酒寄研究所の禁止リスト   作:白鷹泉

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第91項〜第100項

 

 

 

 

 

91.かぐやが怪獣ごっこをするために、ツクヨミのアバターサイズを異常に大きくする事は禁止されています。

 

 ⅰ.また、一般のツクヨミ利用者に対し、自身が神であるかのように振る舞う事も禁止されています。確かに貴女はツクヨミの神かもしれませんが、それは「月見ヤチヨ」名義での話でしょうに。

 ⅱ.KASSENフォーマット下で実行するのも禁止です。「欲深怪獣かぐや討伐レイド」の突発的な開催は一般プレイヤーにとって極めて迷惑でしたし、システムの誤作動で暴走した貴女を鎮圧してくれたBlack onyXの皆さんには感謝するべきです。

 

―この度はご迷惑をお掛けいたしました……。/かぐや

 

―いーのいーの、俺達も結構楽しめたし? /帝アキラ

 

―ぶっちゃけ大きいだけで疾くなかったし、いい的だったよ。/乃依

 

―DPS検証に便利だったよね。是非またやりたいな。/雷

 

―……好感触なのは嬉しいんだけどなんか複雑ぅ~……。/かぐや

 

 

 

 

 

92.研究員Eが酒寄所長に対し、以下に示す物の詳細を語る事は許可されていません。また、酒寄所長が研究員Eに対して「お薦め」を訊く事についても同様です。

 

 ⅰ.時をかける少女

 ⅱ.TY〇E-MO〇Nの全ての作品

 ⅲ.魔〇少女ま〇か☆マ〇カ

 ⅳ.St〇ins:G〇te

 ⅴ.機〇戦士〇undamG〇uuuuuuX

 ⅵ.ジ〇ジ〇の奇〇な冒険の第6部以降

 ⅶ.「時空間/世界線の移動」の概念が登場する作品全て

 

―ちょっと待ってくださいよ、私ってそんなに口軽いように見えます!? /研究員E

 

―まぁ、こうして個別で事項を作る程度には。/リスト編纂担当者

 

―ソンナー。/研究員E

 

―残当だろ。オタクしてる時のお前は暴走しがちだし──、/リスト編纂担当者

 

―……なにより、所長が絡んだ時のお前は信用ならん。/リスト編纂担当者

 

 

 

 

 

93.研究員Qが、「誤作動」の末にセキュリティゲートが全滅したのだと主張する事は認められていません。

 

―私だって壊したくて壊してるんじゃありませんわー!? /研究員Q

 

―おお、とうとう開き直った。/酒寄所長

 

 

 

 

 

94.かぐやは「酒寄研究所特別技術アドバイザー」ではありません。当研究所にそのような役職は存在していません。

 

 ⅰ.例え貴女が我々の同志として職務を果たしていたとしてもです、研究員K。

 

―なんでー!? あんなにアドバイスしてあげてるのにー!! /研究員K

 

―いや、言うほど頻度高くないし、そもそも見当外れな事言ってる時もあるじゃないですか。/研究員P

 

―なにおーう!? そんなことは──、/研究員K

 

―Mさんの件で相談した時の事、忘れてませんからね。/研究員P

 

―……いやそれ仕事関係ないやつじゃん!? /研究員K

 

 

 

 

 

95.月見ヤチヨの前で「君の〇臓をたべ〇い」について触れる事は禁止されています。彼女に興味を抱かせてはいけません。第95項は意義を失いました。

 

 ⅰ.正直に名乗り出れば、[削除済]だけは勘弁してやる。

 

―…………(ヒシッ)。/無言で彩葉にしがみつく月見ヤチヨ

 

―お~よしよし、……まさか8000年経ってまたあやす事になるとは。/酒寄彩葉

 

 

 

 

 

96.研究員Mのプライベートを詮索してはいけません。

 

―ほら、「女は秘密で着飾ってなんとやら」って言うじゃない? 美女に対して無暗に探りを入れるだなんて、無粋だと思うのよ。/研究員M

 

