七囚人『災厄の狐』(成り代わり転生者) 作:百合って良いよねって思う
ところで、前話の感想で「成り代わりワカモ、さてはロリコンだな」という内容のものを頂きました。ここで、成り代わりワカモ(ほぼ作者と同じ)の推しを見ていきましょう。
天童アリス、天童ケイ、狐坂ワカモ、空崎ヒナ、小鳥遊ホシノ等々……
うーん、これはまごうことなきロリコン()
「先生……せん、せい…………っ!」
天童アリスにとって。
「せん、せ、い…………っ!」
天童アリスという生徒にとって、『先生』とは自分達に「なりたい自分になって良い」と言ってくれた、恩人であった。それと同時に、自分達を愛してくれる人であったし、自分達が愛している人でもあった。
だからこそ、一目見ただけで確信した。彼女が、『先生』なのだと。例え彼が、自分と同じように愛されていた生徒の姿を取っていたとしても。
「…………アリス」
二人の瞳からは、取り留めもないほどに涙が溢れてくる。悲しいことは、何一つない。それでも、溢れる涙を抑える方法を、彼女達は知らなかった。
「………………」
静寂が、二人を支配する。ただ、先生が確かにそこにいることを確認したくて、アリスはワカモの胸に耳を近づけた。とくっ、とくっ、と規則正しい、しかし平常よりは明らかに早いであろう鼓動が、アリスの耳に届く。確かに、生きている。抱きしめている。抱きしめられている。それだけで、アリスは安心を覚えた。
「…………アリス、そろそろ」
「もう少しだけ、お願いします。アリスは、まだ離れたくありません」
もうそろそろ、誤魔化しの効かないほどの時間が経つ。今は気を使ってこの世界の先生が才羽姉妹を留めてくれているが、いつ彼女らがこちらに駆け寄ってくるかはわからない。
「後でいくらでも、付き合うよ。今まで会えなかった分、
「………………」
「だから、ね?一旦、みんなの所に戻ろう?待たせるのも、悪いしさ」
「…………わかり、ました」
その説得に折れたのか、アリスは最後にギュッと一度強く抱きしめると、立ち上がってワカモの手を握った。ワカモはアリスから握られた手を握り返しながら、落とした狐面を拾いつつ、並んで三人の元へと歩いていく。
"……えっと、もう大丈夫?"
「はい、お騒がせしました」
三人の元へと向かえば、先生が心配そうに、そう声を掛けてきた。ワカモは肯定を返しながら、狐の面を懐へとしまう。見られてしまった以上、もう狐面を着けることに意味はない。
「そ、それで……あなたは、何者なの?」
「アリスは、アリスです!ワカモのパーティーメンバーです!」
先ほどまでの涙が嘘のように思えるほど、元気な声を上げるアリス。しかしミドリの質問に対する回答は、回答しているようでその実、内容はほとんど何もわからないものだった。
「えっと……?」
"ワカモは、この子と知り合いなの?"
