血しぶきハンター   作:みこみこみー

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11話 良き狩人であるために

 

「超長期刑囚……!!」

「そう。我々をこの塔から出さなければその時間に応じて、刑期を短くしてもらえるようだ」

 

 クラピカが試練官達の正体に気付き説明する。貴方は感心した。一体どこからそんな事に気付いたのか。

 だが確かに向こうに見える5人は手枷を嵌めているし、おそらく推理は当たっているのだろう。

 

 殺してもなんら問題ない相手なら貴方の独擅場であったのだが、生憎出番はない。残念である。

 キルア曰く、先程の相手も元傭兵か軍人の犯罪者であり、喉を潰した後は時間をかけてたっぷり拷問されていただろうと。

 今回ばかりはトンパの負け腰と潔さが功を奏したようだ。

 

 次の相手は細身で長髪の男だ。あまり戦闘は得意でないと見える。

 こちらから出る人間を相談しようかと言う時、すぐにゴンが立候補した。彼は意気揚々とリングに上がって行く。

 

 向こうから提示された勝負は、ローソクを同時に灯し先に消えた方が負け。ローソクは長い物と短い物を選ばせてくれるらしい。

 罠は考えるだけ無駄だろう、やってみなければ正解など分からない。

 本当に何も考えていなかったゴンは長い方を選び、勝負が始まった。

 

 結局ゴンの選んだローソクが罠であったが、機転を利かせたゴンの立ち回りでこちらが勝利した。

 素晴らしい身のこなしであった。相手の懐に瞬時に飛び込み火を消すとは。貴方なら相手ごと火炎放射器で滅却していたであろう。

  

 次の戦いにクラピカが立候補したところへ、相手方の試練官も現れる。ボロボロの屍のような顔を持つ筋骨隆々な大男だ。

 貴方はヤーナムのトロールを思い出して懐かしい気持ちになった。パリィが楽な上に輸血液を多く得られるあの愚鈍な敵は、むしろ一種の救済である。

 向こうに見える試練官にも同じような雰囲気を感じる。見てくれだけの雑魚のようだ。

 如何にもな脅し文句を垂れ続けているが、クラピカには何ら響いていない。

 これは退屈な試合になりそうだと貴方が思ったところで、戦いが始まった。ルールは一人目と同じデスマッチである。

 

  ドゴオ!

 

 む? 思いのほか強いのか?

 試練官が素手で床を叩き割ったのを見て貴方は目測を誤ったかと思ったその時、クラピカの纏うオーラが急激に変質した。

 

 ——膨れ上がる殺意。地の底から湧く激昂。濃密に過ぎるそれを間近で受けた試練官は完全に気圧されている。

 

 これほどの殺意は久しぶりだ。或いはあのヒソカにも匹敵するだろうか。貴方は暗く深く燃えるそのオーラに戦意を刺激されていた。

 クラピカは忽ちの内に相手の顔面を鷲掴みにし、渾身の力で顔面を殴り地面に叩き付けた。

 勝負ありだ。殺すかと思ったが寸前で踏みとどまったらしい。

 

 勝ったと言うに落ち込んだ様子のクラピカが戻ってくる。

 簡単に理性を失いかけた自分を省みていると言うが、貴方に言わせれば、あれこそ狩人が理想とすべき純粋な殺意と理性であった。

 効率的かつ無慈悲に敵の命を刈り取らんとする姿は、かつてのヤーナムにおける貴方の姿を彷彿とさせる。

 どうやら相手の身体にあった蜘蛛の刺青を見て、宿敵たる盗賊団"幻影旅団"を連想し激怒したらしい。試練官はハッタリのつもりが裏目に出たようだ。

 

「……と言うか実は、普通のクモを見かけただけでも逆上して性格が変わってしまうんだ」

 

 貴方は内心で激しく同意した。蜘蛛とは須く狩人達の宿敵であり、悉く滅すべき害虫そのものである。とくに赤いのは駄目だ。絶対に許せん。

 怒りに燃える貴方は、しかしこの世界にはあの忌々しい巨蜘蛛はいない事を思い出して、やや冷静になった。

 