―美女(笑)。/月見ヤチヨ

 

―……上等じゃない、どっちの方が権限が上だったか思い出させてあげましょうか? /研究員M

 

 

 

 

 

97.酒寄所長が過去・未来・別次元に対して物体を転送する事は、如何なる物であれ許可されていません。

 

 ⅰ.そもそも現行の技術では不可能です、所長。

 

―……あ、ごめん。なんでもない。/酒寄所長

 

―いや、なんですかその反応。まるで方法はあるけど隠してるみたいな……あ。/研究員A

 

―思い出した? /酒寄所長

 

―……はい。/研究員A

 

―ごめん、油断してた。やっぱり封印処置は緩くなっちゃうね……。/酒寄所長

 

―何かあった時に思い出せない方がマズいですし、仕方ないですよ。……とりあえず、FUSHI君にまた頭下げに行きましょう。/研究員A

 

 

 

 

 

98.研究員Sが月見ヤチヨの偽物を見つけ出そうという意図を持って告発する事は、彼女等が本当に月見ヤチヨの偽物であった場合を除き許可されません。

 

―今日はありがとう、Sちゃん。/酒寄所長

 

―いえいえ、あのくらいどうってことないですよ。所詮は前に狩った奴の残滓だったんで。/研究員S

 

―だからこそ、ね。科学的な問題なら幾らでも解決できるけど、オカルト方面はどうしてもSちゃんに頼りっぱなしだからさ。/酒寄所長

 

―まぁ、一応本職ですからね。寧ろ所長がこっちにも適応しだしたらドン引きですよ。/研究員S

 

―……ところで、ずっと気になってる事があるんですケド。/研究員S

 

―ん、どうかしたのSちゃん? /酒寄所長

 

―……()()()()()()()()()()()()()()()。/研究員S

 

―…………えっと、/酒寄所長? 

 

―霊の類じゃない、肉の体がある。憑依でもない、私の眼でもその程度は分かる。確かに貴女は、どこからどう見ても酒寄彩葉その人だ……でも、()()()()()()。/研究員S

 

―…………。/酒■■長? 

 

―害意が無いのは理解した、でも所長のふりをして近づいたのはいただけない。……()()()()()/研究員S

 

―……フ、フフッ、アハハハハッ! /■■■■? 

 

 

 

 

 

99.酒寄所長は誰であっても、研究員Qが生み出した「名状し難き機材だったもの」の動作検証を行ってはいけません。

 

 ⅰ.酒寄所長は「名状し難きコーヒーマシンだったもの」を用いて生成した飲料を摂取しようと試みてはいけません。

 ⅱ.酒寄所長が「名状し難き機材だったもの」を修理しようとする試みは禁止されました。

 ⅲ.酒寄所長は、「研究員Qの体質を解明する為」と称して故意に機材に触れさせようとしてはいけません。

 ⅳ.「私以外が検証した場合に差異は生まれるのか」という理由で他の研究員に実験を行わせた事を受けて、第99項は改定されました。

 

―分からん、何をどうしたらこうなるのかさっっっぱり分からん……! /酒寄所長

 

―彩葉も懲りないね~。もう「そういう体質」って事で納得しちゃっていいんじゃにゃい? /月見ヤチヨ

 

―体質だからこそ引き下がれないんだよなぁ……。アレの取っ掛かりが掴めた分余計に。/酒寄所長

 

―うん? 何か言った? /月見ヤチヨ

 

―ううん、なんでも。/酒寄所長

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──はて、と()()()は首を傾げる。

 

 カチカチと、再度マウスを動かして画面を更新する。しかし何度試しても映し出されるのは、拒否を示す無慈悲な一文のみ。

 

「……う~ん?」

 

 既に本日中に済ませるべき業務はすべて終了し、後は帰るだけ。

 ならば終業時間までに資料の類を読み込んでおこう、と手を出したそれに、あなたは頭を悩ませていた。

 

