チャラノ小路チャラ隆の野望   作:ぺこりーにょ

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ラノベ一冊ってだいだい何文字だっけ?
           ええと…十万字だね

今の文字数は?

            ……十万字だね

もひとつ質問いいかな
一巻内容は終わった?
        ……







あなただけを見つめてる

 

 

 

 夕闇が完全に夜の帳へと切り替わる頃、俺は一人、静寂に包まれた学生寮の自室へと戻った。

 

 部屋に入るなり、俺は上着をハンガーにかけてクローゼットにしまい、レザーのソファーに腰を落ち着ける間もなくシャツの袖を腕まくりした。

 まずは部屋の隅に鎮座している掃除機を起動させ、フローリングとカーペットに微細な塵一つ残さないよう、徹底的かつ滑らかなフットワークで軽く掃除機をかけていく。続いてベッドへと向かい、シーツ及び枕類のカバーを引っぺがし、柔軟剤の甘く清潔な香りが漂う新品の布地へと手際よく変えてゆく。

 

 加齢臭や生活臭が気になるような野暮な年齢でも体質でもない。だが、真に気の利くチャラ男という生き物は、こうした見えない細かな作業に決して手を抜かないものだ。

 今宵このスイートルームを訪れる予定の怪盗キャッツこと神室真澄に、百年の恋を冷めさせるわけにはいかない。いついかなる時、不測の事態によってベッドでの実技体育へと発展してもいいように、戦場たる寝室のコンディションは常に最高水準に保っておく。それが、カーストの頂点に立つ男のスマートなバイブスである。

 

 準備を終え、間接照明の暖かな光の下でファッション誌を開いていると、電子ロックが解除される無機質な音が部屋に響いた。

 

「……」

 

 神室がやってきた。「お邪魔します」などの無駄な挨拶は一切ない。彼女は慣れた手つきで部屋の入り口に上着をハンガーにかけると、俺の方には目もくれず、真っ直ぐにキッチンへと向かって冷蔵庫を物色し始めた。カチャカチャと、ガラス瓶が触れ合う小気味良い音が聞こえてくる。

 

 ここで一つ、諸兄に誤解のないよう明記しておくが、彼女が今キッチンで調合しているのは、決して法律で定められた年齢を越えるような禁断の液体ではない。

 あくまで、『木樽の中で長年眠らせた琥珀色の麦のエキス』と『喉越しを刺激するシュワシュワの炭酸水』を黄金比でブレンドした魅惑のポーションである。

 実は神室真澄は錬金術師の末裔であり、そのための調合だ。俺たちは清く正しい学生であるから、当然、ルールに抵触するような真似は一切していない。その潔白さはこの部屋こそがホワイトルームと呼ぶに相応しいのであると、愛するダッドの髭に誓おう。

 

 やがて神室は、黒いお盆の上に、氷のたっぷり入ったグラスを二つ、先ほどの『琥珀色のエキス』が入った瓶、ミネラルウォーター(強炭酸)、それに『まるで晩酌のツマミと見紛うような』イカを乾燥させたものやチーズの盛り合わせを載せて戻ってきた。

 

 神室は、俺が気怠げに雑誌を読んでいるすぐ隣に、腰を下ろした。部屋に設置されたレザーソファーは、二人分の体重が乗っても軋む音一つ立てず、余裕綽々とその重みを受け止めて沈み込む。黒いニーソックスに包まれた彼女の脚から、微かに外の夜風の匂いが漂ってきた。

 

 あえてクールな男を演出するため、読書に集中しているふりをして口を挟むことなく静観していた。

 すると、いつものように、目の前でカラン、カランと涼しげな氷の音を立てて、琥珀色の液体(強炭酸麦茶エキス割り)が注がれたグラスがぶらぶらと揺らされた。

 

「……ん」

 

