僕のヒーローアカデミア 徹子の部屋(※違います)   作:まだら模様

11 / 37
※ちなみにどの時系列のキャラが来るかは不明で、同一人物でも別の時間軸やこの本編の時期や季節、年月が違う人がこの空間に誘われてきます。
例 本編2024年の場合 25年の年前の姿、26年の姿、10年前、5年前、全盛期、老衰期などいろんなバリエーションがあります。
一度来た人でも何度でも来る可能性があります。
やったね徹郎!たくさんの人とお話しできるよ!(白目)


第11回;イレイザーヘッド

 

 

 合理的な夢だ。

 

 三十分間喋るだけで現実に帰れるなら、寝袋を出す手間も省ける。

 

 黒柳徹子の部屋(偽物)のソファで、相澤消太は死んだ魚のような目で俺を値踏みしていた。

 

 問題がある。

 

 この男の個性は「抹消」——視界に捉えた相手の個性を発動不能にする。

 つまり、この人物が俺を見ている間、俺の個性「徹子の部屋(白昼夢)」は——消える可能性がある。

 

 (夢の中で個性が消えたら、番組が破綻して意識が永久幽閉されるのでは?)

 

 (いやでも今夢は発動中だし——)

 

 (……合理的に考えると、詰んでる可能性がある)

 

-

 

 眠りに落ちた瞬間——鳴った。

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー

  ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルルッルー

  ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー

  ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪

 

 スタジオに引き込まれた瞬間、徹郎は先にゲストを確認した。

 

 男が、ソファに座っていた。

 

 黒い長髪。無精ひげ。くたびれた格好。目が——半開きだった。

 眠いのか、覚めているのかわからない目で、スタジオをゆっくりと確認していた。

 

 出口を見た。壁の角を見た。カメラの位置を見た。

 

 そして——徹郎を見た。

 

 「……お前が司会か」

 

 低い声だった。

 

 「……は、はい」

 

 「始めろ。無駄な前置きは要らない」

 

 (開幕から時短を要求された)

 

 

 

 「えー……皆様、こんばんは。本日もご覧いただきありがとうございます。本日のゲストは——」

 

 「相澤消太だ。雄英高校教師、イレイザーヘッド。それだけで十分だろ」

 

 「……自己紹介まで短縮していただきありがとうございます。相澤先生、今夜は来ていただいて——」

 

 「来たくて来たわけじゃない」

 

 「……わかっています」

 

 「夢の中でまで喋らされるとは思わなかったが——まあ、三十分なら悪くない。それくらいなら寝られる」

 

 「……寝袋は持ってきていないですよね」

 

 相澤が、懐から何かを引き出した。

 

 薄い布だった。

 

 (持ってきた!!)

 

 「あの、相澤先生」

 

 「なんだ」

 

 「放送中に寝袋に入るのは——」

 

 「今は入っていない」

 

 「今のところは、ですね!?」

 

 「うるさい。始めろ」

 

 (これが相澤消太か。噂通りだ)

 (噂というか、原作知識だけど)

 

 

 

 「……では、改めて。先生、今夜は何歳ですか」

 

 「三十」

 

 (雄英教師として赴任後。今夜の相澤先生は現役の担任だ)

 

 「合理的な質問だな。時系列の確認か」

 

 「え」

 

 「お前の個性は、時系列や別世界線の人間を呼ぶ可能性がある。だから最初に年齢を聞いて対象を絞る——そういうことだろ」

 

 徹郎は、少し止まった。

 

 (……この人、二言目で看破した)

 

 「……そう、です」

 

 「合理的だ」

 

 相澤が、ポケットから目薬を取り出した。

 

 「少し待て」

 

 「は、はい」

 

 目薬を差した。

 

 豪快に差した。

 

 スタジオの床に、液体が数滴落ちた。

 

 「……あの、先生。スタジオの床が」

 

 「ドライアイだ。我慢しろ」

 

 「我慢するのは私なので——」

 

 「続けろ」

 

 (この人との三十分は、別の意味でハードになる予感がある)

 

 

