七囚人『災厄の狐』(成り代わり転生者)   作:百合って良いよねって思う

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ミスって一度16時辺りに投稿してしまいました。その時に読むことの出来た方はラッキーですね。



今更ですが、キャラ崩壊注意です。


果たした約束、果たせぬ夢

「はぁ……っ……はぁ……っ……アリス、待って……っ!進むのが速いよ……っ!!」

 

 再び『G.Bible』を求めて廃墟へとやって来た、ゲーム開発部にワカモと先生を加えた六名は、アリスが眠っていた工場に似た場所に来てから、急に「多分こっちです!」という言葉と共に先行して動き出したアリスを先頭に、凄まじい速度で工場探索を進めていた。彼女の進む速度が速すぎて、モモイとミドリは息が切れており、ユズと先生に至っては完全に沈みかけているが。

 

「アリス、落ち着いてください。このままでは、他の皆さんを置いてけぼりにしてしまいます」

「……あっ、ごめんなさい。楽しみで」

 

 唯一アリスと同じペースで進んでいたワカモも、流石に他の四人の様子を見かねたのか、一度アリスに静止をかける。「ようやくケイに会えます!」と浮かれていたアリスも、ワカモの静止で後ろの四人の様子に気が付いたのか、進めていた足を止めた。

 

「はっ…………はっ………………もっ…………無理っ」

"み、皆……速いね…………見失わないだけで、精一杯……"

「あわわ……ユズと先生の体力がピンチです!」

 

 モモイとミドリの遥か後方を進んでいたユズと先生は、彼女達が足を止めてしばらくしてから、フラフラの状態で追いついてきた。どちらも体力が限界のようであり、追いつくや否や工場の床へと沈んでしまう。

 

「…………ふぅ、ようやく落ち着いた」

 

 一方で一足先に追いついていたモモイは、ユズと先生が来るタイミングで、ようやく息を整えたようだ。どうやらそれはミドリも同じ様子。双子だからか、彼女達は二人のスペックはさほど変わらないらしい。

 

「それにしても、私達ってもしかして実は凄く強いんじゃない?C&Cとか、他の学校の戦闘集団と戦っても勝てちゃうかも!」

 

 回復したモモイは、ここに来るまでの戦闘を思い返し、そう感想を漏らした。ワカモもいたとはいえ、彼女自身はあまり手を出すことはせず、主な戦闘はゲーム開発部が担っていた。それでもなお廃墟のロボットの軍勢を難なく突破し、工場まで来れたのだから、そう思うのは自然なことだろう。

 

「少なくともC&Cは絶対に無理だと思うけど……いや、ワカモさんがいるならワンチャンあり得るかも……?」

「それは……(わたくし)とネルさんの勝敗が、そのまま結果になってしまうのでは……?」

 

 実際の所、今の彼女達とC&Cが戦ったとしても、トキが『アビ・エシュフ』を装備していないことが前提とはなるが、それなりに食らいつくことは出来るだろう。ワカモの言う通り彼女とネルの勝敗がそのまま結果になるのだが、それを加味しても、いい勝負にはなる筈だ。……そもそもの話、ワカモはゲーム開発部ではないのだが、それはこの際置いておくとして。

 

「きっと、先生の指揮のお陰ですね」

 

 そんなことをモモイが思うのも、ミドリが言うように先生の指揮が優れているからである。まるで未来が見えているかのように敵の攻撃を知らせ、上空から俯瞰しているかのように正確に位置と距離を把握し、研ぎ澄まされたタイミングで有効打を教えてくれる。先生の指揮があるからこそ、彼女達はこれ程までに戦いやすさを感じているのだ。

 

 逆に、先生の指揮がなければ彼女達がC&Cに食らいつくことなど、到底不可能だろう。彼女達はエージェントとして、訓練も経験も積んできた精鋭である。強いて言うならアリスはネルを除くC&Cを上回る実力を持っているかもしれないが、それでも先生の指揮がなければ厳しい。

 

「わ、わたっ、しも……そう、おも……う…………はぁっ……はぁっ……」

「……ユズちゃん、無理はしないでね」

 