 俺は雑誌から視線を外し、無表情のままスッと手を伸ばしてそれを受け取る。

 いつもなら、ここでお互いに何の意味も、明日への向上心もないまま、ただ無言でグラスをチンと重ねるだけの味気ないルーティンがこなされる。

 だが、今回ばかりは特別な『記念日』であった。

 

 彼女は自分のグラスを掲げ、俺の目を真っ直ぐに見据えた。そして、昨日今日この学園を激震させた凄惨なニュースについて、極上の皮肉と哀れさを込めた声で口を開いた。

 

「あんたのクラス──1年Dクラスが、学園史上初の最速で『0ポイント』を叩き出した、その輝かしい大惨事の記念によ」

 

 チンッ。

 二つのグラスが交わり、済んだ音が静寂の部屋に響き渡った。

 

 グラスに口をつけ、強烈な炭酸と苦味を喉の奥へと流し込む。

 その瞬間。俺の脳裏に、今のこの状況とは全く関係ないことで、一切合切なんの繋がりもないある過去の記憶がフラッシュバックした。

 

 そういえば、あの全てが白く塗られた無機質な施設のカリキュラムには、なぜか『ぶどうが極限まで発酵した深紅の液体(あるいは黄金の液体)』のテイスティング・テストなるものも組み込まれていたのだ。

 グラスに注がれた液体の匂いを嗅ぎ、色合いを視覚で分析し、舌の上で転がして味の複雑さを分解する。数千円の安物と、一本数十万から数百万もする超高級な年代物(ヴィンテージ)を完璧に見分けるための、異常な英才教育。

(繰り返すが、俺は今、単なる琥珀色の炭酸麦茶を飲んでいるだけで、この記憶と現状には何の関係性もないことを重ねて明記しておく)

 

 当時は、一流の教養を身につけるためのデータ入力作業としか思っていなかったし、今更ながら俺の人生においてあの訓練に一体何の意味があったのかは全くもって不明だ。最高級の『発酵ぶどうジュース』の産地や年代を完璧に言い当てられたところで、この学園のポイント・サバイバルにおいて実用性など皆無である。

 

 しかし。

 俺はグラスの中で溶けゆく氷を揺らしながら、隣でツマミのチーズを齧っている黒ニーソの美少女を横目で観察し、一つの絶対的な真実に到達していた。

 

 あの白い部屋で、飲まされた、どんな高価で歴史のある液体よりも。

 こうして放課後の夜、誰にも知られない秘密を共有した怪盗(キャッツ)が、俺の隣で適当な分量で作ってくれるこの安っぽくてチープな飲み物の方が、はるかに、圧倒的に美味いのだ。

 

「……ウェーイ。今夜の一杯は、格別に五臓六腑に染み渡るぜ。マジ卍」

 

 言葉のチョイスの限界までチャラさを極めて素直に呟くと、隣に座る神室真澄は心の底から呆れ果てたように鼻で笑った。

 

「ただの炭酸割りよ。そんな大げさなもんじゃないでしょ」

 

 彼女はそう冷たく謙遜するが、俺の舌と脳髄が現在進行形で受信しているこの快楽物質の奔流は、決して「ただの」という二文字で片付けられるようなチープな代物ではない。彼女の手によって絶妙な比率で調合されたこの琥珀色の液体──芳醇な香りを放つ木樽熟成のエキスと、パチパチと弾ける強炭酸のミネラルウォーターの完璧なる融合。それはまさに、古代インドの神話において神々が不老不死を得るために愛飲してきたとされる霊薬、アムリタそのものである。

 

「お前が俺のために作ってくれたってのが、最大の隠し味(バフ)になってるんだよ。ゼロポイントで絶望の淵に立たされた俺の心を、この黄金の液体が優しく包み込んでくれている。俺のチャラバイブスは、今夜完全に満たされたぜ。アーイ」

 

「あっそ、そりゃよかったわね」

 

 神室は俺の高度な愛の囁きをまともに受け合わず、視線すら合わせないまま、自分のグラスにゆっくりと口をつけた。

 薄暗い間接照明に照らされた部屋の中、彼女の華奢な喉仏が微かに上下する。その横顔はどこか冷めているようでいて、この静寂と退廃に満ちた空間に完全に馴染んでいた。

 

