竹刀ちゃんと狩衣くん   作:星が好き

95 / 101
20回目-95 今際の際

(うーん、またもや「今際の際」ってやつかなぁ、ここ)

 

前も、ここでシノハユちゃんに出会って、彼女に恋したんだよなあ

あれからまた百五十年が経過した

 

長い道程と思いきや、俺がちゃんと真っ当に「生」きてた記憶なんてここ一ヶ月ほどだけかもしれないとさえ思う

 

(でもなんか様子が違うような…?)

 

こんなにも真っ暗だったっけ、あの時は

うーん?と思っていると俺を呼ぶ声が頭上から降ってきた

 

  狩衣さーん!!

  其処にいたら絶対に駄目でございますです!!!

 

闇に浮かぶ真っ白い羽根

胸の中心に欠けた、黄緑の光

 

  え?竹刀ちゃん!?

 

羽根が生えた君が、真っ直ぐ俺の元へ飛び込んできて、俺を横抱きにして一瞬で飛翔した

 

  ちょっ

  え?この状況なにこれ

 

  狩衣さん

  此方は危険な場所

  あなたの「魂」が消滅し、二度と輪廻転生の輪へ帰れなくなりますです

  死した命を蘇らせるは無理ですが、「冥府」までは送り届けますですゆえ、しっかり私にお掴まりくださいませです!

 

俺は夢でも見てるのだろうか

いつもよりも更に美しく成長した君に抱えられて死んだはずなのにまだ一緒にいられてる

 

…だめだ、なんかくらくらとして意識が飛びそうになる

 

(なんだろう、凄く眠い、心地がいい…)

 

  狩衣さん、寝ちゃだめ

 

――パァン!

  

頬を思いっ切り引っ叩かれる

容赦ないけどお陰で頭は一瞬で覚醒した

 

  竹刀ちゃんは、相変わらず乱暴だね

  そんな幻想的な姿になっても変わんないねえ

 

  別に姿が変わっても中身は変わりませんですしね

  当然かと

 

  なんか、えーと、やけにあっさりしてるね

  一応さっき感動的なお別れしてなかったっけ…

 

もう完全にいつも通りの無表情だった

 

  今していることは単に私の義務ですゆえ

  さっきとか関係ないです

  此方は「奈落」と言って、「冥府」とは違うある種の地獄

  私のような「化け物」があなたみたいな、人を殺害し過ぎた方を殺すと、斯様に送り込んでしまう訳でございましてです

 

  俺は別に、君に殺されてないよ

 

  どう考えても、私が原因ゆえに其の理屈は罷り通りませんですね

 

  君がずっと俺や、他の二十四節巍たちを殺せないって言っていた理由がそれなのかい?もしかして

 

  はい

  二十四節巍さん方のいずこの番号まで当てはまるか分かりませんですが、まあ避けるが無難な理由でしたです

  命までは殺しはしても、魂まで滅すつもりは毛頭なかったですゆえに

 

  なんだ、そうだったのか

  

俺は妙に腑に落ちた

 

  つまり、君が優しいからだったんだね、竹刀ちゃん

 

  はあ?何仰ってるです、魂とは大事なもの

  其の価値を知ってる者がおいそれと損なえる理由はなく…

  羅刹さんを滅ぼすように命じた、私の神様だって普通に止める事案にこざいますですよ!

 

君は咳払いして続けた

 

  「魂」とは、生きとし生ける全ての方の生命力の結晶みたいなものでございますのですよ

  さあ、つべこべ言わず、私に身を任せるです

  呑気にしてると舌噛むですよ!

 

  ねえ

  冥府ってやつ、どのくらい先なの?

 

  あとちょっと、でございますです

 

  そうなんだ

  ねえ、竹刀ちゃん

 

  はい、なんでございましょうかです

 

  最後にキスしたい

 

  はあ?

