竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-61 二人三脚

君の出発と俺の朝一の仕事の合間にちゃんと昨日の反省を兼ねて、君と俺の足並みが揃うよう綿密な講話の打ち合わせはしておいた

 

取り敢えず今日も担当は二コマ目をお願いすることにした

 

君はこの期に及んでも、

 

  いや、あの、たくさんの人前というのは、其の…

  

とあくまで緊張しいの性格を強調し難しいのだと自己弁護していたが、昨日の何か切り替えでもしたかのようにどこのお白州かと言いたくなるほど俺に論理的な突っ込みを次々と冷徹に入れまくる君を思えば、自身がやったことの責任を取ってくれという気持ちにしかなれなかった

 

俺もそこまで優しくはないというか、君が俺の優しさというある種の皮を剥いでしまったのだというか…

うん、なまじ方便や思いやりによる意図的な誤魔化し全てを許さないという君の性質に合わせざるを得なくなった俺の苦労も知っておいておくれ

 

後は一つだけ慈悲も与えておいた

いや、逆に追い詰めておいた

 

  信者たちも鳥土里先生にとても期待してるってさ

 

君の目の色が変わったようなのを俺は見逃さなかった

 

 

 

----

 

今日の狩場は東京府にあたる

 

此処でやる事は決まっている

本屋だ、出版社だ、印刷所だ

 

めぼしいそれらをひたすら周り

収穫収穫収穫

大漁だった

 

個人の蔵だと古い文献には当たれるが当然新しい書籍にはお目にかかれない

対して此方では海の向こうの知識にも数多触れることができる

非常に有難い

海外の言葉はとっくに学んでいるから原文ママで読める

 

実は私は昔、海外に三週間ほど留学したことがある

仕える神様が気まぐれに西洋菓子を所望されたためだ

 

英仏伊を回ってお菓子作りをこっそり学んだ

海外の児童向け絵本ではあるまいし、小さな女の子がお店の外からガラス越しにお菓子作りを見つめていても微笑ましいが門前払いを食らうだけ

もっと実践的に透明化した私が、職人さんの真横で作る工程を盗み見させていただいた

 

深夜に睡眠を取らずに新作に挑戦する職人さん等は非常に有難かった

試作しながら、どこがダメ、これはヨシ等好き放題独り言を零してくれて、勝手に味見をせずとも、私の研究帳を満たすのにだいぶ役立ってくれた

 

お陰で今の私は西洋菓子作りが得意だし自信もある

ある、はずだが…

 

  ■やれ、竹刀、このお菓子はべえす作りがなっておらぬわ、卵のかき混ぜ時の泡の分量計算を失敗したな?

  ■砂糖が一匙多いわ

  このままだと焦げて台無しぞ

  ■ここは敢えて風味を増すために塩を入れねばな

  ■季節の果物をめいんに据えたはずが周囲の生地に混ぜ込まれて消え失せておるぞ

 

思い返せば神様は私のお菓子作りを褒めてくれたことなどあっただろうか

いや、お菓子だけでもない

 

  ■竹刀よ、火加減がなっておらぬわ

  ■塩加減が足りぬわ

  ■野菜から水が出ておるが、炒めすぎよ

  ■卵の焼き目はもっとふっくらとさせてじゃな

  ■魚は鉄板ではなく網焼きで

  

注文の多い神様の胃袋を満たせたことは無かったと思う

けれども

 

  ■竹刀のお姉ちゃんのお菓子、大好きだよ!

  ■竹刀のお姉ちゃん、これ温かいね〜

 

  ■竹刀ちゃん、これ美味しいね

  ■ねえねえ、竹刀ちゃん、これはなんていう料理?

  ■竹刀ちゃんは俺のいい奥さんだなあ、愛してる

  ■普段はガサツなのに料理上手な女の子で俺、感動したよ

 

知識として料理を知ってるか、知らないかでしかないのはわかっている

其れでも、ただおいしいと言ってもらえる居心地の良さに救われてしまう自分がいる

 

暫し目を閉じた

今ここにはいない誰かさんに感謝したい気持ちだった

 

そして、目を開き気づいた

 

(ああ、其うか、昨日私があなたの授業でやったことって…)

 

確かに先ほどあなたは責任を取れという趣旨のことを言っていた

つまり怒るまではいかずとも困ったのだろう

 

私が神様に料理を批判された時ときっと同じ気持ちになったに違いない

 

私としてはただ、誤っているところや曖昧なところの指摘をしただけで、あなたの授業を評価する気も況してや批判する気もなかった

 

(けれどあなたは左様には思われなかったのでございましょうね)

 

私はやっぱり人間らしくないのでございますですね

いや、もちろん自身のやったことを棚上げして、化け物ゆえに仕方ないのだなどと擁護する気はサラサラない

其れではあなたに失礼なままだ

 

(なるほど、責任でございますですね)

 

ええ、取らせていただかないとお給金から考えても割に合いませんですね

 

私は覚悟を決めた

もう引っ込み思案や吃り、緊張しい、そして、化け物且つ死者ゆえに関わり合いにならないなどと言っていられる段階は、とうに越してしまったのだとようやく悟った

 

其れと、もしかして、ということも一つ思いついたので後であなたに聞いてみることにする

あなたは私のちょっとした言動に突っ込みを入れることはあっても真っ向から否定したり、批判したりはしてこない

 

料理も同じだった

いつもふんわり褒めてくれて、感謝してくれて、悔しいが居心地の良さを感じてしまっていた

其れがやりがいとなっていた

 

(けれどもし、私のためを思って飲み込んでいる本当は別の感想があったなら?)

 

私は貴方に美味しくないものを提供してしまっている可能性がある

其れこそ嫌だった

 

ダメなときはダメと言って欲しかった

お願いしてみよう、自信喪失に繋がるとしても私がもっと成長するためだ

あなたは私に昨日、講義にて人に触れることで己の殻を破れといった

その段階はなんとか突破したのだ

 

ならば、私も次に進まねば

料理も人との接し方も、そしてもちろんあなたとの付き合い方も私はもっと「大人」になるべきなのかもしれない

 

少なくとも優しいあなたに守られ、侮られ続けている小鳥のままであってはならないのだ

 

其れから更にもう一つ

神様は私のお料理を批判するので、内心、「辛い!」とずっと思い続けていたが、なるほど、誰かのためにするのが料理であるのなら、生半な物は提供できない

 

今美味しいと食べてくれているあなたに批判されたいと思った気持ちは確かだ

つまり料理とはただ、美味しいと言ってもらえるよりも、其処に伴われる真の感想が必要な分野なのかもしれない

 

神様は最初から其れが見えていたゆえに、私のために批判を続けてくれていたのだとやっとわかった

 

(…いや、でもやっぱり親愛なる私の神様

せめてひとことくらいちょっと甘めの感想も欲しかったです)

 

叱咤され続けてやる気なくすのは一番の本末転倒だろう

 

同じことをしてしまった私も、あなたに昨日のことをきちんと謝らないと

もし、やる気をなくされてしまっていたら普通に悪かったですし

 

などと思っていたところ…

 

(あなたは本当に丁度良いところで私に連絡をくださるですね)

 

よーし!

まずは二コマ目

文字通りの二人三脚でやり遂げねば!

 

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