七囚人『災厄の狐』(成り代わり転生者)   作:百合って良いよねって思う

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お久しぶりです。リアルが忙しかったのと、台詞が思い付かなかったのと、普通に戦闘シーンが難しすぎて苦戦してました。でもまぁ、なんやかんや今後もこのくらいのペースにはなると思います。

普通に一万字近い文章を、二日に一回とか投稿してる人達はきっと人間じゃないのでは?(褒め言葉)


その名前を背負う意味

「オラオラァ!!逃げてばっかじゃねえか、『災厄の狐』えぇぇ!!!少しは反撃して来いよっ!!!!」

「ぐっ……」

 

 黙ってれば好き勝手言って……あの娘の銃(『真紅の災厄』)は貴女のと違って連射出来ないんだから、といったような文句を心の中で垂れ流しながら、狐坂ワカモは美甘ネルを相手にしていた。

 

 『真紅の災厄』の装弾数は五発。どれだけ低く見積もったとしても、ネルの持つ『ツイン・ドラゴン』のそれとは四倍以上の差がある。一発の威力はこちらの方が高いとはいえ、正面から撃ち合えば不利になるのは明白だ。付近の遮蔽物はそんな彼女の銃撃で軒並み破壊されており、今ワカモが隠れている所も、直に破壊されるだろう。

 

「…………気配隠すのがうめぇな、どこ行きやがった。」

 

 ゲーム開発部とヴェリタス、そしてエンジニア部が手を組んで行われる作戦の本格的な開始時間は深夜。今はまだ日が沈みかけている途中で、ここからセミナーのあるミレニアムタワーまでの移動時間を考えても、まだ時間を稼ぐ必要がある。

 

 ちらりと空を見てそのことを悟ったワカモは、ネルに向かって銃弾を放つ。

 

 放った銃弾が向かうのは頭……ではなく、左手。ネルやワカモなどの学園最強格程のレベルになると、たとえ頭に直撃させたとしても有効打にはなりえない。少なくとも、ある程度のダメージを蓄積させなければ、両者とも倒れることはないだろう。それを分かっているワカモは、手元を狙い銃を落とさせることで時間を稼ごうと考えたのだ。

 

 ワカモの狙い通りに銃弾はネルの左手に上手く当たり、銃が手元から離れる。

 

「!?……そこか!!」

 

 しかしネルの銃は二丁がチェーンで繋がれている。左手の銃が手元から離れようとも、もう片方があれば即座に手元に戻せる。事実彼女は左手が撃ち抜かれた瞬間、器用にチェーンを駆使して手元に戻すと、すぐさまワカモがいる方向へと連射した。

 

 大してアドバンテージは稼げず、むしろ自身の居場所を晒したワカモではあったが、それを問題とは思っていなかった。ネルのチェーンの使い方など、原作では見ることの出来なかった細かい芸当は、ワカモのデータにはないものだ。彼女がどの程度チェーンを扱えるか……その情報は有用であり、それを居場所を晒す程度のリスクで確認できたのは、彼女からすれば許容範囲内の損失だった。

 

 遮蔽物が、弾丸の雨によって破壊される。破壊された遮蔽物は見るも無残な欠片へと変わり、地面へと落ちていった。しかしワカモが触れることで、僅かながらに神秘が込められていた遮蔽物の破壊に、ネルは弾薬を使い果たしたのか、一瞬銃撃が止んだ。

 

 その瞬間を待っていたかのように、ワカモはネルの頭へと銃弾を命中させる。

 

「っ!?……いってえな!!」

 

 頭の被弾に、ネルが怯むことはない。むしろ逃げてばかりであったワカモの明確な反撃に、闘志を燃やしているのか、獰猛に口角を上げている。

 

