竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-75 雨降って怒る

自分でも思う

今日は泣いてばかりだ

どちらもあなたの優しさに図らずも触れてしまった瞬間だった

 

隠し事をいくつも抱えているのに「何でも言い合う関係」なんて土台無理

 

私が過去のトラウマを克服して、人間らしく成長するなんてことも、やはり無理

 

気付けば私はあの惨劇の日から「停滞」しか選べていない

私は化け物にして、既に正式な生は終えた死者

 

其処から一歩でも出ようとすれば打ちのめされる

己が何者であろうとせめてあなたの前でくらい真摯でありたいと願っても、それは叶わない露と消える夢

所詮、私は幻の存在

 

「何でも」か…

泣きながらあなたの綺麗な瞳を見つめた

普段は意地悪なくせにどうして今、とてつもなく優しい其の色で私を見ているのだろう

 

人食い羅刹さんなのに今のところ、交わした約束は守ってくれている

私は「あなたを殺す」と言っているのに、あなたは今も私を探して此んなに遠い場所まで息を切らせて来てくれた

 

挙句の果てに、私は斯様に泣いて甘えてばかり…

 

やはり変えたい

変わらねば

せめて、全ては明かせずとも、話せることだけでも言葉にしてみよう

 

まずは斯くみっともない涙を止めねば

ぐっ、と奥歯を噛み締め、私は涙を引っ込めようと全身に力を込めた

 

  あの、狩衣さん

  私もいつまでも泣きじゃくっている子供のままではいけませんですよね

  昼間は何でも言い合うというお話もございましたですのに

 

  それは無理のない範囲で良いから

  君が傷つくほうが嫌だよ、俺は

 

  いいえ、言えないことはありますですが、言えることは言いますです

  ただ、はっきり言ってあなたに告げても詮無いお話、けれども先ほどのご質問の答えにはなるお話ゆえに聞いてくださいませです

  斯く場所の事を

 

私は正直に胸の内を明かした

以前、あなたにも質問されたこと

羅刹さんと同じ人外生物のくせになにゆえ憎み滅ぼしたいのか

其の理由を

九年前、私の浅慮が招いた、あの凄惨な罪の記録を

 

あなたは、私の拙い話を熱心に聞いてくれた

話しつつあなたの横顔を伺うと、先ほど三名のお悩み相談者さんたちの身の上話を聞いていた時とは纏う空気が違っているように感じた

私の一言一言を拾い上げようとする其の姿勢に私は少しだけお三方に悪い気がした

 

 

  …ゆえに私は、先ほど其の、「神様」という言葉を三番目の相談者さんに出されてしまった時、あの時の光景が過ぎって固まってしまって

  其の、申し訳ございませんでしたです…

 

  そっか、竹刀ちゃんが稀血の匂いで呼び寄せちゃった羅刹、それも二十四節巍がここをね…

  そして三ヶ月もの間、君は三人、今はもう狩られて代替わりしたからいないけど、当時の秋分の二十二番、小満の二十三番、春分の二十四番にずっと食われてたんだね

 

  まあ、其処は別に私の不徳が招いたことですゆえ今更どうでも良いです

 

  いや良くないよ

 

あなたの声が、微かに低くなった

 

  俺の竹刀ちゃんを、俺以外が食べた罪は重いんだから

  同胞とか、二十四節巍だとかそんなことは俺には全く関係ないんだよね

  …でも話してくれてありがとう

  確かに俺じゃどうにもできない過去だけど、これから君が、今みたいな辛い思いをしなくて済むようには気をつけるから

 

  いえ、私も、もっと強く成長した方が

 

  まあ最初にも言ったけど無理のない範囲でいいんだから

  それに君は本当は俺のことも憎い筈だよね

  同じ羅刹なんだからさ

 

(其れは…どうだろうか…)

 

胸の奥に言葉にならない感情がチリリと燻む

 

  其処は、複雑でございますです

  あなたは……とてもお優しい

  其れに別に私の周囲に直接危害を加えられてもおりませんですし

  私自身からのあなたへの恨みは敢えては「無い」と言えるかもしれませんです

  けれど、羅刹さんはやはり赦さない、滅ぼしますです

  あなたのことも勿論殺しますです

 

  うん、それでいいよ

  最初からそう言う約束なんだし

  だからさ

 

  はいです

 

  俺の前では笑ってくれないかい?

 

心臓が、跳ねた

 

  君が何をしてても無表情な理由は、よくわかったよ

  君の強い後悔と矜持の表れだってことはさ

  でも君は神様じゃないし墓守でもない、ついでに言えば、君を擬似的にお飾り的に神様と呼んだ集落の人間たちだってそれで君が感情を、心を閉ざしてしまうことなんて望まないだろう

 

(何を言うかと思えば…呆れた)

 

私の中を巡る血が一瞬にして熱を持ち、額の裏まで沸々と込み上げてくるのがわかった

 

私はもうとっくに笑わないと決めているのに今更、覆せだなんてあり得ない

 

  だめです

  笑ったら彼らが浮かばれない

 

  泣いても浮かばれないって考えてるのに?

 

  ええ、其れでもだめ

  己が罪を忘れることと同義

  私は九年前のようにバカみたいに笑って、幸せを享受してた、あの愚かな自分のままでいてはならないのでございますです!

 

  違うと思うけどなあ

 

(此の、わからず屋が)

 

  あなたに何がわかるって言うです!

  何も知らないくせに!

 

とうとう抑え込もうとした本音が口を衝いて飛び出してしまった

ああ、私はつくづく愚かだ

あなたに八つ当たりしたところで、何になるというのか

だが一度始まった癇癪は、もうわたし自身の力では止められなかった

 

  其れに!墓守なら、やってるつもりでございますです!

  ちゃんと見て!!

  

此れ以上、あなたに私の誓いを、私の罪を、安っぽい言葉で否定されてたまるものか

 

  解!

 

私は斯く場所に施していた術式を、其の記憶を初めて「誰か」に向けて解き放った

 

 

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