 

 「……先生は、雄英に来る前は何をしていましたか」

 

 「プロヒーローだ。今もそうだが」

 

 「どういう経緯で教師に」

 

 「推薦された。受けた。それだけだ」

 

 「……ミッドナイト先生から、ですよね」

 

 相澤が、少しだけ目を細めた。

 

 「……よく知ってるな」

 

 「調べました」

 

 「どこまで」

 

 「……先生に関する情報の、概要程度は」

 

 相澤がしばらく徹郎を見た。

 

 その目が——少しだけ、種類の変わった目になった。

 

 観察している目だ。品定めしている目ではなく——何かを測っている目だ。

 

 「……お前、面白い個性を持っているな」

 

 「面白い、ですか」

 

 「見込みのあるゲストと、そうでないゲストを、どう見分けてる」

 

 「見分けていません。ランダムなので」

 

 「だからお前は毎晩、誰が来るかわからないまま三十分を繋ぐのか」

 

 「……そうなります」

 

 「それは——合理的じゃないな」

 

 「知っています」

 

 「でも続けている」

 

 「続けるしかないので」

 

 相澤が、また目薬を一滴差した(床に落ちた)。

 

 「……そういう状況は、嫌いじゃない」

 

 「え?」

 

 「不合理な条件下で、合理的に動こうとする奴は嫌いじゃない。それだけだ」

 

 (……これは、褒め言葉として受け取っていいのか)

 

 

 

 「……話題を変えてもいいですか」

 

 「どうせまた掘り下げてくるんだろ。やれ」

 

 「先生のクラスのことを——」

 

 「A組か」

 

 「はい。あの子たちのことが、先生は好きなんですよね」

 

 相澤の目が、少しだけ動いた。

 

 「好き、という表現は合理的じゃない」

 

 「じゃあ——大切ですか」

 

 「……」

 

 少しの間があった。

 

 「それなら、合理的な回答を返せる」

 

 「どういう答えですか」

 

 「育てる価値がある奴が、育てる前に潰れるのは——合理的な損失だ。だから潰れないように動く。それだけだ」

 

 「……先生らしい答え方ですね」

 

 「文句があるか」

 

 「ありません。でも——」

 

 「でも?」

 

 「潰れないように動く、というのは——危険な現場に一人で飛び込むことも含まれますか」

 

 相澤が、少しだけ眉を動かした。

 

 「……何の話だ」

 

 「USJの話です。一人でヴィランの集団に飛び込んだ——それは合理的な判断でしたか」

 

 「合理的だ」

 

 即答だった。

 

 「生徒が逃げる時間を稼ぐためなら、俺が一人で稼ぎに行くのが最短ルートだ。合理的だろ」

 

 「先生が傷つくことは計算に入っていましたか」

 

 「入っている」

 

 「……それでも、行った」

 

 「合理的だと言った」

 

 「先生が傷つくことが、生徒にとっての損失になる可能性は考えましたか」

 

 相澤が、少しだけ止まった。

 

 徹郎は続けた。

 

 「先生がいなくなることで、あの子たちが受ける影響を——合理的に計算しましたか」

 

 スタジオが、静かになった。

 

 相澤が、目薬を手の中で転がした。

 

 「……それは」

 

 「計算しましたか」

 

 「……した」

 

 低い声だった。

 

 「した上で、行った」

 

 「なぜですか」

 

 「……計算の結果、行く方が合理的だったからだ」

 

 「その計算式を教えてもらえますか」

 

 相澤が、徹郎を見た。

 

 値踏みする目ではなかった。今度は——少し違う目だった。

 

 「……面倒な司会者だな、お前は」

 

 「すみません」

 

 「謝るな。俺は謝られることが嫌いだ」

 

 「……では、撤回します」

 

 「それでいい」

 

 相澤が、少しだけ背もたれに体を預けた。

 

 「……計算式は簡単だ。俺が動かなければ、全員が終わる。俺が動けば、全員が助かる可能性が生まれる。どちらが合理的か——考えるまでもない」

 

 「俺が傷つく可能性は」

 