 それはそうと、クラピカのそれもなんともまあ難儀な悪癖である。

『白痴の蜘蛛ロマ』を見せたら一体どうなってしまうだろうか。蜘蛛への怒りと得た啓蒙で完全に正気を失ってしまうかも知れない。

 貴方はこっそり彼へと大量の子蜘蛛をけしかけてみたい欲望を抑えるのに苦心していた。やれば決裂だ。でもやりたい……。

 

 さて残るは1勝、ここで決めるとレオリオが立候補したところで、相手方から待ったが掛かる。先のエセトロール試練官はまだ息があるし降参もしていない、故に試合は終わっていないと。

 クラピカがトドメを刺せば済む話だが、彼は敗者に鞭打つような真似は嫌だと言う。レオリオやキルアが文句を付けるが彼の意志は揺らがないようだ。目覚めるのを待つしか無い。

 だが貴方はそんな退屈な時間を過ごすなど御免被る。レオリオが煩く騒いでいる横で、貴方は徐に懐から『火炎瓶』を取り出したかと思えば、地に伏すエセトロール試練官のすぐ傍へと投擲した。

 

「お、おい!!」

 

 レオリオの制止も遅く、リングへ着弾した火炎瓶は中身をぶち撒けて豪快に燃ゆる。

 熱で炙れば起きるだろう。そんな貴方の雑過ぎるアイディアはしかし、保身第一のエセトロールにはよく効いたようだ。

 眼前で起こった突然の大炎上にビビり散らかした彼は、野太い悲鳴と共に跳び上がった。

 直接当ててはいないし文句はあるまい。さっさと負けを認めるようにと貴方が脅せば、相手は大人しく降参して下がっていった。

 次はレオリオの番だったな。貴方が道を譲れば、レオリオは鬼を見るかのような目で貴方をチラと見やり、そのままリングへ進んで行った。

 

 

 

 

 ものの見事なボロ負けだ。レオリオの愚かさには貴方もほとほと呆れていた。

 

 今度の相手は女の受刑者であり、賭けによって勝負を決めるものだった。

 チップは「時間」。試験の残り時間と懲役年数をそれぞれ賭けたその戦いでレオリオは見事に策略に嵌り、制限時間50時間を代償に黒星1つを手に入れたのであった。あまりにも大きな敗北である。

 レオリオは心理戦と色仕掛けには滅法弱いらしい。全く、何故相手が男であることに賭けたのか。あれはどう見ても女だろう。

 女に賭けておいたなら、最悪男だったとしても()()()()()()やれば女であると言い張れたものを。

 これで2勝2敗、後がない。加えて試験の制限時間は50時間も失われ、残すところ15時間程度である。

 

 残るはキルアのみ。相手の試練官が姿を晒したその時、レオリオが動揺を露わにした。

 

「あ……あいつは…………!! キルア、オレ達の負けでいい。あいつとは戦うな!!」

 

 曰く、「解体屋(バラシや)ジョネス」。ザバン市犯罪史上最悪の大量殺人犯であり、素手で獲物をバラバラにする残酷な異常殺人鬼だと。

 貴方はその相手の手元を見て納得した。薄いが、指先にだけオーラを纏っている。念能力者ではないが、自然と念の力を引き出すいわゆる「天然物」だ。

 その力量に天地の差はあるものの、流星街へ来たばかりの頃の貴方と同じである。

 ジョネスは近くの壁を素手で粉々に砕いてみせる。オーラを纏えるのならば容易い事だろう。

 

「!! おい、キルア!?」

 

 レオリオの忠告にも耳を貸さずリングへ進んだキルアが勝負のルールを確認する。

 

「勝負? 勘違いするな。これから行われるのは一方的な惨殺さ。お前はただ泣き叫んでいればいい。」

「うん。じゃあ死んだ方が負けでいいね。」

「ああいいだろう。お前が

 

 

 ——刹那、ジョネスの背後に立つキルア。

 

 その右手には、ビクビクと脈打つ赤黒い鼓動があった。

 

 

「か……返……」

 

 血の原動を奪われたジョネスの懇願虚しく、キルアはその心臓を豪快に握り潰した。

 

 ほう、素晴らしい!!(Ooh! majestic!!)

