そして夜になれば、俺たちは毎晩のように手合わせをする
君は相変わらず、手も足も出ないほど強い
ここまで来ると、強さそのものに参番殿ほど執着のない俺や、別に負けたところで動じない俺であっても、普通に悔しかった
そもそも、何の向上心も無ければ、二十四節巍の「弐番」なんて張れているはずもないのだから
なんとか君の剣技に、その速さに、目と身体を慣らして追いつこうと試みてはみるけれど、剣技はまだしも、その速さには夢にも敵うとは思えなかった
何度も君が俺を瞬殺してくれるものだから、君ときたら「これでは修行にならない」とか言って、初めて出会った日に使っていた「相手に強さを合わせる術」とやらで、しょっちゅうわざわざ実力を落として俺に向き合ってくれるのだ
優しいんだか、真面目なんだか、俺を侮っているのか
…まあ、その全部なんだろうね
一合、二合
剣と扇が響き合う
砂塵と氷が舞い散る
互いに距離を取っては、また眩く触れ合う
夜の狩りの後
まだ先ほど打ち倒した羅刹達の喧騒は、耳に新しい
吹き抜ける風は、生々しい血の臭いを運んでくる
もう、こうして手合わせした数も、ゆうに数千回を超えていた
今の俺って、ひょっとすると「壱番殿」よりも強いんじゃないか…と思わなくもないけれど、今更そんな上奏を祇園様にする気なんて微塵も湧かなかった
だって、君に敵う俺でなければ、どれだけ強くなったところで何の意味もないのだから
何度やっても、君には追いつけない
いや、たまたま油断を誘えて、手合わせとして勝つことも稀にはあったけれど、それも概ね君が明らかに手を抜いている時くらいなものだ
…というか、まあ、「勝負の前に俺が君を食べた時」と言った方が正しいかもしれないけれどね
だって、仕方がないじゃないか
君が狩りをしている時は、普段よりも殊更にその白い肌が揺れて、跳ねて
闇夜に光る黄緑の瞳は、血に飢えた獣のようにギラギラと妖しく輝いている
そして、その小さな手で、次々と新鮮な斬死体の塚を築いていくのだ
――痛快としか言いようがなかった
羅刹は頸を斬られれば消滅するものだけれど、君の技があまりに速すぎるせいで、消滅の速度よりも次の死体を作る方が早いという始末だ
そして見るたびに思うことだけれど、君の剣技は本当に美しい
まるで、闇夜の舞踏会だ
奏でる音は、疾風に散る羅刹の悲鳴
鼻を揺らすのは、風に乗る枯れ葉に混ざる、夥しい鉄錆(てつさび)の臭い
そして暗闇の中、はっきりと鮮烈な軌跡を描いて飛び散る、赤い血の放射
その合間を、威風堂々と駆け抜ける一閃の剣筋
隼(はやぶさ)のように獲物を正確に射抜く、君の鋭い眼光
軽やかに、鮮やかに跳ねる、雪のように白い脚
――圧巻だった
戦闘狂とは程遠いこの俺をして、喉の奥から歓声を上げたくなるほど、魂を激しく揺さぶるような快感があった
まあ、こんな不埒なことを考えながら対峙していると、君は「真面目にやりなさいです!」と怒って俺を八つ裂きに斬り刻んでくるわけだけれど、それすらも可愛いから許してしまうんだ
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他愛もない出来事が、こうして幾つも積み重なっていく
ねえ、竹刀ちゃん
俺は君が好きだよ
これからも、可能な限りは一緒にいたい
例え、二人を待つ終わりがどれほど近くに迫っているとしても今だけは
穏やかな時を願う俺を、どうか許しておくれ
ねえ、竹刀ちゃん
君は、俺の事をどう思ってくれているんだろうね
見上げた、分厚い雲が覆う冬空の向こう――
そこに佇む君の背中に、俺はそっと想いを馳せた