 「計算に入れていない」

 

 「なぜ」

 

 「……入れると、答えが変わるからだ」

 

 静かな声だった。

 

 「入れると——行けなくなる。だから入れない。それだけだ」

 

 徹郎は、しばらく何も言えなかった。

 

 

 

 「……一つだけ、聞いていいですか」

 

 「まだ何かあるのか」

 

 「先生の友人のことです」

 

 相澤の目が、微かに止まった。

 

 「……誰の話だ」

 

 「白雲さんの話です」

 

 長い、沈黙だった。

 

 目薬が、転がる音がした。

 

 相澤が、それを拾って、ポケットに戻した。

 

 「……どこまで知っている」

 

 「概要だけです。深くは聞きません」

 

 「そうしろ」

 

 「……ただ一つだけ」

 

 「なんだ」

 

 「白雲さんのことが——先生が教師になった理由の一つですか」

 

 相澤が、正面を向いた。

 

 スタジオの壁を見ていた。

 

 長い間、そのままだった。

 

 「……合理的な質問だな」

 

 「すみません、答えにくければ——」

 

 「謝るなと言った」

 

 「……では、聞いています」

 

 相澤が、少しだけ息を吐いた。

 

 「……見込みのない奴をヒーローにさせることは、残酷なことだ」

 

 静かな声だった。

 

 「半端に夢を追わせて——途中で折れた時、何が残る。夢の残骸と、使えなくなった年月だけだ。だから俺は、見込みのない奴には早めに言う」

 

 「……でも」

 

 「でも——見込みのある奴が、志半ばで消えることは、それ以上に……あってはならないことだ」

 

 声が、少しだけ低くなった。

 

 「見込みのある奴が、ちゃんと育って、ちゃんとプロになって——そういう奴が、理不尽な事故や状況で消えることは。それだけは」

 

 「……先生」

 

 「それだけは、合理的に計算しても——割り切れない」

 

 スタジオが、静かだった。

 

 徹郎は、何も言わなかった。

 

 言えなかった。

 

 この人は今——白雲朧という名前を一度も出さずに、その名前を呼んでいた。

 

 

 

 「……先生」

 

 しばらくして、徹郎が言った。

 

 「なんだ」

 

 「今夜来てくれて、ありがとうございました」

 

 「礼は要らない。合理的じゃない」

 

 「合理的じゃなくてもいいです。これは私の気持ちなので」

 

 相澤が、少しだけ目を細めた。

 

 「……変な司会者だ」

 

 「よく言われます」

 

 「どのゲストからも?」

 

 「ほぼ全員から」

 

 「そうか」

 

 「……先生から見て、この番組は合理的ですか」

 

 相澤が、少し考えた。

 

 「……毎晩、誰が来るかわからない。失敗したら目が覚めない。覚えているのはお前だけ。非合理の塊だな」

 

 「そうですね」

 

 「でも——続けている」

 

 「続けています」

 

 「……なぜだ」

 

 徹郎は、少し止まった。

 

 「……わかりません。でも——この番組で話せたことで、何かが変わった人がいると思っているので」

 

 「変わったと、どうやって確認する」

 

 「できません。翌朝、ゲストは忘れるので」

 

 「それで続けられるのか」

 

 「……続けています」

 

 相澤が、少しだけ正面を向いた。

 

 「……一つ言っていいか」

 

 「どうぞ」

 

 「お前も、一人で全部抱えるのは合理的じゃないぞ」

 

 徹郎は、息が止まった。

 

 「……え」

 

 「この番組、覚えているのがお前だけで、誰にも言えなくて——そういう状況で毎晩動いている。それは合理的じゃない。孤独な奴は、判断が歪む」

 

 「……先生には関係ない話では」

 

 「俺が言いたいから言っている。合理的だろ」

 

 徹郎は、少し黙った。

 

 「……はい」

 

 「誰かに話せる機会があるなら、話せ。この番組がその機会になるなら——合理的に利用しろ」

 

 「……わかりました」

 

 「わかったなら——」

 

