竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-6 謎掛け

私は宗祖様に案内されるまま付いていくことにした

 

大講堂の裏手という特別な部屋は奇妙だった

徹底的に日光が入らない代わりに燭台が灯されており明るさには申し分ないが

漂う空気が尋常でなく重苦しい

 

其れに…

先程から其れらをずっと無視していたのだが流石に数が多すぎて気になる

壁画絵画仏像以前の問題だ

 

其う

由来は不明だがこの宗教施設全体がとてつもない陰の気に満ちているのだ

其処彼処からまつろわぬ魂達の声が否応なく聞こえる

 

其処を平気な顔して歩く施設の主は相変わらず柔和ではあるのだが少し不気味に見えた

とは言え、霊感がなければ気づけないものではあるから仕方ないのかもしれない

 

第一不気味だなどと、先ほど引っ込み思案の自分に優しく明るく話してくださった

素敵な御仁を左様に思っては失礼です!

幽霊さんたちなんていずこにでもいるですゆえにどうでもいいじゃありませんです!

 

案内された部屋

五枚の絵が印象的な空間

 

なるほど、なんとなく意図は読める

 

あなたは到着するとすぐに私用の下座を整えた

其の上座からの距離たるや…

 

賢い君なら気づいたかな?

俺の考え♪

 

はあ、まあ、あの、

まず言わせていただきたいのでございますですが…

 

うん?

 

近いです!

流石に先程は応接間なため話をするに近づくこともあると思うですが

此方は明らかに精神修養する神聖な場でございましょうです!

 

なにゆえわざわざ円座取り出してまた性懲りもなくゼロ距離でお喋りの構え!?

神様仏様信じてなくても天罰降るですー!!

 

ふ、あはは

竹刀ちゃんたら最初はめちゃくちゃ緊張しいで吃りで借りてきた猫みたいだったのにやっぱりこんな風にちゃんとはきはき喋れるんじゃない

 

そっちが素なんでしょ?

俺に突っ込み入れる時だけみたいだけど

 

やられた…

どうやらお見通しだったようだ

その通り私は本当はお喋りである

ただ誰かと接するのが苦手で其れが真っ当に発揮される事はないだけだ

ああ、虚しい

 

さて、じゃあ話を切り替えようね

 

結局ゼロ距離のままあなたは言う

ていうかゼロ距離どころか後ろからなんか抱きしめて髪の毛いじってくるんですけど

 

私は流石に堪えかね

 

あのう、離していただきたく…

 

だあめ!

何もしないから何もしないから

いやあ、竹刀ちゃんは本当にちっちゃくて可愛いねえ♪

 

一緒に暮らす恋人がいるのではなかったのだろうか?

至極真っ当な疑問を持ったが先刻聞いた、彼女さんはあなたが他の誰かにいかように

接していても気にしない心の広いお方なる言葉を信じるしかない

ていうか距離を離そうとしてもいちいち迫って来ており放っておくしかないのだった

 

(まあ、その気になればいつでも離れられますですしね、ぶっ飛ばさないとですけど)

 

で、五枚の壁画の解釈、でございますですね

 

うん、わかる?

 

此方は謎掛けの場なのでございましょうかです?

 

流石にそんな無駄な空間作らないのはわかるでしょ

君が最初に言った通り俺の修行場みたいなものだよ

 

まあ、一応尋ねた次第でございますです

 

一枚目は秒で、二枚目は少し捻ってあったが此れもすぐに、三枚目も見たことはない物だったが琉堂院の入口に貼られていた教義と照らし合わせれば難しくは無かった

 

問題は…

 

四枚目からだねぇ

あなたは言った

 

うーむ…

思いつくものが無いではなかった

しかし手前の蝶々がどうしても解釈の邪魔をしてくる

此れは絶対好きだからどうこうで無駄に配置されているのではなく意味を持つはずだ

 

なにゆえこの蝶々は籠に囚われたような意匠として描かれているのだろうか

蝶々とは一般的に生命流転の象徴

しかし其れが囚われている…

まるで輪廻転生を否定するようだ

しかし左様な意味を持たせはしないだろうし

うーん分からない

 

難しいだろうねえ

あなたはニマニマ笑って私を見る

 

この殿方もしかして案外性格のお悪い意地悪なお方なのでは?

