七囚人『災厄の狐』(成り代わり転生者)   作:百合って良いよねって思う

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弊作品を失踪している間に、作者はブルアカでレベル90になり、狐坂ワカモを通常・水着共にシャーレへ迎え入れました。

サイレントで今まで投稿した話で不自然な表現や矛盾していた文章を修正しました。加えて、わかりやすいように章を追加しました。
今後とも弊小説をよろしくお願いいたします。


忘れない、あの頃の想い出

 ミレニアムプライス。その名の通りミレニアム中の部活が各々の成果物を競い合う、ミレニアムでも最大級のコンテストである。

 

 当然、ミレニアムに在学する数多くの生徒が個人、部活に限らず参加するイベントであり、他の学園や企業からの注目度も高い。その参加人数に比例するように、ミレニアムプライスで賞を取るのは困難だ。分かりやすく表現するなら、受賞歴があれば将来就職で困ることはないと言い切れてしまうのではと思えるほどに。

 

 ゲーム開発部は、大切な居場所でもある部活を守るために、ミレニアムプライスでの入賞を目指してゲーム開発に勤しんでいる。今もなお彼女達はゲーム開発に向き合っており、部室には緊張感のある空気が流れているだろう。

 

 そんな中、ゲーム開発部の一員であるアリスはというと――

 

「先生!今日は何を作るんですか?」

「ふっふっふっ……実は百鬼夜行産の良いお米を手に入れたんだよね。だから今日はおにぎりを作ろう。お米は事前に炊いておいたし、アリスもやってみようか」

「おぉ……新レシピ解放ですね!」

 

 

 ――ミレニアムの片隅にある調理室で、自慢げに炊飯器を開けるユウヒと湯気の立ったお米に、目を輝かせていた。

 

 

 誤解しないでほしいのは、アリスは決してサボっているわけではない。むしろ彼女は自分に出来ることを精一杯やろうとしているのだ。

 

 数日前、『G.Bible』が期待していたような代物ではなく、項垂れていたゲーム開発部はアリスに発破をかけられ、『テイルズ・サガ・クロニクル2』の開発を始めた。しかし部員とはいえ、ゲーム開発で彼女達の力になれるようなものは、アリスにはほとんどなかった。

 

 それも当然の話だ。共に初代の『テイルズ・サガ・クロニクル』を作り上げたモモイ達と、アリスとでは前提が違う。そもそもアリスは新入部員であり、ゲーム開発の実績はゼロ。多少経験や知識があるとはいえ、それだけでは却ってモモイ達の邪魔になってしまうであろうことは、彼女もよく理解している。

 

 だからこそアリスはゲーム開発ではなく、それ以外の所で皆を手伝おうと決めた。片手間でも食べられる食事を用意したり、部室を掃除したり、洗濯をしたり、テストプレイをしたり等々……モモイ達がゲーム開発に集中できるように、自分に出来ることを率先して行い始めたのだ。

 

「まずは水で手を濡らして、塩を一つまみ……ご飯を手に取ってからその上に具材を乗せて、軽く握る。力を入れ過ぎないように注意してね」

「こうですか?」

「うん、上手。後は形を整えて、海苔を巻いたら……はい、これで完成」

「ぱんぱかぱーん!おにぎりの調理に成功しました。調理に成功したことで、おにぎりのレシピが新たに記録されます。これで料理スキルの熟練度がまた上がりました!」

 

 それを見たユウヒが、アリスの手伝いを始めたことで、今の状況に至る。ここ数日のゲーム開発部の食事は、全てユウヒがアリスに教えながら、共に料理する形で作られており、ユウヒの存在もゲーム開発部に馴染み始めていた。

 

「よく出来ました。それじゃあ後何個か作って、皆の所に持って行こうか」

「はい!アリス、クエストを開始します」

 

 見る者が見れば、卒倒ものの光景だ。『災厄の狐』と『名も無き神々の王女』が、仲睦まじそうにおにぎりを握っている。場合によっては、今この瞬間キヴォトスが滅び始めても、おかしくはない。それほどの状況である。