「酒寄研究所の禁止リスト」。文字通り、あなたが勤めているこの研究所の禁則事項を記したものだ。とはいえ、内容はそこまで堅苦しい訳でもない。リスト編纂担当者の主導の下、関係者各位が実際に起こしたトラブルとその再発防止策を簡潔に記したもの、読む側の感覚としてはある種日記にも近い。その軽さは1日働かせた脳にも心地よく、すいすいと目を通していき……今、こうして壁に阻まれている。

 いや、理屈は分かるのだ。なにせ此処は、人体工学と仮想現実開拓の最先端こと酒寄研究所。あの酒寄所長が起こした数々の偉業の中には、当然世間には公開できないようなものも含まれている。そもそもが「現実にいない想い人に体を与える」などという、あまりにも眉唾物な動機で動いているのだ。そりゃあ実験記録の殆どはオフライン管理で徹底的に秘匿されるし、所員ですら一定のクリアランスを取得しない限り真相を知りえない。きっとこの第100項もその一つなのだろうと、頭のどこかで理解はしている。……そう、()()()()()()

 

 故に、問題は。

 あなたがA()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にも関わらず、認証に失敗しているという事実だった。

 

 

 

「先輩、ちょっといいですか?」

 

 分からない事は尋ねる。社会人の常識である。

 聞かぬは一生の恥とも言う。あなたは早々に思考を切り上げ、この部屋の主に助けを求める事にした。

 

「……ん、どうした?」

 

 カタカタと、キーボードを叩く手は止めないまま。

 先輩──リスト編纂担当者と呼ばれる彼は、あなたに反応を返す。

 

「『酒寄研究所の禁止リスト』ってあるじゃないですか」

「ああ、私が編集してるやつな」

 

 カタカタカタ。

 どうやら作業が佳境らしい。画面からは目を離さず、しかしあなたの問いにはしっかりと応える。

 

「今日の作業はレポート作成まで終わらせたんで、終業までの間にと思って目を通してたんですけど」

「……あれ読んだのか。あの手の細かい資料も、ちゃんと頭に叩き込んでくれるのはこちらとしても有難いが……書いといてなんだが、長かったろ」

 

 カタカタカタカタ、

 

「いえ、一部は身に抓まされるものもありましたし、それこそ読み物としても完成度高かったですよあれ。……いや、そうじゃなくて。とりあえず第100項までは読み進めたんですけど、ちょっと問題が発生しまして」

「はは、そうか。……第100項? 何書いてたっけな……」

 

 カタカタカタカタカタ、

 

「セキュリティクリアランスの提示を求められたんですけど、認証に失敗したんですよ。Aクラスにはなってる筈なんですけど」

「ふむ。まぁうちも色々抱えてるからなぁ、そういうこともある──」

 

 カタカタカタカタカタカタ、

 

「──ちょっと待て、今なんて言った」

 

 ガタン。

 唐突に手を止めたリスト編纂担当者が、勢いよく立ち上がる。キャスター付きの椅子が倒れ、衝撃が床伝いにあなたにも届く。

 

「え。いや、認証に失敗したって……」

「違う、その前だ」

「前? ……第100項まで読んだって話ですか」

「そうだ。それはおかしい」

 

 リスト編纂担当者は、あなたをまっすぐに見つめ。

 

「禁止リストの第100項は、そもそも有資格者でなければ認識できない仕様の筈だ」

 

 そう告げた。

 

「……認識、できない? どういうことですそれ」

「言葉通りだ。クリアランスがどうこう以前に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、()()()()()()()()()()()()。……確かお前、ヤチヨさん関係の事情は既に聞いてるだろ。あの人はこと情報面に於いてはほぼ万能だ、そういう暗示じみたこともできる」

「……な、なるほど」

 

 確かにあの人ならやれそうだな、とあなたは納得する。

 仮想空間ツクヨミの歌姫・月見ヤチヨ。酒寄研究所最大のスポンサーでもある彼女の正体が、想い人の為に月から帰ってきたかぐや姫である事を、あなたは既に知っている。かの情報生命体なら、画面越しに洗脳くらいは出来ても不思議ではないだろう。

