僕のヒーローアカデミア 徹子の部屋(※違います) 作:まだら模様
例 本編2024年の場合 25年の年前の姿、26年の姿、10年前、5年前、全盛期、老衰期などいろんなバリエーションがあります。
一度来た人でも何度でも来る可能性があります。
やったね徹郎!たくさんの人とお話しできるよ!(白目)
合理的な夢だ。
三十分間喋るだけで現実に帰れるなら、寝袋を出す手間も省ける。
黒柳徹子の部屋(偽物)のソファで、相澤消太は死んだ魚のような目で俺を値踏みしていた。
問題がある。
この男の個性は「抹消」——視界に捉えた相手の個性を発動不能にする。
つまり、この人物が俺を見ている間、俺の個性「徹子の部屋(白昼夢)」は——消える可能性がある。
(夢の中で個性が消えたら、番組が破綻して意識が永久幽閉されるのでは?)
(いやでも今夢は発動中だし——)
(……合理的に考えると、詰んでる可能性がある)
-
眠りに落ちた瞬間——鳴った。
♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー
ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルルッルー
ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー
ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪
スタジオに引き込まれた瞬間、徹郎は先にゲストを確認した。
男が、ソファに座っていた。
黒い長髪。無精ひげ。くたびれた格好。目が——半開きだった。
眠いのか、覚めているのかわからない目で、スタジオをゆっくりと確認していた。
出口を見た。壁の角を見た。カメラの位置を見た。
そして——徹郎を見た。
「……お前が司会か」
低い声だった。
「……は、はい」
「始めろ。無駄な前置きは要らない」
(開幕から時短を要求された)
「えー……皆様、こんばんは。本日もご覧いただきありがとうございます。本日のゲストは——」
「相澤消太だ。雄英高校教師、イレイザーヘッド。それだけで十分だろ」
「……自己紹介まで短縮していただきありがとうございます。相澤先生、今夜は来ていただいて——」
「来たくて来たわけじゃない」
「……わかっています」
「夢の中でまで喋らされるとは思わなかったが——まあ、三十分なら悪くない。それくらいなら寝られる」
「……寝袋は持ってきていないですよね」
相澤が、懐から何かを引き出した。
薄い布だった。
(持ってきた!!)
「あの、相澤先生」
「なんだ」
「放送中に寝袋に入るのは——」
「今は入っていない」
「今のところは、ですね!?」
「うるさい。始めろ」
(これが相澤消太か。噂通りだ)
(噂というか、原作知識だけど)
「……では、改めて。先生、今夜は何歳ですか」
「三十」
(雄英教師として赴任後。今夜の相澤先生は現役の担任だ)
「合理的な質問だな。時系列の確認か」
「え」
「お前の個性は、時系列や別世界線の人間を呼ぶ可能性がある。だから最初に年齢を聞いて対象を絞る——そういうことだろ」
徹郎は、少し止まった。
(……この人、二言目で看破した)
「……そう、です」
「合理的だ」
相澤が、ポケットから目薬を取り出した。
「少し待て」
「は、はい」
目薬を差した。
豪快に差した。
スタジオの床に、液体が数滴落ちた。
「……あの、先生。スタジオの床が」
「ドライアイだ。我慢しろ」
「我慢するのは私なので——」
「続けろ」
(この人との三十分は、別の意味でハードになる予感がある)
「……先生は、雄英に来る前は何をしていましたか」
「プロヒーローだ。今もそうだが」
「どういう経緯で教師に」
「推薦された。受けた。それだけだ」
「……ミッドナイト先生から、ですよね」
相澤が、少しだけ目を細めた。
「……よく知ってるな」
「調べました」
「どこまで」
「……先生に関する情報の、概要程度は」
相澤がしばらく徹郎を見た。
その目が——少しだけ、種類の変わった目になった。
観察している目だ。品定めしている目ではなく——何かを測っている目だ。
「……お前、面白い個性を持っているな」
「面白い、ですか」
「見込みのあるゲストと、そうでないゲストを、どう見分けてる」
「見分けていません。ランダムなので」
「だからお前は毎晩、誰が来るかわからないまま三十分を繋ぐのか」
「……そうなります」
「それは——合理的じゃないな」
「知っています」
「でも続けている」
「続けるしかないので」
相澤が、また目薬を一滴差した(床に落ちた)。
「……そういう状況は、嫌いじゃない」
「え?」
「不合理な条件下で、合理的に動こうとする奴は嫌いじゃない。それだけだ」
