怪獣8号:ULTRAMAN 作:大胸筋が弱い人
防衛隊の入隊試験が行われている防衛隊基地。
その近くにある第二演習場。
防衛隊によって捕獲された怪獣や余獣がいる円形の壁に囲まれた場所のその壁の上。
コンビニで買ってきたおにぎりを食べながら、ハヤタは下で蠢く怪獣達を見下ろす。
(早く始まんないかな。)
ハヤタの目的はこの試験の最後に現れるヤツをなんとかすること。
今のヤツならば、殺すことは可能だろう。だが、切り札もまだ完成には至っていない事、何よりこの先の人の歩みの為にもここで終わらせては何も意味はない。
今はただ、その存在を正確に捕捉する事が出来ればいい。
ここでは大きな被害は出ないのだから。
試験会場となった演習場には、すでに緊張した空気が張り詰めていた。
防衛隊入隊試験。
集められた受験者たちは、それぞれの装備を確認しながらスタート地点に並んでいく。
日比野カフカもその一人だった。
隣では市川レノが真剣な表情で前方を見ている。
カフカは軽く深呼吸した。
(やるしかねぇ)
数日前の夜。
あの男との会話が頭をよぎる。
――自分の芯を持て。
――その力を何に使う。
カフカは拳を握った。
守るために使う。
その答えは、もう決まっている。
「進め」
第三部隊副隊長、保科の一言に受験者たちは一斉に動く。
銃声。爆発。
各所で戦闘が始まる。
レノは戦闘服の機能を活かし、機敏な動きで移動しながら射撃を繰り返す。
数は少ないが、確実に怪獣を仕留めている。
カフカは――苦戦していた。
開始早々にドローンの意味に気付き、アタッカーのサポートに回ったまでは良かった。
だが、解放戦力0%という結果と30代の肉体の衰えによって他の受験者よりも大きな遅れをとっていた。
そこに加えて、先程の怪獣の攻撃による肋骨の骨折。
(不甲斐ねぇ。あいつに啖呵切って、ミナも見てるってのに。)
だが、
「今度はぜってーあきらめねえ‼︎」
日比野カフカの心は折れはしない。
周りが複数人で怪獣を討伐する中、圧倒的な速さで戦場を駆け抜ける存在が1人。
四ノ宮キコル。
軽やかな動きで余獣を翻弄し、的確に急所を撃ち抜く。
他の者とは一線を画す訓練された動きは後の防衛隊の主力になるであろう一部の受験者達に追いつく事すらさせずに前へと進んでいく。
その美しい姿はまるで神話の戦乙女のようで…
その後ろを追う2人の姿をより異質なものにしていた。
「行くぞ市川ァァ‼︎合体作戦だァ‼︎」
「めっちゃ見られてて恥ずかしいんすけど‼︎」
市川レノがカフカを肩車する形で駆け抜ける。
「機動力はお前に任せた‼︎存分にスーツの力を使え‼︎」
「攻撃は任せましたよ!知識をフル活用して下さい!」
「もう合格で良くない?お笑い枠で」
「真面目にやれ」
その様子を見て腹を抱えてしゃがみ込んでしまう保科。
ついでに笑い転げるハヤタ。
閑話休題。
必死に追いつこうとする2人だったが、
その奮闘も虚しく、キコルが本獣を倒した事で試験が終了した。
「私は完璧にやれたわよね。パパ、ママ。」
戦闘の余韻に浸りながら、キコルは静かに呟く。
周囲には誰もおらず、キコルの呼吸音のみが響く。
本獣が倒れた際に起きた白煙が少しずつ薄れ始める。
ソレはまるで背景のように、ただただ自然に、そこにいた。
「‼︎」
瞬時にキコルが身を捩る。
それの指先から放たれた何かがキコルの肩を掠める。
瞬時に銃口を向け引き金を引く…よりも早く。
キコルの両太ももと脇腹に直径3センチほどの穴が開く。
「ガッ…」
攻撃をモロに食らったキコルは地面に崩れ落ちる。
僅か2秒の間に行われた一瞬の攻防は得体の知れないソレが制した。
(シールドの一点集中は勘が外れた!足はまだしも脇腹は貫通。かなりマズイ!)
