竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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小学校の教科書でおなじみのアレです。


20回目-64 大きな蕪

昼が終わり午後になった

 

これから少しだけ、仕事の空き時間だった

俺としては別にずっと君とまぐわっていても良かったが…

 

  うーん

  一刻と少しかあ

  竹刀ちゃん、なにかしたいことがあったら付き合うよ

  連れていって

 

  ふむ

  では農作業などはいかがでございましょうです

 

  農作業?

 

それはなかなか変わったご提案だった

俺からお題振っといてなんだけど、竹刀ちゃんは時々変なことを言い出してくれる

 

  あなたは身体が大きいですし、なかなか使い勝手がおよろしいかと

 

  …何するの?

 

  大きな蕪を

 

  蕪?

 

  ええ

  非常に大きな蕪を引き抜きましょうです!

 

また君のズレた感性に巻き込まれたようだ

 

  なんです、其の胡乱な目は…

  一応、たまあに、日雇い仕事としてやっておりますのです

  

君はそんな説明をしてくれた

百姓達が掘り出すのに困ってしまうほどそれはそれはでかい蕪が地中深く実るとのこと

 

大男十人ほどでもテコでも動かず手を焼くそれ

しかし味は甘く濃厚で一個(一体?)引き抜けば百人くらいの蕪料理が作れるのだそうだ

 

早速、君は信者たちニ百人超えの胃袋のために腕によりを駆け出す気満々だ

相変わらず俺は複雑ではあるが、うちの奥さんときたら頑張り屋さんで偉いなあとは思う

 

農作業など阿呆くさいし面倒だなあと思ったが、君は俺の二の腕、肩、鎖骨、などペタペタ触って品定めしだし

 

  合格!

  

片手を握り拳にして親指を天へと突き上げていた

 

何か呆れるほど上機嫌だったのでもはや何も言うまい

これこそまさに惚れた弱みというやつだった

 

くだんの畑のある集落には、人けが少なかった

途中、通り掛かられる地域住民の女の子というか、年齢が俺よりも遥か年下というだけのどう見てもただのおばちゃん達に次々と

 

  美丈夫ねえ

  

  あらあ、背も高いわよお

  

  良い肩してるわあ

  

みたいな声掛けをひっきりなしに受け続け、少しでも周囲に溶け込んで目立たぬよう仕方なしに

 

  ご無沙汰してます

  

と言っては、心の中で「初見だよ!」と叫んでいた

 

君は俺が捉まっていようとお構いなしに、俺を置いてさっさと前に歩いていってしまう

 

(そういうところだよ竹刀ちゃん)

 

適当に失礼にならないようにお嬢さん方(ただのおばちゃん)に挨拶を交わす

低姿勢でペコペコと頭を下げ続けやっとの思いで解放された

俺は半泣きで、さっさと歩いていく君を追いかける

 

  竹刀ちゃん!

  俺育ちが良いから雑草みたいな免疫無いんだよ、何で普通に置いてっちゃうの!!

 

君に訴えたが、涼しい顔して流された

いや相変わらずただの無表情なんだけど

 

  それにしても、俺が目立つのはわかるけど、君もそれだけの容姿持ってて全く注目されないのも妙だね

 

  ああ

  私は化け物ゆえに人付き合いしたくないですゆえ、普段から認識阻害術掛けておりましてです

 

面食らった

 

  それ俺にもやってよ!

 

  え、別にあなたは人と関わり合っても困りませんでしょうです

  いざとなれば逃げられる羅刹さんでございますですし

 

  それ、疾風の逃げ足持ってるくせにちゃっかり自己防衛してる君にだけは言われたくないんだけど

 

  面倒事に巻き込まれぬための私なりの処世術でございますですが

 

  それは処世術なんて言わないの、ただの反則なの

  普通は誰でも人のしがらみの中で生きるの!

  それは羅刹でも、化け物…いや、人外ちゃんでも同じなの!

  

 

  えー

  あなたが屁理屈言うのは珍しいでございますですねー

  何か嫌なことでもございましたですか?

