竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-82 二人の冬の歳時記―毎晩の手合わせの話

そして夜になれば、俺たちは毎晩のように手合わせをする

 

君は相変わらず、手も足も出ないほど強い

ここまで来ると、強さそのものに参番殿ほど執着のない俺や、別に負けたところで動じない俺であっても、普通に悔しかった

そもそも、何の向上心も無ければ、二十四節巍の「弐番」なんて張れているはずもないのだから

 

なんとか君の剣技に、その速さに、目と身体を慣らして追いつこうと試みてはみるけれど、剣技はまだしも、その速さには夢にも敵うとは思えなかった

 

何度も君が俺を瞬殺してくれるものだから、君ときたら「これでは修行にならない」とか言って、初めて出会った日に使っていた「相手に強さを合わせる術」とやらで、しょっちゅうわざわざ実力を落として俺に向き合ってくれるのだ

優しいんだか、真面目なんだか、俺を侮っているのか

…まあ、その全部なんだろうね

 

一合、二合

剣と扇が響き合う

砂塵と氷が舞い散る

互いに距離を取っては、また眩く触れ合う

 

夜の狩りの後

まだ先ほど打ち倒した羅刹達の喧騒は、耳に新しい

吹き抜ける風は、生々しい血の臭いを運んでくる

 

もう、こうして手合わせした数も、ゆうに数千回を超えていた

今の俺って、ひょっとすると「壱番殿」よりも強いんじゃないか…と思わなくもないけれど、今更そんな上奏を祇園様にする気なんて微塵も湧かなかった

だって、君に敵う俺でなければ、どれだけ強くなったところで何の意味もないのだから

 

何度やっても、君には追いつけない

いや、たまたま油断を誘えて、手合わせとして勝つことも稀にはあったけれど、それも概ね君が明らかに手を抜いている時くらいなものだ

…というか、まあ、「勝負の前に俺が君を食べた時」と言った方が正しいかもしれないけれどね

 

だって、仕方がないじゃないか

君が狩りをしている時は、普段よりも殊更にその白い肌が揺れて、跳ねて

闇夜に光る黄緑の瞳は、血に飢えた獣のようにギラギラと妖しく輝いている

そして、その小さな手で、次々と新鮮な斬死体の塚を築いていくのだ

 

――痛快としか言いようがなかった

 

羅刹は頸を斬られれば消滅するものだけれど、君の技があまりに速すぎるせいで、消滅の速度よりも次の死体を作る方が早いという始末だ

そして見るたびに思うことだけれど、君の剣技は本当に美しい

 

まるで、闇夜の舞踏会だ

奏でる音は、疾風に散る羅刹の悲鳴

鼻を揺らすのは、風に乗る枯れ葉に混ざる、夥しい鉄錆(てつさび)の臭い

そして暗闇の中、はっきりと鮮烈な軌跡を描いて飛び散る、赤い血の放射

 

その合間を、威風堂々と駆け抜ける一閃の剣筋

隼(はやぶさ)のように獲物を正確に射抜く、君の鋭い眼光

軽やかに、鮮やかに跳ねる、雪のように白い脚

 

――圧巻だった

 

戦闘狂とは程遠いこの俺をして、喉の奥から歓声を上げたくなるほど、魂を激しく揺さぶるような快感があった

 

まあ、こんな不埒なことを考えながら対峙していると、君は「真面目にやりなさいです!」と怒って俺を八つ裂きに斬り刻んでくるわけだけれど、それすらも可愛いから許してしまうんだ

 

----

 

他愛もない出来事が、こうして幾つも積み重なっていく

 

ねえ、竹刀ちゃん

俺は君が好きだよ

これからも、可能な限りは一緒にいたい

例え、二人を待つ終わりがどれほど近くに迫っているとしても今だけは

 

穏やかな時を願う俺を、どうか許しておくれ

 

ねえ、竹刀ちゃん

君は、俺の事をどう思ってくれているんだろうね

 

見上げた、分厚い雲が覆う冬空の向こう――

そこに佇む君の背中に、俺はそっと想いを馳せた

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