 それを見たワカモは、更にネルと距離を取るために走り出した。近接戦に持ち込まれてしまえば敗北するだろうということは、想像に難くない。自分達は学園最強格であり、ステータスだけで見ればほぼ互角。しかしネルにもワカモにも、得意な戦術というものがある。近接ならワカモはネルに対して勝ち目などないし、遠距離であればワカモが有利だろう。どれだけ自分の得意を押し付け、ペースを掴むか。それが彼女達の戦いの勝敗を分けるのだ。

 

「念のため付近の建物を調べていて、正解でした。遭遇戦だったら、勝ち目などありませんでしたね」

 

 その点で見れば、ワカモは自分を『最強格には一歩劣る』と認識していた。彼女の強さは周りの全てを活かした戦術であり、それは即ち『自分の力だけでは敵わないから、周りのものを使う』ということだからだ。無論、多くの者にとっては誤差でしかないのだが、こうして最強格の生徒と戦闘をすると、自身の弱さが顕著に現れることを実感させられる。

 

 逆に言えば、事前の準備や下調べさえあれば、ワカモはキヴォトスでもトップの実力を持つのだ。それこそ、彼女のフィールドに持ち込んでさえしまえば、ホシノやヒナですら彼女に勝つことは困難だろう。それを正しく理解している彼女は、むやみに攻撃をするような真似はしない。

 

「……オイオイ、まだ逃げんのかよ。『災厄の狐』ってのはその程度なのか?」

 

 距離を取るワカモに愚痴を吐きながら、ネルは彼女を追従する。時折隙を見つけながら銃を撃つものの、一発も当たらない。それに加え、常に付近にある看板や建物を巧みに利用して身を隠しているため、中々隙が見つからない。正面の近接戦闘を好むネルにとって、ワカモはかなり「やりづらい」と感じる生徒だった。

 

 それでもなお、ネルの目から闘志は消えない。むしろワカモに「この程度も追い付けないのか」と、挑戦状を叩きつけられているような気分だからだ。

 

「っ!?……また、気配が消えやがった」

 

 ワカモを追いかけながら、自身と相手との間にある障害物を飛び越え、ショートカットで距離を詰めている最中のことだ。先ほどまで確かにそこにあったはずのワカモの気配が、唐突に消えた。それはいつの間にか家の鍵がなくなっていたとか、そういったものに近い感覚だった。

 

 その現象は、これまで戦闘していく中で、何度かあったものだ。どのようなカラクリなのかは分からないが、この現象があるが故に、ネルはワカモを定期的に見失っている。

 

「…………ここは、工場か?」

 

 しかし先ほどまでネルは、ワカモのことを視界に入れていたのだ。視界を外れたのも、気配が消える直前で、ものの数秒もない。故にワカモがどこへ向かったのかの予測は立てやすかった。

 

 周囲の地形を頭に浮かべ、ワカモが辿った道筋から推測できた先にあったのは、もう稼働していない小さな工場。破棄されて久しいのか、そこに残された備え付けの機械は錆びついており、埃も溜まっているようだ。

 

「はっ、この狭い空間であたしと戦り合おうってか?随分と粋な計らいじゃねーか」

 

 今彼女達がいるような閉鎖的な空間は、ネルにとっては得意なフィールドだった。近接戦を強要され、その上立体駆動をしやすい壁や機械などがそこら中にある。

 

 ネルは静かに、感覚を研ぎ澄ませ始めた。確かにここは彼女にとって得意な地形だが、アドバンテージは未だに姿を現さないあちら側にある。

 

 気配を探るが、一向にワカモがどこにいるか把握できない。ここまで気配を悟らせない相手は初めてで、ネルは挑戦心からか、いつもよりも遥かに高揚していた。耳を澄ませ、空気の気配を探り、必要とあらば勘も使う。

 

 そうして、僅かばかりの静寂が流れた後……彼女の立つ位置の左後方から、機関銃のような銃声が鳴り響いた。ネルはその音にすぐさま反応し、回避行動を試みる。何発かは被弾したものの、大したダメージもなく残りの弾を回避することに成功した。

 

(マシンガン……この工場に落ちてたもんか?)

