「なるほど。いじめを止めたアズサちゃんが逃げる最中にロメちゃんと出会う...と。ふふっ、なんだか運命みたいなロマンを感じます♡」
コハルが冷静さを取り戻してのち、合宿所にてマリーとロメは本来の目的を果たしていた。
マリーは被害者女生徒からの感謝をアズサに伝え、ロメは久々の挨拶と少々の確認をアズサに聞いていた。
「ああロメ。間違いない。綺麗な装飾の扉に机と椅子。燭台が置いてあって光っていた。それで締まり切った棺桶があった。...だから急に蓋が開いたのには驚いたんだ。いきなり撃とうとしてごめん。」
「大丈夫だよアズサちゃん。私もそんな状況じゃ怖くてパニクっちゃうと思うし!」
「かっ、棺桶にいたんですか!?...それじゃまるで死人というか...」
「ちょっとヒフミ!それはなんか...駄目!言い方が良くない!」
「あわわ...その、そう意味では言ってなくて...」
慌てるヒフミに対して、後ろからハナコが声をかける。
「うふふ♡そうですよねヒフミちゃん。ちょっと不思議に思っちゃっただけですよね♡」
"ごめんね。ロメ。ヒフミは君を悪く言ったつもりはないんだ。"
「あはは。大丈夫だよ先生。私も私のこと不思議って思ってたから!」
いつも通りのペースで談笑をする補習授業部。
マリーもしばらく滞在していたかったが、ハナコへの負い目も重なって、ロメとお暇することにした。
(確かにここなら、ハナコさんもあんな辛そうな顔をしなくて良いのでしょう。)
少しの自戒を持って立ち上がり、廊下へ出る。
・・・・・・
"そうだ、ロメ。ちょっといいかな。"
そこへ先生が声をかける。
「ん?なにかな先生?」
"さっきヒフミがああは言ってたけどさ。何か辛いこととかあったら、遠慮せず私に声をかけてね?"
「ふふ、ありがとうね先生。でも本当に大丈夫なんだよ?みんな優しいし、これといった不調もないんだからさ。」
"そっか。なら私も嬉しいな。..じゃあこれ、シャーレにあった、誰も使ってなかったスマホだよ。たまたま持ってきちゃっててね。ロメが使ってみて”
「えっいいの!?みんな持ってるやつだよねそれ!...でも、私。使い方とかわからないよ。」
「あの、私が手伝いますよ。少しなら教えて差し上げられると思います。」
マリーと興奮気味のロメが会話するのを先生はにこやかに見守る。
(一応、ユウカには予備だって言われてたけど...私には
使ってもらった方がスマホも嬉しいだろう。
”...それじゃあね。マリーも今日はありがとう。"
ばいばい、と手を振る先生。
二人が見えなくなるくらいまで見守った先生は、思案する。
(確かに、棺桶といったら死人を想像してしまうかもだけど。どちらかというと私は、ドラキュラとか想像しちゃうな。あとは......
"これはちょっと違うか"
わはは。詮無きことを考えて、足取りを戻す先生であった。
・・・・・・
帰り道、また二人きりになった彼女たち。
(そっ、そういえば、まだ助けてもらったお礼を言えていませんでした。)
覆い被さられたことを思い出して、再度顔を赤く染める。
けれども、いくら恥ずかしかろうとも、お礼を言わずじまいにしてしまうのはマリーの精神に反する。
だから、声をかけようと少し横を見て、口を動かした。
その時
「ロメさん、先程は「はぁはぁ。...やっと追いつきました。ロメちゃん、これ忘れ物ですよ!」」
突然現れたハナコに第一声を遮られることとなった。
「あー!!!私のハンカチ!ありがとう!...あれ、てことは。...部屋の鍵もない!!ハンカチに包んでたのに!!」
慌てた様子でポケットを弄るも、目当てのものが見つからず絶望する顔を見せるロメ。
「あら、困りましたね。鍵は見ていませんし。...戻って探しましょうか?」
「ありがとう、私も一緒に行くよ!」
まだここで別れたくない、とそう思ったマリーは提案する。
「...あの、私も探すのを手伝いましょうか?」
「マリーは大丈夫だよ。申し訳ないし、先に戻ってて!」
「そう、ですか。」
じゃあロメちゃん、いきましょうか。そういって連れだって戻る二人。
そんなこと気にしなくていいのに...そう思っているが口には出せず。
なんだか足を止めたままにしてしまう。
ロメを取られた気分になる。
だからだろうか。
「あっ、マリー!さっきのことは気にしなくていいからね!!ただの事故だから!マリーは何も悪くないよ!」
怪我がなくてよかった!、と叫ぶロメの声を聞いて温かい気持ちが湧いてきても。
少しの微笑みと。手を振りかえすことしかできなかった。
(私ってこんな自分のことだけを考えるような人だったんでしょうか...)
