竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

70 / 70
20回目-70 竹刀の相談ー心境

東京府 とある山奥にて

 

雨が降っている

冬の冷たい雨だ

 

  蝦夷よりも遥か北からの凍てついた風

  暫く止まないようでございますですね…

 

別に傘を差しても、頭上を適当な防御をしても良かったのだが、竹刀は何の選択もせず、髪、服、足まで全身ずぶ濡れで雨に打たれ続けた

 

全身が血に染まり、鉄錆の匂いが鼻を突く

敢えて拭くのもとても億劫だった

どうせ雨が洗い流すだろう

 

今夜の狩りも恙無く終えた

だから…

 

その場に留まり、もう何もすまいとしていた

 

しかし意識だけは考え事をしてしまう

そういう風に頭ができているのだ、これは仕方のないことだった

 

彼女はつい一刻ほど前の出来事を反芻していた

 

----

 

  お悩み相談でございますですね

 

私は頷いたのだ

内心、最初はやりたくないと思ったが、あなた、狩衣さんは私に期待をしてくれている

其れに私も成長したいと本日思ったばかりだ

 

ある意味でトラウマ克服のいい機会かもしれないとも思った

 

案内された厳かな謁見室

あなたは高い上座に座り背後には如来像がある

 

私は其処から少し下がった位置に固定された

 

其の後に各相談者さんの入室毎に簡単な挨拶と自己紹介を交わした

流石に初対面の方に挨拶する時は私は相変わらず吃って、声も小さくなった

 

一人目は旦那様が借金を作って逃げられたという若い哀れな女性

話している時々で鬼気迫る強い語気が出て旦那さまを大層お恨みになられているのは見て取れた

 

斯くままではいつか亡くなられた時、呪縛霊となられてしまう可能性があると私は危惧した

いや、生きている段階でも既に化性に取り憑かれるやもしれない

 

あなたの提案された、というかあなたは立場上、其の提案しかお出来にならないが、何がしかの宗教に帰依し、心を改め取り組むという姿勢を身に着けていただくというのは実は邪気払いには有効手段だったが其れでは遅いかもしれない

もう見るからに闇へと堕ちる寸前だった

 

私はせめて御心鎮めて日々健やかに、と願ったが、肝心の相談者さんは撥ね退けてしまわれた

 

(まあ、私が申し上げたことはただの気休めにしか聞こえなかったでしょうしね)

 

けれど下手に祝詞の詠唱でもしようものなら、邪気払いはできても、汚染された魂ごと冥府へ送り届けてしまいかねなかった

死病に伏せる方に、お医者様ができる治療法はできるだけ安静な延命措置しか無いように、私も当たり障りなき事しか言えなかったのだ

 

あの時、優しい狩衣さんは私を心配されていたようだったが、そもそも邪に憑かれた方の言をいちいち気にしても仕方ない

然程、私は堪えてもそもそも真っ当に取り合ってもいなかった

 

ただ、容姿が原因というお話だったし、ならば、無理やり其れに起因する邪気を払う術でも行使して、ちょっとした封印や魔祓いをしてしまおうかとも考えたが、

 

ええ、あなたの言う通り、世にはたくさんのお困りになっている方がおられる

皆に分け隔てなく同じ力を与えて差し上がることはできない

私は決して万能の神様ではございませんのです

 

見捨てる可能性のある選択ではあったが、私は其れを選んだ

 

けれど、其うしたことで結局私はあの頃、九年前の、幼くあまりにも未熟な己と変わることは無いのだと思い知ってしまった

 

(其う、決して私は神様ではないのでございますです)

 

 

二人目の男性は、幼き頃に奴隷商人に売られ買われた奉公先で働き続け摩耗し疲弊し、そして役立たずと罵られ捨てられたお方

 

行き先がないため、評判の宗教施設の門を叩くは必定でしたのでしょう

 

憑き物はいない様子でしたがとにかく生きる気力、精気が薄い

患ってもおられるようでしたし

 

あなたの仰った、精神上、仏様の信徒となる事で向上心や自信を取り戻させようとするお考え、なかなか素敵な采配と思いましたです

 

寧ろ、其れだけで良かった

 

あの時、私に意見を求めては欲しく無かったのでございますです

ゆえにできる限り月並みな普通の返答に留めましたですが

 

私は何かをして感謝されたくない

真っ向からの人助けをしたくない

 

全ては過去の幼き私がやった大失態に起因する

 

自身がやったことの結果はできれば見たくない

つまり言い換えれば何らの評価もされたくない

 

ゆえに私は日々いたずらをする

結果を知らなくて済む

私はできる限り世間とは関わり合いになりたくない

 

(まあ、あなただけは例外としておきますです)

 

日々散々やり込められてる反抗としてね

胸もすきますし、素の驚いた反応見るのはちょっと面白いですし

 

とにかく、其れら後ろ向きな行いは此方のような場所をもう二度と作らないという私なりの誓いなのです

どれだけみっともなかろうが、です

 

やはりトラウマ克服なんてとんでもなかった

私の芯がぶれてしまうだけの世間に迷惑を掛けかねない危険な行いとよくわかってしまった

 

(其の筈、でしたが…)

 

だめだ限界だ、堪えていた、けれど本日元々ふとしたことで泣いてもいた

いや、あの時の涙は良い、未熟な己の情けなさから来る涙なら許容する

 

けれど、此れは明らかに其れとは違う

「恐怖」

其れも同じ事を繰り返すかもしれない、いや、してしまったかもしれないという恐れ

 

(私は此の種の涙は流してはならないのに!)

 

だって左様にしたら浮かばれないではないか

皆が、私の大事な、愚かな私を特別慕ってくれていた私の家族たちが!!

 

 

  三人目の相談者さん、あなたは勘違いをしている

  私は決して神様になどなれない罪人にございますのです

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。