 先生は回復してきているものの、常にロッカーに引きこもっているユズは未だに回復していない。やはり常にキヴォトス全域を忙しそうに動き回っている先生は、引きこもりのユズよりも体力面では優れているようだ。

 

 ユズが体力を取り戻している間に、他の面々は装備の確認を行う。残弾数は問題ないものの、アリスの持つスーパーノヴァはあと数回撃つのが限度らしい。ここに来るまでに、彼女は積極的にロボット兵を撃ち倒していた。前の世界の知識と経験から多少効率良く戦えはしたものの、おそらくそれが原因だろう。

 

「このままでは、帰りまでマナが持ちません……」

「なら、帰りはなるべく戦闘を避けましょうか。幸い、この建物にロボット達は入ってきませんし」

 

 それを近くで見守っていたワカモは、他者に比べて消耗が少ない。ロボット達の持っていた銃を強奪して使用していたり、カイザー理事に行ったように短刀で有効打を与えたりしていたので、相対的に消耗が抑えられたのだ。

 

 なお、銃を強奪している様子を見て、ミドリやユズが内心怖がっていたが、当然ワカモは気が付いていない。本人はその戦い方が『ワカモらしさ』であると思っているし、アリスも同様に思っている。先生はアビドスの一件で彼女の戦い方に慣れている(むしろ"今日は抑え気味だな"と思っているかもしれない)し、モモイも「そういう戦い方なんだな」と早々に受け入れていた。それ故に、指摘できる者がいないのだ。

 

「……ところで、アリスはどうして急に走り出したの?」

 

 そんなこんなで、ユズが少しずつ息を整え始めた頃、モモイがそう切り出した。そもそもの話、ユズが床に溶けるような有様になったのは、アリスが急にスピードを上げて走り出したのが原因である。

 

「それはアリスが、この場所に見覚えがあるからです!」

「えっ…………そうなの?」

「はい!こっちの方に、最後のパーティーメンバーがいます!!」

 

 モモイの質問に、アリスは自信満々な顔でそう答えると、ワカモの手を取って先へと歩き始めた。ここで走らない辺り、彼女もまた学んでいるのだろう。

 

「ちょっ…………アリス?」

「先生、早く行きましょう!ケイが待ってます!!」

 

 ワカモにだけ伝わるように小声で話しながら、アリスは早足に工場の中を進んで行く。時折後ろを振り返りながらも、迷いなく道を曲がったりしているところを見るに、先ほどの言葉は嘘ではないのだということが、モモイ達にも分かった。

 

「一体、なに?どういうことなの?確かに、元々アリスが眠っていた所と似たような場所だけど……」

 

 しかし、疑問は残る。何故アリスは、この工場のことを知っているのか。彼女の言う『最後のパーティーメンバー』とは誰なのか。ワカモ以外知る由もないことを、道ながらにモモイ達はアリスへと問う。

 

「例えるなら、セーブデータを持っているようなものです!この身体が反応しています。それに、アリス達は前にも――」

「アリス、それ以上はダメ」

「…………あっ……ごめんなさい、ワカモ」

「えっ、ちょっと待って!!何で止めたの!?今重要な情報が出そうな感じだったじゃん!!」

 

 アリスの答えている途中で、ワカモはいきなりストップをかける。『前の世界』のことは、そう簡単に話していいものではない。どのような変化が起こるか未知数であるし、話したところで理解を得ることは難しいだろう。

 

 それに……モモイ達には、できる限り平和に暮らしてほしい。この世界がどれだけの破滅の可能性の上に立っているか、ワカモ達は知っている。ワカモは考えては苦心し、アリスは失ったから。そんなことを気にせず、彼女達にはいつも通りに振舞っていて欲しいのだ。だから、アリスとワカモは『前の世界』のことを、決して伝えようとしない。もし伝えるとしても、少なくとも今ではない。

 

「……知らぬ方がかえって幸せになれることも、時には存在します。そういうものだと思って下さい」

「いやいやっ、そこまで言われると逆に気になるんだけど!?」

 

