竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

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20回目-94 白き翼

俺は思わず目を瞑り、やがて光が収まった頃、恐る恐る目を開けた

 

そこにいたのは

明らかに十よりも五歳以上は成長した姿の竹刀ちゃんだった

 

身体の中心に大きなヒビが入った黄緑の眩い光を宿し、頭には宙に浮く丸い冠を戴き、背には白い羽根が生えた、純白の髪をした姿

 

  竹刀ちゃん!

 

思わず俺は君に駆け寄る

姿が変わった事なんて、何も気にならなかった

とにかく君が無事でいてくれればそれで良くて

 

強く、強く抱き締めた

 

暫し後、俺は君を解放して話し掛けた

 

  竹刀ちゃん、おかえり

  もうどこにも行かないで、ずっと俺の側にいておくれ

 

君は戸惑っているようだった

 

  なにゆ…え…?

  私

  私は…

 

  何も言わないでも良いから、

  俺は嬉しいの、

  それだけ

 

  狩衣さん…

  でも、私は

  あの、ご覧の通りの、えと、「異形の化け物」でございますです

  羽根が生えててなんか光るという…

 

  そんなの今更気にしないから!

  だって俺、羅刹だし

  異形なんて見慣れてるっていうか…

  ぶっちゃけめちゃくちゃ可愛いし!

 

俺は万感の思いを込めて伝える

 

  俺の目に狂いは無かったんだって思うよ

 

  狩衣さん、ごめんなさ…

 

  違うよ、竹刀ちゃん

 

  え?

 

  俺じゃなくて、この子たちに謝ってよ

  「比翼」と「連理」って言うんだってさ

 

  え!?

 

その反応に満足して俺は子らに向き直る

 

  ねえ、酷いお母さんだよねえ?

  産んだこと忘れちゃってるらしいよ

 

子どもたちは頭を振った

 

  お父さん、それは違うよ

 

  だって僕らは、生まれてないから

 

  生まれなかったから

 

  でも、お母さんがとても悲しそうだったから、とっても頑張ったの!

 

  どうやったか、よくわかんないけどね

 

  あなた達、じゃあ私が、其の、殺し…

 

  「「うん!」」

 

竹刀ちゃんは目を見開いていた

 

  でもね、別に怒ってないよ

 

  だって仕方ないもん

  生まれるはずなかったもん、きっとね

 

  今も、別に、ちゃんと生きてはいないけど

 

  でも!お父さんとお母さんに会いたかったの!

 

子ども達はとても朗らかに笑った

笑うとやっぱり竹刀ちゃんによく似ている

連理の瞳の色だけが俺の要素かもしれない

 

  だから!お母さんも悪いとか思わなくていいの

 

  うん、僕らそれがずっと気になってたから、それだけ言いに来たんだよ

 

  最後に言えて良かった!

 

  最後?

 

  生まれてないから完全じゃないの

 

  そんなに時間もないんだよね

 

  ねえ、お父さんもそうだよね?

 

言われてはっとする

気づいてたのか、まあそりゃそうか、

俺だけじゃ、竹刀ちゃんを取り戻すのにはとても力が足りないと思って、手伝ってくれたんだものね…

 

  狩衣さん、まさか…

 

  あはは、バレちゃったかあ

  竹刀ちゃんみたいに上手く欺けないものだねえ

 

一頻り笑って俺も徐に言葉を発した

 

  うん、俺ね、渡しちゃった

  俺の「命」みたいなもの、君に

 

竹刀ちゃんがひゅっと息を呑むのがわかった

 

あの翳した手のひらから出ていた黄緑の光は、単に日々君から与えられていた力ってだけじゃなくて、きっと俺の命そのもの

何故だかそれだけは、はっきりと分かっていた

 

子どもたちも同じだった

仮初めの命みたいなギリギリで繋いでいたそれを、多分君に返して…

 

  なにゆえ!?

  三人とも一体何してくれてるです!!