 

 尤も本人達にキヴォトスを滅ぼす意志はないし、その事実に気付いているのは当人達と、ごく一部の知識を持つ者達(ビッグシスターや全知)だけだが。

 

「〜〜〜♪」

 

 そんな風にしばらくの間、二人で黙々とおにぎりを握っていると、不意にアリスの耳を旋律が優しく撫でる。顔を上げ周囲を見渡せば、どうやらそれは彼女の隣にいる、ユウヒから零れているようだった。彼女が無意識に紡ぐ音の連なりは、辺りに溶け込むように響いている。

 

「〜〜〜♪〜〜〜〜、〜〜♪」

 

 歌詞はなかったが、アリスはその歌に聞き覚えがあった。『前』の世界で、アリスがアイドルとして歌った曲の一つだ。彼女からすれば、ほんの少し前の記憶のはずなのに、アイドルをしていたのが遥か昔の記憶に感じられて、懐かしい気持ちになる。

 

(……綺麗です。アリスが歌うよりも、ずっと)

 

 贔屓目があることは自覚しながらも、アリスはそう思った。思い返せば、ユウヒやワカモの歌を聞いた記憶はない。ワカモはそういうことをする性格ではなかったし、ユウヒ(先生)は常にキヴォトス中を駆け巡ったり書類と戦っていたりと忙しく、一緒に居た時もカラオケなどに行く機会はなかった。それはきっと、ワカモもケイも同じだろう。……そもそもワカモは、密室で二人きりという状況に耐えられるかも怪しい。

 

(そういえば……先生とワカモは、少し目の色が違うような気がします。アリスの気のせいでしょうか……?)

 

 流れてくる明るい曲調を聴きながらユウヒの横顔を眺めていたアリスは、彼女の柔らかな目元を見て、ふとそんな疑問を思い浮かべる。ワカモの瞳は黄金(こがね)色とも呼べるような美しい黄色をしているが、今のユウヒの瞳は心做しかオレンジがかっているように思えるのだ。普通の者なら分からない、関わりの深いアリスでも、僅かに違和感を感じる程度の違い。

 

 同じだと言われれば、渋々ではあるが納得できる。しかしその些細な違和感は、アリスが見逃せる程小さくはなかった。

 

(ケイ……どう思いますか?)

 

 故に彼女は、自身の内側に居る仲間へと問い掛ける。アリスにとってケイは、何時だって頼りにしている、大切な存在なのだ。それはユウヒやワカモも同様……頼ることに、躊躇いはない。

 

『……私も、アリスと同じ意見です。視覚的な差異はほとんどありませんが、若干橙辺りの色が混ざっているような気がします。より正確に言うなら、夕陽色でしょうか』

 

 アリスにしか聞こえないその声は、彼女の考えに肯定を示す。ケイから見ても、どうやらユウヒの瞳には違和感があるようだ。

 

(ユウヒ色……そんな色があるんですね。アリス、初めて知りました)

『あ、いえ、違います!そちらのユウヒではなく、夕方頃の沈んでいる太陽のような色という意味です!!』

 

 意図せず起こった勘違いを訂正されつつ、アリスはユウヒの横顔を見つめ続ける。彼女は料理に集中してるのか、アリスに見つめられていても、一向に気付く気配がない。その手元では、綺麗な形――所謂おむすび型――をしたおにぎりが量産されていた。

 

『それよりもアリス。先程から手が止まっているようですが、大丈夫なのですか?』

(あっ……だ、大丈夫じゃないです!このままでは、タイムオーバーでクエスト失敗に……)

『落ち着いてください。今から再開すれば、まだ間に合います。それに、少し余所見をしていたとはいえ、その程度でクエスト失敗にするほど、先生は厳しくありません』

(そ、それもそうですね……!)

