チャラノ小路チャラ隆の野望   作:ぺこりーにょ

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こんな一発ネタが続くと思ってるやついる? いねえよなぁ!!?


ここはブロードウェイ。無数の眼球とピースサイン

 バスを降りて学園内へと入った。

 日本国政府が主導して設立したという、この高度育成高等学校。敷地面積は広大で、カフェや映画館、さらには大型商業施設まで立ち並んでいるという。もはや一つの独立した都市と言っても過言ではない。

 だが、今の俺にとって、ここは単なる教育機関でも生活空間でもない。

 

 ここはブロードウェイだった。

 

 そう、これから三年間、俺という名の『究極のチャラ男』が主演を務める、巨大で華やかなステージなのだ。俺はレッドカーペットを歩くハリウッドスターのような(俺なりの解釈に基づく)優雅かつ気怠げな足取りで、新入生たちが列をなして向かう校舎への道を歩いていた。

 

 すれ違う生徒たちの視線が俺に向けられているのを感じる。

 無理もない。第一ボタンと第二ボタンを開け放ち、ネクタイをだらしなく緩め、姿勢はあえて斜めに構えた『ストリート・スタイル』。それに加えて、一切の感情を排除したようなフラットな無表情を浮かべているのだ。

「……なにあの人」「なんか、怖くない?」「目、合わせないでおこ……」

 ヒソヒソと囁き合う声が聞こえてくる。俺の完璧なチャラ男オーラに、彼ら彼女らは圧倒され、畏怖の念すら抱いているようだ。雑誌にあった「モテる男は、時に危険な香りを漂わせる(P.24)」というメソッドが、早くも完璧に機能している証拠である。

 

 校舎内に入り、割り当てられた1年Dクラスの教室へと向かう廊下を歩く。

 ふと上を見上げると、廊下の天井のあちこちにカメラがあった。

 一般的な学校に設置されている防犯カメラの数とは明らかに次元が違う。死角を徹底的に無くすような配置。常に誰かが、どこかでこの映像をモニタリングしていると考えるのが自然だ。

 

 普通の生徒なら「監視されている」と息苦しさを感じるかもしれない。

 しかし、チャラノ小路へと新生した俺の思考回路は違った。

 

『カメラの向こう側にも、俺の魅力をアピールすべき観客(ターゲット)がいるのではないか?』

 

 監視員が女性である可能性もゼロではない。あるいは、この映像が後日何らかの形で学園の女子生徒の目に触れる機会があるかもしれない。真のチャラ男たるもの、いついかなる時も、あらゆるレンズに対して己の魅力を振りまく準備をしておかなければならない。

 

 俺は歩みを止め、一つ目のカメラを真っ直ぐに見据えた。

 そして、その一つ一つにピースポーズを向けて歩いていく。

 

 ただのピースではない。右手で顔の右横にVサインを作り、同時に口角を片方だけ3ミリ上げる『ニヒルなスマイル』。そして、小さく「チェケラ」と呟く(声はマイクで拾われていると仮定した)。

 これを、廊下に設置された計12台のカメラすべてに対して、歩みを止め、正確に2秒間ポーズを維持し、再び歩き出すという動作を繰り返した。

 

 周囲を歩いていた他の新入生たちは、俺のその規則的かつ奇妙な行動を見て、まるでモーゼの十戒のごとく道を空けていった。

「……やばい、絶対関わっちゃダメな奴だ」「なんかの儀式?」「……見ちゃダメよ、目が合うわよ」

 悲鳴にも似た畏怖の声。圧倒的なカリスマ性の前に、一般市民は道を譲るしかないらしい。俺は確かな手応えを感じながら、1年Dクラスの前に到着した。

 

 Dクラスの扉の前。

 すでに中からは、初対面特有の探り合いや、新生活への期待に満ちた喧騒が漏れ聞こえてくる。

 

 ここが運命の分かれ道だ。

 高校生活におけるカースト、そのヒエラルキーの頂点に立つためには、第一印象がすべてを決定づける。ここで平凡な挨拶をしてしまえば、その他大勢のモブAとして三年間を過ごすことになってしまう。

 俺は脳内のデータベースにアクセスし、最も破壊力があり、かつ「圧倒的な陽キャ(チャラ男)」であることを瞬時に理解させる究極のフレーズを検索した。

 

 雑誌のコラム欄、そしてネットで収集した『歴代最強のギャグ挨拶』という古代の文献データから導き出した最適解。それは、適度な下ネタを交えることで相手の警戒心を解き、同時に「俺は常識に囚われない危険な男だ」とアピールする高等テクニックだった。

 