「……はい、昔の縁です。まさかここで出会えるとは、思ってもみませんでした」
頭の中に大量の疑問符を浮かべているミドリを見かねたのか、先生が助け舟を出す。アリスの手をしっかりと握っている、初めて見たワカモの素顔は慈愛に満ち溢れており、その少女をとても大切に想っていることが、ありありと伝わってくる。
「……アリス、でいいんだよね?」
「はい、その通りです。何か質問ですか?」
「アリスって、どこかの学園に所属してる?」
「……いいえ、今のアリスはどこの学園にも所属していません。前までは所属していたのですが……失くなってしまいました」
モモイからの質問に、アリスは目尻を下げながら、そう答えた。それを聞いたワカモは胸が張り裂けそうな気持ちになるが、アリスがそれを和らげるように声を上げる。
「でも、寂しくはありません。こうして、ワカモと再会できました!それに失くしても、また築きあげていけばいいんです!むしろ、まだやり直せるアリスは幸せ者なんです」
「…………アリス」
この世界に、
でも、孤独ではない。大好きな先生がいて、たとえ覚えていなくても友人達はそこにいる。それだけで、アリスには十分だった。
「工場の地下に一人で眠っていて、しかも学園無所属……ふふっ、良いこと思いついちゃった」
「……嫌な予感しかしないんだけど」
アリスの心情を知ってか知らずか、モモイは自信ありげな顔をしながら、そんなことを言う。その表情に、アリスは懐かしさを覚え、つい目を細める。逆にミドリは、大抵モモイがこういう顔をする場合、カジノを開き始めたり、他の部活を襲撃し始めたりとロクでもないことしかやらかさないため、不安に駆られていた。
「とりあえず、一旦うちの部室まで行こうか」
モモイは詳しい説明をすることもなく、一人で先に歩き始める。ワカモとアリスは何をするのか知っているため特に疑問に思わないが、ミドリと先生は何をするのかわからず疑問を浮かべているだろう。
「……先生」
アリスはモモイの背を追いながら、手を握って隣を歩くワカモへと小さく囁く。
「…………先生も、付いてきてくれますか?」
「もちろん。アリスが、それを望むなら」
彼女の問いに、当たり前のように肯定を返した。アリスが望むなら、ワカモは何でもする。彼女が自分の生徒であるとわかった時に、その覚悟は既にできている。
アリスはワカモの答えに安心したように笑みを浮かべると、そのまま何を言うわけでもなく、ただワカモに近付いて肩をくっつけた。
"………………"
その光景を後ろから見ていた先生は、"(仲が良いんだなぁ)"と微笑ましそうに見ていたのは、また別のお話である。
*****
「それで……この子を部室まで連れてきてどうするの!」
「うっ、首絞めないでって!苦しっ、おぇっ!!」
ミレニアムサイエンススクール、ゲーム開発部部室。明らかに厄ネタであるアリスを連れて帰ってきたモモイの首をミドリが絞めているのを横目に、ワカモは部室に目を向ける。見渡す限り部屋のほとんどがゲームとそれに関連するもので埋め尽くされてはいるが、中央のソファーの前にはスペースがあるため、あまり窮屈には感じない。
「……ここが、ゲーム開発部の部室、ですか」
「はい……懐かしいです」
部屋にあるゲームの中には、ワカモが見知ったゲームと似たようなパッケージやハードウェアのものもあれば、全く知らないものもある。
「お姉ちゃん、一体何考えてるの!?子猫を拾ってきたとか、そうレベルじゃないんだからね!?」
ミドリの絶叫は、止まることを知らない。彼女からすれば、モモイの行動は常軌を逸したものだった。廃墟で眠っていたアリスだけではない。あの『災厄の狐』と呼ばれるワカモまで部室へ連れてきている。当初から少し緩和されたとはいえ、ミドリは未だにワカモに若干の恐怖を抱いている。そのワカモが明らかに大切にしているであろうアリスも、下手なことをすれば制裁があるのではと怯えているのだ。