「流石は錬金術師の末裔だぜ。ますみん」

 

「私が錬金術師だったらまず、その辺の石ころを金塊に錬成させてるわよ」

 

 神室の極めて現実的で夢のないツッコミが返ってくる。

 俺がグラスを傾け、麦が発酵して生み出された特級の『大人向け・黄金のシュワシュワ麦茶』を最後の一滴まで喉の奥へと流し込むと、カラン、と氷が乾いた音を立ててグラスが空になった。

 

 ますみんが、手慣れたホステスのような、流麗な動きで俺の手から空のグラスをスッと奪い取った。

 そのままローテーブルの上に置かれたアイストングを手に取り、無駄な動作を一切挟むことなく、カラン、カランと新しい氷を放り込む。そして、木樽の中で長きにわたり熟成された『琥珀色の霊薬』の瓶を傾け、絶妙な分量を注ぎ込み、最後に強炭酸のミネラルウォーターで満たしてマドラーで一回だけ、静かにステアした。

 

 炭酸の気泡がグラスの底から美しく立ち昇る。まさに魔法。水とエキスを黄金比でブレンドし、俺の荒んだ精神を癒す特効薬を瞬時に作り出すその手腕は、錬金術師と呼ばずして何と呼べばいいのだろうか。

 彼女が錬成したその二杯目のグラスを、ありがたく、そして気怠げな手つきで受け取った。

 

「で、実際のところあんたのクラスって現状どんな感じなの?」

 

 錬金術の作業を終え、ソファーに深く背中を預け直した神室が、ふと核心を突く質問を投げかけてきた。彼女の属する優秀なAクラスから見れば、入学わずか一ヶ月でクラスポイントを全額没収されるという学園史上初の偉業を成し遂げたDクラスの生態は、珍獣の観察記録程度の興味をそそるものなのだろう。

 

 俺は新しく作られた霊薬の刺激を舌の上で転がしながら、クラスメイトたちの顔を思い浮かべた。

 

「んー? そうさな……」

 

 グラスの縁を指でなぞりながら、今日の朝、茶柱から「ゼロだ」と宣告された直後の教室内を脳内でフラッシュバックさせた。

 毎月自動的に振り込まれると思っていた10万ポイントという莫大なベーシックインカム。それに完全に依存し、ゲーム機やらファッションアイテムやらを買い漁り、連休に向けて豪遊の計画を立てていたクラスメイトたち。彼らの夢と希望が、たった一言で粉々に打ち砕かれた瞬間の、あの顔、顔、顔。

 

「阿鼻叫喚して、七転八倒の地獄絵図に海砂利水魚って感じ」

 

 クラスの惨状を四字熟語のフルコースで端的に表現すると、ますみんは眉をひそめてこちらを見た。

 

「……悲惨なことはわかるけど、最後のはなによ」

 

「カッコいいかな──って」

 

 正直に答える。寿限無寿限無、五劫のすりきれ、海砂利水魚の水行末……。落語のフレーズだが、ただ単に文字の並びと音の響きが、ストリートでナウいバイブスを持っていると感じたから、勢いで口に出してみただけだ。意味などない。フィーリングと勢いこそがチャラ男の命である。

 しかし、俺のそんな崇高な言語感覚は、現実主義者の彼女には全く響かなかったようだ。

 

「言葉の響きで口を開くな」

 

 神室の冷酷なツッコミが炸裂する。俺はここで、チャラ男としてのチャーミングな隙を演出する絶好のタイミングだと判断した。

 

「てへ☆」

 

 俺はペロッと舌を出して、己の後頭部をポカっと叩いてみた。漫画のラブコメからそのまま抜け出してきたかのような、極めて古典的かつ破壊力抜群のアピールである。

 舌を出したままのポーズで数秒間のフリーズ。結果、彼女の母性本能の爆発を待っていると、ますみんは持っていたグラスをゆっくりとローテーブルに置き、心底哀れなものを見るような目で俺を見つめ返した。

 

「これで酔ってるのならまだ救いがあるんだけど、素面(シラフ)でこれだもんねぇ……」

「いや、シラフじゃないだろ」

 

 あ、突っ込んじゃった。てへ☆

 

 

 Next day.