・・・・・・
「ね。いい娘でしょ、マリーって。」
「はい...そうですね。マリーちゃんは昔からずっと優しい娘なんです。」
マリーが合宿所とは反対の方向に消えていくのを見守りながら二人は話す。
「じゃあ。一度戻りましょう「その必要はないんじゃないかな。」・・・!!」
「だって。」
帰ろうと足を反対に向けたハナコは、正確な時計の針のようにそのままもう一度振り返った。
「私、鍵なんて持ってないし。」
「ッ!!」
ロメは笑顔のままだった。
補習授業部の皆は、このロメの笑顔に安心する。
ハナコも、最初はそうだった。
しかし今は違う目で見ている。
笑顔の奥に、何もないのだ。
正確には、何かがあるのだが、それが笑顔の手前で完全に止まっている。仮面と呼ぶには精巧すぎる。しかし素顔と呼ぶには、薄すぎる。
「たぶん、二人きりで話したいって感じかな?他の人には聞かせられない話なのかな?...それとも私に気を遣ってくれたのかな?」
ーーいいよ、聞いてあげる。ーー
彼女の唇が、蠱惑的にゆらめいた。
・・・・・・
ハナコは賢い。
賢いから、遠回りをした。
直接聞けばいい。しかし直接聞くことで、何かが壊れるかもしれない。
だから、他のみんなには取り返しがつくように二人だけで話をしようと画策した。
気取られていた。
頭脳戦であるならば、ナギサにも誰にも負けないと心のどこかで思っていた。
単純な動揺が彼女の内心を占めていた。
ーー頭が良いというコンプレックスを自覚していたはずなのに、実際に頭で先を制されると動揺してしまう。
子供みたいな矛盾、驕り、油断。これらもまた、無意識下で彼女を淵へと追い立てる。ーー
慎重に言葉を選んだ。
「ロメちゃんは...何者なんですか...」
返答を考える間もなく。
「ロメだよ。知ってるでしょ?」
惚けた。しかし惚け方が、素人のそれではなかった。
ハナコは畳み掛けた。
これまでに聞いたこと。シスターフッドの長サクラコの様子。ひとつひとつを、丁寧に、感情を排して並べた。
「私の推測ですが、ロメちゃん。...いえ、貴方は...」
一呼吸。
「過去の亡霊。バルバラの時代——大昔のユスティナ聖徒会の関係者。...違いますか。」
ロメは聞いていた。
「だから、アズサちゃんに近づいている。...アリウスの校章をつけているあの娘に。」
その聴き方が、変わっていた。笑顔は変わらない。しかし目が変わった。
金色の目の奥で、何かが静かに動いた。刃が鞘から出るような、静かな動きだった。
「うーん。なんでそう思ったのか聞いてもいい?」
深呼吸。
「...これみよがしなバルバラと同一の衣装。シスターフッドに潜り込む態度。噂だと祈る作法なども完璧なようですね。...さらに、その分厚い笑顔の仮面。何かを隠している様子。...わかりますよ。」
問い詰めている側なのに、どこか痛切な感情を隠せないハナコ。
「私は記憶がないんだよ?それのせいじゃないかな?ちょっと不自然に見えちゃうのは。」
「ッ!なにをそんな白々しくッ!」
どこか焦っている様子も見て取れるハナコ。
「うーん。もう充分かな。」
ーーもうちょっとこのままでもよかったんだけどねーー
「もう、充分ハナコちゃんのことが見えてきたよ。」
ーーじゃあ、私に会いにきた君に敬意を表してーー
「少しばかり、私もハナコちゃ...ハナコを考えてみるよ。」
ロメは、笑うのをやめた。
やめた、という感じがした。
演じることをやめた、ではなく、続けることをやめた、という感じ。
体力を温存するために、不要なものを置いていく、そういう静かな動作だった。
まるで、本来の口調に戻るみたいに。
「ふふ。......ひとつ目。まずハナコは頭がいいね。これだけのことを私に言えるんだ。きっと誰よりも。勇気もある。...政治なんか得意そうだ。...ただ、おかしなことに補習授業部なんてところにいる。うん。これは、おかしいね。というか不自然だ。」