尤も、当然の話ではあるがワカモはそんなことをするつもりは更々ない。ワカモからすれば彼女達はアリスの大切な友人であり、守るべき存在でもある。もし彼女らの度が過ぎたとしてもせいぜい、ケイがモモイに対して行う程度の制裁が限界であろう。そんなことを知る由もないミドリは、今もビクビクしているが。
「ミドリの方こそ、よく考えてみてよ。そもそも私達が危険を冒してまで、『G.Bible』を探しに行ったのは何のため?」
「それは……良いゲームを作って、部活を廃部にさせないためでしょ?」
今更説明をするまでもないと思うが、モモイとミドリの所属するゲーム開発部は現在廃部の危機に陥っている。ミレニアムの部活は『部員四名以上かつ結果を出す』という条件をクリアして初めて正式な部活として認められるのだ。その条件を彼女達は、どちらも達成していない。
「お、お姉ちゃん、まさかとは思うけど……この子をミレニアムの生徒に偽装して、うちの部に入れようとしてるんじゃ……!?」
「アリス!私達の仲間になって!」
モモイの作戦は、『アリスを部員にすることで定員を達成しよう』というものである。最低人数さえ部員を集められれば、廃部はなかったことになると考えてのことだ。加えて、アリスが無所属なのが都合が良かった。
……言うまでもなく、この作戦は失敗に終わるが。前述した通り、ミレニアムの部活は『部員四名以上かつ結果を出す』ことが求められる。アリスを部員として迎え入れたところで、片方の条件をクリアするだけであり、結果を出さなければ廃部になってしまうのは変わらない。
そのことにも気付かず、モモイは自信満々にアリスへと手を差し伸べている。
「………………っ」
アリスはそのモモイの行動に、また涙が出そうになる。かつて自分がまだ何も知らなかった時と同じように、手を差し伸べてくれたことに。
しかし、モモイの提案にアリスはすぐに頷くことができなかった。その理由が何なのかはわからない。前の世界のことがフラッシュバックしたのか、それともまた別の要因か。一つ言えるのは、アリスは躊躇しているということだ。
「…………アリス」
「……はい」
そんな風にアリスが悩んでいると、ワカモは握っていた手を両手で握り返し、目線を合わせるように屈む。穏やかな印象を与える顔は、優しくアリスを見つめており、更に穏やかな印象を与えてきた。
「アリスは、アリスのやりたいようにやって良いんだよ。何も躊躇う必要はない。取りたい手を取って良いし、離したくないものがあるなら、手放さなくていい。アリスは、どうしたいの?」
「…………アリスは、みんなと一緒にいたいです。でも、ワカモとも……離れたくない、です」
吐露するように、アリスは声を震わせながら言った。ゲーム開発部は、彼女にとっても大切な場所。しかし、ここに入ってしまえば、ワカモと離れる機会が多くなる。離れている間に、また消えてしまうのではないだろうか。そんな嫌な想像が、湧いて止まないのだ。
「……ごめん、
「違います!せ……ワカモは、何も悪くありません。ただ、怖いんです。また、何も出来ずに……アリスの手から、こぼれ落ちるのが」
幸せは突然崩れると、アリスは知っている。ある時急に、何の猶予もなく、足元から崩れ落ちるのだ。モモイを傷付け自身に与えられた役割を知った時も、友達になれそうだった三人を失った時も……
だから、怖い。得たものを、また失ってしまうのではないかと。
「大丈夫だよ」
しかし、そんなアリスの不安を打ち消すように、ワカモがそう強く言い切る。
「不安になったら、
彼女の声は、優しくアリスの鼓膜を揺らす。それを聞いていたミドリは、噂が嘘なのではと思えるほどの優しさを見せるワカモに軽く脳がショートしていた。
「確かに、
「…………っ!」
「だから、躊躇うことはないよ。失うのが怖くなったら、
そんな言葉を聞いて、アリスは決意を固める。ワカモと合わせていた目を、モモイの方へと真っすぐ向け、差し出された手を握る。