 

 ケイにそう言われたことで、アリスは慌てて調理へと戻っていく。使われることの少ないミレニアムの調理室には、彼女達の肩書きやゲーム開発部の危機的状況に似つかわしくない、穏やかな時間が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は進み、ミレニアムプライス参加受付の期限日。

 

 ゲーム開発部の部員であるモモイ、ミドリ、ユズは、これまで生きてきた中でも、トップクラスに入るほどの緊張と胃痛に苛まれていた。

 

 ――……どうして、こんなことに。

 

 三人の間には、そんな共通の疑問が湧き上がっている。しかし当然、彼女達の問いに答えてくれる存在はいない。

 

「オイオイ。あたしは今、あんたじゃなくてそこのチビに用があんだよ。てめぇは引っ込んでろ、『災厄の狐』」

「うふふ……(わたくし)に負けた御方が、よく吠えますわね。『ダブルオー』……あぁ、負けたのでしたら、その名前はもう相応しくありませんでしたか。他の方にお譲りした方がよろしいのでは?」

「あん?あれはてめぇが逃げたんだから、てめぇの負けだろうが!」

「おや、(わたくし)はきちんと目的を果たしたと判断したために、逃走しただけです。対して貴女は何も果たしていない上に罠に嵌められ、みすみす(わたくし)を逃がしている。その時点で、勝敗は明白だとは思いませんか?」

 

 彼女達の心労の原因は、今目の前で天童アリスを挟んで睨み合いながら言い争っている、二人の少女にあった。正確に言えば彼女達だけが原因ではないのだが、彼女達が居なかったらそこまで追い詰められていないであろうことを考えると、大きな原因と言っても良いだろう。

 

「はっ、よく口が回るじゃねえか。んじゃあ、どっちが上か、今ここではっきり分からせてやるよ、狐坂ワカモ」

「あらあら、ここで暴れたら()()セミナーの会計の方に怒られるのでは?」

「その時はその時だ。今はてめぇをぶっ飛ばす方を優先する」

「あわわ……」

 

 件の二人――美甘ネルと狐坂ワカモに挟まれたアリスは、オロオロとすることしか出来ない。ワカモのことを止めるくらいなら出来るだろうが、例えワカモを止められても、ネルが止まらないのだから意味がないのだ。

 

 事の発端は、今より少しだけ遡る。

 

 ミレニアムプライスへの参加受付――俗っぽく言えば、作り上げたゲームの提出期限がすぐそこまで迫り、ほぼ滑り込みに近い形で作品を提出したゲーム開発部。

 

 提出も間に合い、安心して一息吐いた所で……襲撃を受けた。襲撃者はミレニアムの生徒会たるセミナーと、その直轄の戦闘部隊であるC&C。なし崩しに戦闘になる前に部室から逃げ出したはいいものの、そこで美甘ネルを含むC&Cと遭遇。

 

 その時、ワカモは「少し用事がある」と言って前日から席を外していたため、戦力的に見れば状況は絶望的。しかもアリスに用があるらしいネルに、彼女はあろうことか「アリス、知ってます。これは告白イベントというやつですね。もしも、もう一度同じ状況になってみても、やはりそうとしか思えません。ですがごめんなさい、チビメイド様……アリス達には、心に決めた人がいるので、その気持ちには応えられません」と、勘違いした挙げ句盛大に振ったのだ。

 

 これには流石のネルも憤慨。割とすぐにキレるチビメイド様は顔を真っ赤にしながら、本来の目的も忘れて衝動的に引き金を引き絞り、目の前のアリスを滅多打ちにしようとした。

 

 しかし銃弾が放たれる寸前でワカモが、アリスを後ろから抱き締めるように姿を現し、「おやおや……『コールサイン・ダブルオー』ともあろう方が、自分の感情もコントロールできないとは。世も末ですわね」とアリスを庇いながら煽りに入ったことで、現状に至る。

 

