前世でヤンデレ妹に人生をめちゃくちゃにされた俺。トラウマを糧に最強になったがあいつはまだ諦めない 作:エアハンター
深夜。月光だけが照らす静寂の中で俺は宙に浮いていた。
吸血鬼の里全体を俯瞰してみると想像以上の理想的な村だった。そこにある家々からは温かな灯りが漏れ、人々の生活音が聞こえてくる。
田畑を耕す者、手工芸に励む者、楽しげに会話を交わす子供達。
まさに平和な日常の風景。それだけに先ほどのクロフォード王国への憎しみ溢れる姿とのギャップが際立つ。恐らくは過去の悲惨な出来事から来るものであろうが……。
彼らは眷属であり、純血種の吸血鬼とは別物だろう。だがこうして暮らしぶりを目の当たりにすると印象は変わる。
ある家の前で若い男女が並んで座っていた。何やら語り合っている。恐らく恋人か夫婦だろう。
別の場所では子供達が鬼ごっこをしている。里の周囲を囲う林は天然の遊び場となっているらしい。
皆が皆、懸命に生きている。
「というか、寝ろよ。いや、吸血鬼だから夜行性なのか?」
思わず独り言を漏らす。自分でもどうでもいいことだと分かっていてもつい口に出てしまった。
「そんな物悲しそうな顔で飛んでるなんてらしくないわね。ミナトくん」
突然真下から声がした。視線を向けると、宿舎の庭先にフレイアが立っていた。
浴衣姿の彼女は真っ直ぐこちらを見上げている。
「何してるんだ?」
「それはこっちの台詞よ。夜中に何やってるのかと思えば……」
俺はゆっくり降下していく。
フレイアの表情は普段通りだが、どこか警戒心を滲ませている。
「散歩だ。吸血鬼の里ってのがどんなもんか見ておきたくてな」
「カナデちゃんから聞いたわ。あなたも吸血鬼の血を求めてるって」
「ああ」
「ああって……まあいいわ。中に入りましょう。ここじゃ誰かに見つかるかもしれない」
促されるまま宿舎へ戻る。フレイアの部屋も俺達と同じく和室だった。
「で?何の用だ?」
「単刀直入に言うわ。あなた、セラのことをどう思ってる?」
「どうって……ほぼ初対面の俺に身体を捧げようとした頭のおかしい500歳児」
「身体!?」
フレイアが赤面する。よほど衝撃的だったようだ。
「ちょっ、それどういう意味!?詳しく──てかあなた、まさか許可したの!?」
「するわけないだろ。全力拒否だ」
「そ、そうよね。焦った……いや、そういう問題じゃなくて……!」
フレイアは混乱しているようだが、すぐに我に返る。
「これまでのこと、聞かせてもらえない?あたしも全部を把握してるわけじゃないから」
「まあ、別に構わないが」
俺はこれまでの経緯を簡単に説明した。
セラとの出会い、爺さんから聞かされたカナデやニアの出自の真相。セラとの利害一致と交換条件。
全て話し終えるとフレイアは深いため息をついた。
「……あなた、思ったより考えなしで行動してるのね。ていうか、強さ以外眼中になさすぎるんじゃない?」
「自覚はしてる」
「開き直るんじゃないわよ。クロフォード王国の第二王子様が吸血鬼の里に乗り込んで挙句血を貰おうだなんて……バレたら大問題よ?」
「ああ、だから完全黙秘を頼んだだろ?」
俺の言葉にフレイアは呆れた表情でこちらを見る。
「はぁ……まあいいわ。今度はこっちの事情を聞いて」
「フレイアの?」
「ええ。あたしも実はアドルフ様から特別な任務を与えられているの」
ようやく本題に入る気になったようだ。
フレイアの表情が一気に真剣なものへと変わる。
「あたしがこの里に来た本当の目的──純血な吸血鬼セラの抹殺と……おそらくは彼女が復活させるであろう最恐にして最悪の始祖の出現阻止」
「……は?」
思わず聞き返す。セラの抹殺?最悪な始祖?