  私が慰めて差し上げた方が

 

俺はちょっとマジでイラッときた

 

  天然なのか煽りなのか知らないけど、流石に今はそういう話じゃなくてさあ

  そもそも、俺、この時間を君とのまぐわいに充てても全然良かったんだよ

 

  ただ…さっき君があんな様子だったから気分転換は必要かなって思って付き合ってあげたのに、何この扱い、もっと俺を労って欲しいよ

 

  なるほど

  私のためだった、と

 

  俺は基本的に大体の行動は君のためだよ

 

  私を満足させることによるあなた自身の充足を狙っている意味合いもあるように感じるですが

  ひと言で申せば、下心

 

  それは無いと思ってる方が間違いだっていい加減君も学んでるはずでしょ

 

  まあ、仰る通りではございますですが

 

  でもまあ、少なくとも竹刀ちゃんが竹刀ちゃんらしい調子を取り戻したようで何よりだよ、本当心配させないでよね

 

  あ、いえ、其れは其の

  えっと、申し訳ございませんでしたです

 

  違う違う、そうじゃなくて

  お帰り、いつもの俺に皮肉たっぷりの竹刀ちゃん♪

 

俺は君に笑顔を向けた

 

  た、ただいま戻りましたです、あなた、えっと狩衣さん?

 

君にちゃんと名前を呼ばれて嬉しい俺

 

  ヨシヨシ、よくできました〜

  

俺は額を撫でてあげるが

 

  バカにしてるです?

 

 してないよ

 

(あ、またこれかー)

 

 いいえ、絶対バカにしてるです!

 

  してないってば

  ねえ、竹刀ちゃん、俺の事好き?

 

  巫山戯ないでくださいませです!

  あなたのことなんて大大大大大嫌いでございますです!

 

  えー、冷たいなあ

 

  当然でございましょう

  もう、本当にどうしょうも無き殿方でございますです!

 

その後、蕪引き抜きはかなりの成果を上げたが俺にも君にも所詮、茶番というか、疑似労働ではあった

 

俺は羅刹で君は人外

本来の力をちょっと出せば簡単にできるのに敢えてどちらも力は抑え、蕪側の抵抗を愉しみつつ、遂に蕪側が根負けし、哀れにも引き抜かれるという、趣旨が絶対異なるお遊びに興じていた

 

君は最後、

 

  時々やる分には良い「いたずら」でございましょうです

  

舌をぺろりと出してけろりと言ってのけた

 

  まあそうだね、こんな量そこらに放置しても仰天されるだけだけど、まあいたずらなら有りなのかな?

 

  ちゃんと成功報酬は頂くですがね

  一応日雇い仕事の一環でございますですし

  ほら其処

 

君が指差した先には…

 

カサカサと風に揺れる、安っぽい半紙に刷られた瓦版が、近くの木の幹にピンで留められていた

そこには、墨の滲んだおどろおどろしい挿絵とともに、いかにも大衆を煽るような文字が躍っている

 

『怪奇! 一夜にして出現せし謎の蕪山! 農家一同、大層な困惑に御座候』

 

その横には、さらに誰かが後から書き足したような、生々しく切実な墨書き

 

「引き抜いたら、その蕪は差し上げます

というか、置いていかれてもガチで困るのでちゃんと持って行って!」

 

明らかに誰かさんのいたずらで周囲一面引き抜いた蕪だらけになって困り果てる地域住民の様子が、瓦版の挿絵からもしっかりと伝わってくる

 

  君っていたずら好きな妖狐みたいな化け物なのかい?

 

  さあ?存じ上げませんですが♪

 

鼻歌口ずさんでて君はちょっとだけ、ご機嫌だった

 

一応、ご本人の弁としては

 

  私は人を困らせるいたずらは好みませんです

  大きな蕪を置いておけば皆さん食べ物に困らずよいでございましょう

  まあ、ちょっとだけ、溢れさせてみようかな?とか考えた心持ちもないではなかったですが…

 

とのことだ

 

  ところで君に付き合ったんだし次は俺に付き合ってよ

 

  まあ、仕方ないでございますですね

 

  えー反応相変わらず悪いなあ

  俺、慣れないことして頑張ったでしょ

  労ってよ

 

  はいはい、では次は琉堂院にて日雇いのお仕事でございますですね

 

  いや、日雇いじゃなくてもうちょっと…

 

  其れは風の向くまま気の向くまま、全ては天気模様次第でございますですよ

 

  天気ねえ

  まあ、このまま快晴だろうけど

 

  いいえ、雨でございますです

 

  ?

  何で断言するの?

 

  分かりますですゆえ、普通に

 

感情の読めない横顔

俺はふーんとだけ返して、それ以上は気に留めなかった

 

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