 準備はいいか、俺。

 表情筋を固定しろ。目は絶対に笑うな。だが、声帯と身体の動きは最高潮のテンションを模倣するのだ。

 

 俺は勢いよく、Dクラスの扉を開ける。

 ガラッ!! という大きな音が教室中に響き渡り、数十人の男女の視線が一斉にこちらへと向いた。

 静まり返る教室。全員の注目が俺という一点に集束する。これ以上ない、完璧な部隊(ステージ)だ。

 

 俺は右手を高く掲げ、親指と人差し指、小指を立てる奇妙なハンドサインを作りながら、抑揚の一切ない、Siriのような機械的なフラットボイスで言い放った。

 

「うぇ〜い。これから3年間、よろちくび〜」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 時が、止まった。

 誇張ではなく、本当に教室内の時間が停止したかのような錯覚に陥った。

 

 窓の外から聞こえる鳥のさえずりと、微かな風の音だけが、不気味なほど鮮明に耳に届く。

 誰かが手に持っていた消しゴムが、床にポトリと落ちる音が、まるで爆発音のように教室中に響いた。

 

 俺の高度な演算能力が、瞬時にクラスメイトたちの反応(リアクション)を解析していく。

 

 最前列に座っていた金髪の少年(のちに平田洋介と知る)は、持ち前の爽やかな笑顔を顔面に貼り付けたまま、完全にフリーズしていた。彼の目は「えっ? 今、何て言ったの? よろ……? え? 聞き間違い? それともそういう病気?」という凄まじい情報量の混乱を如実に物語っていた。彼の優れたコミュニケーション能力のCPUが、未知のエラーコードを吐き出してクラッシュしているのがわかる。

 

 その斜め後ろに座っていた、天使のように可愛らしいショートヘアの女子(のちに櫛田桔梗と知る)は、口元をピクピクと痙攣させていた。必死に「どんな人にも分け隔てなく接する優しい美少女」というペルソナを維持しようとしているようだが、俺の放った『よろちくび』という絶対零度の爆弾を前に、防衛本能が警報を鳴らしているのだろう。引きつった笑顔は、まるで出来の悪い蝋人形のようだった。

 

 教室の中央付近にいた、いかにもお調子者といった風貌の男子(池寛治と山内春樹)に至っては、あんぐりと口を開け、俺を宇宙人でも見るかのような目で見つめていた。「やべえ奴が来た」「俺たちの陽キャアピールが通用する次元じゃねえ」という恐怖すら入り混じった顔だ。

 

 素晴らしい。

 完璧だ。

 

 俺は内心でガッツポーズをした。

 これだけの人数を一瞬にして沈黙させ、完全に俺のペースに巻き込んだのだ。彼らのフリーズは、俺の圧倒的なチャラ男オーラと、予想を裏切るハイセンスなギャグに脳の処理が追いついていない証拠である。

 つまり、俺は入学して最初の5秒で、このクラスを完全に『支配』したのだ。

 

 

 俺は凍りついた空気を意に介することなく(むしろ心地よい喝采だと解釈し)、だるそうなストリート・ウォークで自分の席へと向かった。

 最後列、窓際から二番目の席。後ろの黒板には座席表が貼られており、俺の席はそこだと示されている。

 

 俺が歩みを進めるたび、近くの生徒たちがビクッと肩を震わせ、わずかに身体を引くのがわかった。

「モーゼの十戒現象」がここでも起きている。王の凱旋とはまさにこのことだ。

 

 席に着き、俺は雑誌の教え通りに両脚を大きく開き、背もたれに深く寄りかかって天井を見上げた。いわゆる「気怠げなアルファオスのポーズ」だ。

 

「……信じられない」

 不意に、隣の席から氷のように冷たい声が降ってきた。

 視線を向けると、そこにはバスの中で出会ったあの黒髪の美少女——堀北鈴音(机の上のネームプレートで名前を確認した)が座っていた。

 彼女は手元の文庫本から一切目を離さず、しかし確実に俺に向かって言葉を紡いでいた。

 

「バスの中での奇行だけでも吐き気がするほどだったのに、まさか同じクラスだとはね。しかも、あんな……正気を疑うような下品で寒々しい挨拶を、大勢の前で堂々とやってのけるなんて。あなた、羞恥心という機能が脳から欠落しているの?」

 

 凄まじい毒舌だ。並の男子なら泣いて逃げ出すレベルの拒絶である。

 しかし、チャラノ小路のフィルターを通せば、この言葉の裏にある真意など手に取るようにわかる。

 

「フッ……ウェーイ。奇遇だね、子猫ちゃん。まさか隣の席とはね。運命(デスティニー)感じちゃうっしょ」

 

