竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-63 料理人の気まぐれな愛の形

頭も気分も最悪だ

 

唯一の救いは取り敢えず何も出来なかったこと

あなたとまぐわっても今朝は出来なかった

其の後もまあちょっと情事自体は交わしたができていない

其れだけはホッとしていられた

 

けれども

 

(何でも話す、其りゃ其うでございますですよね…)

 

殺し合う敵同士ゆえに平行線

左様に言っていられた間は良かった

私から其の関係を折ったようなものではないか

 

批判してくれという厚かましささえある願いはつまりいかなる事でもあけすけに言い合おうという宣言でしかない

 

私は絶対に言えない事があるのにバカだった

もう既に終わった身で一丁前に人らしくというか、個としてありたいという願いでもいつの間にか大きく膨らんでいっていたのだろうか

死者が成長なんてするはずもないのに…

 

あなたと私の立つ場所は始めから違う

其処から一歩でも出ようとすれば私は自らの首を絞める結果となる

丁度、今のように

 

あなたを騙し続ける私が成長なんて土台望んでもいけない胡蝶の夢

 

胡蝶か、頭に浮かぶ顔があるが今はしまっておこう

 

とにかく、折角一歩踏み出せたと思える世界から破った殻へ自ら引き返す雛でしかない私は結局、前に進むことはできはしないのかもしれないと思い直すしかなかった

 

----

 

(大丈夫かなあ、竹刀ちゃん)

 

とはいえ、取り敢えず次は昼食準備のはず

 

さっき、最後に別れた時とても沈んだ表情をしていたのが気になっていた

俺はうかつなことを言ってはいなかっただろうか?

さっき堪えきれずに泣いてたらしいことを考えると、というか君を暫く観察して思ったことでもあるけど、君は案外繊細で泣き虫だ

 

何かを抱え込んでいるらしいことは分かるけど大体いつも何も言ってくれない

きっとそれは君の持つ優しさで俺はそこに踏み込んでいいのかいけないのかわからない

だから黙っているつもりだった

 

けどさっきはつい言ってしまったな

泣いてる君があまりにも、我慢しているみたいで「俺を頼って」という気持ちを真っすぐぶつけてしまったよ…

 

君の空間にお呼ばれしてまた対面したけど、ああ、なんかまた無表情貼り付けちゃったみたいだなあ

 

不安は的中かあ

「言い合おう」って言葉はきっと君を相当強く縛っちゃったのかもしれないなと俺は察した

 

泣き腫らした顔は消えていたが代わりにいつもよりも見るだに暗い暗い

無表情の奥に暗澹とした陰気を纏っていた

 

(これは、まずい…)

 

もういっそさっきの全部撤回してしまおうか?

いや却って刺激すると良くない?

俺は軽く混乱したが、取り敢えず君の反応を伺うしかなかった

 

(ああ、虚ろな表情で包丁持ってる、もはや怖い!)

 

君はつくづく人付き合いってやつに難ありなんだなと思う外なかった

 

君は小声で声を掛けてきた

 

  あ、あの

 

お、吃ってる、言いにくいことを言おうとする時の君の癖だ

 

  なんだい、竹刀ちゃん

  

俺は努めて明るく朗らかにそして決して急がずゆっくりと先を促した

 

  お料理、其の、美味しくなかったら、いけないと思いまして、です

 

おや?

これはどうしたことだろう

 

君の料理が美味しくなかったことなんてない

寧ろいつも最上級だ、多分、俺は羅刹だから、本当に人間の舌での評価はできてない可能性あるけど

 

(あ、そうか!)

 

俺は提案を思いついた

 

  ねえ、じゃあさ竹刀ちゃん

  信者たちに出したら?君の料理

 

  え?

  

  ほら食材いつもいっぱい使ってたくさん作るじゃない君

  多少信者たちにも食べさせてあげられるんじゃない?