 

 翌日の昼休み。

 学食の喧騒の中、いつもはそれぞれ孤独に食事を摂っているはずの俺たち二人は、なぜか向かい合ってテーブルについていた。

 

 貧者の味方である無料の山菜定食なるメニューも存在するらしいが、無論のこと、俺はそんな飯は選ばない。目の前に鎮座するのは、学食の中でもお高めのスペシャル定食だ。黄金色に輝く衣を纏ったプリプリのエビフライさんは、まさにスペシャルの名に恥じない堂々たる風格を漂わせている。

 

 なぜこんな豪勢なランチにありつけているのか。理由はシンプルで、次の中間テストに向けて早急にお話し合いがしたいとのことで、今回の食事はほりぴーの奢りだからである。

 女に飯をたかるヒモの才能が開花しつつある俺は、チャラ男としてこの申し出を快く受け入れ、華麗に奢られているというわけだ。

 

「……次の中間テストよ」

 

 向かいの席から、地を這うような、重く冷たい声が響いた。

 

「昨日、茶柱先生の口から告げられた通り、私たちDクラスは全てのポイントを失ったわ。そして、この学校のルールが『実力至上主義』である以上、中間テストの結果が今後のクラスポイント、ひいては私たちの学園生活の存亡に直結することは火を見るより明らかよ」

 

「なるほどな」

 俺は定食の味噌汁をズズッと啜り、箸でエビフライをつまみ上げた。

「でもさ、ほりぴーもオレも、あんなレベルのテストならばいくらでも高得点を取れる。ましてや赤点なんか取るわけがない。何を焦る必要があるじゃんよ?」

 

「問題は私たちじゃないわ。……あの有象無象のバカたちよ」

 堀北は、池や山内といったクラスの底辺層の顔を脳内に浮かべているのか、まるで親の仇にでも遭遇したかのように自分の皿のコロッケを激しく睨みつけ、苦々しい顔をしている。

 

 なるほど。彼女のプライドの高さからすれば意外にも思えるが、堀北は自分のクラスから脱落者を出したくないと考えているようだ。

 

「逆に考えてみたら、現状はそう悪いものではないじゃん」

 

 エビフライを囓りながら、チャラい口調のまま事実を嘯いた。

 クラスポイントは文字通り0の素寒貧。どん底である。だが、どん底だからこそ取れる、極めて合理的な手段があるのだ。

 

 俺の発言の真意を確かめるように、堀北がスッと顔を上げてこちらを見た。

 

「良くも悪くも、現状は彼らの大活躍によって失うべきクラスポイントは一つもない。ここで不良品の在庫一斉処分セールを行えば、これからの面倒事を一気に減らせるぞ」

 

 赤点を取るような無能は切り捨てる。

 この提案には幾つかの大きな問題があり、発言しておきながら俺自身、本気でおすすめはしていない。俺が懸念しているのは可哀想だ……といった倫理的な問題などではなく、極めて論理的なシステム上の問題が発生する恐れがあるからだ。

 とはいえ、組織を運営する上で、最初に腐った枝を切り落としておくというのは、効率化の観点から言えば案外悪くない手でもある。

 

 堀北は俺の血も涙もない発言に、一瞬だけ面食らったような表情をした。自分が「見下している」はずの連中を、さらに残酷なロジックで切り捨てようとする俺のためらいのなさに驚いたのかもしれない。

 だが、優秀な彼女はすぐに思考を取り戻し、俺の提案に潜む欠陥の一つに気づいて反論を述べてきた。

 