 

 キヴォトスでは物資の略奪のために、他者を襲うことも少なくない。頻度は商業店や飲食店、ショッピングモールに比べれば低いが、それは工場も同じことだ。そのため護身用として、個人とはまた別に銃を置いてあることが多い。尤も、潰れてしまえばその銃は売りに出されるなど他の所に回収される場合がほとんどなのだが、近年急速に発展しているミレニアムの工場では、回収を忘れそのまま放置されていることもしばしばある。先ほど撃ってきたマシンガンもその類いだろうとネルは当たりを付け、銃の方向へと一気に駆け出した。

 

「お返しだ!!」

 

 それと同時に、愛銃の引き金を絞る。二丁の銃口から放たれた弾丸の雨は、ワカモがいるであろう場所の遮蔽物を尽く吹き飛ばし、辺りを更地にした。

 

 しかし、そこにあったのは――

 

「っ!……いねぇ!?」

 

 ――ワカモの姿ではなく、トリガーとグリップの部分に紐のようなものを巻き付けられ、三脚によってのみ支えられている、機関銃の姿だった。

 

(なんだ、ありゃ……ワイヤー?いや、違う。ボロくなった機械の配線か!)

 

 ネルはその優れた思考力で、ワイヤーの正体を察する。放置された機械の配線は、工場機械だからかそれなりの長さがあり、上手く扱えれば遠隔から銃のトリガーを引くことも出来るだろう。しかしそれを行うためには、敵を固定された銃の射線へと誘導させなければならない。相手の思考と行動を読み、通過点が射線に入るように的確に配置されていたという事実だけで、ワカモの戦闘IQの高さが伺える。

 

 そして、ネルがその思考を終えた瞬間。突然彼女の頭上から、人影が落ちてきた。

 

「ぐっ!!」

 

 咄嗟に躱そうとするも、その人影は天井か何かを蹴ったのか、ネルの予想よりも遥かに早く肉薄してくる。コンマ一秒にも満たない時間の思考でそれを認識したネルは、回避を諦め銃で敵の攻撃を防ぐことを選択した。

 

 落ちてきたのは、愛銃を背中に背負い、その右手に短刀を握ったワカモだ。重力を味方に付け、ネルの頭を狙った攻撃はすんでの所で防がれるものの、彼女が有利であることは変わらなかった。

 

 畳み掛けるように連続で刀を振るうが、動体視力の優れるネルと、彼女の手足の延長とも言えるような二丁の愛銃で、捌ききられる。しばらくの衝突の後、彼女達の銃と短刀は拮抗して停止した。ガチガチと音を立てながらも、両者の得物は互いを押し返そうとしている。

 

「おいおい、あたしにこんなに近付いて……なんか策でもあんのか、『災厄の狐』?」

「確かに、近距離(クロスレンジ)(わたくし)が貴女に勝つことは、無謀と言わざるをえません」

 

 ネルはワカモの短刀による攻撃を、二丁の銃身を交差させて防ぎつつ、目の前の敵にそう問いかける。対するワカモも、短刀に込めた力を微塵も緩めることなく、素直にネルの言う事を認めた。

 

「ですが……更に近いこの距離(ゼロレンジ)でなら、負ける気はありません」

 

 至近距離まで近付いたことで、仮面の穴から見えた黄色い瞳がギラギラと燃えているのが、ネルにはよく分かった。

 

「……はっ、言うじゃねぇか」

 

 それを聞いて、その燃えている瞳を見て、燃えないはずがない。近距離は自分の間合い(テリトリー)だ。『自身の間合いに入って勝てるヤツなんか、このキヴォトスのどこにもいない』と自負するネルにとって、この距離で敗北するなどあってはならないことだった。

 

 対するワカモも、負けるつもりは更々ない。銃撃戦が発展しているキヴォトスでは、近接格闘を修めている者はあまりいない。確かにパワーでは、彼女はネルに勝つことは出来ないだろう。しかしパワーで劣っていようとも、それを覆せるだけの技術が、ワカモにはあった。日本をモチーフとした百鬼夜行では、柔道や空手、剣道や居合などの競技がそれなりに発展している。彼女は貪欲にそれらの技術を吸収し、実戦で扱えるように改良することで、銃がなくとも戦えるように鍛えていたのだ。

