「四月 新学期」
四月上旬 総武高校 通学路
総武高校への通学路を歩いている八幡は、後ろから声を掛けられ振り向いた。
「おはよう八幡」
そこにいたのは伊御だった。
まだ冬が明けたばかりだからか、ブレザーだけでは寒そうにしており、手元には缶のココアを持っている。
「はよ。今日は一人なのか?」
八幡は通学路を歩きながら聞く。
「うん。今日はココア飲みたくなったから普段とは違う道使ったんだ。これ、普段の通学路のところにある自販機じゃ売ってないから。そういう八幡も今日は自転車じゃないみたいだけど…」
「昨日自転車のタイヤパンクして、昨日の夕方に自転車屋に預けてきた。今日の夕方引き取りに行くんだ」
「なるほど、そりゃ災難だ」
「まったくだ…」
そこから会話はなく二人は静かに歩いていく。
八幡と伊御は二人とも物静かなタイプであるが故か、二人の時は基本的に会話は少ない。しかし、二人とも静寂な空気感が苦手でないからか、二人の間には気まずい雰囲気よりは穏やかな雰囲気が流れている。
しばらく歩いていると通学路の前に茶髪の男子生徒が歩いているが見えた。
二人の友人である榊である。
「おはよう榊」
「はよ」
「おはー。二人だけとは珍しいな、御庭たちはどうしたんだ?」
二人のあいさつに返事をしながら、普段であればいるであろう女子の友人たちがいないことに意外な声をだす。
「今日はあってないね。まあ、どっかで会うだろ、同じ学校なんだし」
「確かになー…今日のクラス替え、どうなるんだろうな」
「さあな。まあ、クラスが違くても、結局はいつものメンツで集まるんだし、そんなに関係なくないか?」
三人で道を歩きながら、そんな会話をして学校へ向かっていく。
しばらく歩いていると、総武高校の校門が見えてきた。
校門の前には二人の女性教師。
桜川キクヱ先生と平塚静先生である。
「諸君、おはよう」
「おはようございますですの~」
どうやら新学期そうそう挨拶運動もかねて挨拶をしているようだ。
三人は校門の前までにつくと二人に挨拶した。
「先生、おはようございます」
「はよーす、先生たち」
「おはざっす」
上から伊御、榊、八幡である。
キクヱと平塚は三人に挨拶を返しながら、話しかけてきた。
「おはよう。今日は三人での登校か?新学期早々遅刻はなさそうで安心したよ」
「おはようですの。伊御くん、榊くん、八幡くん」
そこから少し雑談をした後、三人は校舎の中に入っていく。新学年の入り口のあたりに、クラス表があるらしい。かなりの生徒が自身のクラスを確認するために集まっており、確認するのには時間がかかりそうであった。
「これじゃあ、確認に時間がかかるな」
「しゃーなくね?新学期ってこういうもんだろ」
伊御と榊が顔を見合わせていると、三人の横から声がかけられた。
「伊御さんとハチさんは私たちと同じクラスじゃよ。榊さんだけE組だった」
「おはようございます。八幡さん、伊御さん、榊さん」
「ん、おはよ」
三人が横から聞こえてきた声に反応してそちらの方向に顔を向けると件の三人の女子の友人たちがいた。
背が低く、紫ががった腰まである長髪が特徴的な、どこか猫を思わせる女子、御庭つみき。
比較的制服の着用の校則が緩い総武高校でも茶髪を二つのお団子にまとめた女子、片瀬 真宵。
栗色のショートボブヘアで左右に結ってある黒のリボンが特徴的なふわふわした雰囲気の女子、春野姫。
この一年で八幡が友人関係を持つことになった人達だ。
「「榊だけ別なのか」」
「俺だけ別かよ!」
「みんなF組かとおもったら、一人だけいなかったんじゃよね…」
「なの」
「あはは…」
一人だけクラスが違うことにショックを受ける榊。
一年は全員同じクラスだっただけに、一人だけ別というのはさぞショックだろう。
「まあ、クラスが違くても休み時間とかでこっち来るんだろ?合同授業とかも同じクラスだし…」
「我慢するしかないな」
伊御と八幡からそう言われた榊は肩を落としながらうなずき、全員で廊下を移動し始める。
すると八幡の隣に姫が来て笑顔で話しかけてきた。
「八幡さん、また同じクラスですね!」
「うん?そうだな…退屈はしなさそうだ」
「榊さんがいないのは残念ですけど…あ、そうだ今度またカマクラさんに会いにおうちにお邪魔してもいいですか?」
「いいけど…他の奴らも来るだろうし。最近は小町もお前らに会うの楽しみにしてるしな」
「はい!じゃあ今度のお休みに皆さんでうかがいますね!」
廊下を歩きながら姫との会話をしている八幡はふと自分が姫たちと初めて会ったときを思い出していた。
八幡が姫の顔を見たのは入学式当日だった。
『はひい!?だ、、大丈夫ですか?!すぐにきゅ、救急車を!マヨイさん!つみきさん、てってつだってください~~!!』
道路に飛び出した犬をかばい車に轢かれて、痛みで意識朦朧としている中、印象的だったのは轢かれた自分以上に慌てて半泣きになっている姫だった。痛くて意識が飛びそうなのにくすりと笑いそうになったことを思い出す。
高校生活のスタートが遅れてしまったことから、またボッチになる運命だったはずなのに今ではこうして友人がいる生活を送っているのだから、弱冠十六歳しか生きていない人生であるが、わからないものであると考える。
「?八幡さん、どうしたんですか…?」
会話中にいきなり考え事をしていた八幡に姫は覗き込むように顔を向け声をかける。
どこかウサギを思わせる姫の雰囲気に八幡はその姫の頭に無意識に手をのせて頭をポンポンしながら声に答えた。
「いや、なんでもねえよ。今年もよろしくな」
「……はひ?!」
あまりにも自然に頭をぽんぽんされ、遅れて気が付いた姫は、思わず顔を赤くして慌てる。
八幡も気が付いた瞬間は赤面し、姫をおいてどんどん先に進んでいく。
「うお、どうした八幡。顔赤いぞ?」
「なんでもねえ…先行く」
先を歩いていた伊御を追い越して先に進む八幡。
そんな八幡を姫はポンポンされた頭を自分の手で触りながらボーっとしていたところ、後ろからにやにやした表情の真宵と榊が声をかける。
「「できてぇる~~」」
「きゃ、ま、まだですよ~!」
「”まだ ”なんじゃね~」
「”まだ ”なんだ~」
「もう、マヨイさん!榊さん!」
くねくね踊りながら、おちょくられた姫は少し怒った表情で二人を追いかけまわす。
その光景を見ていた伊御とつみきはお互い笑いながら顔を合わせる。
「今年もたのしくなりそうだな、つみき」
「そうね。たのしくなりそうなの」
二人はそう言いながら追いかけっこをしている三人に声をかけて、先に行った八幡のところへみんなで向かっていく。
今から始まるのは高校生活、ひねくれた男子がふえたグループで、少しずつ関係を発展させていく二人の姿を見守る話。
比企谷八幡…主人公。新学期早々オートお兄ちゃんスキルで姫を赤面させた。
なお、自宅の自室でのたうち回り、妹に怒られる運命。
春野姫…ヒロイン候補1。新学期早々不意打ちの頭ポンポンで赤面した。
一年生のバレンタインはなぜか八幡のチョコだけ少し豪華仕様だった。
なんででしょうね(すっとぼけ)