んー、また遠くから遅れてやってくる第二陣がいるってこと?
俺は確かに以前そんなこともあったな、と思い出して尋ねたが、君はそれには応えず別のことを話し出した
まず、今夜は非常に多くの数でございましたです
うん、そうだね
今夜は「特に」でございますですが、此れまでもたくさん狩ってきましたですゆえ、此れより術が発動いたしますです
術?何の――
俺が呟いた時に、突然足元が光り出した
複雑な文様を描く円
紅い光がその円から一気に広がり、そして無数の紫の筋が何本も飛び出し、天へと伸びて八方へと散っていく
これは!?
術でございますですよ
君は俺に説明を始める
私の神祷術ではなく、私の神様が其の昔、大和全土に張られた、羅刹さん方の発生を抑制する「神術」
此れの発動にてようやく今後いくら羅刹さんの首魁さんである、来羅木祇園さんが羅刹さんを増やそうとしても、抑制が掛かりますのです
「一定数」…と言っても、途方のない数には違いございませんですが、羅刹さん方を狩り尽くす事で発動する、いわば生贄式の結界術
大和全国津々浦々、神様が作られた「楔」は此の東京府を入れて全七箇所
勿論、長い長い戦いの歴史の中で、羅刹狩り組織さんが少しずつ狩りを進めていてくださったのも無関係ではございませんです
竹刀ちゃんは俺の目を見ようともせず、淡々と続ける
十万の羅刹さんが狩られるごとに楔は一つずつ壊れており、私が十年前、神様より斯く任を賜った時には既に二つの楔が壊れた状態でございましたです
ゆえに、私が破壊したのは此れまで四つ、其して、今夜ようやく最後の一つの破壊と相成りましたです
此れにて完全に羅刹さん側の滅びは確定
羅刹さんの脅威とは増え続けることにあったのでございますですゆえ
君は一気に説明し切ってくれたようだったが、違和感がある
俺の知っている情報と合わない
待って、じゃあ合計七十万の羅刹が狩られたってこと?
そんなにいたなんて話聞いたことないんだけど
…いや、俺が人間として生まれる前から羅刹はいるんだからおかしくはないけれど、でも多すぎない?
ついさっきの祇園様の呼び出しでも数十万って数を耳にしたんだけど
前も額面五十万って俺、確か言ったよね?
あれは過去からの総数のつもりで言ったし、実はそこそこ盛った数値でもあったんだけど
ええ、でしょうね
其の認識で正しいかと
君は首肯した
神様は態と楔を中心として羅刹さん方を発生させていらっしゃいましたです
そもそも、あなたはずっと疑問に思われていたはず
なにゆえ群れることなき習性を持つ羅刹さんが、斯くほどまで一箇所に集中するのかと
私が日々、大和の色々な土地を旅しては狩っていたのは、当てずっぽうや闇雲なものではございませんでしたです
君は一息ついて俺を見る
羅刹さんの首魁さんですらも知りようのない、大量湧きする場所が神術により自然形成され、且つ其の地点が移動し続けるがゆえでございましたです
つまり、祇園様が作ったのではない、神様由来の羅刹がいたってこと?
端的に申せば、左様になるですね
じゃあそれって元は人間じゃない?
ええ、原材料は生き物ならば何でも、其れこそ森の動物さんとか
森!?
そうか、だから君の狩場は山とかばっかりだったのか!
俺はあの異常な数の正体にようやく合点がいった
けど、そんなの人里に出たらどうなるの?当然人間を襲うよね
君の血の臭いにあれほど反応して飛びついてくるんだから
ええ、首魁さんが生み出したことで出るはずだったよりも更に多数の人々が犠牲になっておいででございましょうですね
尊い命には代え難い
出来ることは、せめて迅速に狩ることだけ…
神様に曰く、「必要な犠牲と言うには忍びないが、羅刹狩りとは本来其のようなものであるのが正しく、此れにてようやく状況が前進するのだ」とか…
羅刹さんを滅亡させるに必要な手番らしいのでございますです
君は少し悲しい顔をした
よって楔破壊が遅れれば遅れるほど滅亡も遅れるとのことでございまして、まあ詳しいことは私にはわかりませんです
ただ、あとは、人間さん方の問題らしく、人外且つ巫女としての私の出番はもう無い、とはっきり言われておりまして
そうなんだ
(人間側の問題…?羅刹滅亡に必要な要素があるとしたら…)
もしかして、例の特殊な体質を持っていた羅刹の女の子の事だろうか
彼女の出現には前の生の時、祇園様もいたく感動していたし…
ちらりと過ったがそれは捨て置いた、それよりも今はこの後のことを考えよう
じゃあ、とにかく、今夜の狩りは終わりだね
手合わせする?それとも数多くて結構疲れたろうし、さっさと帰…
いいえ、何を仰っておりますです
…え?
まだ狩りは続いているのでございますですが
ん?だって今夜はもう終わりなんでしょ
それともやっぱり第二陣が来るの?
いいえ、来ないでしょうが
君は静かに、けれど決定的な速度で踏み出す
片付けるべき羅刹さんがおりましてですね
んー?どこに――
周囲を振り返る俺に、君は唐突に刀を突きつけた
あなたの事でございますですよ、二十四節巍、大寒の弐番、琉堂狩衣さん
君の黄緑の瞳が無表情の奥でキラリと光った