 

 銃撃戦における近接とは、一般的に30m以内での戦闘のことを指す。だが今のワカモとネルは密着状態……両者の距離は、1mもない。この距離でなら、近接格闘を修めるワカモにも勝機はある。故に彼女は、このままネルと戦闘することを選択した。

 

 ネルは銃身で抑えていた短刀を受け流すと、右足を引き、右手に持った『ツイン・ドラゴン』の片割れの引き金を絞る。それを咎めるように、ワカモは素早く左手を使って相手の手首を掴み、射線を無理やり反らした。そのまま流れるように足を払おうとするが、その前にネルが残された方の銃床でこちらを殴ろうとしているのが見え、足払いを諦めそちらの迎撃を優先する。

 

 ワカモの右手にある短刀と、ネルの銃が衝突し、僅かな火花を散らしながら甲高い音を立てた。

 

「チッ……」

 

 銃床による殴打が不発になるのを見たネルは、掴まれた右腕を起点に蹴りを繰り出す。ワカモの短刀を叩き落とすことを狙っての攻撃だが、これもまた華麗に躱された。

 

 しかし避ける過程で右手の拘束が緩んだため、そのまま距離を取ろうとバックステップをする。

 

 それを読んでいたかのように、ワカモはネルに対して更に距離を詰めてきた。そのまま攻撃を仕掛けるも、ネルもまた銃やチェーンを巧みに駆使し、攻撃を受けきっている。

 

 再びの膠着状態。ネルの攻撃は、ワカモの巧みな技術でいなされる。ワカモの攻撃もまた、ネルの類まれなるセンスと経験、そして勘から、有効打にはならない。

 

「オラァ!!」

 

 近接での銃撃はこのままでは不可能だと悟り、ネルは隙を作り出すために、ワカモに対してショルダータックルを試す。しかしワカモは巧みに体を使い、衝撃を綺麗に地面へと受け流した。タックルの体勢から、ネルは銃口を密着させ放とうとするが、それも読まれていたのか、今度はワカモの足蹴によって、腕ごと高く蹴り上げられてしまった。

 

 銃がまた手元から離れる。一度目と同じように、チェーンを使って手元に戻そうとする前に、ワカモは蹴りの衝撃によって生まれた距離を詰め、短刀を右肩目掛けて振り下ろした。

 

 キヴォトスにおいて、刃物はあまり危険ではない。そこらの刃物では、精々が薄皮一枚を切るのが限界であり、とても致命傷にはなり得ないからだ。それは、切れ味に優れる日本刀も同じ。確かに、攻撃力は高い。ワカモの鍛えられた膂力と神秘があれば、彼女が放つ銃弾と同程度のダメージは期待できる。しかし、それだけだ。どれだけ技術に優れようとも、キヴォトスの住人の身体を切断することなど、出来はしない。

 

 右肩目掛けて振るわれた短刀の切っ先を、ネルは回避不可能だと直感で悟り、咄嗟にもう片方の銃身で防御した。ワカモはそのまま押し込もうと両手と体重を短刀にかけるが、ネルもまた、防御する銃身を空いている手で支えていた。二人の力は完全に拮抗しており、短刀も銃も、ピタリとして動かない。

 

 三度、両者の間に静寂が流れる。

 

 ネルの銃撃はワカモにとって有効打になり得るが、彼女もそれを理解しているため、決してネルに銃を撃たせる隙を作らせなかった。ゼロ距離の超近接戦では、銃を撃つ隙を作ることすら難しい。相手が近接戦闘の技術を持っているなら猶のこと。

 

「……あたしの間合いに入って、ここまで喰らいついてくるヤツはアンタが初めてだ」

「それはこちらの台詞です。これほど近い距離での戦闘には自信があったのですが」

 