 

「え、じゃあ私がこの警告を閲覧する事自体不可能の筈じゃ……?」

「そうだ、だからおかしいんだよ……まぁ、心当たりがないこともないが」

 

 そう言って、目の前の上司は指を1本立てて見せる。

 

「まず1つ、運良く暗示から逃れていた場合。……これは一番あり得ん予想だがな。所員に対する暗示は、作業用PCを初めて起動した時に自動で行うようになっている。流石に、それを偶然にも受けなかったとは考えづらい」

 

 次いで、中指も立ててブイサイン。

 

「2つ目、暗示に対する耐性があった場合。これは前例がある、具体的にはLとSだな。あいつらはあいつらでだいぶ例外だが、お前もそうである可能性はなくもない。……ただこれについては丁度、お前を雇う前に採用時のチェック事項に追加されてた筈だ。今日までの1年間で後天的に耐性を得たってのは……流石に深読みし過ぎだろう」

 

 そして最後に、薬指を立てる。

 

「故に3つ目。今から確認するが、これが一番現実的だ。まぁ、私の苦労が一番大きいのもこれなんだが……」

 

 そう言いながら、おもむろに彼はスマートフォンを取り出す。

 

「ヤチヨさん、どうせ聞いているんでしょう?」

『ありゃ、バレた?』

 

 その画面の向こうには、あっけらかんとした様子の月見ヤチヨがいた。

 呆気にとられたあなたを尻目に、2人は平然と会話を進めていく。

 

「やはり貴女の仕業ですか」

『そだよ~。さぷらーいず!』

「はぁ。……つまり、こいつは合格でもいいという事で?」

『うん、合格。という訳で、詳細は君から話してもらってもいい? このログはいつも通り消去しとくからさ』

「……承知しました。2人分の記憶調整の準備も頼めますか」

『おっけー、後でFUSHIに合流するよう言っておくよ』

「はい、それでお願いします」

 

 あっという間に通信が終わり、リスト編纂担当者は肩をすくめながらスマホをしまう。それからあなたに「少し待て」と声を掛けると、椅子を立て直して再度腰を下ろし、やおらマウスを操作し始めた。カチカチという音が、静まった室内にやけに響く。

 

「……という訳で、正解は『ヤチヨさんからの許可が下りたから』だったな。第100項の閲覧は、あの人からの視認許可と、私からのアクセス許可の両方が出る事で初めて閲覧できるようになる仕様だから……時期的には丁度良いんだが、せめて事前に相談してくれよなぁ」

 

 そうぼやきながらも、彼の表情は綻んでいる。なんだかんだ言いつつ、月見ヤチヨとの会話は彼にとって確かな幸福なのだろう。……推しに信頼されているのがそんなに嬉しいのか、とあなたは思わず半目になってしまう。

 

 

 

「──よし、もういいぞ」

 

 マウスの操作を切り上げて、リスト編纂担当者はあなたに声を掛ける。

 

「こっちからお前にアクセス権限を付与した。これで閲覧できる筈だ」

「……ありがとうございます。すみません、お手数おかけして」

「謝らなくていい、悪いのは私とヤチヨさんの方だしな……それに」

「?」

「……悪いが、第100項の閲覧にはもう1つ決まりがある。ちょいと時間を取るんでな、今からだと少し定時を過ぎるが構わないか?」

「はい、大丈夫です……というかここまで乗り掛かった舟だと、明日に回したら気になりすぎて眠れませんって」

「そうか。なら」

 

 準備してくるから好きに見ててくれ。

 そう言い残して、彼は部屋から出ていった。恐らくは、この件をまだ知らないであろう所長達に話を通しに行ったのだろう。

 そう1人で納得して、あなたはPCへと向き直って。

 

「鬼が出るか、蛇が出るか……」

 

 無機質な白い画面に浮かぶ文字列に、そっとカーソルを合わせた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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