 ドス黒く弾ける赤い花火に、貴方は大層感動していた。まさか、かの少年も内臓攻撃(モツ抜き)の使い手であったとは!

 それもただ一つ、生命の根幹たる心の臓のみを鮮やかに抜き取り押し潰す様は、いっそ芸術的ですらある。

 

 これまで貴方は、内臓攻撃とは如何に派手かつ豪快に赤い中身をぶち撒けてやるかとばかり考えていた。

 しかしこの様な手法も悪くない。無駄なく最も重要な物のみを華麗に奪い去る。……ふぅむ、美しい。

 惜しむらくは血があまり噴き出ない事だろう。やはり内臓攻撃の魅力は全身に浴びる生き血にこそある。

 普段の狩りでは使わぬが、あまり血を浴びるわけにいかぬ際などは真似してみるのも悪くない。

 

「さて、3勝2敗。これでここはもうパスだろ?」

「……ああ、君達の勝ちだ」

 

 一体キルアは何者かと騒ぐレオリオ達へゴンがその正体を教える。

 なるほど、暗殺一家。また物騒な家庭へ生まれたものだ。是非その家族とも交流してみたい。きっと他にも面白い技を見られるはずだ。

 貴方だけそんな外れた感想を抱く中へキルアが戻り、リングを越えて先の部屋へ進む。

 

 家具の揃った小さな部屋だ。ここで賭けに負けた分の50時間を過ごすらしい。

 苦痛だ……。貴方にとって、退屈こそが何よりも耐え難い。人の尺度より遥かに永い時間を生きた筈なのに、我慢知らずにも程があった。

 そわそわと身体を揺らす貴方は、既に出口を吹っ飛ばしてやりたい衝動に駆られている。

 

 部屋ではクラピカがキルアへ先程の技のからくりを尋ね、キルアは貴方に以前見せたような指先の変形を皆へ見せる。

 何度見ても便利そうな技術だ。得意顔のキルアは語る。

 

「オヤジはもっとうまく盗む。ぬきとる時相手の傷口から血が出ないからね」

 

 それはむしろ劣化してはいまいか?

 価値観の狂った貴方の内心(血が出るほど素晴らしい!)は、幸い口に出されることはなかった。

 

 

 ■

 

 

 暇を持て余し暴走寸前だった貴方も何とか50時間耐え忍び、部屋を脱出した一行は幾度となく多数決を迫られながらも先へ進んでいた。

 ドアを多数決で開ける際、迫る制限時間に心の余裕も無くしつつあったレオリオが、ゴンの投票ミスをトンパの故意投票と勘違いした事で仲間割れも起こしかけている。

 そんな矢先に辿り着いたのが最後の多数決の部屋であった。

 

〈それでは扉を選んで下さい。道は2つ……。6人で行けるが長く困難な道なら⚪︎を……4人しか行けないが短く簡単な道なら×を押して下さい。〉

 

 酷な選択を突きつけるものだ。残り時間は6時間半ほどだが、長い道では45時間以上はかかると言う。

 当然貴方はクリアを目指すし、そのためにはトンパと共に短い道に進まねばならない。

 

 もし戦いになれば、速攻でトンパ以外の誰か2人を落とす必要がある。貴方は攻めには強いが守りには滅法弱いのだ。

 悠長にしていてはトンパが仕留められるし、速攻では手加減できるかも怪しい。

 

「先に言っておくぜ、オレは×を押す」

「オレは⚪︎を押すよ。やっぱりせっかくここまで来たんだから6人で通過したい」

「残り時間は7時間もないんだぜ。短い道を選ぶしかないよ」

 