 静寂の中で、会話が繰り広げられる。

 

 まだワカモが週の半分をアビドスで過ごしていた頃の話だが、一度だけ彼女はホシノと銃なしでの模擬戦をしたことがあった。その時の戦闘で、ワカモはホシノに難なく勝利したのだ。パワーでも、瞬間速度でも、ワカモはホシノに劣るのに、である。それほどまでに、技術とは重要なのだ。

 

 今の状況は、それに近い。銃と短刀をお互いに持ってはいるが、それを互いに潰し合っているため、結局のところ近接戦闘で差が出る。そんな状況でワカモに喰らいつけているのを見れば、ネルの自信も納得できる。

 

「……なぁ、一つ聞いてもいいか?」

「何でしょう。質問によっては、答えてあげないこともありません」

 

 そんな中、ふとネルがふと言葉を零した。気を引いて不意打ちをするためではない。今この場で聞かなければ、今後聞くことは出来ないと直感してのことだ。

 

「なんでお前は、破壊活動(あんなこと)をやってんだ?」

 

 ネルは戦いの中で、ワカモが善人であることを完全に見抜いている。本来であれば、自身や風紀委員長、歩く戦略兵器と同じように、治安を守る側であるということも。もしもネルが先生と出会っていれば、彼女と同じ雰囲気をワカモから感じていただろう。

 

 だからこそ、疑問だった。何故彼女は、地位を捨ててまで犯罪紛いの行いをしているのか。

 

 少なくとも、何か拍子があった訳ではない。ある日突然、彼女は百花繚乱の委員長を降り、唐突に百鬼夜行の一部の企業を攻撃し始めたのだ。何か直前に事件があったわけでもなく、原因も動機も不明。その真意は、本人以外知る由もなかった。

 

「お前が狙った企業には全部、黒い噂があったってのは、知ってる。だけどよ、時間をかければお前ならあんなことしなくても、正攻法で潰せただろ?」

「………………否定は、しません」

 

 ネルの言葉にワカモはそれだけ答えると、そのまま跳躍で大きく距離を取った。最後に甲高い金属音が響くと、彼女はネルから10m程離れた所に静かに着地した。あっさりと密着状態という自身のアドバンテージを捨てたことに驚きながらも、ネルはその隙に落としていた銃を手繰り寄せる。尤も、構えはしない。当の相手が、手に持った短刀をだらんと下げ、戦闘態勢になっていないからだ。

 

 ワカモは狐面をおもむろに外すと、独白のように語り出した。その瞳には先程までの激情はなく、悲哀の色が浮かんでいるように見える。

 

「……(わたくし)は、『狐坂ワカモ』です。(わたくし)がどう思おうと、この名前を背負って生まれたという真実は、消えてなくなりません」

 

 静かに、その声は廃墟と化した工場に反響した。ネルはその言葉の意図がいまいち読み取れず、眉を顰める。

 

「あ?どういう意味だよ、それ」

「あの娘の全てを奪って、(わたし)は生きてきました。だから、あの娘の代わりを務めなければなりません。捻れて歪んだ先ではなく、あまねく奇跡へと、繋げるために」

 

 狐坂ワカモ――否、『ユウヒ』という人間は、『狐坂ワカモ』の全てを奪って、この世界で生きてきた。名前も、身体も、存在すらも。それに罪悪感を感じない日はない。彼女に全てを返そうと、一時期神秘の研究に没頭し、足掻いたこともあるほど。

 

 鏡を見る度に、自分を着飾る度に、自分の声を聞く度に、名前を呼ばれる度に、『真紅の災厄』の引き金を引く度に……ユウヒは、自分の罪を再認識する。

 

 ワカモには、役割があった。大きくはない、しかし変わってしまったらどうなるか分からない、『七囚人』という重要な役割が。変われば、砂上の楼閣であるキヴォトスがどうなるか分からない……故に、彼女は代わりを務めるのだ。