せめて攻撃を、と顔を上げたキコルが見たものは…
体を再生させてながら立ち上がる先程仕留めた怪獣の姿だった。
「よしよし、あとはお前に…驚いたな。まだ戦えるのか?」
今もなお再生を続ける怪獣の傍らにヤツは立っていた。
細身というにはガリガリすぎる胴体に、骨と皮しか無いように見える手足。
その特徴的な頭部はエリンギを連想させられる。
一目で人間ではないとわかるその見た目は、怪獣に酷似していた。
(コイツ言葉を、そんな事よりも怪獣が再生して…)
「よしよし。あとはお前に任せるから、
ヤツはゆっくりと振り向き、唇のない剥き出しの歯が見える口元を動して。
「よーく噛んで食べるんだよ。」
誰が見てもわかるほど確かな表情で、笑った。
それを見たキコルは本能で悟る。
(こいつは、ヤバい!)
残った力で銃を構え、引き金を引く。
放たれた弾丸は確かに怪獣にの顔を抉るが、即座に再生し、何事もなかったかのように、突き進む。
そのままキコルに近づいた怪獣は、その巨大な手でキコルをガッチリと掴み万力のような握力で握りしめる。
「こんな…所で…負けられないのに…」
燃えたぎる闘志とは真逆に、キコルの体は動かない。
(私は完璧を超えないと…パパにも、褒めてもらえるように…)
キコルの脳内で2人の影が映る。
強く、厳しく、自分が越えるべき目標のパパ。
強く、優しい、自分が目指す理想のママ。
パパは厳しくって、いつも完璧を求めるけど。ちゃんと私の努力を見てくれる。
ママは優しくって、いつも褒めてくれるけど、決して甘やかしすぎたりしない。
どこまでもすごい私の両親。
だから絶対に。
「こんな所で!負けらんないのよ!」
キコルは身を捩り、脱出を試みる。
その時だった。
突如キコルの体を包んでいた力が消える。
そして目の前には
「よく頑張ったなキコル‼︎」
日比野カフカの姿があった。
「え…なんで、あんたがここに…」
なんでこの男がここにいるのか、ただでさえスーツの力を1%も引き出せず、怪我さえ負っている人間に何ができるのか。
それらの言葉はカフカの言葉に遮られる。
「お前が頑張ったおかげでみんな避難できたぞ」
こちらに背を向けて立つカフカ。その体に青い光が走り始める。
即座に以上を感じ取った怪獣は砕け散った腕と自身のユニ器官の頭部の角を再生、エネルギーを圧縮する。
「だから」
「危ない!」
会話を遮るように怪獣が圧縮したエネルギーを放つ。
紫色のソレは大きく爆発し、あたりを煙で包み込む。
風で煙が流れ、その中から人影が姿を現す。
否、ソレは人ではなかった。
黒い外殻に蛍光色のラインを走らせ、背面には背骨のようなものが現れている。
そしてその顔には、髑髏を思わせる仮面が。
同時刻、モニタールームでは職員が慌ただしく受験生達のバイタルチェックを行っていた。
そんな中、一つのあり得ない数値が観測される。
現場に向かう途中の保科はそれを計器の故障だと考えた。
『フォルティチュード9.8』
フォルティチュードは数字の大きさが、怪獣の強さを表しているといっても過言ではない。
防衛隊では、フォルティチュード7.0以上の怪獣を大怪獣と呼称する。
では、9.8は?
識別怪獣。大怪獣以上の怪獣に番号とともにつけられる例外を現す呼称。
つまるところ、歴史に残る大怪獣である。
拳を握り締めたカフカこと怪獣8号は一言。
「あとは俺に任せろ」
そう言った。
遅くなってしまい本当にすみません。
少し体調を崩して寝込んでしまいまして、休んだ分を埋めるために、こっちがかなり忙しくなってました。
本当はこの後の漫画1話分とちょっとした会議のシーンを入れるつもりだったんですが、絶対投稿がさらに遅くなるので、前後編に分けました。
次回も遅くなるとは思いますが、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。
ではまた。