 俺は両目の瞬き(ウインクのつもり)を放ちながら、相変わらず抑揚のない声で答えた。

 

「……っ!」

 堀北はついに本をバンッ! と机に叩きつけ、殺意すら孕んだ鋭い眼光で俺を睨みつけた。

 

「二度と私にそのふざけた口調で話しかけないで。あと、あなた目が死んでるのに口だけ笑ってて本当に気味が悪いわよ。サイコパスなの? クラスの皆も引いてたじゃない。空気が読めないにも程があるわ」

 

「照れ隠しが激しいタイプね、把握した。マジ卍。俺、そういうツンツンした女がデレた時のギャップ、大好物なんだよね。ワンチャン、放課後タピオカでも飲み行く?」

 

「……タピオカの粒を一つ残らずあなたの鼻の穴に詰めて窒息させてあげましょうか」

 

 見事な切り返しだ。これほどまでに激しい感情をぶつけてくるということは、彼女の中で俺の存在がすでに無視できないほど大きなウェイトを占めている証拠。恋愛のセオリーにおいて「好きの反対は無関心」である。これほど強い怒り(という名の愛情表現)を向けられる俺は、すでに彼女を半分落としたも同然と言えるだろう。

 

 やがて、始業のチャイムが鳴り響き、教室の前の扉が開いた。

 スーツ姿の女性教師が入ってくる。キリッとした顔立ちに、髪を後ろで束ねた隙のない雰囲気。担任の茶柱佐枝だ。

 

 彼女は教壇に立つと、鋭い視線で教室をぐるりと見渡した。

 新入生たちは一様に背筋を伸ばし、緊張した面持ちで彼女を見つめ返す。

 

 しかし、茶柱の視線は、最後列の窓際──つまり、だらしなく脚を開き、シャツのボタンを外し、ニヒルな笑みを浮かべたまま天井を見上げている俺のところでピタリと止まった。

 

 茶柱の眉間が、わずかに、しかし確実にピクッと動いた。

 数多の生徒を見てきたであろうベテラン(?)教師の目から見ても、俺の異質さは際立っているらしい。

 

「……そこのお前。綾小路清隆、だったか」

 茶柱が、冷ややかな声で俺の名を呼ぶ。

 クラス全員の視線が、再び俺へと突き刺さる。

 

「はいはい、ウェーイ。センセー、俺のこともう覚えちゃった感じ? マジ光栄なんですけど。センセーもけっこー美人だし、俺的にアリっすよ」

 

 俺は座ったまま、右手でピースサインを作りながら答えた。相変わらず声のトーンは一定で、感情の起伏はゼロだ。

 

 教室内が、再び水を打ったように静まり返る。

「新任の美人教師に対するセクハラまがいのチャラい絡み」——これもまた、学園モノの漫画や雑誌において、不良やチャラ男が己のステータスを誇示するための必須イベントである。

 

 茶柱は一瞬、言葉を失ったように見えた。

 彼女の目は「ふざけているのか?」「いや、真顔すぎる。本物の異常者か?」という葛藤で揺れ動いているのが、微細な表情の変化から読み取れる。

 

「……綾小路。お前のその奇妙な態度と発言が、何かの冗談なのか本気なのかは知らないが。この学校でその『独自のスタイル』がいつまで通用するか、見せてもらうとしよう」

 

 茶柱は小さくため息をつき、それ以上俺を追求することなく、ホームルームの進行へと戻っていった。

 

 俺はふぅ、と小さく息を吐き出した。

 どうやら、教師という権力者相手でも、俺の『圧倒的チャラ男』としての振る舞いは通用したらしい。彼女は俺の底知れぬ器の大きさに気づき、無理に矯正することを諦めたのだ。

 

 入学初日。

 バスでの美少女(ツンデレ)とのファーストコンタクト。

 学園の防犯カメラ(カメラ)へのアピール。

 クラスメイト全員を沈黙させる圧倒的なギャグセンスの披露。

 そして、担任教師とのマウント合戦での勝利。

 

 俺は心の中で、今日の成果をチェックリストに打刻していった。

 すべてが完璧だ。ホワイトルームで学んだどんな難解な数式よりも、この「モテるための論理(チャラ男プロトコル)」は複雑で、そして結果が目に見えて面白い。

 

 これから始まる三年間。

 高度育成高等学校の頂点に立つのは、間違いなくこの俺、チャラノ小路チャラ隆だ。

 俺は明日試す予定の「女子の頭をポンポンする?」を構築しながら、誇り高き『非日常』の幕開けに胸を躍らせていた。





10評価を投げられては…
此方も更新せねば…無作法というもの…
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