「……モモイ…………勇者アリス、パーティーに参加します!」
「よし!これで問題は解決だね!!私は学生証を何とかしてくるから、みんなでゆっくりしてて!」
アリスの回答を聞いたモモイは、そのまま部室の外へと走り去っていく。おそらくはヴェリタスの所へ向かったのだろうな、と当たりを付けたワカモは、無意識にアリスの頭を撫で始めた。
「?…………」
急に頭を撫でられたアリスは疑問符を浮かべるものの、特に何も言わずされるがままになっている。
しばらく撫でて満足したのか、ワカモは頭から手を離すと、おもむろにとあるものを取り出した。
「……あっ、それは」
「『テイルズ・サガ・クロニクル』……貴女方の作った、最初のゲーム」
ワカモが取ったものに、思わずミドリは反応を示す。取り出されたのは、『テイルズ・サガ・クロニクル』。ゲーム開発部が出した最初のゲームであり、アリスにとっても思い出のゲームである。
「アリス……折角ですし、一緒にやりませんか?」
「っ!!ほ、本当ですか!?」
「元々興味はあったのですが……流石の
怖い物見たさ、とでも言えばいいのだろうか。興味はあったのだが、原作での描写や実際のレビューを見て、ワカモはプレイするのを躊躇ってしまってた。だからこそ、これはいい機会なのだ。隣には『テイルズ・サガ・クロニクル』のトゥルーエンド経験者であるアリスがおり、更には開発者の一人であるミドリもいる。
「はい、一緒に遊びましょう!」
「あ、なら私がセッティングしますよ」
「ありがとうございます、ミドリさん」
そうして、ワカモはアリスと共にソファに座り、『テイルズ・サガ・クロニクル』をプレイし始めた。アリスは楽しそうに、ワカモはそんなアリスを見ながら自然と目を細める。そんなひと時に小さな幸せを感じながら、ワカモは流れ始めたプロローグの方へと目線を映したのだった。
……お察しの通り、そこからは地獄だった。
「あっ、ここはBを押してはダメなんでしたね」
「…………??スライムが、銃……???まぁ、キヴォトスならあり得ることですか」
最初の敵から、ワカモは躓いた。そもそも彼女はあまりこういったゲームの経験はない。ブルアカと僅かな音楽ゲーム以外は、軒並みポケットなモンスターの対戦をやりこんでいたがために、その他のジャンルに対しての経験値がないのだ。当然『死にゲー』に対する耐性など一つもない。そもそも『テイルズ・サガ・クロニクル』はRPGなのだが、死にゲーと言われてしまっても仕方がないほどに理不尽要素で溢れかえっている。
「あ、アリス……助けて……最初の敵が、突破できない……」
「頑張ってください!着実に動きは良くなってきてます。あともう少しですよ!」
それでも何とかアリスの応援があり、ワカモは少しずつコツを掴み、ストーリーを進めていった。しかしながら、既に『狐坂ワカモ』の体裁を保てなくなるほどに、彼女の処理能力は麻痺している。そんな光景を、いつの間にか戻ってきていたモモイはケラケラ笑いながら見ていた。悪魔である。
「?????……植物人間……?いや、文脈的には『草食系』って意味か。何となくこの辺は覚えてる。というかそもそも母親がヒロインで、前世で妻だったところまでは納得できるけど……やっぱり『腹違い』の友人って何???何度聞いても理解できないんだけど」
「ダメですワカモ!それを気にしたら負けです!!クライマックスまでもう少しですから!!戻ってきてください!」
ワカモは前世で二次創作の執筆を嗜んでいた。故にそれなりに表現力は豊かな方なのだが……モモイワールドの前には、為す術もなかった。無事にエラーを大量に引き起こすものの、アリスの懸命な介護もあり、何とかまだ正気を保てている。アリスと一緒にやれてて良かった……一人だったら、絶対にどこかで倒れてた、とエラーを起こしている頭の片隅で考えながらも、ワカモはストーリーを進めていく。