「おい待て。何を言ってる?セラを殺せってことか?」
「正解には後者が本来の目的だけどね。ただ、彼女が何らかの形で“始祖”を目覚めさせる可能性が高いと判断されたの」
あまりに唐突な発言に困惑を隠せない。
俺とてセラを完全に信用しているわけではないが、わざわざ抹殺までする必要性を感じない。
「彼女……セラはこの現代を生きる唯一の吸血鬼。だだ、力そのものは全盛期の吸血鬼ほどではないわ。それでも十分脅威だけど」
「ああ、昨日の戦闘を見れば分かる」
未だにセラの魔力には底が見えない。
俺と戦った時に見せた吸血鬼特有の能力や多彩な魔力操作。どちらも侮れない。
本人は正面から戦えばニアと五分五分と言っていたが謙遜だろう。
吸血鬼としての能力を考慮すればミリウス並の実力者にすら勝る可能性さえある。
「だからこそ、彼女は封印されていた“始祖”と呼ばれる最強の吸血鬼を目覚めさせようとしている。最悪の時代を生み出した元凶をね」
全く聞いたこともない話だった。どうやら爺さんも知らなかった情報らしい。
「根拠は?」
「今のところは単に彼女が唯一の純血な吸血鬼というだけで実質ないと言っても過言ではないわ」
「おいおい……」
なんとも曖昧な判断基準だ。裏付けとなる材料があればまだ説得力があっただろうに。
「その始祖とやらはどのくらいやばいんだ?」
「アドルフ様が言うには、“自分など非ではない。奴が復活すればこれから敵対するであろう帝国をも灰塵に帰す”って」
思わず絶句する。あの親父がそこまで言うのか。
「吸血鬼が世界から迫害されるようになった元凶ともいえるわね。本来、彼らは温和で陽の光が苦手なだけの種族。でも“始祖”は全く違ったの。陽の光なんて無効。人間を捕食するどころか喰らい尽くすために襲撃する。残忍にして冷酷。500年前の大戦の最大の脅威とも言われてる」
「それが王国が吸血鬼狩りを行ってきた理由か」
「おそらくね。あたしも当時の生まれならアドルフ様と同じ判断をしたと思うわ。でも……」
フレイアが言葉を途切れさせる。
恐らく、彼女にも葛藤があるのだろう。
「あたし自身は、この里の眷属達が悪人とは思ってない。むしろこんなにも慎ましく暮らしているのに未だに迫害の対象にされていることの方が疑問よ」
「……今の話、カナデには?」
「言える訳ないでしょ。あの子、夕飯の時からセラのことを嬉しそうに話してるのよ?これから自分の師匠になってくれるんだって」
フレイアの顔に疲労の色が見える。
どうやらカナデの純粋さに翻弄されているようだ。まあ当然か。
「ごめんなさい、最初はあたしも偵察のつもりだったんだけどね。そもそもアンドフ様はセラの実在も半信半疑で、掴んでいたのは吸血鬼の里の曖昧な情報くらいで、始祖の復活なんて最悪の中の最悪を想定してただけ。実際は……」
「……セラは実在していて、カナデが吸血鬼のハーフで、しかも繁栄の巫女ときた」
「夢なら覚めてほしいわね。しかも、あなたまで吸血鬼の血を欲してるなんて……」
フレイアが小さく溜め息をつく。確かに事態は混沌を極めている。
依頼をした親父ですらこうなるとは予想していなかっただろう
「で、フレイアは結局どうするんだ?」
「観光客ってことになってるし、様子を見るつもりよ。最悪失敗したとしてもあたしには手に負えなかったとか見張りの眷属を撒くので精一杯だったとか適当に言い訳するわ。正直、セラと正面から戦える自信はないもの」
彼女らしい割り切り方だ。事実、事はフレイア一人で対応できる範疇を超えている。
むしろ任務の遂行を第一に考えるなら早急に帰還すべきだが、それをしないのは彼女が俺やカナデを気遣ってくれている証拠だろう。
「ただ、始祖の復活だけは絶対に阻止しなきゃいけないわ。約束して?万が一、セラが怪しい動きをしたら全力で止めるって。あなたにしかできないから」
「責任重大だな」
「自業自得でしょ。吸血鬼の血を取り込むつもりの第二王子様?」
フレイアの軽口に苦笑する。
仮に始祖が復活するというならば、それこそ世界全体を巻き込む脅威となり得る。
フレイアの危惧は尤もだが、カナデが心底信じ切っているセラを殺すなどという選択肢は取りたくない。
「分かった。とにかく始祖ってやつの復活だけは阻止する。俺だってそんなバケモンとやり合うのは御免だ」
「お願いね。あたしも出来る限りサポートするわ。立場上、一緒に行動するのは厳しいけど……」
「ああ。セラを信じるかどうかは明日の儀式とやらを見届けてからだ」
「ええ。そうしてちょうだい」
話が一段落したところで立ち上がる。
窓から覗く景色は依然として美しく、穏やかだ。
だが、その裏側に潜む闇はまだ計り知れない。
「もう遅い時間ね。あたしも眠くなってきたし……」
「ああ、じゃあな」
「うん。……あ、最後に一つだけ」
部屋を出る直前、フレイアが俺を呼び止めた。
「フレイア?」
「あたしの気持ち、変わらないわよ。いくら強くなる為だって、セラと子作りするなんて認めないから」
「……しないっつーの」
「カナデちゃんとも、ね?あたし、結構嫉妬深いんだから」
「勘弁してくれ……」
最後の最後で揶揄われる羽目になった。
フレイアの妖しい笑みを背に受けて部屋を後にする。
セラ、カナデ、始祖、そしてフレイア。
単なる休暇のはずが次々と問題が舞い込んで来てしまった。まあ、半分は自業自得でもあるが。
「セラ……頼むから冗談は子作りだけにしてくれよ」
思わず呟く。あの500歳児が本当に里の為に奔走していることを願いながら、俺は部屋へと戻ることにした。
一番魅力的だと思うキャラは?
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ミナト
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カナデ
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フレイア
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アリス
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ニア
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ミリウス