「あなたの提案は……非常に魅力的で、感情的にそそられるものがあるけれど、大きな問題があるわ」

 

 堀北は箸を置き、鋭い視線で俺を射抜く。

 

「クラスポイントは確かに今は0だけれど、退学者を出したことによって『さらなるペナルティ』が課せられないという保証が、どこにもないことよ」

 

「うむうむ、たしかにその通りだ」

 俺は堀北の尤もらしい反論に深く頷きながら、黄金の衣に包まれたエビフライを頭から尻尾まで、一切の躊躇なくバクバクと咀嚼して胃袋へと消し去っていく。サクサクとした食感と海老の旨味が、チャラ男としての活力を満たしていくのを感じる。

 

 実は、先ほどの「不良品の在庫一斉処分」という冷酷な提案は、彼女に仕掛けた……いわゆるストレステストのような問いだ。お勉強はできる孤高を貫く彼女が、他者をどう評価し、この学校の実力をどう考えているかの。

 

 もし仮に、彼女が先程の問いに「そうね、切り捨てましょう」と冷徹に乗っかってきたとしたら、後々困ったことになっていたか? 

 俺はエビフライの尻尾を飲み込みながら、脳内でシミュレーションを完了させた。結論から言えば、ならない。

 なぜならば、先日の小テストの結果によって、自分が底辺の馬鹿であるという自覚を数字で残酷に見せつけられた者たちの大半は、今や「退学」という現実的な危機感をひしひしと覚えさせられているからだ。溺れる者は藁をも掴む。彼らは今、かつてないほどに素直であり、堀北や平田が救済のために差し伸べるその手を、くだらないプライドで払いのけるような余裕は持ち合わせていないだろう。指導と統制は、思いのほか容易にいくはずだ。

 

 真に問題があるとすれば。

 己の学力がカラスと同程度であるにもかかわらず、その絶望的な状況に危機感を微塵も覚えもしなかった正真正銘のアンポンタン連中だ。

 

 いや、ここで鳥類学的な訂正をさせていただこう。都市部に生息するハシボソガラスは、自らのくちばしで針金を曲げてフック状の道具を作り、細い筒の中のエサを取り出す程度の、極めて高度な問題解決能力(IQ)を有している。つまり、あの危機感ゼロの連中はカラスと同程度などではなく、鳥類にすら劣る位置たちだと言わざるを得ない。

 

 幸いなことに(あるいは俺の精神衛生上好ましいことに)、そのカラス以下の知能を持つ該当者は全員が男である。

 不動の下位3バカトリオ──池、山内、須藤だ。

 

 彼らが次のテストで赤点を取り、無惨にも退学の憂き目に遭おうとも、俺は一切の感情を揺らすことなく、快く笑顔で手を振って彼らの背中を見送れる。……いや、嘘だ。手を振るための腕の筋肉のカロリー消費すらもったいない。見送ることすらしないだろう。彼らが学園から消え去るという自然現象を、ただの背景として処理するだけだ。

 

 まぁ本当の問題は、この実力至上主義の学園において、これからは単純なペーパーテストの学力だけが図られるわけではないというシステム上の裏があることだが……。

 しかし、俺の演算回路はその不安要素も即座に棄却した。あんなアンポンタン3人程度の穴など、オレ一人いれば十分事足りる。

 

 俺がそんな傲慢かつ論理的な自己完結をしていると、堀北が冷めたお茶を一口飲み、鋭い視線をこちらに向けてきた。

 

「……それで。茶柱先生の思惑通り、あなたが私の助っ人として動くとして。最初にどうすべきだと思う?」

 

 食後の備え付けのお茶をズズッとすすり、答えた。

 

「ん? あー。まぁ、まずは一番チョロいところから行くべきっしょ。光属性の平田洋介に協力を求めるべきだ。マジで」

 

「平田くんに? なぜ彼なの?」

 堀北が怪訝そうに眉をひそめる。

 

「簡単なことだ。今の俺たちのパーティは、完全に闇属性しかいないからな」

 