 

「破壊も、略奪も、全てはあまねく奇跡へ辿り着く為……誰が何を言おうとも、(わたくし)は七囚人『災厄の狐』の名前を背負い続けます。それが(わたくし)の『覚悟』であり、『償い』であり、『責任』であり、『選択』です」

 

 全ては、キヴォトスの未来を守るために。愛する二人の生徒(アリスとケイ)の、幸せのために。それがユウヒにとっての『贖罪』であり、救えなかったワカモの代わりにキヴォトスを救おうとする、代替行為でもある。

 

 ワカモ(生徒)のために、幸せにならなくてはいけない――ホシノにそう言ったのは、嘘ではない。しかしそれは、自分の罪を清算することが前提だ。『ユウヒ』は『大人』であり、自分の罪は自分で責任を取る。この世界を、自身が知る遥か先の未来まで繋げることで、ようやく彼女は少しだけ自分を許せるようになるのだ。

 

「あたしには、お前の言ってることの意味は分かんねえけどよ……お前はそれで良いのかよ?あたしから見れば、ただ苦しんでるようにしか見えねえが」

「苦しみの果てに未来があるのなら、(わたくし)は喜んで苦しみます」

「…………ああ、そうかよ」

 

 ネルは横暴な言動をしているが、その根は善人である。でなければC&Cのエージェントとして活動などしていないだろう。

 

 そんな彼女だからこそ、分かってしまう。目の前の狐坂ワカモ(七囚人)は、心から望んでその立場にいるわけではないことを。今もなお、心のどこかで苦しんでいることを。しかし、それを救うのは自分の役割ではないことも、分かっている。出会ってから一日どころか半日も経過しておらず、戦うことしかしていない自分には、力不足だと。

 

「どいつもこいつも、勝手に覚悟決めて、勝手に動きやがって……」

 

 ネルがそう呟き、ワカモが狐面を着けるのと同時に、ワカモは懐から拳銃を取り出した。

 

「っ!」

 

 僅かに、ネルの反応が遅れる。咄嗟に銃を構えるも、既に構えていたワカモの銃が先に放たれる。

 

 銃口から火花が散る。銃声が鳴り響き、銃弾はネルの遥か頭上に命中した。

 

 それと同時に、爆発音と共に工場の天井が崩れ始める。ワカモが事前に仕掛けていたのか、どうやら爆弾が工場の支点を爆破したようだった。

 

 ネルはすぐにその場から移動することで、なんとか瓦礫の雨から逃れようとする。

 

「ぐっ!!」

 

 その回避を、ワカモは許さない。元々銃さえ撃つことが出来れば、この距離はネルが有利。それは彼女も理解している。だからこそ、対処するべき要素を増やすことで、盤面を有利に進める。それがワカモの戦い方だ。

 

 拳銃の弾が、ネルの両足に命中する。それだけで、彼女の動きは見違えるほどに鈍くなった。

 

 たった七発の銃弾が、命中しただけでネルの両足をその威力から痺れさせたのだ。ネルは経験則的に、この状態では落下してくる瓦礫を全て避けられないと直感した。

 

「その銃がテメエの本命か!?」

「まさか、全て本命ですよ……神秘の通りは、少しだけこちらの方が上ですが」

 

 ワカモが左手に握る十四年式拳銃――『勇者がくれた魔法』と名付けられた、星空の装飾が施されたそれは、拳銃でありながら、僅かながらに神秘が通りやすいために『真紅の災厄』と同程度の威力を誇る。借り受けた『真紅の災厄』とは違い、『勇者がくれた魔法』は正真正銘『ユウヒ』の銃なのだ。故に、僅かながらに神秘が通しやすくなっている。

 

「本日はここまでです。機会があれば、また会いましょう。その時は……敵ではなく味方として、相まみえることを願っています」

「っ!?おい、待てっ!!」

 

 ネルの言葉が届く前に、ワカモはその場を後にした。素早く瓦礫が落ちてくる前に、工場の外へと。

 

