本日4月16日はゴールドシチーの誕生日です。
お誕生日おめでとう!!!!

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GOLD-CITYが輝いて

 はあっ、はあっ──

 汗か涙かわからないけれど、たしかに西陽に照らされていた。

 

──ウマ娘。彼女たちは、走るために生まれてきた。

 

 桜の舞い散る中を、白いワンピースが揺れている。彼女のブロンドヘアはきらきらと風に流されている。

 やっと、世界が始まる音がした!

 そんな気がしたから。幼いこの体を走らせている。

 

──時に数奇で、時に輝かしい歴史を持つ別世界の名前と共に生まれ、その魂を受け継いで走る。それが、彼女たちの運命。

 

 これが、アタシの生きる道なんだ、って!

 そう確信してしまった彼女は、脚がひしひしと痛んでいることにも気が付かなかった。

 

──この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果は、まだ誰にも分からない。

 

 どこかもわからない雑木林を抜けると、そこは崖で。普段暮らしているはずの街が、金色の太陽に照らされて輝いていた。

 

──彼女たちは、走り続ける。

 

「……ははっ、キレー」

 

瞳の先にある、ゴールだけを目指して──

 

 

   *

 

 

「シチー、そろそろ休憩にするよー!」

 

 他には誰もグラウンドに残っていなかった。声を張り上げた彼の呼びかけはいつも通りにシチーに聞こえていて、しかし聞こえないふりをした。

 ふと、あの時のことを思い出していた。幼い頃の、自分の人生がやっと始まったような、あの時のことを。

 今でも、あの時の夕焼けは覚えている。写真に撮ってウマホの背景にしているけど、カメラレンズでは理解しきれないほどのものだったってことも覚えている。

 雲一つ無い今日の晴れ空は、なんでか、その時のことを思い出させる。

 

「おーい、シチー!」

「……はーい!」

 

 流石にそろそろ悪いかなと思って、やっと聞こえたふりをする。

 そして、彼のいる方向へスパートをかけたと同時に、自分の両脚がわずかにじんじんと痺れていることに気がついた。

 ああ、そういえば、あの時もこうだったっけ。

 色々と、懐かしく感じる一日だった。

 

「お疲れ様、シチー」

「どーも」

「最近調子いいよね、毎日タイムが良くなってる」

「そりゃどーも、だからなんだって話だけど」

「次のドリームトロフィーカップまで余裕あるけどさ、こうして少しずつ成長するって言うのは、やっぱり気分がいいんじゃない?」

「まあね」

 

 彼の差し出したタオルはふわふわと暖かくて、自分の汗ですぐにペタッとなるのが少し残念だった。

 大したことではない、トレセン学園に入ってからはこれの繰り返しだ。どれだけこだわっても、結局はかなりの量の汗を吸って水っぽくなるのだから、タオルに過度な出来を期待するようなことはそのうちなくなってしまったはずだ。だけど、今日はなんでかと言うかやはりと言うか、そう言う些細なことひとつひとつが気になる日だった。

 

「どうしたの?」

 

 ふと、彼と目が合った。

 

「そっか、アンタと出会った時はもうそんな感じだったんだ」

「え、なんのこと?」

 

 トレセン学園に入ったばかりの頃だ、同じように感じて、ひどくがっかりしたことがあった。

 シチーはとにかく形から入るタイプだ。当時はとにかく道具にこだわってみた時期だった。シューズや蹄鉄はもちろん、肌着や靴下といった衣服も、タオルも水筒も、有名なウマ娘が雑誌で紹介しているようなものをとにかく揃えていた。そうしてこだわったもの(とは言っても何も知らない当時のシチーにとっては「これが良いらしい」程度の知識であった)が、湧き出る自分の汗でぐだぐだになってしまうのが、想像以上に辛かった。

 毎日必要になるものなのだから、そう高いものを使い込める余裕が無いと気がついたのはそれからしばらく経ってからだった。そうわかってからは品質と値段のバランスをよく考えるようになって、結局、他のウマ娘たちも使っているようなものを同じ色で複数買い揃えるようになった。

