竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-89 花咲く笑顔

  俺…?

 

聞き返すが君は答えない

代わりに刀で俺の頸筋を一突き

 

  !?

 

流石に咄嗟に避ける

君も俺に避けられたことは気にしていない

 

一旦体勢を整えて、また俺の頸筋を狙う

 

  ちょ、ちょっと待って!

 

  何が?

 

(良かった…)

 

君は止まってくれた

俺は呼吸を整えて、慎重に君を見据える

ここで言葉選びを間違えたら、きっと終わる

そんな予感がした

 

  …俺との決着ってこと?

 

  はい

  

今度は短いけれど、君はちゃんと答えてくれた

顔は無表情そのものだけれど

 

  まあ、確かに不意打ち気味なのは良くなかったですね

  けれどあなたもご覧になりました通り、其して今、私が簡単に説明いたしました通り、私の神様の巫女としてのお役目は此れにて終了

  ならばやるべきことは、あなたの頸一つあの世にお持ち帰りすることだけ

 

(やっぱりそうなのか…)

 

俺は愕然とした

信じられない、信じたくない、だってまだ一ヶ月も経っていない

まだまだずっと一緒にいたい

いたいのに――

 

  もう

  本当に終わりなのかい…?

  

搾り出した言葉は我ながら情けない響きを伴っていた

 

  はい、終わりでございますです

  あなたとの契約は本日此の時を以て

 

  君がずっと言ってた、「俺を殺す準備」とやらが終わったから…

 

  まあ、正直、「準備」という言葉は一種の方便

  要するに先ほどの神術の発動、あれが合図

  其処に至るまでの全ての行動が準備ということでございましたです

 

分かっていた

短い逢瀬でしか無いことは

俺は人殺しで人食いの羅刹、別に死は全く怖くない

でも

 

  早過ぎない?

  

俺は問うた

 

純粋に疑問だった

夢幻城での戦いがあと半年後と決まったばかりだ

俺が死ぬまで短いとしても、あとまだ少しは猶予があるはずだと信じていたのに

 

  其れに関しては私とあなたとで元々持っていた情報量に差異がございましたですゆえにね

  私は最初、「遠くはない未来」にあなたを狩ると申しましたですが、単純に其の時点で「残り一ヶ月も掛からない目算」でおりましただけでございますです

 

君は刀を俺へと突き付けたまま少し肩を落とした

 

  騙し討ちといえば其れまでですが、そもそも此れまでが、「いつでも殺せるあなたを生かしていたに過ぎない」ことはあなたご自身が骨身に染みておりましょうです

  

君はとても冷ややかに答えた

 

  其れとも…

  一旦、仕切り直しますです?

  今、やる気ないなら私とて無抵抗の命を即狩るつもりもなく――

 

ヒュン、と一陣の風が舞い

今度は俺の扇が君の首元を掠めた

 

  流石にそれはないよ、竹刀ちゃん

 

だってもう、いつだって同じだ

終わってるなら、これ以上この関係を続けるのは不可能だ

準備が終わって、契約も終わって、疑似的な延命措置が続こうが、それは単に死体同士が生きている振りを続けているだけの虚構

 

その関係の中には、多分俺も君も存在し得ない

 

君の顔は見えない、俺は地だけを見ていた

 

(俺も多分、今君が俺に向けているはずの表情と変わらない顔をしてるんだろうな…)

 

俺は顔を上げた

ただ、君の目は見ずに話し掛けた

 

  ねえ、まず場所を変えないかい?

  どうせ二人きりなのはどこでも一緒だけど、俺が果てるならもっと相応しい場所があると思うから

 

  死に場所を選びたいなら左様な慈悲は授けて差し上げるべきでございますですね

 

君は頷いて俺の求めに応じてくれた

 

  ありがとう、竹刀ちゃん

  

俺は緊張は崩さず、でも穏やかに微笑んだ

…君の瞳はやはり見なかった

 

 

瞬間移動は必要なかった

俺は珍しく君の脚よりも急いで、そちらに向けて走った

死に場所に向かうというのに、どうして足取りはこんなにも軽いんだろうか

 

俺は君を見ずに繋いだ手の温もりと時折、指輪同士がぶつかって鳴る金属音に耳を預けた

 

目的地にはすぐ着いた

俺の脚も速くなったものだ

 

夜だというのにほの明るい光が漏れる、幻想的な場所

 

見上げれば、頭上には君に蹴られて投げ飛ばされた聖なる泉

少し向こうには小高い丘

冬だというのに満開に咲き誇る色とりどりの花々

 

振り返れば、毎日朝食を摂っている少し開けた空間

その横には君が術で生み出す「趣味空間★」とやらで一緒に調理している場所

 

少し離れた場所は、君が毎朝神楽舞台を組むところ

 

あちらの岩場は、君を初めて抱いた場所

 

合わせ舞の稽古をしてるのは、今立っている辺りだ

 

…本当に、短い

なのに思い出だけは一丁前に積み重なってしまった

 

暫し、目を瞑った

 

けれど

「変わらない」

 

だから、と俺は少しだけ震えながら目を開き、君の瞳を真っ直ぐ見据えて、宣言をするように口を開く

 

  殺し合おう、全力で

  どうせ君がその気になったら俺なんて瞬殺だろうけれど

  せいぜい君との手合わせで知ってる癖とか傾向とかで対策立てさせてもらうさ

  弱者は強者にそんな闘い方しかできないからね?

 

それを聞いた君は

 

  あなたなら、左様に言ってくださると思っておりましたです

 

初めて見た、

とびきりの花が咲くような笑顔で、笑った

 

思わず抱き締めたい衝動に駆られるが、扇を向けたまま俺は堪えて俯く

少しして顔を上げる

 

君は待っていてくれたが、いつもの無表情に戻っていた

 

  ねえ、竹刀ちゃん

  俺のこと好き?

  

本当に何度となく交わしたいつもの問い

 

応える君は

 

  あなたなんて大嫌いでございますです

  

そう言うと思っていたけれど

案の定、何の慈悲もないいつもの返答

 

  そっか

 

  当然でございますです

  あなたは、本当にどうしょうもなき殿方でございますです

 

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