チャラノ小路チャラ隆の野望 作:ぺこりーにょ
前話の後書きの戯言のお陰で慌てて書き殴って更新せざるを得なくなってて笑った。
ホームルームが始まり、教壇には先ほど俺と静かなるマウント合戦を繰り広げた担任教師、茶柱佐枝が立っていた。
彼女は黒板の前に立ち、新入生である俺たちに向けて、この高度育成高等学校における独自のシステム——『Sシステム』についての説明を始めている。
生徒たちは皆、配られた真新しい学生証兼用の携帯端末を握りしめ、緊張した面持ちで彼女の言葉に耳を傾けていた。だが、俺の意識はその小難しいシステム解説よりも、もっと根源的で、かつチャラ男にとって極めて重要な『視覚的情報』へと向けられていた。
ボインのちゃんねーがパイオツをバインバインと揺らしながら有難い御高説を施してくれている。
スーツ越しでも隠しきれない、その圧倒的な質量。彼女が黒板に文字を書くために腕を上げるたび、あるいは生徒たちを見渡すために振り返るたび、重力と慣性の法則に従って、その立派な双丘は魅惑的な軌道を描いて揺動していた。
ホワイトルームで物理学を修めた俺の目には、その揺れ幅からバストサイズや弾性係数を算出することなど容易い。しかし、今の俺は冷徹な演算装置ではなく、感情豊かな(設定の)チャラノ小路チャラ隆だ。
「……マジパネェっしょ。あの先生、絶対夜の街でもトップ取れるポテンシャルあるぜ」
俺は誰に聞こえるともなく、気怠げなトーンでそう呟いた。
隣の席の黒髪の美少女、堀北鈴音がビクッと肩を震わせ、手元の端末から俺へと鋭い視線を突き刺してきた。
「……あなた、本当に脳髄まで腐っているのね。教師に向かってなんて下劣な視線を向けているの。その濁った眼球を取り出して、漂白剤に一晩漬け込んでやりたい気分だわ」
「ウェーイ。嫉妬乙。鈴音ちゃんも十分スタイルいいから自信持ちなよ。俺はスレンダー系もワンチャンいける口だからさ」
「誰が鈴音ちゃんよ。気安く下の名前で呼ばないで。それと、今すぐその気持ち悪いウインクをやめなさい。両目が同時に閉じていてただの痙攣にしか見えないわ」
堀北からの心温まる
そして、そのポイントは毎月1日に振り込まれるという。
「それでは、各自の端末を確認しろ。今朝方、今月分のポイントが振り込まれているはずだ」
茶柱のその言葉を合図に、教室中の生徒たちが一斉に手元の端末の画面をスワイプした。
直後、教室のあちこちから「えっ!?」「マジかよ!」「うおおおおっ!」という、驚愕と歓喜が入り混じった叫び声が爆発した。
10万ポイントという数値が振り込まれたらしい。
俺も気怠げな動作で、ポケットから端末を取り出す。パスコードを解除し、指定された残高確認アプリを開く。手元の携帯で確認すると、十万ポイントが振り込まれていた。
「すっげえええええ!! 10万だぜ!? 10万!!」
前方で、池寛治というお調子者風の男子生徒が、椅子から立ち上がってガッツポーズを決めている。
「やったー! これで欲しかった服、全部買えちゃうかも!」
その近くでは、軽薄そうな女子生徒たちがキャーキャーと抱き合って喜んでいた。
教室の空気は、まるでアイドルのシークレットライブが発表されたかのような異常な熱気に包まれていた。誰もが、突然与えられた莫大な資産に理性を失い、猿のように歓喜の声を上げている。
周囲の熱狂をよそに、俺はただ一人、極めて冷静に事態を分析していた。姿勢はもちろん、椅子に深く腰掛け、両脚を開いたアルファオスのポーズを維持したままだ。
「……チョロいねえ。これだからパンピーは困る。目先の数字に踊らされて、裏にある大人の思惑に気づけねーんだから」
