お世話役のお姉さん
改めて一週間お世話になりましたです
では神様役は本日で終わりですゆえ、明日はお隣に戻りますですね
竹刀は自身の面倒を一週間見てくれた神様の側仕え役の女性に頭を下げた
ええ、小さな優しい神様
またいつでもおいでくださいませね
世話役の女性は竹刀の頭を優しく撫でた
はい、承知いたしましたです!
其う、戻らなければ
お隣に住まう家族たちの元へ、優しい首長のおじいさんの下へと
それから暫く経った頃、竹刀は集落へ向かってゆっくりと歩いていた
もっと急ぐことは出来たが、途中何か花でも摘んでお土産にしようかと考えたからだ
それにあまり早く移動しすぎると怪しまれる恐れもある
何せ竹刀は数え二歳にして既に韋駄天と呼んで相違ない脚力を持っており、十里の道でもあっという間に駆け抜けてしまうのだ
集落間の距離は五里ほどなので子供の足の速さで換算して二晩くらい費した方がおかしく思われないと考えた
集落間には森が挟まったように位置し、そこに流れる川からは優しいせせらぎが聞こえている
竹刀はそこが気に入った
旅立っても大事な「家族」である集落の人々の様子を確認しがてら時々は訪れようと決めた
季節が冬であるため、生憎お土産になりそうな花は咲いていなかったが、川で綺麗な石を見つけ、此れで良いかと考えた
たっぷり二晩かけて歩いた後、やがて集落が見えてきた、が、少し様子がおかしいように思われた
風に乗って焦げた匂いが運ばれてきたのだ
どこかで火事でもあったのだろうか
いや、近づくにつれはっきりわかる
あまりにもそこら中が焦げ臭い
集落へ戻った竹刀は遂に見た
見てしまった
自身を神様と呼び、孫のように慈しんでくれた人々の残骸を
蛆すら湧かぬほどに損壊した遺体
夥しい数の乾いて黒ずんだ血の付着した、骨という骨
全滅だった
集落は家も畑も全ては灰に帰し、かつて「家族」の笑顔が溢れていた空間には、吹き抜ける寒風の音以外、もう何も残されてはいなかった
もう火の手も数日は前にとっくに焼失した後だったようだ
弾かれたように竹刀は後方へと駆け出した
此方には此れをやった実行犯の気配はない
ならば今いずこにあるのか?
(まさか!)
彼女は韋駄天の脚力で五里を一瞬で踏破した
二日前に自身が居た集落だがこちらも火の手が上がり、流石に火はまだ燃え盛っていたが同様の有様だった
ただ、違ったのは――――
…あなた方が斯くを行った犯人さん方でございますですね?
竹刀は静かに二刀を持って住民の残骸を食らう影達に近付いた
影達は振り返り口々に告げる
やっぱりいやがった!
稀血だ
こいつは極上だ!
だから言ったろ
当てたんだから全部俺のものな?
何言ってんのさ全部先に殺したやつのもんに決まってんだろ
て事であたいが一番乗り!
幼い竹刀に異形の魔の手が襲いかかる
が
彼女は持っていた二刀にて応戦する
へー
ちびガキのくせして一丁前に刀使いやがる
だが覚えときな
あたいらはそこらの雑魚羅刹と違うのよ
何せ羅刹の頂点、来羅木祇園様に直々に選ばれた二十四節巍だからな!
確かに強い
幼き竹刀は本来こんな強敵を相手にするようには訓練されていない
おまけに相手は三人だ
防戦一方だった
くっ
(だが、其れでも!)
決して赦さない
私の家族を奪ったあなた方を!
世の全ての羅刹さんを!!
しかし、竹刀は流石にまだ未熟過ぎた
三人相手ではあまりにも多勢に無勢
敗北したのだった
彼女はそのまま身体を人食い羅刹達に余すところなく食べられ消滅する
はずだったが…
おい、なんだこりゃ!?
食った端から再生しやがるぞおい!
羅刹でもねえのに!!
訳わかんねえけど
て事は無限に食い続けられるじゃねえか
きゃっほーい!!
そう、鳥土里竹刀は身体が再生する化け物だった
それから毎日食われては再生を繰り返した
当然、こんな無限に近い餌となった彼女が羅刹達から解放される日はなかった
死にはしないが、生きているというにはあまりにも凄惨な状況だった
竹刀自身、もう何もかも諦めてしまおうかと思った事も何度もあった
しかし胸に燻る其の思い、家族を奪われた、決して赦さないという火が消えてはくれない
二つの集落が襲われた原因自体ははっきりしている
私だ、私なのだ
私は稀血、彼ら羅刹があまりにも好む格好の餌
ゆえに其の気配を消していたつもりだったがきっと生き倒れた時だ
あの時から私の匂いは外へ漏れ始めていたのだ
其して祭りの日
もっと深く考えるべきだった
なにゆえ毎年祭りの夜は「雨」ということになっていたのかを
お香だ
魔除けとされる魔除けの効果自体は全く無い其れ
本当の効果は
羅刹さん避けだ
きっと羅刹さんが苦手とする匂いを常に放っていたのだ
あのお香は
しかし私がどちらの村でも祭りの夜は晴れと予言したことで夜通し騒ぐために強い臭いのするお香の火は消され
結果、きっと私の稀血の強すぎる匂いが染み付いてしまっていた二つの集落に、彼ら、今私を貪る羅刹三体が現れ、恐らく私の居場所を訪ねる目的で全ての家々を回って其処の住民を殺し、食い散らかしたのだ
完全に私の失態だった
其してやっと理解した
神様が決して一箇所に留まってはならぬとした理由
私の中にある莫大な稀血の匂いを完璧に消し続ける事は不可能だということなのだと
身体は毎日羅刹さん方に代わる代わるり喰われた
回復はするが離してもらえる事はありえぬ生き地獄
肉をちぎられ、骨を砕かれる激痛
回復してはまた喰われる、終わりのない生き地獄
だが、死なない身体ならば、試せることはいくらでもあった
まずはとにかく剣技を鍛え直さなければ
彼ら二十四節巍さんに実力が届くよう目を瞑り精神の奥底だけで私はひたすら自身を鍛え直した
神様が少しだけ教えてくれた私の持つ、神祷術を使うための特別な気、「聖浄気」を練り上げ、脳内で幾千、幾万回と敵の頸を斬らずに倒す夢想を繰り返した
彼ら三体も思い描く
やがて想像の中で彼らを倒せるようになった時、私は目覚めた
今度は負けなかった
辛勝ではあったが少なくとも撃退する事には成功した
すぐに追手が掛からないとも限らない
立ち去るべきだったがやり遺した事が余りにも多すぎた
私は此れもまた想像のうちにだけで鍛え続けた、斯く、集落二つ分の空間を一気に囲い込む封印術を放った
それこそが後に神様をして、空間術、封印術の専門家と言わしめる程にまで成長した竹刀が最初に使った小さな封印術だった
また、この時彼女は決めたのだ
バカみたいにヘラヘラ笑っている愚かな自分はもう止めにしようと
彼らを弔い続ける限り決して笑顔を浮かべることはない
集落の人々が愛した彼女の花咲くような屈託なき笑顔もこの場所と共に永遠に封じたのだった――――
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自身の愚かさの回顧が終わり、満十歳の竹刀は深いため息を吐く
(ゆえに私は決して神様になどなれないのでございますですよ、あなた…
いえ、狩衣さん)
ちょっと規模が大きいだけで起きたことは原作と同じです