昨年導入した自転車税で国民の怒りは爆発寸前だ。
しかし、税収が足りない!
あれもしたい。
これもしたい。
すべて!全部!丸ごと!
みんな、みーんな、お前ら国民の為だ!
なのに税金を納めない。
最新の通信端末はすぐ手に入れるくせに!
これはそんな悩める官僚たちの物語である。
近い未来の話。
人々は通信機器をスマホからメガネ型端末に持ち替えていた。
両手が塞がらず、操作中他人に覗かれる事もない、
肌身離さずに持ち歩け、非常に重宝された。
街歩く人を永田町のビルから見下ろしながら
財務省の官僚、梅下凸蔵は同僚の大池濁三郎に呟く、
「国民どもは皆んなあのメガネ型端末をつけてるな」
梅下の表情から察した大池が、
「なんだ?今度はメガネ型端末に税金でもかかるのか?」
と冷やかすように言う。
梅下はそれを聞いても至極当たり前とでも言うように、
「ああ。でもこの前も自転車税やったばかりだから、
流石に直接メガネ型端末に税金かけるのは芸が無いよな」
と頭を傾げる。
そのブレない様子に呆れながらも、
「芸が無い…って、問題はそこじゃ無いだろ。
お前は何でもかんでも税金かけ過ぎだ。」
と注意する大池。
「いやいや国の運営は金が掛かるんだ。
金はいくらあっても足りない!」
と胸を張る梅下。
冗談では無く本気で言っているのが怖い。
彼の目に国民は「税金マシーン」としか映ってないのだ。
大池は
「はぁー」
と大きくため息をつき、彼の説得を諦める。
諦める代わりに、
「なら、あのメガネ型端末を使って国民が、『自ら』、
税金を払いたくなる様な仕組みを作ったらどうだ?」
と提案してみる。
「おいおい、あいつらが大人しく税金差し出す訳ないだろ」
と酷いことを言う。
でもそこはスルーして、
「俺にちょっとしたアイデアがある」
大池はニヤリと笑いながらそのアイデアを梅下に伝えた。
その法案は国民にあまり知られる事もなく、ひっそりと議会を通過した。
法案の名前は、
「国民税負担可視化法」。
表向きの理由は、国民の税金のおかげで日本の運営がつつがなく出来ている。
その感謝とその貢献をより多くの人々に知らしめ、
納税者が周りから讃えられ、さらなる納税へのモチベーションにしよう。
と言うものだ。
事実、日本には金持ちを、
「どうせ悪いことして稼いだんでしょ!」
と悪く言う傾向がある。
金を稼ぐと言うことはその分多くの税金を払っていると言うことだ。
その税金が人々の生活を支えているのだから、
その納税額を周知すれば、人々は彼らを敬うだろう。
第一、日本の国家予算は110兆円以上。
日本の世帯数5400万世帯で割ると、
一世帯あたり204万円の税金を払わなければいけない。
でも実際に204万円以上税金を払っているのは全体の2割弱だ。
残りの8割強はこの2割弱に足りない分を払って貰って、
国からのサービスを受けているのだ。
もっと感謝しなさい!
という事だ。
この法案に各所から反発はあった。
「個人情報保護の観点から容認出来ない!」
「一部高額納税者への選民意識を助長してしまう!」
至極当然の反対意見が紛糾する。
しかし、これらの声は全て握りつぶされ、取り込まれた。
やり方は簡単だ。
「財務省を敵に回すのか?」
と問うてやれば相手は自ずと口を閉じる。
こうして法案は施行された。
この法案がユニークなのは、
メガネ型端末に財務省ホームページでアプリをインストール
する事で、相手の頭上に納税額が表示されるのだ。
そして、その納税額が全納税者中何番目の額なのかも。
ちなみに会社の経営者だと、表示された数字の下に
( )付きで会社の納税額が表示される。
人々はこのアプリを次々と役に立てた。
「俺は将来ビッグになってやるぜ」
と夢を語る男に、
「納税額5万で何バカのこと言ってるの?」
とツッコむ彼女。
会社説明会で、社長が挨拶してると、
「あれっ?年商100億って割に納税額少な過ぎない?まさか…」
と悪事がリクルーターにバレる企業。
「ああ俺?小さいけど会社経営してます」
とバーでナンパしている男に、
「納税額0じゃん。結婚詐欺ね。」
と犯罪に巻き込まれずに済む女性。
様々なところで活用された。
そのうち、
「納税額を隠すのは何かやましいことがある証拠」
という風潮が国民に生まれる。
実際納税額0の者は犯罪者が多かったという事実もそれに拍車をかけた。
納税額を隠せないとなると、人々は、
「他人に見られても恥ずかしくない納税額」
を求める様になった。
大池の狙いはここにあった。
納税額が相手にバレる事はすなわち自分の甲斐性が
相手にバレるという事なのだ。
今までなら口先で多少サバを読んでもバレなかった所得が、
一瞬でバレる。
企業はより深刻だった。
企業とは公共の福祉に貢献するという前提があるのに、
福祉の根幹たる税金を出し渋るとは不心得も甚しいと
人々から批判を受けるからだ。
だから個人では自分をより大きく見せる為に人々は節税をしなくなる。
企業なら社会貢献の証拠として多額の納税額を粉飾した。
確定申告で経費として計上していた事をやめる。
会社の飲み会も交際費ではなく雑費として課税させる。
翌年集まった納税額は昨年対比で2割以上の増収となった。
梅下の望みは叶ったのだ。
大池は梅下を見つけ話し掛ける。
「おう!お望み通り税収アップしたな!満足か?」
そう言う大池の方を見もしないで、
梅下は困った顔で、
「さっき厚労省の奴らに「お前らばかりズルい!
一丁噛ませろよ!」って絡まれたよ」
と空を見ながら呟く。
「えーっ!あそこは徴収方法がややこしいからなぁ…。
増収って言ったって…。あっ!こんなのはどうだ?」
大池は思い付いた政策の草案を梅下に伝えながら、
「この国の国民からはまだまだ徴税出来そうだ」
とニヤリと笑った。