  状況分かって、いえ、まあ、あなたは左様なお方でございましたですね…

  仕方ありませんですねえ

 

君は俺の体勢を変え、正面から向き合い珍しく君からしてくれた

顔はやはり真っ赤だった

 

  最期、ですしね

  さっさと死ねです

 

  相変わらず酷いなあ

  じゃあもう一回だけ

 

今度は俺からもする

 

  ありがとう、竹刀ちゃん

  またね

 

真後ろの俺を導く強い光に俺は引っ張られて、今度こそ本当にお別れなんだなと悟った――

 

 

冥府の光の洪水に流されていくあなたを、見えなくなってもずっと見送った

 

其れから踵を返し呟く

 

  さて、私もいよいよ消滅の時でございますですね

  

  開け、地上への扉

 

現れた光の中へ足を踏み入れ、先ほどまでいた奈落と冥府の境界の地を去った

 

子どもたちはまだ消えずに残っていてくれた

でもだめだ、もう存在を保てていないらしい、消え始めている

私も同じだった

 

三人で肩を組み、静かに滅びの時を待つ

その間に少しだけ他愛のないお喋りをした

 

  ねえねえ、お父さん最後にキスしたー?

 

  絶対したよね?

  だってお母さんのこと大大大好きなんだもん!

 

  連理、案外お母さんからだったりするかもよ?

 

  えー

  それだったらびっくり!

 

  ねえ、お母さん「「どっち?」」

 

  あなた方にはまだまだ早すぎることでございますです

  と言うか、一体いずこから情報を得て…

 

  ずっと聞いてたもん

 

  うん!遠くだったけど聞こえたもん

 

  相思相愛ってやつ

 

  愛だよね!

 

  ぜんっぜん違いますです!!

 

  やっぱりお父さんが言ってた通り、お母さん意地っ張りだよ、連理

 

  だねえ、比翼

 

  いや、あの、

  違いますですーーーー!!

 

(嗚呼、この子達は間違いなくあなたの子だ)

 

だって天然の煽り癖がそっくりだ

 

私は、やや静かに独り言のように話した

 

  四人である未来も悪くなかったのかもしれませんですね…

  望めはしませんですが…

  少なくとも賑やかで退屈いたしませんです…

 

  お母さん、寂しがり屋さんだもんね

 

  お父さん、見抜いてたけどね

 

  …………

  そ、其うですね、淋しいです

  あなた方だけでも生きられないものでございますですかね…

 

  無理だよ

 

  生きてないし

 

  「「生まれてないし」」

 

  でもね、お父さんも言ってたけど

  これで終わりじゃない気がするんだ

 

  うん!きっとまた、会えるよ

 

  だからそれまで、三人で眠ろう、お母さん

 

  はい、です

 

あぁ、確かに凄く眠い

もう、殆ど形が残っていない

 

身体が崩れていくというのに、痛みよりも別のことを考えていた

子どもたちを抱き締めていると、少しだけあなたに似た冷たい体温で、心地が良い

 

《手が冷たい方は心が温かいそうでございますですよ》

《ふーん、じゃあ手が温かい君は、俺より優しくないのかな》

《さあ?》

《じゃあさ、俺と君の体温が混ざれば丁度いい温度って事だよね

俺たちの体温が混ざった子が生まれたら、丁度いい温度だなあってさっき思ったんだよ》

 

(…ふむ、確かに丁度良いかもしれませんですね)

 

微睡みの中、私はどこまでも深くまで沈んで、溶けて消えた――

 

 

  …はあ、なんというか

  あまりにもボケておるのう、このわらわの娘と来たら

  やっすい三文ホームドラマ見せられる方の気持ちにもなってもらいたいもんじゃ

  まあ、良い

  「今回」は孫の顔まで拝めたしの

  あのにっくき羅刹の小僧製というのが、もう超気に入らんが

  孫は孫じゃしな

 

少女は、見た目には似合わない年老いた口調で独りごち続ける

 

  どれ、

  少しだけ、そう、ちょっとだけじゃが…

  「今回」は、うむ

  だいぶ頑張ったことじゃし

 

少女は愉快に笑う

 

  わらわの密かな嫌がらせでくれてやったエンゲージリングの時と同様に

  これはサービスじゃよ★

 

宙に浮く長い薄い紫色の髪を両脇で結んだ美少女は、そんな事を呟きながら片目を閉じて親指と人差し指をパチンと鳴らした

 

バラバラに崩れていた竹刀と、子らの身体のごく一部が、紫髪の少女の出した赤い鳥居の中へ吸い込まれて消えた

 

その鳥居のてっぺんにはこう書かれてあった

 

――【鳥土里神社】

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。