ーーだからふたつ目。ーー
「ハナコは昔、なにか失敗したのかな?たとえば頭が良すぎて周囲とそりが合わなくて...とか。はたまた、大きすぎる期待でもされた?頼られすぎて潰される。よくある話だね。...あとは、周りが見えすぎた。とか。嫌だよね、周りの考えがあけすけに想像ついちゃうの。同情するよ。」
唾を飲んだ音が聞こえていないだろうか。
そんなことを考えるくらいにはハナコは錯乱していた。
なんだこれは。
なにが始まっている...?
私は...何を...呼び出したんだ...?
思考が止まらない。止まれない。
ハナコという人間の悲劇だった。
それが彼女の才能であり、今この瞬間だけは、呪いだった。
「最後にみっつ目、だから補習授業部をとても気に入っている。天才の肩書を外して友達と遊ぶ。...もしかして今まで胸の内を開かせる友達もいなかったタイプかい?...ああ、だから私を呼び出すような勇気が湧いたのか。」
なるほど、と彼女は続ける。
「今ハナコは、推定ユスティナ所属のこわーいお姉さんが、補習授業部にちょっかいかけないか心配なんだ。...特に気にしているのは白洲アズサ。私も今日会って確信したよ。...あの娘はアリウスだ。確かにユスティナはアリウス迫害の歴史がある。」
コヒューコヒュー...掠れた音。
ハナコが喉からそんな音を漏らしていると気づくには少し時間がかかった。
「やっと見つけたハナコのエデン。それを守るために必死なんだね?...一応聞いておこうか。ねぇハナコ。」
ーー違いますか?ーー
ハナコの口調を真似て問い返すロメ。
震えと称するより、もはや怯えと呼んだ方がいいかもしれないハナコの状態はみるに耐えないものであったが。
「...お願い...します。補習授業部には、アズサちゃんに...手を...出さないでください。」
自分のこれまでを見透かされているような気がして、俯くハナコ。
「あっ、今ちょっと下手に出たことで安堵したね?だよね。やることが懇願すること一択だから気が楽だ。...ふふ、格上の存在に会うのはこれが初めてって感じかな。加えて、ハナコには逃げ癖があるね、実践経験が少ないタイプなのもわかってきたよ。」
冷徹さが少し形をひそめ、表面だけは普段のロメに近い声が戻ってきた。
ただ、全く違う。
「お願い...します。あっ、アズサちゃんは...ちょっと冷たく見えることもあるけど...私を...私を純粋な目で、ほっ、褒めてくれるんです。...頭良いねって、天才だって。...久しぶりだったんです。天才だって言われて嬉しくなったのは...だっ、だから、良い娘なんです。...お願いします。手出しをしないで...お願い...」
ハナコが屈服してお願いをするのは初めてのことだった。それも涙を流してなど、なおのことである。
ハナコはまた、確信していた。
ロメは無害を装っているが、確実にユスティナ聖徒会の関係者だ。恐ろしく強いはず。そして、きっとアリウスを許さない。...ヒフミちゃんが言っていた、まるで死人みたい。...違う。ロメは...もし本当に私の予想が合っていれば、あまりに荒唐無稽で口にできなかったけど、本当にそうだとしたら。...きっと誰も勝てない。誰も立ち向かっちゃいけない。
だから、お願いするしかない。
「あーあ、鼻水まで出しちゃって。もう可愛くない顔になっちゃってるよ?ハナコ」
顔を上げてロメを見る。視界がぼやけてはっきりとしない。
「うん。ここまで追い詰めちゃってごめんね?ほら、ハナコって可愛いからいじめたくなっちゃって。」
ハナコの顔に手を伸ばして涙を拭うロメ。
そして。
その人差し指をその赤い唇に運ぶ。
あっ。