 

「これさ、普段アタシが持ってきてるやつと結構違うよね」

「そうだね。予備のタオルだから、少しくらい高いの買っても良いかなって思って」

「……待って!? これこの前シリウス先輩が雑誌で紹介してたやつじゃない!? 最高級の!!」

「実は、3枚セットでちょっとだけ安くなってたんだよ」

「だとしても高いと思うけど……」

「1枚は家に持って帰って使ってるんだけどさ、やっぱり良いやつ買うと違うよね」

「そりゃそうだけど…… てか何に使ってるの?」

「風呂場で」

「もったいなくね」

 

 今日のグラウンド利用時間は過ぎていたので、トレーナー室に向かいながら、そんな他愛のない話をしていた。

 

「てかさ、明日、アタシの誕生日じゃん」

 

 ところでそんな話題を振ってみたら、彼は思ってもみなかったようで、驚いたようにシチーを見つめてしまっていた。

 

「……確かに、そうだね」

「なんかさ、プレゼントとか、用意してるわけ?」

「珍しいね、シチーの方からそう言うの」

「だってさー、明日撮影で丸一日いないし。用意してるならもうもらっちゃおうかなー、って思って」

「いや、まあ、用意はしてるけど……」

「アンタがそういうイベントにこだわるのは知ってるけどさ、今年ばっかりは早めに渡してくんない? アンタはアンタで明後日出張なんでしょ」

「まあ、それもそうか……」

「で? どんなのを用意してくれてんの?」

 

 三年前は特製の蹄鉄、一昨年はジャケット、去年はネックレス。年を重ねるにつれて足元から頭に向かってるし、今年は帽子とかなのかな、なんて予想をしてみたりした。

 そんなシチーの期待とは裏腹に、彼の表情は少しぎくしゃくとしていて。

 

「……まあまあ、一旦着替えてきなよ。ゆっくり歩きながら話そうか」

 

 ……もしかしてごまかされた?

 トレーナーに限ってそんなことはないだろうが、本当は用意していないのではないか、と思ってしまったりもした。あるいは、今すぐに渡すのは厳しいほどのものとか? 家に忘れた、なんてこともありえるかも。

 とにかく、事情が何かあるんだろうし、特に詮索はしないで「わかった」とだけ言っておいた。

 

「お待たせ。さ、行こ」

 

 着替えを終えてそういうと、彼はまた気まずそうに「あ、ああ」とだけ返事をして、シチーの後ろについていくように、トレセン学園を後にした。

 

「あれ、寮、こっちじゃないよね」

「前にも言わなかったっけ? 明日の撮影は海の方で朝からだから、前乗りするって」

「あ、そっか、確かにそう言ってたな」

 

 彼はよく目を見て話すタイプの人だ。なのに、誕生日の話をしてからは、あからさまに目をそらされている。それに、なんだかひったくりでも警戒しているかのように、カバンを大事そうに抱えてしまって。

 

「……ねえ、カバンの中。何か隠してるでしょ」

「え!? いや、何もないよ!?」

「嘘下手すぎ。そろそろ慣れろって」

「いや、シチーに渡せるようなものは、何も」

「あるんでしょ。渡しづらいものなん?」

「えっ」

 

 図星か。

 

「ほら、さっさと見せてよ! 今渡さないといつになるかわかんないんだし、さ!」

「ちょっと、シチー! 危ないって! そんなに迫られる、とおっ!」

「え、ちょっ!」

 

 そうして二人してバランスを崩してしまって、河川敷のゆるやかな勾配をごろごろと転がる。ゆるんだ彼の手中からカバンが放たれて、その中にあった荷物がばらばらと散らばるのが見えた。その中に一つ、異質な小箱。

 

「……危ないじゃないか、シチー! はしゃぐのも良いけど、こんなとこで──」

「──これ、何?」

 

 やがてシチーが拾い上げたそれは、まるで。

 誰かにプロポーズでもするかのような、それこそ指輪を入れるような、そんなサイズの小箱だ。

 

