竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-68 三人目の相談者-1

三人目

借金の質に身を売られ、男娼の店に買われて体を酷使し、性病をうつされ行くあてもなく、とうとう死のうとしたが、運悪く巡査に見つかり、自殺幇助未遂か何かで捕まって前科がつき、監獄で長い刑期を食らい、もうすぐ出所というところで獄舎が火事に見舞われ、混乱に乗じて逃げた扱いとなって逃亡犯になり、再び捕まって追加の刑を食らい、ようやく

刑期を終え初老となった男性

 

(お、おっと、これは…)

 

ここまでのは流石に珍しいね

なんか凄いの出てきたな、こりゃ

 

竹刀ちゃんは

 

ん?

竹刀ちゃん?

なんか虚空見上げてる

どうしちゃったの?君

 

俺は取り敢えず初老のハゲ頭の男性に向き直る

 

  えーと、取り敢えずうちの門を叩いてくれてありがとう

  うん、凄く苦労していたんだねえ

  君の辛さはよくわかるよ

  大丈夫、君の今までの努力は無駄にならないよ、きっと極楽浄土はすぐ目の前だから、あと少しだけこの世でお勤めしていこうね

 

そして一応竹刀ちゃんは、と俺は横を向いた

 

おや、何かを言いたそうにしているかな

 

俺は心内会話で話し掛けてみた

 

  《竹刀ちゃん、どうしたの?

  何か言おうとしてるのかい》

 

  《あの、狩衣さん、えっと、此方の男性は》

 

  《うん》

 

  《呪われていらっしゃいますです》

 

  《呪い?》

 

  《はいです

  呪いよけしないときっと持たないです》

 

  《それならもうほっといてもいいんじゃない?

  いつから呪われてるか知らないけど、そもそも呪いなんて産物あるかも知らないけど、まあ君が言うんだからあるんだろうね

  確かにとんでもなく不幸続きみたいだけどここまで生きたんだから運はそこそこ強い方なんじゃないの》

 

  《いいえ、此方の男性は死の呪いの類ではございませんです》

 

  《と言うと? 》

 

  《不幸に遭わせるだけ遭わせ追い詰めて、けれど巧妙に死なないように調整する、いわば生き地獄の呪いが掛かっていらっしゃいますです》

 

  《何その嫌がらせ》

 

  《左様な類なのでございますです》

 

  《じゃあ逆に死なないんじゃない?》

 

  《流石に体力の問題もあるわけでして次はないものかと

  其れに斯く呪いの施術者は其処らの市井の方々ではございませんです

  長年渦巻く呪い、此れは恐らく幼少の頃に山で穢れなどに触れてしまっているものかと

  物の怪などの類になりますです》

 

  《えー

  何した感じ?》

 

  《道祖神やお稲荷様、狛犬像辺りに何かしたものかと》

 

  《はあ、そうなんだ、

  で、竹刀ちゃんは何かしようと考えてるの?》

 

  《まあ、護符を配るとかですかね

  一応肌身離さず持っていれば意味は成すかと》

 

  《ふーん

  その護符っての竹刀ちゃんは用意できるの?》

 

  《ええ、お時間いただければ》

 

  《どのくらい?》

 

  《書く時間だけでございますですゆえまあ四半刻もあれば》

 

  《そのくらいなら相談者くんには待っててもらおうか》

 

  《良いのでございますです?》

 

  《君が何かしてあげたいんでしょ?

  俺は門外漢だから黙るしかないし》

 

  《ありがとうございますです、あなた、あ、狩衣さん》

 

  《うん、じゃあ適当に話繋いでおくからいったん書いてきなよ》

 

  《わかりましたです》

 

君は一旦一礼してこの謁見の間を辞した

 

さて、俺は改めて初老の男に向き直るが、間を持たすというか別に何もする気がなかった

 

というのも慣れているからだ

 

ここの門を叩く者に共通する事

全員不幸を抱えている

不幸というのは本物である竹刀ちゃんとは違う、俺みたいなエセ聖職者でも信頼さえあれば汲み取ることができるもの

 

いや、別に俺が汲み取ってあげる必要もそんな気もサラサラないんだけど…

ただ、抱えているものなんて例えばこんな風に少し潤滑油を注いであげるだけで

 

  ねえ、相談者くんもまだまだ抱えている悩みたくさんあるだろう

  ちょっとさっきの可愛い俺の見習いちゃんが戻ってくるまでの間聞いてあげる

  好きなだけ話してご覧

 

  はい、宗祖様、あの、実はですね、

 

ほら堰を切ったようにこぼれ出す

あとは、何刻でも話し続けるだろう

 

俺は聞き流すだけだ

それよりも竹刀ちゃんのことの方がよっぽど大事だし、あの元気のなさは心底心配だ

 

なんか相談者くんが壮絶な人生を語ってるが俺は興味を惹かれない

いやまあ、なかなかない不幸話だから多少耳を傾けてもいいかもしれないけど、やっぱり上の空になる

 

そろそろ四半刻経過だ

 

(竹刀ちゃん、戻ってくるかな?)

 

お、廊下を音もなく静かに駆ける気配

君の走り方だ

 

  《あなた、戻りましたです》

 

心内会話に君からの応答があった

 

  《了解

  扉開けるから待っておくれ》

 

  《あ、でも斯く声は、今、相談者さんがお話されているのでは》

 

  《ちょっと待ってもらうように言うからいいよ》

 

  《悪くはないでございますです?》

 

  《悪くも何も、君がここ来てくれなきゃこの件は意味ないでしょ》

 

  《はあ、ですが、男性は私のことご存知でもございませんですし》

 

  《大丈夫だよ、俺もついてるし

  御札は折角作ったんだから君から渡しなね

  俺は怪異の類はさっぱり分からないし》

 

  《あなた自身が羅刹さんという怪異ど真ん中の存在でよく仰るですね》

 

  《それを言っちゃお終いだよ》

 

  《ほら扉開けたよ、戻っておいで、竹刀ちゃん》

 

  《はい、承知いたしましたです》

 

 

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