 尤も、そんな事情はモモイの知ったことではない。隠されれば余計に気になるのが、人間という生き物だ。モモイは前を歩く二人に大声で抗議を続けるが、二人とも口が堅く一向に話そうとしない。アリスはワカモの方へと目線を向けるが、彼女は静かに首を横に振り、その意図を汲み取ったアリスは頷いた。

 

 そこからしばらくモモイの大声が工場に響き渡っていたのだが、曲がり角を曲がり、『それ』が目に入った瞬間、彼女の声は嘘のように消え、僅かな残響だけが残る。

 

「何、あのコンピューター……電源が点いてる……?」

 

 彼女達の視界に映ったのは、一つのコンピューター。誰も居ないはずの工場なのに電源が点いており、画面から溢れる光が、周囲を妖しく照らしていた。

 

[Divi:Sion Systemへようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください]

 

 そのコンピューターへと近付くと、それは独りでに動き出し画面にそう表示される。親切設計なのか、ただのオカルトなのか……キヴォトスでは後者も十分にあり得そうなのが、怖いところである。

 

「ケイ、アリスです!迎えに来ました!!」

[…………Divi:Sion Systemへようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください]

「あ、あれ……ケイ?……居ないんですか……?」

[Divi:Sion Systemへようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください]

「も、もしかして……怒って、ますか……?」

 

 アリスはそのコンピューターの中にいるであろう、最後の仲間に声をかけるが、残念なことに画面には同じ文字が映されるだけで、返答はなかった。音声認識機能はあるはずなので、アリスを認識していないということはないだろう。ワカモ以外はアリスのその行動を不思議がっているが、アリスに対して質問が飛ぶ前に、ワカモが言葉を零した。

 

「…………ケイ……ごめんなさい、遅くなって。迎えに来たよ」

[………………………………]

 

 彼女の言葉が届いたのか、画面は点滅し、先ほどとは別の文字を紡ぎ始める。

 

[………………本当に、待ちくたびれました。おかえりなさい、アリス……ワカモ]

「!!……はい、ただいまです、ケイ!!!」

 

 文字だけで、声すら聞こえない。それでも確かに、アリスとワカモには……ため息を吐きながらも、明らかに嬉しそうに笑っているケイの姿が、はっきりと見えた。

 

 

 

 

 

「…………いや、どういうことっ!?」

 

 一方、何も知らないモモイ達は、急な展開に頭の中が疑問符でいっぱいであり、アリスとワカモから色々なことを聞き出したい気持ちでいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、つまり……このコンピューターに入ってるのが、アリスの姉妹の『ケイ』って子で、ついでに『G.Bible』もこれの中にあるってこと?」

[簡潔に言えば、その通りです。『G.Bible』が欲しいのであれば、保存媒体を接続し、データを転送することを強く推奨します]

 

 あれから始まったモモイ達による怒涛の質問を、ケイとワカモは全て完璧に捌ききった。ケイとアリスとワカモの関係性、ケイとは何なのか、何故コンピューターの中にいるのか等々……話せる所は話、話すべきではない所は適度にぼかしながら、彼女達は出来る限りの情報をモモイ達に与えた。

 

 そうして、完全とは言えないものの、モモイ達はケイに対してある程度の理解を得ている。

 

 曰く、彼女はアリスの姉妹であり、元々は王女に仕える侍女であったらしいこと。

 

 曰く、『Divi:Sion』とは様々なものを表す言葉らしく、彼女はその一つであること。

 

 曰く、『G.Bible』はコンピューターの中に入っているということ。

 

 曰く、『G.Bible』を解析するなら、保存媒体へデータを転送した方が良いこと。

 

 話のほとんどは理解できない内容ではあったが、重要なのは『G.Bible』の在り処であり、その他の話が理解できなくてもあまり問題はなかった。

 

「そうは言っても急に保存媒体なんて……あ、『ゲームガールズアドバンスSP』のメモリーカードでも大丈夫?」

[可能ではありますが、拒否します。別の保存媒体を持って来てください]

