竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-90 一瞬の決着

「本当にどうしょうもなき殿方でございますです」

 

君のそのいつもの言葉を合図に俺達はどちらからともなく駆け出した

 

扇と刀が本気でぶつかり合う

一手目からどちらも譲らぬ全力の衝突

両者引くことを知らない

 

一瞬離れては、またぶつかる

刀と扇がキシキシと壊れそうな音を立てた

 

戦術も戦略もない

ただ――

ひたすら打ち合い続ける

 

 

――それは見ようによっては稽古のようにも見えた

だが、互いの表情を見遣れば、それが異なると分かる

 

一方が跳んで身体を捻り一刀を放てば、もう一方は着地点を切り崩しにかかる

しかし体制が崩れることはない

更に身体を捻って相手の股下を潜り抜けて躱す

 

ならば、と頭上から脚と扇をそのまま振り下ろす

二刀を持った両腕で、振り下ろされた脚を交差させて挟み込み、振り下ろされた扇には刀で応じる

 

狩衣が体勢を崩したところに、すかさず一撃を放とうとするが、速さの乗らない剣では躱される

 

狩衣はそのまま距離を取り、扇から濁流のように氷を流す

 

  魏術 凍水仙

 

  神祷剣術 我流二刀 双連斬

 

高く飛び上がり、氷の濁流を降り下ろした二刀して両断

そのまま真下の狩衣の頸筋を狙う

 

狩衣は頸は庇わず、代わりに突っ込んできた竹刀の突進を完全に見切り、肉薄したところで袈裟斬りにする

 

竹刀が斬り込んだ時に散らばった僅かな霧状の氷によって、視覚で捉えた狙いが逸らされ、傷は竹刀の鎖骨に浅く入るのみとなった

 

しかし狩衣の攻撃の手は止まない

そのまま、真っ直ぐ竹刀へと襲い掛かる鋭い扇

 

竹刀はやや反応が遅れたが、二刀にて扇を受け止める

 

狩衣は一旦扇を引き、すぐさま角度を変えて薙ぎ払い、竹刀を近くの岩場に突き刺した

 

  魏術 雪茨

 

そのまま竹刀に放たれる鞭状の棘付きの靭やかな氷の塊

一気に全身がズタズタに切り裂かれる

 

竹刀は茨を躱し、二刀にて力の限り岩を斬り裂き狩衣の間合いを逃れる

 

狩衣は暫し、動きを止めた

 

(あの岩、俺達が初めてシたところだったのに…)

 

いや、今、その岩に彼女を串刺しにしたのは自分の方だったと思い直した

 

(…しかし、これはどういう事だ?)

 

狩衣は竹刀の様子がおかしいと思った

 

(いつもならどう考えても、俺の攻撃のちょっとやそっとで傷を作るような君じゃない…)

 

おかしいといえば、そうだ

さっきの狩りの時も違和感があった

君の息が乱れるのがやけに早かったような…

 

(竹刀ちゃんが俺の攻撃で傷を負ってるってことは、君の動きが遅いか、俺の方が速いってことだ)

 

いや後者は絶対にあり得ない――

取り敢えず、確かめてみるしかない

 

狩衣は扇を構え直す

 

 

竹刀は内心思う

 

(流石に、きついですね…)

 

一進一退の攻防ができなければ、「仕込み」がバレてしまうというのに…!

斯くポンコツな身体は、本当に全くどうしょうもない――

 

 

竹刀も二刀を構え直し、狩衣よりも先に動く

 

  神祷剣術 我流二刀 双乱舞

 

 

(来た!竹刀ちゃんの十八番の撹乱剣舞)

 

相変わらず美しいな…

これが見られるのも今宵が最期なら、よくよく目に焼き付けておかなきゃ

 

なんかやっぱり調子出てないみたいだけど、ちょっとよろめいてるのも妖艶で、それはそれで…

 

(って、はっ)

 

だめだなあ…

何度手合わせしても、これだけはわかってても毎度、術中に嵌っちゃうな、俺

 

気付けば目の前に君が迫っていた

流石に頸筋は庇った

 

油断した

まずい!体勢が

 

流石に相手の隙を逃す竹刀ではない

立て直したのは竹刀の方が早かった

 

刹那―—

竹刀の刀が狩衣の頸に届く

 

(くっ)

 

扇を頸と刀の間に差し挟んでぎりぎり間に合った

 

狩衣の頸のすぐ脇で打ち合う形になる扇と刀

 

しかし、と狩衣は思う

 

間違いない

明らかにいつもと違って、動きに「切れ」がない

 

打ち込み合いで俺が君を負かしたことなんてこれまで一度たりともなかったのに――

 

(流石に、ちょっとこれ以上続けるのは何かが違う)

 

そう思って俺は一旦停戦を提案しようと、少し動きを止めたが、竹刀ちゃんは構わず俺に好機とばかり打ち込んでくる

 

試しに身体を庇うのをやめて君の剣を敢えて受けてみた

 

君は少し驚いたようだったが、そのまま俺を数度斬り裂く

 

流石に頸には届かせないが

しかし君の剣の斬れ味自体は相変わらずのようで、なかなか再生しにくいのだっ…た…?

 

――ドクン

 

(あれ…?なんだろう、これ)

 

身体が熱い、ような…

 

心臓が早鐘を打つ

血圧が上がるような感覚

脳が張り裂けそうな

汗が全身から吹き出す

 

身体全体が軋んでいる…

 

ドクン

 

ドクン

 

いやちょっと待って、なにこれ――

 

こんな感覚まるで…

以前の生でシノハユちゃんに思いっきり毒食らわせられた時みたいな…

 

(毒…?)

 

いや、まさか、そんなの飲んだ覚えはないし

今更毒なんて竹刀ちゃんがいつも絶えず俺に捧げてくれてる血肉の力で一瞬で浄化…

 

(いや、待てよ、竹刀ちゃんの「力」…?)

 

そういや昨晩

君の「いたずら」でそんなの多量に食らったような

 

まさか――!?

 

ドクン

 

ドクン

 

 

  う、うわあああああああああああああああああああ

  

 

狩衣は己の身体が変貌していく恐怖と感覚を味わっていた――

 

 

(良かった、一か八かだったですが、なんとか、間に合ったみたいでございますですね)

 

竹刀は満足そうに笑んだ――

 

 

この光景は何というのだろうか

 

そう、多分

「惨殺」だ

 

二十四節巍大寒の弐番の羅刹、琉堂狩衣は絶叫と共に目の前の獲物に掴み掛かったかと思うと、その腹を思い切り右腕で貫いた

 

しかし、貫かれた少女の表情はとても穏やかだ

それは春の木漏れ日のように

 

ここに勝敗は決した――

 

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