 俺が真顔で告げると、堀北は怪訝そうな顔をした。

 闇に染まった漆黒のパーティ……などと言えば、どこかのダークファンタジーの主人公のようで聞こえは良いかもしれない。だが、その実態は目も当てられない悲惨なものだ。

 クラスで誰とも打ち解けようとせず、周囲にカミソリのようなオーラを撒き散らす孤高の美少女と、感情死滅のまま意味不明な言動を繰り返す不気味なチャラ男。つまり、ただの『ボッチ×2』による絶望的なパーティなのだ。こんな怪しい闇の二人組が、いきなり「勉強を教えてあげるから放課後集まれ」と声をかけたところで、誰も近寄ってこないどころか、新手の宗教勧誘か何かだと勘違いされて逃げられるのがオチだ。

 

「それに引き換え、平田は誰もが認める王道(クラシック)の勇者だ。人望、ルックス、コミュ力。そして俺たちに欠けている圧倒的な光のバイブスを持っている」

 

 俺はテーブルの上で両手を組み、作戦の全貌を語った。

 

「いいか、ほりぴー。今のクラスの連中は、ゼロポイントの事実と小テストの結果でパニック状態だ。そんな退学の危機感を覚えて震えている連中に、あの王道の平田が『みんなで協力して乗り越えよう。僕も手伝うよ』と優しく声掛けした場合、どうなる? ほぼ全員が、疑うことなく安堵の涙を流して耳を傾けるはずっしょ」

 

 俺たちが直接手を下して不信感を買うより、平田という絶大な信頼を持つ拡声器を使った方が、圧倒的に効率よくクラスの有象無象をコントロールできる。

 

 だが、俺の心の奥底にある嘘偽りなき真実のバイブスに従うならば、真っ先に櫛田桔梗を引き入れたい。

 頭もそこそこによく、底抜けに明るく、クラスの誰もが認める圧倒的人気者。そしてなによりも可愛い。あの黄金比率で構成された豊かなバストと、太陽のような眩しい笑顔。これはもう、今すぐにでも食堂の椅子を蹴り飛ばして櫛田のもとに全力で駆け出し、彼女の瑞々しい生足の太ももに両頬をスリスリと擦り寄せて「君が必要だ!」と咽び泣きたいレベルである。

 

 しかし、俺の高度な演算回路は、その最も甘美な選択肢に対して無情なるエラーコードを弾き出していた。

 

 なぜなら、堀北鈴音と櫛田桔梗の相性が、絶望的なまでに良くないからだ。

 ふとその事実を口にすると、堀北の動きが、ピタリと完全に停止した。

 

「……え?」

 堀北は、まるで信じられない怪奇現象を目の当たりにしたかのように限界まで目を見開き、驚愕の色を顔いっぱいに張り付かせて俺を凝視した。

 

「……気づいていたの……? 櫛田さんが、私に対して良い感情を抱いていないことに……」

「当たり前だろ。オレは女子しか見てないんだぜ」

 

 

 

 

 








いや〜まさか投稿当初は1話2話しか考えてない一発ネタがこんなことになるとは…
最初に10評価と感想を頂き、どれ更新しますかという軽いノリでここまで書くことになるとは……このリハクの目を持ってしても…

で、なんで十万文字も書いてるのに、ここまで進展がないんだい。
今話の冒頭の内容は前話の最後に入れるつもりだったが力尽きたので、このような形に。
この焼き回しが無駄な文字数喰いの原因では…?

もう十万字超えてこの形式で短編は無理だよ。連載じゃん…っというわけで連載へと変更。

そもそもこのテンポが合わないという読書の人々はとっくに振り落とされてると思ふ。
とはいえ、高評価数と感想数だけ見れば人気作と誤解しそうなものへと育ちました。
低い頭をヘコヘコと下げて、お礼を申し上げることしかできませぬ。

もう方向性などは修正できないのですが、このまま逝きますよ。



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