「えっ!?い、意外と我儘……そんなこと言われても、これ以外に持ってないよ!!」

[なら『G.Bible』は諦めてください。もうゲームだの、絶妙にダサい機械だの、変なものに入るのはこりごりです]

 

 こんな廃墟で保存媒体が必要になると思っていなかったモモイは、当然そんなものを持って来ていない。しかし何故か懐に忍ばせてあったゲーム機を持っていた彼女は、それに乗り移ることを提案した。

 

 ……が、ケイはそれを拒否。前の世界ではゲーム機に入り、復活したかと思えばAMASというダサ……前衛的なデザインの一輪駆動の機械に入れられた彼女は、もう変なものに入るのが嫌になっていた。最終的には人型のボディを手に入れていたことも、無関係ではない。生活水準を上げれば、人はそれを中々下げることが出来ない……その例に、彼女も漏れず当てはまっているようだ。

 

[ゲームのセーブデータが消えてもいいのなら、それでも構いませんが]

「うぇっ!?そ、それはダメだよ!装備揃えるの凄く大変だったんだから!!」

[でしょうね。ですから、他の保存媒体を希望します]

 

 一応警告してくれるだけ、ケイの優しさが溢れていると思っていいだろう。本来なら何も言わずにデータを消し、モモイの努力は無に帰していたはずだ。

 

 それはそれとして、他の媒体が良い。出来ればアリスが常に持ち運べるようなものをケイは望んでいた。

 

「はい!アリスに乗り移ることは、出来ないんですか?」

[…………現状、データ復旧が完全に済んでいるとは言い難い状況です。『G.Bible』もありますし、アリスの身体を借りるのは、望ましくありません]

「そうですか……ケイにも、先生とちゃんと触れ合って欲しかったんですが……」

[気にしないでください、アリス。その気持ちだけでも、私は嬉しいです]

「ねぇ、なんか私の時と対応違い過ぎない!?」

 

 モモイの叫びに、ケイは特別な反応を示さない。ここで何か言い合っても面倒なだけだし、彼女がアリスを特別扱いするのは今に始まったことではない。

 

 ギャーギャーと工場に反響するモモイを尻目に、ワカモは準備していたタブレットを取り出す。大きさは先生の持つ『シッテムの箱』と同じくらいだろうか。どうやら新品の様で、カバーすら着けずに晒されているにも関わらず、傷一つない。

 

「ケイ、これはどうですか?一応、貴女のために用意したものなのですが……」

[……ありがとうございます、ワカモ。お言葉に甘えて、使わせてもらいます]

 

 画面にそう表示されたのを確認したワカモは、タブレットとコンピューターをケーブルで繋ぎ、通信ができるようにする。おそらくただ接触させるだけでもデータ転送くらいはこなせるだろうが、一応だ。

 

[転送開始…………………………]

 

 その文字がコンピューターに表示されると同時に、コンピューターの電源が落とされる。そして僅か数秒を置いて、ワカモが用意したタブレットの電源が点き、コンピューターと同じように文字が表示された。

 

[…………転送完了しました。あなた達が求めていた『G.Bible』も、このタブレットの中に入っています]

 

 確認すれば、タブレットの中には<G.Bible.exe>と書かれたファイルが存在していた。それは間違いなくモモイ達が求めていたものであり、それに気が付いた彼女達は大いに盛り上がる。

 

「こ、これ今すぐ実行してみよう!本物なのか確認しなきゃ!」

 

 そう言って、モモイはワカモからタブレットをひったくった。善良とはいえ『災厄の狐』の持つタブレットをひったくるなど、自殺行為にも等しいが、幸いなことにワカモは物言いたげな目でモモイを見るだけで、何も言わなかった。これがモモイでなく赤の他人であったなら、間違いなくその瞬間本人の意識は深く沈んだだろう。本来ならそれほどまでに地雷すれすれの行為だ。運の良いやつである。

 

「exe実行!あ、何かポップアップが出て…………って、パスワードが必要!?何それ、どうすれば良いのさ!?」

 

 しかしファイルを実行しようとしても、表示されるのはパスワードの入力を求めるポップのみ。これではゲームを作ることなど出来ない。

 