そして――
「ぱんぱかぱーん!ワカモ、やりましたね!!ついにトゥルーエンドです!!!」
「…………………………ありすぅ…………もう、むりぃ」
苦節四時間の格闘の末、ワカモはトゥルーエンドに辿り着いた。代償としてワカモの思考は完全に溶けきり、アリスに抱き着いたまま動くことすら出来ないでいる。あの『災厄の狐』が完全に落ちている姿を、ミドリは意外なものを見るような目で見ていた。彼女の印象は未だに『ちょっと怖い人』なのだが、案外それは間違いなのかなと思う程度に。
「どうだった、私達のゲーム?面白かった!?」
モモイはそんなの関係ないと言うように、ワカモへと質問を投げかけている。恐れを知らないとはまさにこのことだろう。
「…………楽しかった、よ」
「!!」
溶け切った思考の中でも、ワカモは感想を零す。
「うん、楽しかった。アリスが隣にいたのも、あるかもしれないけど……こうやって、色んなところを冒険する。ワクワクしたし、懐かしい気持ちになった」
お世辞にも、良いゲームだとは言えない。クソゲーだと言われても仕方がないだろう。しかし、プレイしている時間は、彼女にとっては楽しいものだった。前世の幼い頃の記憶が蘇るような、そんな高揚感を覚えたのだ。
「…………アリス」
「はい、何ですか?」
「……アリスの気持ち、何となく、わかったよ。ゲーム、楽しいね」
「…………はいっ!そうなんです!!アリスも、このゲームが大好きです!!」
アリスにとっても、それは同じことだ。クソゲーでも、『テイルズ・サガ・クロニクル』は思い出のゲーム。悪感情など、一つもない。
「ありがとう、ワカモ!それにアリスも!!そう言ってもらえて、すっごい嬉しいよ!」
それが、開発者にとっては何よりも嬉しい言葉だった。自分達が作り出したものを、楽しんでくれる人がいる。好きでいてくれる人がいる。創作者であったワカモにも、その気持ちは痛いほど理解できた。自分の生み出したものが他者に評価されるのは、どのようなジャンルであれ嬉しいものなのだ。
「あー、早くユズにも教えてあげたい……!」
モモイがそう言った瞬間、ロッカーから声が聞こえ、扉が独りでに開き始めた。
「……ちゃ、ちゃんと、全部見てた」
現れた人影に驚いたミドリは、プライステーションを投げようとするものの、流石にこれ以上投げるのは壊れる可能性があると判断したモモイがなんとか止める。
「ユズ!」
「ユズちゃん、あれだけ探しても見つからなかったのに!いつからロッカーにいたの?」
「み、みんなが、廃墟から帰ってきた時から……」
「だいぶ前じゃん!?その時からずっとロッカーにいたの?あ、もしかしてアリスちゃんとワカモさんが怖かったから?」
ロッカーから出てきたのは、このゲーム開発部の部長でもある、
「あ、二人は初めてだよね。この人が私達ゲーム部の部長、ユズだよ」
モモイからの紹介を受けて、二人は改めてユズの方へと向き直る。ワカモも少しずつ思考を回復してきており、アリスを抱きしめるのを止め、ユズの方へと意識を向けた。
「あ、あの、その……あ、あ……あ……」
「……ゆっくりで大丈夫ですよ、ユズさん」
「………………ありがとう、ございます。ゲームを、楽しいって言ってくれて……大好きだって、言ってくれて」
彼女が告げたのは、純粋な感謝の気持ちだった。ゲームを作っても、レビューでは「クソゲー」だと酷評された。「楽しい」という言葉も、「好き」という言葉も、聞いたことがない。だから、その言葉を聞けたユズは自然とその一歩を踏み出せたのだ。
「改めまして、ゲーム開発部の部長、ユズです。この部に来てくれてありがとう、アリスちゃん、ワカモさん。これからよろしくね」
「ぱんぱかぱーん、ユズが仲間になりました!ワカモ、パーティー完成まで、あともう少しです!!」
「よろしくお願いしますね、ユズさん……まぁ、
「えっ!?あ、そ、そうだったんですね……」