「それはっ」

「……」

「あ、えっと……」

 

 へえ、アンタが、指輪。

 彼と指輪という二つの要素が重なったとき、シチーの頭を真っ先によぎったのは。

 

「結婚するん? プロポーズはいつ?」

「……え」

「だからさ、結婚するんでしょ? 立派な箱じゃん。アタシも知ってるよ、このブランド」

「それは」

「確かにね、こんな大事なものをカバンに入れてたんなら、かばうのもしゃーないか、ごめん」

「違うんだ、シチー」

「違うって、何が?」

「おれは結婚するんじゃなくて」

 

 そう彼が言いかけたところで、二人の間に一輪の桜が舞って。

 

「──桜」

 

 なんとも綺麗に、いっさい崩れのない星形だった。

 

「桜が、ずっと咲いていたら、って思ったんだ」

 

 二人の間に、金色の光が差す。

 

「綺麗だから、これが永遠に咲いて、そのうち当たり前になってくれたら、って、思った」

 

 その光は、彼の瞳にも映っていた。どうして、真っ直ぐとシチーを見つめる彼の瞳に、吸い込まれそうになってしまって。

 

「そう思っていたら、気がついたら、これを買っていて……要は、これが、誕生日プレゼントなんだ」

 

 何、それ。

 それじゃ、まるで──

 

「だけど、たまたまなんだ、そこそこ高いやつ買っちゃってさ、結婚指輪みたいだって同僚に言われてしまって。そう思ったら、渡すのがためらわれてしまって」

 

 きっと、今は二人きりだ。

 誰かが近くにいるような気はいっさいしなかった。二人の目はあったまま、そらせないまま。

 こういう時、どんなことを言えばいい? アタシはどう反応すればいい? あまりにも経験のないことだったから、頭が真っ白になって、それでも徐々に夕暮れで赤くなる彼の顔から目が話せなくなって。

 

「結婚なんて意図があったわけじゃないんだ。本当にただ、気がついたらこれにしちゃってて」

「……」

「……えっと」

「……あー、開けて、いい、の?」

「あっ、うん! ぜひ……!」

「……あははっ、なんで正座してんのアンタ」

「えっ!? あ、ごめん、緊張しちゃって」

「まー良いけどさ」

 

 彼の反応は、彼がきっかけのはずなのに妙に面白くて、こっちの緊張なんか全部なくなってしまった。そのかわりあっちがやたら緊張してるみたいだけど。

 固まった彼を横目に小箱を開けると。

 入っていたのはやはり指輪……シンプルな金の指輪だった。

 

「……へえ、良いじゃん」

「ピンキーリング、って言うんだっけ、世話になった相棒へのプレゼントだって言ったら、これを紹介されて」

「じゃあ、小指につけなきゃ、だね」

 

 その指輪は、シチーの左手の小指に、綺麗にハマった。

 

「え、アタシ、アンタに指のサイズ教えたことあったっけ」

「え……あ!? いや、勝手に測ってたとかじゃなくて、ごめん、確かに指輪贈るならあらかじめ聞いておくべきだったか……」

「なるほどね、たまたまちょうどいいサイズのを選んできたんだ」

 

 もう日は暮れて、月が細くも綺麗に見えていた。左手を星空にかざして、太陽のかわりに金色に輝く指輪を見上げてみる。

 六時のチャイムが鳴る。

 これもこれで、きっと、アタシの世界の音だ。

 今シチーの目に映る光景が、些細なメロディーもそう感じさせる。

 

「ありがと、すっごい嬉しい」

 

 そう言ってやると、彼は「そっか、うん……そっか」と安堵したような表情で、また、シチーを見つめていた。

 

「なんかさ、言いたいこと、あるんじゃない?」

「え、でも」

「いーよ、今は」

「……わかった」

 

 彼はまた、姿勢を直して。

 

「誕生日おめでとう、シチー。すごく、綺麗だ」

「……どーも」

 

 二人はまた、見つめあった。

 街頭のオレンジは小さく二人を覆って、やはり、二人はずっと二人きりだった。


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