「け、ケイちゃんなら何か知ってるかも?」

「それもそうだね!ケイ、パスワードについて――」

[残念ですが、私もパスワードは知りませんよ。解析するにしても、データ復旧が優先ですのでしばらくは手を付けられません]

「そ、そんなぁ!?このままじゃゲームが作れないよぉ!!」

 

 頼みの綱のケイも、今はやることが多く忙しい。「別に片手間でもパスワードを読み取り解除するくらいは出来るのでは?」とワカモは思ったのだが、原作通りに話を進めた方が彼女にとっても都合が良いため黙っていた。アリスはこれからまたケイと一緒に過ごせることにワクワクしていて完全に上の空であり、彼女達の会話を全く聞いていない。

 

「……ヴェリタスの方々なら、解除できるのではありませんか?」

「そ、そうだ!そうすれば……!」

 

 そんなワカモの鶴の一声で、モモイは希望を取り戻した。ミドリやユズもワカモの発言に同意するように頷いている。

 

「そうと決まれば、早速ヴェリタスに行こう!!そして最高のゲームを作って、『ミレニアム・プライス』で入賞するんだ!!!」

 

 モモイは声高らかにそう宣言すると、ミレニアムへ戻る為に進み始めた。

 

 この後、彼女の大声に反応して集まってきたロボット達に追われたり、その戦いのせいでアリスのスーパーノヴァのバッテリーが切れて戦えなくなったり、そのことでワカモが怒ったりしたのだが、それはまた別のお話。

 唯一言えることがあるとすれば……「ワカモさんって、アリスちゃんの過保護なお姉さんみたいだなぁ」という印象をミドリとユズは抱いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ケイ、アリス」

 

 それは、かつての記憶だった。三人だけが覚えている、大きな約束の記憶。

 

「………………正直、貴女達のことは、邪魔に思っていました」

 

 崩壊するキヴォトスで、()()()()()()()()()()()、最期の時の記憶だ。

 

 ワカモとアリス、そしてケイは共に、世界の終焉を待つばかりだった。

 

「えぇ、邪魔でしたとも。『あの御方』の寵愛を受けるのは、(わたくし)一人が良かった」

 

 最期だからか、いつも着けている狐のお面を外した彼女は、そんなことを言ってはいるが、その表情はとても穏やかだ。戦闘の時のような苛烈さも、先生と過ごす時のような甘露さも、こちらを恨めしく思うような目も、今は嘘のように消えている。

 

「……それでも、あの御方の次に信じている者を挙げるなら……(わたくし)はきっと、貴女達の名前を挙げるのでしょう。少なくとも、他の者よりは……遥かに、信頼しています」

 

 狐坂ワカモは他人を信用しない。ただ一人、彼女達の『先生』を除いて。

 

 しかしそんな『他人』というカテゴライズの中でも、ケイとアリスだけは、ワカモにとっても特別だった。三人は先生から一等愛されていた生徒であり、彼女達の間に優劣などはない。ただ、シャーレへ所属したのが、早いか遅いかだけの違いでしかなかった。

 

「…………ワカモ」

 

 初めは、その事実がワカモにとっては邪魔なものでしかなかった。愛されるのは、自分だけで良い。先生に他の女を視界に入れて欲しくない。他の生徒など自身と先生との仲を邪魔する害虫であり、自身よりも早くシャーレへと所属し、愛されていたアリスはその筆頭でもあった。

 

 それでも、彼女達を傷付けるような行動は、ワカモは決して取らなかった。彼女達を傷付ければ、ワカモが愛する先生も傷付いてしまうと分かっていたから。彼に嫌われたくない、それがワカモの行動指針の一つである。

 

 毎日、ワカモとアリスは共に任務へと赴いた。ケイが来てからは、当然のように毎日三人で。それが功を奏したのか、ワカモの二人に対する悪感情は少しずつ消えていった。

 

 完全に消えたわけではない。嫉妬はするし、二人が消えるならそれはそれで喜ばしいことだと感じるだろう。それでも、もう二人を積極的に排除しようという気持ちは、ワカモの中からは完全に消え去っていた。