何はともあれ、ちょっと締まらない感じで、三人は会合を果たした。
その後、ワカモも含めたゲーム部のみんなで、夜遅くまで遊び倒したのは、また別のお話。
「…………先生」
「ん?なぁに、アリス?」
その日の夜。アリスとワカモ以外は遊び疲れ眠っており、二人は肩をくっつけて、共にゲームを楽しんでいた。薄暗い部屋の中を、ゲーム画面から出る光だけが照らしている。そんな中、アリスがワカモへと切り出した。
「……その、一緒に、寝たいんですけど……抱きしめてくれませんか?」
「うん、いいよ。おいで」
アリスがそう言うと、ワカモは微笑みながら手を広げ、彼女を腕の中へと招く。アリスは嬉しそうに顔を綻ばせると、そこに躊躇なく飛び込み、胸に顔を埋め、ワカモの背中に手を回して抱きしめた。抱きしめ合った二人は、そのままソファの上へと寝そべる。
「………………」
「………………」
そんなアリスを愛おしそうに見つめながら、ワカモは頭を優しく撫でる。アリスは気持ちよさそうに目を細め、されるがままになっていた。そのまましばらく撫で続けていれば、やがてアリスから寝息が聞こえ始めた。はしゃぎ過ぎて疲れたのか、かなり早い入眠だ。
「………………」
ワカモはそっと抜け出して片付けをしようと思ったのだが、アリスが離してくれそうになかったため、諦めてそのままアリスを再度抱きしめる。
「…………アリス、大好きだよ」
小声でアリスに向かってそう呟くと、しばらくして恥ずかしさから顔を少し赤くしたワカモは、静かに目を瞑った。アリスの体温が気持ち良かったのか、ワカモはそのまま穏やかに眠りに落ちていくのだった。
「…………アリスも大好きですよ、先生」
アリスから放たれた返事は、誰の耳にも届くことなく、小さく部室の中へと響いて消えていった。
・成り代わりワカモ
『テイルズ・サガ・クロニクル』を正直舐めてた。所詮ゲームだと思ってたが、そんなに上手くいくわけがない。記憶力はいい方だが、それだけでTSCがクリアできるわけがない。
原作ではアリスが三時間でトゥルーエンドに辿り着いたところを、成り代わりワカモは四時間かけた。正直これでも才能ある方なのでは……?
前世で執筆を嗜んでいたため、余計にゲーム内の表現で宇宙猫になっていた。
実は偽名を使って度々エンジニア部に依頼をしている。
・天童アリス
隣で成り代わりワカモを応援してた。ずっと隣で肩を合わせてゲームが出来たので、とても幸せ。
本物ワカモが死んでしまったことを察しており、成り代わりワカモが罪悪感を感じていることも何となくわかっている。一緒に背負いたいけど、どうすればいいのかわからない。だからケイを頼ろうと思ってる。
前の世界の記憶があるので、かなり強い。それでもネルとかには勝てない。最強格の理不尽。
・天童ケイ
すやすや(-ω-)
・才羽ミドリ
成り代わりワカモの噂は結構当てにならないのではと今回の様子を見ていて思った。アリスに甘いし、ゲームは理不尽でも投げ出さないし、楽しいって言ってくれるし。
それはそれで、まだ少し怖さは残ってる。もう少しで受け入れられそう。
・才羽モモイ
成り代わりワカモの奮闘をケラケラ笑いながら見ていた悪魔。シナリオの語彙力が完全に別世界の住民。作者も何度見直しても理解できなかった。これが才能か……。
・花岡ユズ
ゲームを「楽しい」「大好き」と言ってもらえて嬉しかった。成り代わりワカモが『災厄の狐』だということに気が付いていない。気が付いたらおそらく恐怖からロッカーに閉じこもる。それまで仲良くなれるかチャレンジ。
・前の世界
成り代わりワカモのゲームの世界。成り代わりワカモが死んだことでゲームの中の先生も死に、キヴォトスは崩壊した。詳しくはいつか描写すると思う。
今回はほぼ閑話みたいなものでした。次回は光の剣と、ユウカと成り代わりワカモの絡み、『G.Bible』の前くらいまで書ければいいなと思います(全然変わる可能性はあるけど)