(……これは、褒め言葉として受け取っていいのか)
「……話題を変えてもいいですか」
「どうせまた掘り下げてくるんだろ。やれ」
「先生のクラスのことを——」
「A組か」
「はい。あの子たちのことが、先生は好きなんですよね」
相澤の目が、少しだけ動いた。
「好き、という表現は合理的じゃない」
「じゃあ——大切ですか」
「……」
少しの間があった。
「それなら、合理的な回答を返せる」
「どういう答えですか」
「育てる価値がある奴が、育てる前に潰れるのは——合理的な損失だ。だから潰れないように動く。それだけだ」
「……先生らしい答え方ですね」
「文句があるか」
「ありません。でも——」
「でも?」
「潰れないように動く、というのは——危険な現場に一人で飛び込むことも含まれますか」
相澤が、少しだけ眉を動かした。
「……何の話だ」
「USJの話です。一人でヴィランの集団に飛び込んだ——それは合理的な判断でしたか」
「合理的だ」
即答だった。
「生徒が逃げる時間を稼ぐためなら、俺が一人で稼ぎに行くのが最短ルートだ。合理的だろ」
「先生が傷つくことは計算に入っていましたか」
「入っている」
「……それでも、行った」
「合理的だと言った」
「先生が傷つくことが、生徒にとっての損失になる可能性は考えましたか」
相澤が、少しだけ止まった。
徹郎は続けた。
「先生がいなくなることで、あの子たちが受ける影響を——合理的に計算しましたか」
スタジオが、静かになった。
相澤が、目薬を手の中で転がした。
「……それは」
「計算しましたか」
「……した」
低い声だった。
「した上で、行った」
「なぜですか」
「……計算の結果、行く方が合理的だったからだ」
「その計算式を教えてもらえますか」
相澤が、徹郎を見た。
値踏みする目ではなかった。今度は——少し違う目だった。
「……面倒な司会者だな、お前は」
「すみません」
「謝るな。俺は謝られることが嫌いだ」
「……では、撤回します」
「それでいい」
相澤が、少しだけ背もたれに体を預けた。
「……計算式は簡単だ。俺が動かなければ、全員が終わる。俺が動けば、全員が助かる可能性が生まれる。どちらが合理的か——考えるまでもない」
「俺が傷つく可能性は」
「計算に入れていない」
「なぜ」
「……入れると、答えが変わるからだ」
静かな声だった。
「入れると——行けなくなる。だから入れない。それだけだ」
徹郎は、しばらく何も言えなかった。
「……一つだけ、聞いていいですか」
「まだ何かあるのか」
「先生の友人のことです」
相澤の目が、微かに止まった。
「……誰の話だ」
「白雲さんの話です」
長い、沈黙だった。
目薬が、転がる音がした。
相澤が、それを拾って、ポケットに戻した。
「……どこまで知っている」
「概要だけです。深くは聞きません」
「そうしろ」
「……ただ一つだけ」
「なんだ」
「白雲さんのことが——先生が教師になった理由の一つですか」
相澤が、正面を向いた。
スタジオの壁を見ていた。
長い間、そのままだった。
「……合理的な質問だな」
「すみません、答えにくければ——」
「謝るなと言った」
「……では、聞いています」
相澤が、少しだけ息を吐いた。
「……見込みのない奴をヒーローにさせることは、残酷なことだ」
静かな声だった。
「半端に夢を追わせて——途中で折れた時、何が残る。夢の残骸と、使えなくなった年月だけだ。だから俺は、見込みのない奴には早めに言う」
「……でも」
「でも——見込みのある奴が、志半ばで消えることは、それ以上に……あってはならないことだ」
声が、少しだけ低くなった。
「見込みのある奴が、ちゃんと育って、ちゃんとプロになって——そういう奴が、理不尽な事故や状況で消えることは。それだけは」
「……先生」
「それだけは、合理的に計算しても——割り切れない」
スタジオが、静かだった。
徹郎は、何も言わなかった。
言えなかった。
この人は今——白雲朧という名前を一度も出さずに、その名前を呼んでいた。
「……先生」
しばらくして、徹郎が言った。
「なんだ」
「今夜来てくれて、ありがとうございました」
「礼は要らない。合理的じゃない」
「合理的じゃなくてもいいです。これは私の気持ちなので」
相澤が、少しだけ目を細めた。
「……変な司会者だ」
「よく言われます」
「どのゲストからも?」
「ほぼ全員から」
「そうか」
「……先生から見て、この番組は合理的ですか」
相澤が、少し考えた。
「……毎晩、誰が来るかわからない。失敗したら目が覚めない。覚えているのはお前だけ。非合理の塊だな」
「そうですね」
「でも——続けている」
「続けています」
「……なぜだ」
徹郎は、少し止まった。