 相澤が、少しだけ目を細めた。

 

 「さっさと残りの時間を終わらせろ。俺はまだ眠い」

 

 (……ずっとそれを言いたかったのか)

 (でも、その前に色々言ってくれた)

 (この人は——本当に、合理的じゃないことをちゃんとわかっている人だ)

 

 

 

 そのとき。

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー ♪

 

 エンディングのテーマが、流れ始めた。

 

 相澤が、少しだけ体を起こした。

 

 「……時間か」

 

 「お時間です。相澤先生、今夜は来ていただいて——」

 

 「礼は要らないと言った」

 

 「……じゃあ、省略します」

 

 「それでいい。最後に一言か」

 

 「お願いします」

 

 相澤が、ボサボサの頭を片手でかいた。

 

 「……いい暇つぶしだった」

 

 「ありがとうございます」

 

 「それと」

 

 相澤が、立ち上がりながら言った。

 

 死んだ魚のような目で——でも、確かにこちらを見ながら。

 

 「学校で会ったら、もっとマシなツッコミを期待してるぞ」

 

 徹郎が、固まった。

 

 「……え」

 

 「お前の学校が雄英じゃなくても、街で会うことはあるだろ。その時だ」

 

 「……先生、私が一般の高校生だとどこで——」

 

 「お前の個性の内容と、この番組の規模から推測した。合理的だろ」

 

 テーマ曲が、最後の段階へ移った。

 

 ♪ ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー

  ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪

 

 「……バレてた。この人には、最初から」

 

 言いながら——相澤の姿が、静かに消えていった。

 

 寝袋も一緒に消えた。

 

 目薬の跡だけが、スタジオの床に残っていた。

 

 

 

 目が覚めた。

 

 朝の五時半。

 

 布団の中で、徹郎はしばらく動かなかった。

 

 (……バレてた)

 

 「学校で会ったら」という言葉が、頭の中で繰り返されていた。

 

 あの人には、何が見えていたのだろう。

 転生者だということまでは——わからないはずだ。でも、「何かを隠している」ことは、たぶん見えていた。

 

 それでも言わなかった。聞かなかった。

 

 見逃してくれた——というより、合理的に判断して保留した、という方が正確かもしれない。

 

 (この人は——そういう人だ)

 

 攻略ノートを開いた。

 

 「相澤消太(雄英担任・30歳):今夜のゲスト。開幕から時短要求。寝袋を持参していた——なぜ。目薬をスタジオの床に落とした。観察眼が鋭い——個性の時系列確認を二言目で看破。合理性をモットーにしているが、合理的に見えない行動(命がけで生徒を守る)の計算式を持っている。白雲さんの話は深くは聞けなかった——でも、少しだけ触れた。危険度:特殊(抹消の個性が番組に影響するか不明)。合理的な人ほど、本当は一番感情を大切にしているのかもしれない」

 

 ペンを止めて、最後の一行を書いた。

 

「※『一人で全部抱えるのは合理的じゃない』と言われた。飯田くんにも同じようなことを言われた。この番組、たぶん私に何かを返してくれている。……そして『学校で会ったら』と言っていた。この夢の外でも、会える可能性がある——先生はそれを知っていて言った。合理的な人だから、無意味なことは言わない。内緒」

 

 

 

 その日の学校の帰り道。

 

 コンビニに寄った。

 

 レジ前に、目薬が置いてあった。

 

 手を伸ばして——買った。

 

 店を出ながら、少し笑った。

 

 これは何のための買い物だろう。

 

 夢の中には持ち込めない。当然だ。

 でも——次に相澤先生が来た時のために、スタジオの備品として用意しておく必要があるかもしれない。

 

 (合理的な準備だ)

 

 (そうだ、合理的だ。それだけだ)

 

 夜になれば、また鳴る。

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル……♪

 

 明日のゲストは誰だろう。

 

 それだけが、黒柳徹郎の仕事だ。

 

 




今回の回が心に残ったり、面白かったら是非お気に入りに登録、感想、評価付与をしていただければ幸いです!
励みになります!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。