 

  なるほど

  其れは確かに

 

実は俺は断腸の思いでいたんだ

 

だって君が一生懸命俺のために作ってくれてるのを知ってるのに何が悲しくてそれをわざわざ無関係な信者たちに振舞ってやらねばいけないのか

 

君の愛は俺が全部独占したい

 

君は愛情表現は皆無というか、たまに思い出したようにデレてくれる気がする事と、そもそも多分俺なんて全く好きじゃないから愛情なんて欠片も向けてくれなくても仕方ないんだって事で俺は俺自身を慰めているというのに…

 

そんな風にいつもは気まぐれにもほどがある君の愛情ってやつを、手料理からだけは、毎回しっかりとした形で感じられる、非常に大事な俺の心の栄養分なのに、それを他人に横から掻っ攫われるとか、況してや自分からそれを手放すような提案なんてしたいはずはなかった

 

だけど君が悲しそうで、さっきみたいに泣いちゃったら俺だって胸が張り裂ける思いだ

だから仕方ないんだと俺は自分で自分を慰めた

 

という経緯で作る分が増えてしまったため、俺も積極的に手伝った

だって竹刀ちゃん一人でもできるだろうけど、俺が手入れた方がまだ完全に竹刀ちゃん作の手料理って状態からは遠ざかるもんね

 

なんだかんだと毎食二刻ほど、今日の昼分で手伝い始めて六回目にもなるので器用で要領が良い俺は少しは料理の腕がつき始めていた

そもそも竹刀ちゃん先生って何につけても物を教えるのに手抜かない子だから手厳しいご指導で上達も早い

 

それはそれで、昨日の講話でのあの顛末も想像できなかった自分が今更悔やまれたがまあ時既に遅しだ

 

君はたくさん作れるってことでいつもよりも気合が入っていた

 

(ねえこれ「やりがい搾取」ってやつ俺させてないよね?大丈夫だよね)

 

また別の事が心配になってしまった

 

たくさん作れて嬉しそうだった君は、提案した俺へのご褒美とばかり懇ろに甘えさせてくれた

何でも「えっちなことも前向きな学びと考えるようにいたしますです」とのこと

 

君は向上心が旺盛だよね

俺は棚から出てきたぼた餅を綺麗に食べ尽くした

 

さて、拵えた料理は適当に氷結の継子に運ばせ、頃合いを見て君の転送術にも頼って信者にさり気なく食わせてみたが普通に大絶賛だった

そりゃそうだ、俺は羅刹になる前は人間だったしその頃だってそれなりに上等な物は食べていたはずだ

 

羅刹になったら普通人間の食べ物はまずくて吐き気しか催さない代物に変わるのだが君が作ったものは君の稀血の力がそこから伝わって血の一滴すらも入ってなかろうと、羅刹が普通に食べられる食事に早変わりする

 

しかし、君の料理は別に羅刹が好む味かといえば、多分そんなことはなかった

肉肉しい訳でも羅刹が人間からのみ感じるような独特な芳醇な甘美さがあるわけでもない

 

つまり俺は君から羅刹用の特別な食事を提供されていたのではなく、普通の人間が食べるような非常に美味しい上等な料理を饗されているのだと気づいていた

 

羅刹になって長い俺は正直な話、食べ物の味なんてまるで覚えていなかったが、君が久しぶりに食べさせてくれたことで、食事とは本来こういう味がするものだったと思い出させてもらっていた

 

君は料理上手だからとても美味しかったけど、変わったものを食べさせられたとかそんな感想はほとんどなくて、ただ人間の頃に戻ったように「ああ、美味しいな」とそう安心できる味をしていた

 

だから信者の反応だってはっきり言って予想の範疇を出ない

こんな事を態々証明してみせる必要もないと言えば無かったが、君が落ち込んでるなら話は別だからね

 

君はガサツでずぼらで面倒くさがりなくせに本当変なところで非常に繊細な女の子だった

まあ無表情の奥にも嬉しさが滲み出ててめちゃくちゃ可愛いから許すけど

 

しかし、この時俺は知らなかった

折角昼間これだけ、なんとか泣いた君を慰めに成功していた気になっていたのに、この後また君を俺のせいでどん底に落とすことになるだなんて――――

 

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