  私、左様な事何も望んでな――

 

  だって竹刀ちゃん勝手過ぎるから

 

  うん、お母さんは勝手ー

 

  普通に僕ら殺すしー

 

  だから

  

  「「「反抗期!」」」

 

三人の声が重なった

 

  お母さんに生きてほしいもん

 

  本当はお父さんにも生きてほしいけど

  二人もいっぺんに助けられないから

 

  俺はいいよ、なんだか今、助かる必要はない予感がする

  どうせ近々、羅刹は滅びるし

  竹刀ちゃんがいなくなった世界で生きる意味なんてないし

 

  だから利害の一致ってやつだよ、お母さん

 

  みんなの気持ちは同じだから、生きて

 

  そうだよ、竹刀ちゃん、君だけは生きて…

 

  何、言ってるです

  私は死者でございますです

  今更生きるなどあり得な

 

俺は君に口付けした

そのまま舌で口を割り開き君の舌を絡め取る

 

  わー、すごーい

 

  大胆ー

 

  なかよしさん★

 

なんか子どもたちが囃し立てているけど、もう最期だから好きにさせておくれ

 

  んっふぁ…っあ、ん…

 

  全く相変わらず意地っ張りなんだから君は…

  大好き、愛してるよ

  心から

 

名残惜しいけれど、唇は離した

 

  ねえ、俺は

  これで終わりなんて思わないから

  必ずまた、一緒にいられる方法探すから

  だからさ…

 

俺は君の流した雫を拭う

 

  俺のこと待っててね

  ちょっと時間掛かるだろうけど

  今度は一切引くつもりなんてないからさ

 

ふと思い付いて、俺はいつものようにまた尋ねた

 

  ねえ、竹刀ちゃん

  俺のこと好き?

 

  あなたなんて大嫌いでございますです

 

何度拭っても君の涙は止まらなかった

 

  最期までそれとはねえ

  じゃあ、勝負はお預けかな?

 

  勝負?

 

  そう、俺が君に「好き」って言わせるやつ

 

  おバカさんじゃないです、絶対言いませんです

 

  そう、じゃあ言わないだけなんだね?

 

  あっ!

 

  ふふっ

  ねえ、じゃあちょっとだけ先にお休み、竹刀ちゃん

  またね

 

俺は自分が消滅していくのが分かった

 

  いい夜だね…愛してる

 

君に抱かれて消えるのも悪くない

だって前に死んだときは一人だったもの

さようなら、俺が見つけるまで浮気しないでね、竹刀ちゃん

 

  ばっか、じゃないです

  本当にどうしょうもなき殿方でございますです…

 

 

身体を形成していた部分とは違うのに、あなたの指輪は残らなかった

 

一時的に復活したところで意味はない

私は、元が死者だ

羅刹さん狩りのために伸ばした仮初の生に過ぎない

其の仕事が終わったのだ、どうせ消滅はする

もう、残りあと僅かだ

 

計画通りならば私が消えるだけで此処から先の仕事なんて何もないはずだった

 

なのに――

一つだけやることができてしまったではないか

 

私は、あなたが消えた虚空をただ、睨み付ける

其して、身体の特徴が私にもあなたにも似た子たちへ向き直る

 

  奈落へ、殴り込みに行って参りますです

 

  うん、お母さん

  

  「「いってらっしゃーい 」」

 

私は子どもたちの頭をよく撫でた

つくづく此れだけしかしてあげられないのが情けない

 

  ごめ…

 

  謝っちゃ「「だめ」」

 

  それよりも早くお見送り行かないと、お父さん大変だよ?

 

  お母さんしか、どうにかできないのに

 

  ちゃんとお父さん守ってあげてね?

 

  そしたら、僕らにもいつか会えるかも

 

私はたまらなくなり、子どもたちを両手いっぱいに抱き締めた

 

  酷いお母さんでごめんね!!

 

精一杯叫んだ

其れしか言いようも無かった

 

  ううん、ちょっとでも会えて嬉しいから

 

  ありがとうお母さん、今度はちゃんと産んでよね?

 

  連理、それは大変かも!

  

  でも比翼だって同じでしょ?

 

  ねえ、だからいってらっしゃーい

 

  お父さんを早く助けて

  僕らはずっと待ってるから!

 

  約束!!

 

私は一つ大きく頷き、次元の扉を開いた

 

私は、自身に言い聞かせた

あなたの魂だけは消滅してでも守る、目指すは「奈落」―—

ただ其処のみ!

 

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