私は今更柔和な絵柄の裏の顔を見た気がしてイラッときた

 

四枚目は一旦置いて五枚目も見てみた

 

人々を飲み込む竜の絵

災害に遭い翻弄される人々を模した絵に見える

 

嫌な絵だった

飲み込まれる人々が妙に血を滴らせ、為すすべもなく蹂躙されている

 

竜に人々が飲み込まれる…まるで…

ぶんぶん私は頭を振った

嫌な想像をしてしまう自分を恥じた

 

私は素直に

 

降参です

項垂れて短く告げた

 

えー

もっと足掻いてみてよーまだ夕食まで時間あるよー

 

絶対無理ですー

あと夕食まではご厄介にならないですー

 

じゃあそれならさあ

ねえ俺と良いことする?

 

言うやあなたは私に迫る

いや元々ゼロ距離なのだから今更迫るも何もないが

両頬を両手で覆われ口づけをされそうになる

私は全力で拒否した

 

ご、ご冗談をば!

乙女のふぁーすときっすなる者は恋愛白楽御殿によればあまりにも大事な

其う!

超特別!

なものでございますですゆえ

あの、またの機会に、と

 

はいはい、冗談だよお、何もしないって言ったでしょー

竹刀ちゃんはいちいち反応が新鮮で可愛いなあ

 

要はからかわれただけのようだ

其りゃ其うだ恋人がいるのだ

 

私は仕方なく、では一旦もう少々足掻いてみますですが

その前に厠へ行ってもよろしいでしょうかです?

 

と尋ねてみた

 

あー厠ね

うん向こうだよ

俺もちょっと別の用事があるから行ってこよう

また此処に半刻後に集合ね

 

指さされた方向へ私は歩き出した

 

途中で

はあ、あの殿方

あんなに意地悪な問題出して思ったよりも性格悪くないです?

絶対其れこそが愛想つかされている原因でございますです!

 

し、しかもほんのからかいでも私とキ、キスしようとするとか最低な不埒野郎で

ございますです…!

 

私は負け惜しみ全開の感想を抱いた

 

さて、本当に厠へ用があったのではない

私は踵を返して先ほどの暗い空間へすぐに戻った

 

何かするなら此方が一番気づかれにくいだろうと判断した為だ

当然だが宗祖様は不在だった

 

私はまた胸元をゴソゴソとやりだした

私はあるものを取り出す

 

ぷはあ、

 

とある者は声を上げた

 

あー竹刀のお姉ちゃん、おはよう?

 

おはようございますです、可愛い氷のお人形さん

と言ってもごめんなさいです、今はえーともう夜間近でございますです…

 

私は本当に申し訳なく思って声が小さくなった

 

えーそんなに!

俺随分寝ちゃったなあ

お腹空いちゃった!!

 

はい、もちろん用意しておいてございますです

また胸元をゴソゴソ探りたくさんのケーキ、クッキー、マフィンやカステイラなどを取り出した

私の可愛い子はお手製の西洋菓子が好みなのだ

 

わあい

竹刀のお姉ちゃん大好きー

 

可愛い子は私の胸元でお菓子の欠片を抱えてはしゃいだ

胸元に収まる必要はないのだがお気に入りらしかった

 

其う言えば

とふと思う

 

可愛い子さんは誰かにとても良く似ている気がする

でも誰だろう思いつかない

そもそも自分には交友関係がほぼない

 

(殿方の知り合いなどおりましたでしたっけ?)

だめだ、寿命のせいでちょっとした違和感があってもすぐに思いつかない…

 

 

ねえ、竹刀ちゃん、なんで君、俺の「氷結の継子」と喋ってんの?

 

頭上から見知った声が掛かる

先程までよく話していたその優しい響きの声だ

 

見上げれば先ほどまでとは一転して

其の端正なお顔立ちに貼り付けたような柔和な笑顔ではなく底知れぬ無表情をした

宗祖様が立っていた

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