俺がアンニュイな表情でそう呟くと、再び隣から氷結の視線が飛んできた。
「……偉そうに語っているけれど、あなたもさっきから端末の画面に表示された『100,000』という数字を、瞬き一つせずに凝視しているわよね。よだれが垂れそうよ?」
「フッ、誤解すんなよ子猫ちゃん。俺はこの数字の『真の価値』について、チャラ男としての深い哲学を巡らせている最中なんだから」
俺は堀北の冷ややかな指摘を華麗にスルーし、脳内で猛烈な経済シミュレーションを開始した。
んー。判断に悩む。
俺は右手でアゴを撫でながら、一つの重大な命題に直面していた。
仮にこのポイントが1ポイント1円なら、いま手元には十万円分のポイントが振り込まれ、馬鹿な高校生には過ぎた御小遣いに浮かれて、喜びの声をあげ、感謝のために、我らが麗しきポニテ担任の立派なボインに対して感謝の揉みほぐしを行うこともやぶさかでない。
これが俺の導き出した、チャラ男プロトコルに基づく『等価交換の法則』第一形態である。
考えてもみてほしい。一般的な高校生の月のお小遣いの平均は、約5,000円から10,000円程度だ。それが突然、100,000円という大金を与えられたのだ。
普通の生徒なら、池や他の連中のように無邪気に喜べばいい。しかし、俺は常に頂点を目指す圧倒的チャラ男。施しを受けたまま、ただ喜ぶだけの男ではない。受け取った恩恵に対しては、男としての『器の大きさ』と『遊び心』をもって、相応のリアクションを返すのが礼儀というものだ。
100,000円。これだけの金額を無条件でポンと出す太っ腹な女性に対して、最大級の感謝と敬意を示す行動とは何か?
言葉だけの「あざーっす」では到底足りない。ここは身体を張ったコミュニケーション、すなわち『スキンシップ』によるリターンが必要不可欠である。
相手は極上のスタイルを持つ年上のイイ女。
ならば、その最大の魅力である『立派なボイン』を、俺のこの手で優しく、かつ情熱的に揉みほぐしてあげることこそが、10万円という金額に見合った最高級の感謝の表現となるはずだ。彼女もまた、俺のような将来有望なチャラ男からのマッサージを受ければ、教師としての
「……よし、決まりだな。放課後、職員室に乗り込んで『センセー、10万のアザマル水産! 俺のゴッドハンドで胸、揉んでやんよ!』と提案しよう」
俺が完璧な計画を口に出して確認すると、隣の堀北が手に持っていたシャープペンシルの芯を「ボキッ」とへし折った。
「……お願いだから、今すぐ退学してちょうだい。それが無理なら、せめて私の視界に入らない密室で、一生一人でその妄想を喋り続けて。あなたが警察に連行される姿を想像するだけで、今日のランチが美味しくなりそうだわ」
堀北の目は、もはや人間に向けるものではなく、新種の害虫を発見した時のそれだった。彼女の冷静なツッコミは、俺の理論の穴を指摘しているようにも聞こえる。
確かに、焦るべきではない。俺はホワイトルームで培った多角的な思考を取り戻した。
待てよ。
俺は一つの重大な『罠』の可能性に思い至った。
だが、この場所の物価が外の十倍であったら?
高度育成高等学校は、外部との接触が完全に絶たれた閉鎖空間である。生徒は敷地内の施設だけで生活を完結させなければならない。
これは経済学的に見れば、学校側が完全に市場をコントロールできる『完全独占市場』を意味する。もし学校側が、缶ジュース一本の値段を1,200ポイントに設定していたらどうなる? トイレットペーパー一個が5,000ポイントだったら?