 残されたネルは、そのまま工場の倒壊に巻き込まれることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――チッ……覚えてろよ、『災厄の狐』(アイツ)……!!次戦り合ったら、こうは行かねえ!!!」

 

 ワカモが去ってから少しの時間が経過した後、潰れた工場の瓦礫の下から、顔を含めた全身に僅かに土埃を付けたネルが、そう悪態を吐きながら出てきた。敗北はしていないものの、見事に出し抜かれ逃げられたことは、ネルにとって屈辱以外の何物でもない。

 

「…………『七囚人『災厄の狐』の名前を背負い続けます』か……なんだか、似てんな」

 

 ふと、ワカモの言葉を思い出し彼女はそう零す。ワカモの姿に、上司でもあり古い付き合いの友人でもある『調月リオ』の最近の姿が重なったからだ。

 

「ほんと……覚悟を持ったヤツは、どいつもこいつも面倒くせえな。大体、辛いならもっと人を頼れってんだ。あたしでも出来る単純なことのくせに、何で出来ねえかな。どうせアイツもグチグチ言い訳ばっか並べるんだろうな……」

 

 頭をガリガリと掻きながら、瓦礫の山となった工場を背に、ネルはミレニアムへの帰路を辿り始める。一人で全てをどうにかしようとして、他人を頼らない馬鹿達に、呆れたように愚痴を言いながら。

 

 空では僅かばかりの星が、細々と輝いていた。




・成り代わりワカモ
ずっと後悔してるし、ずっと罪の意識を感じてる。ふとした拍子に反転してもおかしくないくらいには、精神的に危うい。
ホシノと会うまではずっと苦しかったけど、ホシノとの日常でちょっとだけSAN値が回復した。でもやっぱりまだ自分を許せない。
最終編が来ることを望んでいるが、「それを望むこと自体、一つの世界が滅ぶことを望むのと同義なのでは?」と考えては、自分のことが嫌いになってるめんどくさい女。アリスとケイによるセラピーが必要だと思う。
最強格の中で、銃がない戦闘に限ればぶっちぎりで強いってくらい、近接戦闘の技術がある。技術と知識だけで言うならば、最強格でも頭一つ抜けてる。その代わり最強格の中では正面戦闘はあまり強くない。事前準備次第で強さがかなり変わるタイプ。

・『勇者がくれた魔法』
星空の装飾が施された、ユウヒの固有武器の一つ。モデルは十四年式拳銃。
本来は黄昏色の装飾が施された拳銃とセットで用いられる。
名前の由来は天童アリス(通常・臨戦)のメモリアルロビーの台詞や絆ストーリーのタイトルから。メイドアリスはちょっと毛色が違うから元ネタとして組み込みにくかったという裏話がある。

・美甘ネル
C&C所属コールサイン『ダブル・オー』。『約束された勝利の象徴』の名前を背負う少女。
成り代わりワカモの本性を見抜いていたり、生徒であるアリスとケイ、付き合いの長いホシノを除けば最も真実に近付いていると言っても過言ではない。
この後、倒壊した工場についてユウカに詰められることが確定している。

・天童ケイ
今回の戦闘を、監視カメラをハッキングして一部覗いていた。成り代わりワカモの台詞もばっちり見ていたため、色々と共に背負う覚悟を決めている。

・ゲーム開発部
今回のお話の裏で原作通りに作戦を進めていた。『鏡』を手に入れられて「これで最高のゲームが作れる!」と満足している(なお……)




個人的な意見ですけど、最強格はみんなスキルツリーが若干違うので、そう簡単に強さを比べられるものではないと思ってます。どれだけ自身のアドバンテージを相手に押し付けるかで、すぐに優劣が覆りそうなほどに。そこも含めての強さなのでしょうが、時の運というのもありますからね。最強格同士の対決、ホシノVSヒナ以外にも公式でやってほしさがあります。純粋にどんな戦闘になるのか気になる。
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