越後のとある場所
大人の手のひらほどの大きさしかない、小さなかまくらの中に、日々少しずつ黄緑の光の筋が増えていく
小さな入り口からは、小鳥の形をした二つの雪像が見えていた
黄緑の光はゆっくりと収縮しながら、その雪像の中に静かに収まっていく
光が収まる度に、ことん、ことんと、かすかな音が立った
そうしてまた暫く経つと、黄緑の光の筋が現れては収縮し消えていく――
それを幾度も繰り返していた
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くっ…がっ…
また、血反吐が出た
けれど、お腹に子どもができたわけではないゆえに、案外と心境は穏やかなものだった
つくづく不思議だ
最初の二人以外、結局あれから授かった子はいなかった
自らの手で殺した子とは言え、水子供養をしたのが効いたのだろうか
せめてもと越後に残してきた、あのかまくらの中に浮かぶ氷像が目に浮かぶ
…斯様なことを思うのは筋違いにも程があるが
欲を言えば、産んであげたかった
私が化け物でも死者でもなければ、きっと大切にお腹の中ですくすくと育て、ちゃんと臨月まで守ってあげられただろうに――
左様なことを考えたせいだろうか、また大きく喀血した
きっと、かつて殺した子たちの恨みなのだろうから甘んじて受け止めよう
其れにだ
「仮定」に意味はない
あなたに会ったばかりの時にも、左様に言われたではないか
私はそっと目を閉じ、あなたの唇が私に紡いだ言葉を思い出していた
冷たい冬空は、今日もどんよりと曇っている
あの日の越後の空と、全く同じ色だった
私は化け物で、其れではなかった未来なんて、最初から存在し得ない
だって私は始め赤子の時から捨て子で、神様が仰るには、其の時に羅刹さんに襲われてただ、死に行く定めだったのだ
其の後に曲がりなりにも生きて来られたのは、あくまで神様と契約して巫女となったがゆえに過ぎない
自身の力などではなく、神様のおかげだ
まあ、契約後に待っていたのは、地獄と言って差し支えない、死ぬほど…いや、死ねないのだが…過酷な訓練の日々だった
滅茶苦茶に強くなったけれど、元から半分人外の化け物がなるべくしてその爪を研ぎ澄ませたに過ぎなかったのかもしれない
(…などと申したら、神様も眉を顰めてしまわれるのでございましょうね)
きっと「今朝のお供え物の味がイマイチだった」などと、理不尽なお小言から始まってしまうに違いないのでございますです
私は、神様が私を窘める時の、決して優しくはないけれど突き放すようでもない独特な距離感の愛情を思い出し、ほんの少しだけ口角を上げた
物思いに沈んでいた意識を地上へと引き戻し、周囲を見渡す
ずっと向こうでは、いずこかのお家の子どもさん方が、冬の寒さにも負けず元気に走り回っている光景が見えた
まだ睦月だからか、凧あげをしている子もいる
羽子板の、こんこんと高く鳴る音も遠くから聞こえてきた
私はくすりと、小さく笑みをこぼす
子どもさんは、元気があってよいものでございますですね…
真っ白に広がる曇り空を見上げ、其う呟いた
私は其ちらには背を向け、人の気配のない方へと歩き出す
同時に、胸の前でそっと「剣印」を結んだ。 子どもが揚げる凧の糸を、覆い繁る雲を割るほど高く高く伸ばす―—
ほんの少しの、小さな戯れ(いたずら)
(雲間から垣間見えた一筋の青空のように、あの幼子たちの先行きに、どうか幸多からんことを――)
目を瞑り、心の内でだけそっと祈りを捧げた
一瞬だけ覗いた青空からわずかに光が差し、私の足元に伸びた影も長くなったけれど、またすぐに、全天を分厚い冬雲が静かに覆い直した