「そうやって、すぐに暴力的手段を用いるのは、やめてもらいたいものです。アリスの教育にも悪いですし」

「ブーメランって知ってるか?今のお前にピッタリな言葉だと思うぜ」

「まさか……むしろ、アリスを『チビ』と呼ぶ貴女にこそ、ブーメランという言葉は相応しいと思いますが」

「あ゛?」

 

 そして彼女達の煽り合いは、今も尚続いていた。

 

 辛うじて互いに攻撃していないだけで、いつ戦闘が始まってもおかしくはない。特にネルの方など、こめかみにピキピキとシワが入っており、今にも暴れ出しそうな様子だ。

 

「せ……わ、ワカモ!それ以上はダメです!ネ……チビメイド様は、身長のことを気にしているんですから!」

「だから、誰がチビメイド様だ!?さっきから好き勝手言いやがって……ぶっ殺すぞ、この野郎っ!」

 

 途切れることのない舌戦に、流石のアリスも必死に止めに入る。ここで二人が戦いを始めてしまえば、尋常ではない被害が出るだろう。そして、二人の戦闘による被害を最も被るのは……セミナー会計の、早瀬ユウカだ。二人が戦いだせば、この辺りの校舎やら備品やらは軒並み犠牲になる。そして、その補填はセミナーの予算から出されるだろう……ただでさえ、現在でも資金繰りに苦労しているのに、これ以上無駄な支出を増やして、彼女を困らせたくはなかった。それに、『前』の世界では、先生共々とてもお世話になったのだから、彼女に余計な心労をかけたくはない。故にアリスは、二人を止めようと言葉を紡ぐ。

 

 尤も、『ワカモの煽りを止めること』と『知らないはずのネルの名前を呼ばないこと』に意識を置きすぎて、逆にネルの神経を更に逆撫でする結果になってしまったが。

 

「…………はぁ、イラつかせてくれるじゃねえか。それに、随分と仲が良いみてぇだな。そんなの、あたしが知る情報にはなかったが……まぁ良い」

 

 頭をガシガシと乱雑に搔きながら、ネルは自身の激情を内側へと抑え込む。彼女は長い時間を鍛錬に費やしたエージェントだ。自分の感情を押し殺し、表に出さずに振る舞うことなど当たり前に出来る。

 

「誤解してるかもしれねぇから一応言っとくが、別にC&Cに一発食らわせた分の復讐ってわけじゃねぇ」

 

 ネルには敵討ちなどするつもりはない。ゲーム開発部はC&Cを相手に目標を達成しただけであり、そこに恨みはなく、寧ろ彼女に興味を湧かせた。C&Cの面々は自身に及ばずとも、優秀なエージェントである。そこにはネル同様鍛錬に費やされた多大な時間と、積み上げられた経験があった。外部の協力者がいたとはいえ、そんな彼女達を打ち破り目標を達成したというのだから、興味も湧くというもの。

 

「さぁ、ちょっくら相手してもらおうか。あたしと戦って勝てたら、このまま大人しく引き下がってやる」

 

 だからこそこの提案が出てくるのは、ネルにとって自然なことである。戦いを通して、相手を理解する……それは例え相手が誰であろうと変わらない。

 

「どうだ、難しい話じゃねえだろ?」

 

 ネルの視線は、変わらずアリスの方へと向いている。燦々とした輝きを幻視してしまうほど、その瞳は強い感情を含んでおり、彼女が自分と戦いたくてウズウズしているということが、アリスは容易に理解できた。

 

「……分かりました。一騎打ちのイベント戦闘……少し緊張しますが、引き受けます」

 

 そう宣言して、アリスは一歩前に出る。彼女のその行動に、ゲーム開発部は不安げな目を、ワカモはいそいそとスマホを取り出し、録画の準備をしながら楽しそうな表情を、そしてネルは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「今こそ、アリスの成長を見せる時です!」

 

 アリスの両手では、スーパーノヴァが光を放ちながら、発射される時を今か今かと待ち侘びている。

 

