

 

そのまま押し倒したけど、ここってよく考えたら越後の上空だ

 

周囲の景色がよく見えるように透明になってるからそんな所で俺と君、二人で裸になってるのってこれ空中に全裸の男女がいる妙な構図なんじゃと頭の片隅で思ったけど、君が熱い吐息を零し始めたのでそんな意識はどこかに行った

 

 

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