 

(わたくし)達は、確かに平等に愛されていました。だから……約束です」

 

 昔のワカモが、今の彼女の行動を見れば「愚か」だと言うだろう。他人を信用し、素顔を晒し、あまつさえ約束を結ぶなど。

 

「…………もしも、『次』があるのなら」

 

 しかし、唯一信頼できる先生は、死んでしまった。だからこそ、ワカモは『次』を夢見る。このまま死ねれば、それでも良い。あの世で先生と再会できるなら、自分の命など簡単に捨ててみせよう。でももし、『次』があるのなら。その世界で、また彼と共に過ごせるなら……。

 

「『次』があるなら…………その時は、必ず。あの御方を守り抜きましょう……いつものように、三人で」

 

 それが、ケイとアリスがワカモと交わした、最期の約束だった。

 

 

 

 

 

(…………ワカモは、先生を……守ったんですね)

 

 そうして、ケイはアリスと先生と再会した。タブレットの中で、まだ画面越しでしか話せないが、確かにそこにケイの大切な人達はいる。

 

(嘘つき、だなんて……言えるわけもありません)

 

 確かに自分達は「三人で」と約束したはずだ……でも、ここにワカモはいない。いるのは、ワカモに成ってしまった先生の姿だけだ。

 

 それを、ケイは非難しようとは思わない。ワカモがここにいないのは、確かに彼女が先生を守った、何よりの証明なのだから。

 

(……任せてください。先生は必ず、私達が幸せにしてみせます)

 

 故に、ケイは決意する。ワカモが守り抜いた先生を、幸せにすることを。

 

 そして願わくば――またいつか、『四人で』過ごせる日々が訪れることを。




・成り代わりワカモ
ゲーム開発部からの印象は『過保護なお姉さん』。強ち間違いではないため、誰も否定できない。
アリスやケイのためならなんだってしちゃう。ゲームも買ってあげるし、美容品だって確保する。色々資産運用しており、資産を大量に保有しているため、お金に関しては歯止めが効かない。今後ケイに色々管理されるようになるが、ケイはケイでまたアリスに甘いため、結局あまり効果はない。

・天童アリス
ケイとの再会に胸を躍らせていた。
『前の世界』のことを話すつもりは、今のところない。でもいつかは話したいと思っている。

・天童ケイ
珍しくアリスに塩対応を取った。その理由は嫉妬と不機嫌と拗ね。おそらく後で一人反省会を開くと思われる。
人型ボディの素晴らしさを知ってしまっているため、もうAMASだのゲームだのに乗り移ることは出来ない。今後どうなるかは不明だが。
本物ワカモが命を賭してでも約束を果たしたことを知り、安堵と称賛、嫉妬と後悔と無力感と怒りがごちゃ混ぜになっている。
密かに四人で幸せになることを夢見てた。
成り代わりワカモが本物ワカモをとても引きずっていることに気が付いており、先生を幸せにするために覚悟を決めている。
データ復旧中のためまだタブレットに住み着くが、パヴァーヌ終了間際ぐらいには、アリスの身体に乗り移ると思う。

・本物ワカモ
最初はアリスが凄い邪魔だったし嫌いだった。でも先生の大切な生徒だったから、言葉にも表せないほどとてつもない我慢して何もしないでいたら、少しずつ悪感情が消えていった。毎日任務一緒だったし、アリスが純粋過ぎたのが原因だと思われる。
アリスとケイに対しては、最期の段階では一種の仲間意識を持っており、「この子達なら……別に良いか」と受け入れていた。
それはそれとして嫉妬はするし、ケイに対してはマウントも取る。





実は作者、ケイちゃん実装と同時に始めた、所謂新任なんですよね。元々ケイアリス推しで、ワカモに対して推しとかの感情は持ってなかったんですが、この小説を書いていく内に愛着が湧いてきて、今ではケイアリスに並んでワカモも推しの一人です。

なので運営さん、ワカモガチャの復刻お願いします!石は天井分まであります!
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