「ちっ、これは……!」

「光よ!」

 

 スーパーノヴァの銃撃の威力を直感的に悟ったネルは、即座に回避行動を取った。彼女が飛び退いた直後、元居た場所をスーパーノヴァのビーム砲が通り抜ける。

 

 轟音が辺りに響き渡り、いとも容易く校舎の壁が破壊された。空気が揺れ、壁の崩壊と共に付近を硝煙が覆い、視界が制限される。

 

「す、すごい……」

「こんな火力、見たことない……」

「……やはり、避けられました。流石はネル先輩です」

「えっ?」

 

 モモイとミドリは初めて見るスーパーノヴァの100%の威力に感嘆しているが、アリスは油断なくネルの気配を探っていた。いくら単発火力が高いとはいえ、スーパーノヴァの弾速はそこまで速くない。屋内で避けられる場所は少なく、採算も取れると判断したために撃ったが、アリスの予想通り素早いネルには避けられてしまったようだ。

 

(ネル先輩の耐久はそこまで高くありません。光の剣の直撃は、極力避けたいはずです)

 

 ――アリスちゃんの銃って、火力凄いよね~。あれは流石のおじさんでも、ちょっと荷が重いかな~。

 ――その銃の威力だけは、(わたくし)も認めていますので。

 

 かつてのパーティーメンバーから言われた言葉を思い出しながら、アリスは思考を続ける。銃の威力を考えれば、ネルはアリスの攻撃を避ける、或いは攻撃する暇を与えないように立ち回ってくるはずだ。

 

(だとすれば、ネル先輩が仕掛けてくるのは……)

 

 アリスは経験と勘から、光の剣を自身の盾になるように、銃口を下に向ける形で構える。それと同時に、彼女が光の剣を盾にした方向から、大量の弾丸が雨の如く飛来した。

 

「へぇ、よく防いだな……案外、戦闘経験は豊富みてぇだ。あいつらがやられたってのも、納得できる。それに、確かにあんたの銃は、並大抵の火力じゃねえが……ただ、それだけだ」

「うっ……」

「てめぇの武器は強い。だが引き金を引いてから発射まで、最低でもコンマ数秒は掛かる。その上、強すぎる火力のせいで、ある程度の距離まで入られたら撃てねぇ。爆圧に自分(てめぇ)まで巻き込まれるからな」

 

 ネルの銃撃は、止まることを知らないかのように続いている。床には薬莢が散らばり、その量は彼女の攻撃の激しさを物語っていた。

 

「そして、この間合いであたしに勝てる奴なんざ……キヴォトスで一人もいねぇ。例え、そこにいる『災厄の狐』だとしてもな」

 

 両者の距離は、おおよそ2mあるかないかといった程度。彼女達ほどの実力者でなくとも、キヴォトスに住まう生徒たちなら、誰もが一歩で詰められる距離だ。無論、銃撃戦においてこの距離を詰めるメリットなどないにも等しいが。

 

「…………」

 

 アリスは黙して、ネルからの猛攻を耐え続けている。傍から見れば、攻めあぐねている……もしくは、防戦一方になっているようにしか見えない。事実、モモイ達は心配そうな顔をして、アリスのことを見つめている。

 

 しかしアリスの行動は消極的な選択ではない。

 

「……ここです!」

「ぐっ!」

 

 僅かに銃撃が緩んだ瞬間。アリスはその隙を見逃すことなく、銃身を振り回しネルへ殴打を試みた。彼女の膂力と光の剣の重さは、ネルを怯ませるには十分な威力になる。尤も、ネルもただでは食らわない。アリスの予備動作から適確に狙いを読んだ彼女は、咄嗟に逆方向へ移動しダメージを受け流すことに成功している。尚、反射的にその行動が出来たのは、先日のワカモとの格闘戦の経験があったからなのだが……その事実は本人も含めて、誰も気が付かなかった。

 

「はっ、近接戦としては悪くねぇ判断だ」

 