 部屋の雰囲気は重く沈んで来ている。それも当然だ。

 この試験を突破するには互いに戦わねばならず、だからといって諦めるような者はここまで残らない。

 

「あとはどうやって4人を決めるか。……といっても、2人は決まってるようなモンだね。アルトに勝てると思うヤツがいないなら、だけど」

 

 部屋の皆は貴方へ向けて最も警戒の眼差しを向け、トンパのみが自身の安全を察しているかのような余裕を醸し出している。

 

 ——だが、ゴンだけは。貴方にも誰に対してもそんな視線を向けていない。

 いつものように真っ直ぐな光の射す瞳だ。

 

 それに気づいた貴方は自分を恥じた。

 このような純粋な子供を見殺しにできないと言ったのは、いつの貴方が浮かべた言葉であったか。

 

 貴方としたことが、狩人としての矜持を忘れるところであった。

 貴方が狩るのは、血に酔う獣と悍ましい神秘だけ。

 血に染まらぬ無垢な子と代え難い友人らを害そうなど、それこそ血と獣性に呑まれ誇りを失った、堕ちた狩人の姿に他ならない。

 

「な……!! だがそれは!!」

 

 貴方は自分が短く簡単な道の扉を大砲で破壊しようと提案した。

 もとより試験は毎年あるのだ。ここで己の誇りと信念に反してまで受かろうとするつもりは無い。

 

 貴方の言を聞いたレオリオやクラピカは悔恨の念と忸怩たる思いに顔を歪ませ、希望を失ったトンパは絶望的な表情で膝を突く。

 トンパもろとも失格上等、いざ貴方が大砲を撃ち出さんとした、その時。突如、ゴンが明るく大きな声を上げた。

 

「あ!! そうだ!!」

 

 

 ■

 

 

 トリックタワー最下層、三次試験のゴールであるその場には、見事試験を突破した猛者達が疲れた体を休めていた。

 残りは約5時間、そろそろこの場へ辿り着く者もいなくなろうかと言うその時。また一つ扉が開き、合格者が部屋の中へと入って来る。

 

「ケツいてー」

「短くて簡単な道がスベリ台になってるとは思わなかった」

 

 姿を見せたのはゴン、キルア、クラピカの3人。

 

 

「全く、イチかバチかだったな」

 

 ——そしてその後ろへ続くレオリオ、トンパ、そして貴方の姿であった。

 

「だがこうして6人揃ってタワーを攻略できた」

「ゴンのおかげだな」

「全くあの場面でよく思いついたもんだな」

 

 あの時、貴方が大砲の撃鉄を下ろす直前でそれを止めたゴンは、長く困難な道から入って壁を壊し、短く簡単な道へ出るという奇策を提案してきたのであった。

 

「アルトさんの大砲を見て、最初に壁を壊してオレ達の所へ来たことを思い出してさ。道具さえあれば壁に穴を開けることだって出来るんじゃないかって思ったんだ」

 

 時間と選択に迫られるあの極限状態下でそんな柔軟な発想に至ったゴンに、貴方は心からの賞賛を惜しまなかった。

 深く考えぬままとりあえず破壊しまくる貴方とは、まるで非なる思考である。

 ここに追記すると、貴方の過剰な攻撃力を知る一同は、壁の破壊に貴方の持つ道具は使わせなかった。

 また豪快に壁を吹っ飛ばして無効や失格にされては堪らないという気持ちの表れであったが、貴方は部屋にあった武器を振りまわすのも存外楽しかったので気にしていない。

 

〈タイムアップ!! 第3次試験通過人数26名!!〉

 

 兎にも角にも、貴方達6人は全員無事に三次試験を突破したのであった。

 






 『火炎瓶』
 投げつけると激しく炎上する。
 病の浄化の偏見もあり、獣狩りに炎はつきものである。
 だからだろうか、ある種の獣は病的に炎を恐れるという。

 『白痴の蜘蛛ロマ』
 検索注意(グロ)!
 冒涜的な儀式を覆い隠していた上位者。
 巨大な芋虫のような体に無数の瞳を持つ。
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