「……わかりません。でも——この番組で話せたことで、何かが変わった人がいると思っているので」
「変わったと、どうやって確認する」
「できません。翌朝、ゲストは忘れるので」
「それで続けられるのか」
「……続けています」
相澤が、少しだけ正面を向いた。
「……一つ言っていいか」
「どうぞ」
「お前も、一人で全部抱えるのは合理的じゃないぞ」
徹郎は、息が止まった。
「……え」
「この番組、覚えているのがお前だけで、誰にも言えなくて——そういう状況で毎晩動いている。それは合理的じゃない。孤独な奴は、判断が歪む」
「……先生には関係ない話では」
「俺が言いたいから言っている。合理的だろ」
徹郎は、少し黙った。
「……はい」
「誰かに話せる機会があるなら、話せ。この番組がその機会になるなら——合理的に利用しろ」
「……わかりました」
「わかったなら——」
相澤が、少しだけ目を細めた。
「さっさと残りの時間を終わらせろ。俺はまだ眠い」
(……ずっとそれを言いたかったのか)
(でも、その前に色々言ってくれた)
(この人は——本当に、合理的じゃないことをちゃんとわかっている人だ)
そのとき。
♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー ♪
エンディングのテーマが、流れ始めた。
相澤が、少しだけ体を起こした。
「……時間か」
「お時間です。相澤先生、今夜は来ていただいて——」
「礼は要らないと言った」
「……じゃあ、省略します」
「それでいい。最後に一言か」
「お願いします」
相澤が、ボサボサの頭を片手でかいた。
「……いい暇つぶしだった」
「ありがとうございます」
「それと」
相澤が、立ち上がりながら言った。
死んだ魚のような目で——でも、確かにこちらを見ながら。
「学校で会ったら、もっとマシなツッコミを期待してるぞ」
徹郎が、固まった。
「……え」
「お前の学校が雄英じゃなくても、街で会うことはあるだろ。その時だ」
「……先生、私が一般の高校生だとどこで——」
「お前の個性の内容と、この番組の規模から推測した。合理的だろ」
テーマ曲が、最後の段階へ移った。
♪ ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー
ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪
「……バレてた。この人には、最初から」
言いながら——相澤の姿が、静かに消えていった。
寝袋も一緒に消えた。
目薬の跡だけが、スタジオの床に残っていた。
目が覚めた。
朝の五時半。
布団の中で、徹郎はしばらく動かなかった。
(……バレてた)
「学校で会ったら」という言葉が、頭の中で繰り返されていた。
あの人には、何が見えていたのだろう。
転生者だということまでは——わからないはずだ。でも、「何かを隠している」ことは、たぶん見えていた。
それでも言わなかった。聞かなかった。
見逃してくれた——というより、合理的に判断して保留した、という方が正確かもしれない。
(この人は——そういう人だ)
攻略ノートを開いた。
「相澤消太(雄英担任・30歳):今夜のゲスト。開幕から時短要求。寝袋を持参していた——なぜ。目薬をスタジオの床に落とした。観察眼が鋭い——個性の時系列確認を二言目で看破。合理性をモットーにしているが、合理的に見えない行動(命がけで生徒を守る)の計算式を持っている。白雲さんの話は深くは聞けなかった——でも、少しだけ触れた。危険度:特殊(抹消の個性が番組に影響するか不明)。合理的な人ほど、本当は一番感情を大切にしているのかもしれない」
ペンを止めて、最後の一行を書いた。
「※『一人で全部抱えるのは合理的じゃない』と言われた。飯田くんにも同じようなことを言われた。この番組、たぶん私に何かを返してくれている。……そして『学校で会ったら』と言っていた。この夢の外でも、会える可能性がある——先生はそれを知っていて言った。合理的な人だから、無意味なことは言わない。内緒」
その日の学校の帰り道。
コンビニに寄った。
レジ前に、目薬が置いてあった。
手を伸ばして——買った。
店を出ながら、少し笑った。
これは何のための買い物だろう。
夢の中には持ち込めない。当然だ。
でも——次に相澤先生が来た時のために、スタジオの備品として用意しておく必要があるかもしれない。
(合理的な準備だ)
(そうだ、合理的だ。それだけだ)
夜になれば、また鳴る。
♪ ルールル ルルル ルールル ルルル……♪
明日のゲストは誰だろう。
それだけが、黒柳徹郎の仕事だ。
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