 銃身を使った予想外の攻撃に、ネルは獰猛に口元を歪める。追撃として、フルパワーではないものの、何発かのビーム砲が飛んでくるが、彼女はそれすらも全て見事に避けきっていた。

 

「けどな……相変わらずこの距離じゃ、あたしの方が圧倒的に有利。てめぇは発射しようにも、あたしに照準を合わせられねぇ。それに、今の技も二度は食らわねぇし、例え食らったとしても決定打には程遠い」

 

 依然として、ネルの有利は続いたままだ。距離が空いたわけでも、隙らしい隙を作れたわけでもない。

 

 それを正しく把握しているアリスは、すぐに次の行動に移る。被弾を覚悟で、前に詰めながら大きく横に逸れ、銃を撃つ隙を一瞬でも作り出そうとした。

 

「甘ぇ!」

 

 しかし相手はあの美甘ネルだ。機動力で勝てるわけもなく。一瞬の隙を作り出せはしたが、銃を撃つには到底足りず、また元の状態へと戻されてしまう。

 

「……やっぱり、アリスはまだまだですね。本当は、もっと良いところを見てもらいたかったんですが」

「はっ、降参か?」

「いいえ、違います。今のアリスではまだ、ネル先輩に勝てません……それでも、勇者はいつか勝てるまで、自分をレベルアップさせるものです。ネル先輩に挑むには、まだレベルが足りていませんでした」

 

 元々不利な戦場とはいえ、打つ手はない……しかしアリスの瞳には、未だに火が籠っていた。その闘志に呼応するように、彼女が持つスーパーノヴァも光を放つ。

 

「この状況で発射準備……?おい、まさかてめぇ……!?」

 

 ネルはすぐに、アリスの狙いに気が付いた。光の剣の銃口は、下を向いている。先ほどの、校舎の壁を容易く破壊する攻撃力。この至近距離で、それを行えばどうなるか。

 

「あたしじゃなく……床に!?正気か!?そのまま撃ったらてめぇも……!」

「光よ!」

 

 スーパーノヴァから放たれたビーム砲は、彼女達の立っていた床を大きく瓦解させる。同時に煙が辺りを覆い隠し、数寸先も見渡せないほど視界は悪くなっていた。

 

 その隙に、ゲーム開発部は動き出す。自爆により肉体を40%程損傷させたアリスをワカモが背負い、彼女達は崩れた床から一目散に逃げて行った。

 

 こうして、ゲーム開発部創立以来最も大きな騒動は、幕を閉じる。しかし彼女達にはこれから先に大きな試練が待ち受けているのだが……その事実はアリスとケイ、そしてワカモ以外に知る由はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリニティ郊外。そこには狐坂ワカモの隠れ家の一つが存在していた。1LDKの広々とした空間には、ソファや机、テレビに造花ではあるが観葉植物の入った花瓶など生活感に溢れるものが数多く配置されている。尤も、それらを使う機会が多いかと聞かれれば、首を横に振るしかないのだが。

 

 そんな使用されることの少ないテレビに、今は光が灯っている。液晶にはミレニアムプライスの生放送が映されており、スピーカーからはエンジニア部の豊見コトリの生き生きとした解説が流れていた。

 

「…………」

 

 しかしワカモはテレビを見ておらず、その視線は手元にある紙の資料と開かれた手帳に向けられている。どうやら二つを見比べているようで、真剣そのものな表情だ。

 

「……次はエデン条約……出来ることはしたけど、どうなるかな」

 

 一段落ついたのかワカモはそう言うと、資料を机の上に置いた。手帳は丁寧に施錠を施され、彼女の懐へと仕舞われる。

 

 そこまで終えてから、ようやくワカモの視線はテレビの方へと向いた。

 

「万全を期すなら、買収でも何でもやった方が良かったんだろうけど……」

 

 ミレニアムプライスは既に大詰めのようで、今は2位を受賞した作品が紹介されている。

 