十万ポイントは一万円相当となってしまう。
これは極めて現実的なリスクだ。もしポイントの価値が外界の10分の1だとしたら、俺たちの手元にあるのは、実質的にたったの1万円。
現実的にありえる高校生の御小遣いの金額だ。
月に1万円。決して少なくはないが、狂喜乱舞するほどの金額でもない。ちょっとシャツを一着買えば吹き飛んでしまう程度の、極めて一般的な、パンピーレベルの支給額である。
俺は表情を引き締め直した。
危ないところだった。もしこのインフレの可能性を考慮せず、実質1万円ぽっちの支給額に対して、先ほどの『ボイン感謝の揉みほぐし』を決行してしまっていたらどうなる?
1万円の対価として、あんな極上のパイオツを揉もうとするなど、チャラ男としてのプライドが許さない。それは「安売り」であり、圧倒的非礼だ。等価交換の法則が崩壊してしまう。
金額の価値が10分の1になるのであれば、こちらから提供する感謝のスキンシップの価値も、当然10分の1に下方修正しなければならない。
その程度では、茶柱ポニテの尻を撫でる程度でしか喜びを表現できない。
乳と尻。
女性の魅力的なパーツにおいて、どちらも重要であることに変わりはないが、やはり正面から堂々と触れる胸に比べ、すれ違いざまに軽く触れることのできる尻の方が、アクションとしての
──とはいえ。
俺の脳内に構築された膨大な生物学のデータバンクが、その安易な結論に対して強烈な異議を唱え始めた。
尻というパーツを「格下」と断じてしまうのは、あまりにも人間中心主義的な、いや、二足歩行に甘えた浅はかな思考ではないだろうか? 真のチャラ男たるもの、表面的な価値観に流されるのではなく、野生の獣のような荒々しい
俺は姿勢を正し、誰にともなく、しかし確かな熱量を持って語り始めた。声のトーンは相変わらずフラットなままだが、そこに込めたチャラ男としての『
「……そもそもな。野生動物において、雌の『尻』というのは、単なる排泄や歩行のための器官じゃねえんだよ」
隣の席で読書に戻ろうとしていた堀北が、ピタッと動きを止めた。
彼女の「またこの異常者が何か訳の分からないことを口走り始めた」という無言のプレッシャーを感じながらも、俺は学術的かつチャラい持論を展開し続ける。
「四足歩行の哺乳類を想像してみろよ。犬でも、猿でも、ライオンでもいい。あいつらの世界において、雌が雄に対して『私は今、準備ができている』とアピールするための最大のシグナルはどこから発信される? ……そう、尻だ。発情期を迎えた雌は尻を赤く腫らし、強烈なフェロモンを放ってアルファオスを誘惑する。つまり、野生の世界において『尻』こそが、生命の誕生を司る絶対的かつ根源的なシンボルなんだよ。マジ尊いっしょ」
俺はさらに、人類の進化の歴史へと踏み込んだ。
「じゃあ、なぜ人間は乳に魅力を感じるようになったのか? 答えは簡単だ。人類が二足歩行を始めたからだよ。立ち上がったことで、本来最大の魅力であった『尻』が隠れてしまい、前方からの視覚的アピールが弱くなっちまった。そこで人類の雌は、進化の過程で前方に『擬似的な尻』を作り出す必要に迫られた。それが、乳房の発達だ。動物行動学者のデズモンド・モリスも『自己擬態論』でそう提唱してる」
俺は右の口角を3ミリ上げ、ニヒルな笑みを深めた。
「つまりだ。乳っていうのは、生物学的に見れば『尻の
「…………」
語り終えた俺は、完璧な論理の構築に酔いしれていた。
これだ。1万円の価値に対する見返りとして、尻を撫でる。一見するとグレードダウンに思えるが、実は「生命の原点への回帰」という壮大なテーマを内包しているのだ。俺は自分自身の深淵なるチャラ男哲学に、静かな感動すら覚えていた。
「……ねえ」
静寂を破ったのは、隣の堀北鈴音の、地を這うような低い声だった。