静寂が落ちた。
ハナコの涙の温度だけが、その指の先に残っていた。
ロメはそれをゆっくりと確かめるように、しばらくそのままでいた。
美しいと思った。残酷だとも思った。
「なーんちゃってね。アズサちゃんを狙う気はないよ。今日の確認は別のこと。元々アリウスとかどうでもよかった側だし私。」
あーでも、ひとつ言うなら。と、彼女はいう。
「多分、ハナコの思い描いた正体でそのまま合ってると思うよ。私の正体。...じゃあね。私帰るから。安心したでしょ?よかったじゃん、ハナコのエデンは無事だよ。」
それにね、振り返ってロメが告げる。
ーーいろいろと面白そうな時代に起きたみたいでね。楽しみなんだ。これからが。...もちろん君のこともーー
そういってロメが去り、どのくらい時間が経っただろうか。
ハナコはようやく思考の整理をつけて立ち上がる。
これから合宿所に戻らなくては。
充血した目をなんとかしよう。
鼻水だって跡になっているかもしれない。
鏡がないのが救いだった。
今の自分の顔を見たら、自分が自分をどう認識するかが怖かった。
しかし、そんなことはどうでもよかった。
ただ、ロメを退けられたことに達成感があった。
どんなに無様でも、私は。やっと見つけた友達を守るのだ。
あの、女から。
あのロメと名乗る。
・・・・・・
「はぁー、早かったな。記憶喪失が嘘ってバレちゃうの。というか途中から自分でバラしてたか。...ハナコ。みんなに言っちゃうかな?うーん。でもあのタイプは抱え込む傾向があるからなぁ。」
もうすっかり普段の調子で独りごつロメ。
「本名もバレてるっぽいしなぁ。どこまで知ってる...というかどこまで文献に残っているかだろうね。」
足取りは軽く、シスターフッドの聖堂へ歩いてゆく。
夜が近かった。空の端が、血を溶かしたように赤く滲んでいた。
彼女の影だけが、その赤の中に向かって長く伸びていた。
足は止まらなかった。
「別に今の人たちに悪意はない...むしろ助けてあげても良いんだけど。...ま。私の目的を邪魔しなければなんでもいいよ。」
雰囲気が再度、冷たくなる。
草木の音が静まり返り、周りには彼女以外の生物が存在しないよう。
それでも感じるこの激しさは、彼女の神秘が荒れ狂う音。
それは、見るべきものが見たら、反転と呼んで差し支えのない現象であった。
「私は、リベンジマッチをするだけだから。...ね?バルバラ。」
彼女の心には決意を漲らせる、一つの燃料として放たれた言葉だった。
・・・・・・
これを偶然と呼んで良いのかはわからない。
先生が渡した予備のスマホはシャーレの備品であったが、元々はユウカの好意によりミレニアムから寄贈されたものである。
ということはもちろん、ミレニアムが作ったスマホだということである。
つまり、製作者用のバックドアも存在するため、盗聴が可能ということを意味する。
そこでだ。
疑問に思うのは誰が製作者であるかだ。
エンジニア部?
ヴェリタス?
セミナー?
もしかしてヒマリ?
いいや、違う。
このスマホを作ったのは。
先生に盗聴可能なスマホが渡るように仕組んだのは。
「そう。...トキ。最悪の緊急事態よ。できるだけ早くヒマリに繋いで。」
「リオ様。了解しました...ですが緊急事態とは?」
「キヴォトスを脅かしかねない事態よ。...破滅の暗示。宿命の女。...とりあえずすぐに取り掛からないといけない案件よ。」
ミレニアムの生徒会長。
調月リオ。
彼女の頭痛は増すばかりだった。
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皆様方(敬称略)本当にありがとうございます。
エデン条約終わるぐらいまでは構想ついてますが、文章の違和感や幼稚さがあれば教えていただけると幸いです。