 本来なら、念には念を入れるべきだ。もしゲーム開発部が存続できなければ、今までの苦労が全て水の泡になる。今後控える最終編や鋼鉄大陸での戦闘も、彼女達がいなければ成り立たないことは多々ある……即ち、キヴォトスが滅ぶのも時間の問題になってしまうのだ。加えて彼女はミレニアムプライスのスポンサーの一人でもあり、寄付金の額も含めてその発言力は大きい。手段を選ばないのであれば、審査員の買収や契約の打ち切りなどでいくらでも順位を操ることだって出来る。

 

「それは……あの子達を、何よりアリスを裏切るも同然。元とはいえ、(わたし)は『先生』なんだから……信じなきゃ」

 

 だが、彼女はそれを選択しなかった。それが、生徒を裏切る行為であると思ったから。何より、彼女達の作り出す作品はそんなことをせずとも、評価されると信じているからだ。

 

 テレビでは既に1位に受賞した作品を紹介し終えており、夕焼けに染まった空を背に、審査員の一人が挨拶をしている。

 

『ミレニアムプライスではこれまで、生徒達の才能と能力で作られた作品に対し、『実用性』を軸に据えて授賞を行ってきました。これはより良い未来を求め、実現していくという趣旨に基づいています。しかし今回の作品には、新しい角度から『実用性』を感じさせてくれたものがありました。とある『ゲーム』が――』

 

 そこまで聞いたところで、ワカモは目線をテレビから外した。審査員の発言からゲーム開発部の『特別賞』の受賞を確信した彼女にとって、これ以上ミレニアムプライスを見続ける意味は薄い。録画もしてあるため、いつだって見返せるものだ。

 

 彼女は手早くスマホを取り出すと、アリスへ『受賞おめでとう』という簡素なメッセージを送る。思いの外緊張していたのか、手の震えによって何度かタップミスをしてしまうものの、無事にメッセージの送信を確認した彼女は、次に先ほどまで手を付けていた書類を一瞥すると、シュレッダーへとかけた。

 

「……最善は尽くした。後は、彼女達の選択次第……かな」

 

 ワカモの目線には、ほとんど稼働音のしないシュレッダーに紙が飲み込まれていく様子が映っている。その中ではトリニティの何処かの風景や、赤い人型の『大人』の写真が、無残にも切り刻まれていた。




・成り代わりワカモ
前半の瞳の色の話は前話で語った『ワカモとユウヒが双子として生まれていたら』というif世界線だった場合、ユウヒの目の色が夕陽色になるよって話をしたかっただけ。伏線になるかどうかは今のところ未定。
料理がお上手。
しれっとアリウスの情報を集めてる。今後どうなるかは、作者にも分かっていない。

・天童アリス
頑張ってネルに食らい付こうとしたけど、普通に無理だった。そもそも状況が近接戦・あまり広くない空間である時点で、ネルが有利すぎると作者は思います。

・小鳥遊ホシノ
セリフだけの登場。
ここで出てきたのは『前』の世界のホシノ。アリスケイワカモほどではないが、結構な頻度で編成されていたから、アリス達との交流もそれなりにある。多分三人の次くらいには絆レベルが高かった。

・美甘ネル
原作通りアリス達ゲーム開発部に興味を持ち、今後遊びに来るようになる。特にアリスには目をかけており、戦闘中節々に見えた動きの良さから「どこかで鍛えたのか」と思っていた。
原作と異なり引き金を引きそうになったのは、原作では『告白だと思われた』だけなのに対し本作では『告白だと思われた上に、勝手に振られた』から。ここだけ見れば割と不憫。





今話でミレニアム編は一区切りです。後日閑話と掲示板、バレンタインイベの代わりのイベントを書いたら、エデン条約に移ります。その後、パヴァーヌ2章をやる予定です。不定期投稿ですが、今後ともお付き合いいただけましたら幸いです。
掲示板何書こうかな……。
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