彼女は手元の文庫本を強く握りしめ、ワナワナと肩を震わせていた。
「なんだい、子猫ちゃん。
「……気持ち悪い。ただただ、絶望的に気持ち悪いわ。真顔で生物学の知識をひけらかしながら、最終的な結論が『セクハラを正当化するための言い訳』だなんて。人間の知性がこれほどまでに冒涜された瞬間を、私はかつて見たことがないわ」
堀北はついに立ち上がり、俺から物理的な距離を取るために机を数センチ横にずらした。
「それに、あなたが誰のお尻に触れようが知ったことではないけれど、もし万が一、億が一にも私に向けられたら……その時は、あなたのその『野生のシンボル』を根本から切除して、ホルマリン漬けにして理科準備室に寄贈してあげるから、覚悟しておきなさい」
「ウェーイ、物騒だねえ。でも、その鋭い眼光……まるで獲物を狙う雌豹みたいで、マジゾクゾクするぜ。それな」
俺が両目でウインク(ただの瞬き)を送ると、堀北はもはや言葉を発することすら放棄し、完全なる無視の態勢に入った。
物価がどうであれ、俺の『尻に対する価値観』は今、確固たるものとしてアップデートされた。
チャラノ小路チャラ隆の野望は、大自然の法則すらも味方につけ、さらなる高みへと昇っていくのだ。
論理は完全に構築された。
問題は、現在の物価がどちらのパターン(1pt=1円なのか、1pt=0.1円なのか)であるかを見極めることだ。
俺は再び右の口角だけを上げ、隣で不機嫌そうに端末を操作している堀北に声をかけた。
「ねえ、鈴音ちゃん。ちょっとチャラ男的な相談に乗ってくんない?」
「嫌よ。あなたの発する音波が私の鼓膜を振動させること自体が苦痛なの」
「つれないねえ。まあ聞いてよ。俺さ、この10万ポイントの価値について考えてたんだけど。もしこれが本当に10万円分の価値があるなら、感謝の証として茶柱先生の胸を揉んでこようと思うんだよね。でも、もし物価が高くて実質1万円の価値しかないなら、お尻を撫でるくらいに留めとこうと思うわけ。どっちがより『粋』なチャラ男のアクションだと思う?」
俺は極めて真剣に、まるで難解な数学の公式を尋ねるかのようなフラットな声で問いかけた。
堀北は、ピタリと動きを止めた。
ゆっくりと、ロボットのように首だけをこちらに向け、俺の顔を真正面から見据えた。その瞳には、もはや怒りや嫌悪を超越した、絶対零度の虚無が広がっていた。
「……あなた、本当に病院に行った方がいいわ。物理的な脳の欠陥を疑うレベルよ。その二択、どちらを選んでも社会的に抹殺される犯罪行為だということが理解できないの?」
「いやいや、これはチャラ男とイイ女の間の、高度なコミュニケーション……」
「黙りなさい。もしあなたがその狂った計画を1ミリでも実行に移そうとしたら、私が直接あなたのその軽薄な口を物理的に縫い合わせてあげるわ」
素晴らしい。
これほどまでに的確で、かつ鋭利な殺意を向けられたのはホワイトルームの教官以来だ。彼女の
「ウェーイ、鈴音ちゃんマジこえー。でも、そういう暴力的なところもワンチャン嫌いじゃないぜ」
俺は指で銃の形を作り、彼女に向けて撃つ真似をした(バキュン、という効果音を口で言いながら)。
堀北は深く、深くため息をつき、完全に俺を視界からシャットアウトするように机に突っ伏した。
とりあえず、まずは昼休みに購買部へ行き、パンやジュースの値段を確認することから始めよう。
物価が分かれば、俺が茶柱先生の胸を揉むべきか、それとも尻を撫でるべきかが確定する。
チャラノ小路チャラ隆の高度育成高等学校での戦いは、かくして極めて論理的かつセクシャルな命題とともに、華々しく幕を開けたのである。
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これでいいのか!?これでよかったのか!?